つらつら日暮らし

無住道曉『沙石集』の紹介(7a)

前回の(6)】に引き続いて、無住道曉の手になる『沙石集』の紹介をしていきます。

さて、『沙石集』は全10巻ですが、第6巻は内容は説教についての説話です。拙僧も毎回毎回通夜葬儀法事の席では、説教を欠かしたことはありませんが、その都度思うのは、お話は本当に伝わっているだろうか?それともただ聞き流されているだけだろうか?などと心配になってしまうのです。。。ところが、こういった問題は別にこの滅法の世だけなのではないようです。末法の世であった鎌倉時代にも、ほぼ同様のことがあったようですので、そんな話を無住の言葉から考えてみましょう。なお、各章の題は下記の通りです。

一,説教師の施主分聞き悪き事
二,ある禅尼の説教師を讃めたる事
三,説教師の言の賤しき事
四,長説法の事
五,機に随ふ施主分の事
六,説戒悪口の利益の事
七,説教師盗賊に値ふ事
八,下法師の堂供養の事
九,説法せずして布施を取る事
十,嵯峨の説法の事
十一,聖覚の施主分の事
十二,能説房の事
十三,有所得の説法の事
十四,袈裟の徳の事


これまた、これまでの諸巻に負けず劣らず面白そうなお題が並んでおります。いや、ほぼ全ての内容を解説したいぐらいですので、今回は特別に(7a)(7b)などのように数回に分けてご紹介したいと思います。したがって(一)(三)(四)(五)(六)(七)(十二)を取り上げたいと思います。そこで今回は早速「一,説教師の施主分聞き悪き事」を紹介いたしましょう。「施主分」というのは、施主になるとどのような功徳があるかを述べた文章なのですが、これについて大変聞き苦しいことがあったようです。ちょっと笑えます。

 関東にいた或る大名の後家が、法事を営んだときに、永年祈祷の師をしている老僧を導師として招き、大日如来を供養させた。そこで、施主となる功徳を説く段になって、事細かに述べていたのだが「真言宗には、加持力と言って、仏身と衆生の身体がそれぞれに融合して、水に映った月のように一体となるのです。また、火のついた炭を普通の炭と合わせれば、炭に火が燃え移るように、深い信心を持った修行者に、仏がその身体を合わせて、修行者を仏とするという加持がある素晴らしい教えなのです。よって、この禅定比丘尼の信心を、大日如来が見て健気と思ったならば、大日如来の額を、尼御前の額に打ち合わせれば、尼御前の額は金色になるのです。大日如来の胸と尼御前の胸を合わせれば、尼御前の胸は金色となるのです。大日の・・・」と言おうとしたところ、尼御前の後見人をしている入道が縁側で聴聞していて、老僧の言葉を聞くに堪えずに「どうしてそんなことがあろうか!!みっともなくて耳障りである。さっさと講壇から下りてきなさい、下りてきなさい」と荒々しく叱ったのだが、禅尼は「そのような、説法を終えずに下りさせてはなりません。さあさあ最後まで説法して下さい」と申したので、その老僧の導師は「あぁ、どうしたものか。入道殿は「下りろ」と言うし、尼御前は「最後まで説法して下さい」という。このように進退窮まったことはないです」と言った。まことに滑稽な話である。
 このことは、禅尼の孫がまだ生きているので遠慮して名前は記さないが、確かに起こったことである。施主の功徳を細かく説くと、このような珍事が起こってしまう。ただ、おおよそのことを述べれば良いのに、あまりに施主の心に取り入ろうとするから、このようなことが常に起こるのである。情けない話である。
    拙僧ヘタレ訳


まぁ、どうしても説法する際には、お施主さんの求めるように説いてあげよう、何とかその願いを言葉にしてあげようとサービス精神いっぱいで行うのは良いのですが、だからといって何でもかんでも言えば良いってもんでもありません。拙僧的には、この祈祷の導師を勤めた老僧が、この後一体何を述べるつもりだったのか、そちらも大いに気になるところでございます。しかし、拙僧もいたずらに檀家さんのどうでも良いことを褒めることで説法したつもりになっている坊さんを知っております。それがあまりに明け透けであるが故に、逆に檀家さんからの信頼を失いつつあるということがあるのに、本当に情けない話です。

それはさておき、確かに大日如来が身体を合わせて、そして施主の身体が金色になるなんてことを信じることも出来ませんので、まぁ入道殿の言葉も諾なるかな?!というところですね。なお、次回も『沙石集』巻六の一節を解説していきます。

【参考資料】
・筑土鈴寛校訂『沙石集(上・下)』岩波文庫、1943年第1刷、1997年第3刷
・小島孝之訳注『沙石集』新編日本古典文学全集、小学館・2001年

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