病棟転換型居住系施設について考える会

世界に誇る日本の精神病院の病床数と長期入院者の問題とは…。削減した病床を病院敷地内の居住系施設に転換する問題とは…。

6・26緊急集会速報 第13号「地方紙の社説続々」

2014-07-15 18:28:08 | 6・26緊急集会速報
生活をするのは普通の場所がいい
STOP! 精神科病棟転換型居住系施設!!
6.26緊急集会
速報
第13号(2014年7月15日)
発行:病棟転換型居住系施設について考える会



地方紙の社説続々
居住系施設への転換を厳しく批判

 6.26緊急集会以後、地方紙の社説で病棟転換問題を取り上げています。こんなにあちこちで精神障害の問題が取り上げられたことはないのではないでしょうか。
 精神障害分野で日比谷野外音楽堂での3,200人の集会は、社会に大きなインパクトを与えたのでしょう。同時にこの問題が、看過できない人権問題であることを物語っているのだと思います。
 これからもあちこちの地方紙で、いえ、全国紙でもこの問題を取り上げる動きが活発になっていくことを期待しています。ぜひ、各地での声掛けをお願いします。各紙の社説に励まされつつ、各地での集会が活発に広がっていくことに期待したいと思います。
 (今号では各紙の社説を紹介します。このほかにも地方紙で記事として取り上げられているものもありますので、それは次の機会にご紹介します)

河北新報 社説(2014年06月29日)
精神科病床転換/根本的な解決にはならない
 精神科病院の病棟・病床をグループホームや老人ホームなど居住の場に転換する構想が、厚生労働省の有識者会議で検討され、論議を呼んでいる。
 構想は長期入院患者が地域で生活できるようにするための具体策を探る中で提起された。将来余剰になる病床の活用策としながらも、「地域移行」を進める新たな選択肢としても議論しており、患者団体などからは「病院による患者の囲い込みが続く」と反発が相次ぐ。
 病棟・病床を居住施設に転換することによって入院者を退院者と読み替え、長期入院を数字上解消させる狙いがあるのであれば、「看板の書き換え」との批判は免れないだろう。
 そもそも長期入院の解消は、病院経営の支援や財政負担軽減の観点で論じる以前に、患者の人権を最優先に考慮して取り組むべき課題である。転換構想が地域での暮らしを望む患者の願いに沿うものかどうか。慎重な議論が求められる。
 厚労省が1年以上の入院患者を対象に行った聞き取り調査では、7割が退院を希望し、その6割が?宅やアパートの生活を望むという結果が出ている。 大半は街の近くでの暮らしを望んでいて、「住まいが病院の敷地ならば退院したいか」という質問には、6割が「退院したくない」と答えた。
 退院した人の調査では、退院して良かったこととして6割が「自由」を挙げ、6割が「病院敷地が住まいだった場合は住みたくなかった」と答えた。
 街から離れたところに立地するケースが多い精神科病院の中に居住施設を設定されても、それは退院で手にする「自由」とならず、多くの患者にとって不本意であることが分かる。
 長期入院解消の焦点は、「隔離」「孤立」を解くことにあることを忘れてはならない。
 厚労省は2004年の「精神保健医療福祉の改革ビジョン」で、退院可能な長期入院患者7万2千人を10年後に解消すると宣言した。しかし、目標年を迎えても状況は変わっていない。直近の調査では、入院患者32万人のうち半数が65歳以上、1年以上の入院は20万人、10年以上は6万5千人にも上る。
 隔離収容施設として始まった精神科病院の特異な位置付け、医療関係者も含めた患者への無理解と偏見、保健福祉との連携不足など、解消を阻む課題の改善が進んでいないためだ。
 仮に転換構想の考え方を、課題の一つである地域生活の受け皿整備に生かせる道があるとしても、真正面の解決策にはなり得ない。長期入院の構造を生む根本課題の解決にこそ集中して力を注ぐべきだろう。
 退院を望みながらも10年、20年と病院に押し込まれ、そのまま病院で一生を終える人が大勢いる現実をどうするか。転換構想の議論は、この国の異常な精神医療福祉の実情をあらためて世に問う形にもなっている。
 ここまで放置してきた責任も含め、社会全体で向き合う姿勢を再確認する必要がある。

