さっちゃんが、施設の行事で行われたゲームの賞品で
大きな袋に入ったポップコーンを持ち帰りました。
何日も何日も何日も、毎日食べても4〜5日はかかるほどの量です。
ポップコーンの袋をドヤ顔で渡してくれたさっちゃんは
とっても可愛らしかったです。
ポップコーン。
亡くなった母を映画に誘うと、母は必ずポップコーンを買っていました。
「ポップコーン」がうまく言えなかった母は
カウンターで、前半の「ポップ」を省略して
「コーンくださいっ!」
と、照れを隠すように、大きな声で言っている声と横顔を、今でもはっきりと覚えています。
映画を見るのは大抵午前中で、一緒にランチをして解散していたので
大病をした後、食欲が落ちてしまった母に
「お昼ご飯が食べられなくなっちゃうよ」
と言っても、絶対にポップコーンを買っていたので
結局、母が抱えたポップコーンを2人で食べながら、映画を観ていました。
母が少しずつ色々なことが出来なくなって、記憶がこぼれるようになっていたのに
私たち家族は、歳をとったせいだろうくらいに考えて
あまり真剣に受け止めてはいませんでした。
待ち合わせの場所に、待ち合わの時間の少し前に
間違いなくやってきた母。
どんな気持ちで、どれほどの不安を抱えて、あの場所に来てくれたのだろう。
ポップコーンは、ほんのり塩味で、バターの香りが優しくて、とても美味しい。
指先が油まみれになるけれど、構わない。
そんなこともあろうかと、ちゃんとウェットティッシュも用意してきた。
沢山の映画を観て、何度もランチをして、死ぬほどポップコーンを食べた。
たかが、ポップコーン。
されど、ポップコーン。
私のポップコーンの思い出は、美味しくて少し切ない。