東京新聞・中日新聞 社説(2014年7月1日)
病院の住居化 生き直す機会奪われる
 精神科の社会的入院を解消するため、病棟を住居に転換する構想が強い反発を招いている。厚生労働省は白紙に戻すべきだ。患者を地域から切り離し、人生を立て直す機会を奪い去る懸念がある。
 先日の東京・日比谷公園の野外大音楽堂は、病棟転換構想に反対する3,200人で埋まった。20年、30年の入院生活を強いられた精神障害者らが訴えたのは、地域には自由があるという素朴な喜びだった。
 食事や風呂、買い物、旅行、仕事、出会い、プライバシー。人生の折り返し点を過ぎ、人間らしい暮らしを取り戻した。病院からの解放感が響き合うようだった。
 厚労省の検討会で有力視されている長期入院の解消策は、こうした思いを逆なでする。空き病棟に手を加え、患者に“ついのすみか”として提供するというのだ。
 人間としての復権を願う患者にとって、不自由の象徴である病院とは無縁の地で、生き直す時間が切要だ。病棟の住居化は、患者を地域に帰す責務を放棄し、人生を諦めさせかねない愚策である。
 いったん住居への模様替えに資金投入されれば、満室を目指してフル活用されよう。利益を上げるため、病院による患者の囲い込みが再び常態化する恐れがある。
 検討会は、厚労省が示した資料をよく吟味するべきだ。一年以上入院している患者と病院職員それぞれ百七十人の意見を聞き取った調査結果である。
 概して、患者は病院の敷地には住みたくないと思っているのに、職員は敷地に住まうことが退院の条件と考えている。大きな意識の差が浮き彫りになっている。
 民間主体の日本の精神科は、隔離収容体質が根強い。利益をもたらす患者の退院には後ろ向きになりがちだ。入院が長引くと、患者も意欲や生活能力をそがれ、医師らに追従する危うさが生じる。
 この悪弊を絶ち、病院から患者を解放し、地域での自立生活と社会参加を支える。日本が批准した障害者権利条約の理念こそ、精神医療改革の土台に据えねばならない。病院経営ではなく、人権擁護のための改革である。
 日本の精神病床は世界の2割を占める34万床に上り、批判が強い。病棟を住居に変え、病床と入院患者を減らす手法は、長期入院の実態を覆い隠すにすぎない。
 町の中の住まいを確保する。地域医療や福祉を拡充する。病床純減を評価する。検討会は、正攻法の結論をまとめ上げるべきだ。

愛媛新聞 社説(2014年7月4日)
精神科病棟の転換容認「敷地内退院」では理念ゆがむ
 障害者が等しく自由に「生きる権利」とその理念が今、ないがしろにされ、再びゆがめられようとしている。
 厚生労働省は、有識者検討会の報告書を受け、精神科病院の病棟の一部を改装して介護施設などの「居住系施設」に転換し、退院した長期入院患者の受け皿とする構想を認める方針を打ち出した。
 検討会の出発点は、医療の必要性が低いのに病院にとどまる「社会的入院」の解消を目指すとともに、患者が地域生活に安心して戻れるよう、必要な支援や対策を議論することだった。にもかかわらず途中で、退院が増えれば経営が苦しくなるとの病院側の論理に偏り、空いた病棟を「有効活用」する構想が急浮上した。患者不在の議論には、疑問と憤りを禁じ得ない。
 グループホームなどに転換した病棟に、入院患者が移れば退院とみなす―。「病院の敷地内に退院させる」とは、どう言い繕おうと看板の掛け替えにすぎず、矛盾と欺瞞に満ちた強弁と言うほかない。
 厚労省は、入居を2年程度に限定し、外部と交流できるなどの条件を課す方針だが、地域移行には程遠い。新たな社会的入院を国が容認するなら、長年の精神障害者隔離政策への反省を忘れ、過ちを繰り返すことにつながりかねない。強く撤回を求めたい。
 日本は、世界の全精神科病床の2割が集中する、驚くべき「精神病床大国」。入院患者は推計約32万人。うち1年以上の「長期」が20万人、10年以上が6万5千人もいる。
 日本以外の国なら、普通に地域の中で暮らせる患者が、隔離政策と社会の偏見、支援態勢の圧倒的な不足によって入院を余儀なくされている現状は、一刻も早く改めねばならない。国は2004年、患者の社会復帰を促す方針に転換したが、支援策が不十分で10年たっても進んでいない。
 しかし、例えば愛南町の御荘病院のように、こまめな訪問支援や、地域住民との長年の交流による信頼関係構築によって、地域での共生や病床削減に成功した例もある。移行期の今、患者本人や家族、熱心な医療者だけに負担がかからないよう、国は、地域の福祉サービスや在宅医療の充実を財政面、制度面で強力に後押しする責務があろう。
 国連「障害者の権利条約」を日本が批准したのは、採択から約7年が過ぎた今年の1月。障害のあるすべての人に「地域社会で生活する平等の権利」などをうたう条約の理念を、批准した途端に踏みにじることは許されない。
 世界の障害当事者共通のスローガンは「私たちのことを私たち抜きに決めないで」。今回の病棟転換容認への、長期入院患者自身や障害者団体からの抗議の声に、国は真摯に耳を傾けねばならない。

沖縄タイムズ 社説(2014年7月8日)
社説[精神科病棟の居住化]「地域移行」に逆行する
 障がい者も、健常者も互いに人間としての存在を尊重し合い、助け合いながら生活するのがあるべき地域社会の姿ではないだろうか。
 厚生労働省は、精神科病院に長期入院している患者の退院を促すため、病棟を居住施設に転換することを条件付きで認める方針を固めた。空いた病棟を居住施設に改修して住まわせ、これを「退院」と呼ぶのだという。詭弁(きべん)である。病院敷地内で一生を過ごす可能性が高く、社会復帰する道は閉ざされる。
 障がい者団体らが「病院が患者を囲い込み、精神障がい者の隔離・収容を続けるだけ」と指摘するのは当然だ。厚労省は構想を撤回すべきだ。
 厚労省の推計では、入院している精神障がい者は、全国で約32万人。1年以上の「長期」が約20万人を占め、うち10年以上は約6万5千人に上る。人口当たりの精神科病床数は先進国の中では最多である。精神障がい者を入院させ、社会から隔離する政策をとってきたからだ。先進諸国は治療を受けながら地域社会の中で生活するというのが基本である。厚労省は患者の立場に立っているのだろうか。退院を促せば病床が減る。それでは病院経営に影響を及ぼす。それを埋め合わせるための構想ではないのか。精神障がい者に対する偏見と差別も、助長することにつながる。
 厚労省は2004年、「入院医療中心から地域生活中心へ」などの施策を掲げたが、実現していない。なぜ地域の受け皿づくりを実現することができなかったのか、検証が先ではないか。
■ ■
 日本はことし1月、「障害者権利条約」を批准した。外務省によると、障がい者に関する初めての国際条約で、国連総会で条約が採択されてから約7年がたった。
 条約の起草では、障がい者団体も同席し、発言した。「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」という障がい者らのスローガンを実際に形にしたものだった。 次の条項が盛り込まれている。「障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及(およ)びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わない」。つまり他の人と平等であることを大前提に、住みたい場所に住み、誰と生活するかを選択できる。特定の施設で生活する義務はないことを明確にうたっている。
 精神科病棟を居住施設に転換する構想は、この理念に逆行しているのは明らかだ。
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 1年以上の入院患者170人、退院患者40人への厚労省の調査で「退院したい」が7割強で、希望退院先は自宅と賃貸住宅を合わせると6割強だった。病院敷地内だと「退院したくない」が6割を占めた。退院して最もよかったことは「自由がある」が6割と圧倒的だった。閉じ込められた世界から人間らしさを取り戻した喜びに違いない。
 当事者のデータを見ると、厚労省の進めようとしている精神科病棟の居住施設化は、患者の立場を置き去りにした構想というほかない。厚労省は仕切り直す必要がある。

信濃毎日新聞 社説(2014年7月8日)
精神病棟転換 患者のためになるのか
 入院治療の必要がなくなっているのに長く入院を強いられている精神障害の人たちが地域に戻って暮らすことを、なおさら難しくしてしまわないか。懸念がぬぐえない。
 厚生労働省が、精神科病院の病棟を居住施設に転換することを認める方針を固めた。病棟を改修してグループホームなどの生活の場とすることで、長期入院の解消につなげようというものだ。  
 退院して地域で暮らす「地域移行」が進まない中、現実的な対応とする見方もある。一方で「看板の掛け替えにすぎない」との批判が強い。長期入院の実態が覆い隠されることにもなりかねない。
 統合失調症などの精神障害で入院している人は全国に約32万人。6万5千人は入院が10年以上に及ぶ。退院後の行き場がなく、何十年も入院している人も多い。高齢化が進み、年間およそ2万人が精神科病院で亡くなっている。
 背景には、国が戦後、民間の精神科病院の建設を促進し、隔離収容する政策を取ってきたことがある。日本の精神病床は世界的に見ても多い。平均入院日数も約290日と突出して長い。
 厚労省は2004年、入院中心の精神医療政策を転換。地域移行を支援して退院を促し、病床を10年間で7万床減らすことを目指した。けれども、病床の削減はほとんど進んでいない。
 民間病院はベッドが空くと収入が減るため、患者を囲い込む傾向がある。社会の根強い偏見も地域移行を妨げてきた。その中で浮上したのが病棟の転換だ。
 精神障害の当事者や支援者の反発は強い。6月の反対集会には3千人余が参加。長期入院を経験した精神障害者から「病棟転換は病院経営のためで、患者のためではない」といった声が相次いだ。
 何よりも考えなくてはならないのは、長期入院によって精神障害者の人権が損なわれることだ。日本が1月に批准した障害者権利条約は「全ての障害者は地域社会で生活する平等の権利を有する」(第19条)と定めている。
 国はその実現を図る責務がある。病棟の転換で「退院」したことになれば、地域での生活につなげていく肝心の支援がおろそかになりかねない。患者の囲い込みが形を変えて続く恐れも大きい。
 病院の外に住む場所を確保し、地域の医療、福祉の充実を図る―という本来の施策にこそ力を入れる必要がある。現実が厳しければなおさらだ。「今よりまし」で済ませてはならない。

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