つらつら日暮らし

「当に願わくは衆生とともに」に関する備忘録

以前から、調査をしているのだが、まぁ、調べる対象が悪いので、まだ結果が出ていない。そろろろ、当時の様々な新聞なども読む必要を感じているが、それをしている時間も無い。

さて、今日の記事だが、『華厳経』「浄行品」には、140に及ぶ偈文が収録されており、そこには二句目に「当願衆生」という四字が入っている。これについて、普通に訓読すれば、「当に願うべし衆生」になるわけだが、何故か現在の曹洞宗では「当に願わくは衆生とともに」となっている。

それで、よくよく考えると、「ともに」については、ややおかしくて、本来の漢語には無いものである。これがいつ頃入ってきたのか?を探るというのが当記事の目的である。それで、伝聞するところでは、この「ともに」は大内青巒居士が書き加えたともいう。だが、拙僧はその理由の典拠を探しあぐねている。

そこで、当時の文献の一部からは、以下の知見が得られた。

・来馬琢道師編『禅門曹洞宗典』鴻盟社・大正8年
⇒本書の「三帰礼文」(1頁)には、確かに「当に願はくは衆生とともに」とある。

・東本願寺教学局修錬部編『修錬要典』大谷出版協会・昭和20年
⇒本書の「三帰依文」(25頁)には、「当に願くは衆生と共に」とある。

実際に、真宗教団でも同様の唱え方をするというのは以前から聞いたことがあったため、該当する書籍があって良かった。然るに、続けて以下の事柄も見ていきたい。

・茂木無文師編『在家曹洞宗聖典』誠進堂書店・大正2年
⇒「三帰礼文」(1頁)を収録するが、訓読文を掲載せず。

・文化協会訳編『国語法華三部経』文化協会・昭和8年
⇒「三帰礼文」(127頁)を収録し、訓読についてはルビの形で「まさにがんずべししゅじょう」としている。

「文化協会」訳編の書籍については、これまでにそれほど聞いたことがない訓読の仕方をしている。無論、読み方次第ではその通りに読むことも出来る。

・新井石禅禅師『向上の一路』東亜堂書房・大正4年
⇒書籍中に「27当願衆生」(296~313頁)という一節を収録しており、そこで何らかの解説が附されていることを期待したのだが、「当願衆生」については「当さに願ふべし衆生」という訓読をしている。なお、この偈文の意義については以下の解説をしておられる。

抑も当願衆生といふは、吾人平生の行持上に於て衆生利益の大志を確立すべき標準にして、乃ち自行を以て利他に回向し、且つ随時随処に仏子たる者の大理想を発起するの法則である。
    前掲同著、297~298頁


どうしても「浄行品」の偈は、自らの修行を進める時に適用されるべきものとして考えられることが多く、その結果は自利行に於いて活用されると思いがちである。よって、新井禅師は敢えて「自利利他」円満する行に展開していく「当願衆生」を示している。更に以下の一節もご覧いただきたい。

故に吾人は常に当願衆生観に止住して、見聞覚知を徒らにせず、挙手投足を空しくせず、一切の衆生と与(とも)に宜しく当願海中に、逍遥自適せんことを期せざるべからず。
    前掲同著、312~313頁


字は違うけれども、当願衆生が明確に、「一切の衆生とともに」あることを示している。よって、思想的には既に、「当に願わくは衆生とともに」の境地に到っていると判断出来る。しかし、それが唱え方に反映されていないということになる。これは何を示しているのか?あくまでも、研究ノート的な位置付けの記事だから、後は推測で書く。

上記からも理解出来るように、今回拙僧が見た文献で「ともに」がある読み方の初出は、大正8年の来馬老師の『禅門曹洞宗典』であった。そして、思想的にその段階に到っている新井禅師の著作は大正4年であった。とすれば、ちょうどこの頃に出来たと考えることを仮説として提示できる。

そこで、冒頭でも述べた大内青巒居士の件だが、青巒居士の死去は大正7年(1918)であった。ちょうどこの頃なのである。とすれば、青巒居士晩年の著作に、この事が書いてあるのかもしれない。だが、拙僧はまだ見付け切れていない。もし何かを見付けたら、記事にしてみたい。もちろん、その間にどなたかがご教授くだされば、なお助かるものである。合掌

この記事を評価して下さった方は、にほんブログ村 哲学ブログ 仏教へにほんブログ村 仏教を1日1回押していただければ幸いです(反応が無い方は[Ctrl]キーを押しながら再度押していただければ幸いです)。

これまでの読み切りモノ〈曹洞宗11〉は【ブログ内リンク】からどうぞ。

gooブログも正式対応。ますますの応援よろしくお願いします!!

コメント一覧

音吉
当願衆生について
参考になるか分かりませんが、華厳経入門(木村清孝著)、浄行品についての説明の中で、中国、唐の時代の智昇の「集諸経礼懺儀」に使われているらしいです。
tenjin95
コメントありがとうございます。
> 音吉 さん

ご指摘ありがとうございます。

今回調べているのは、「当願衆生」に関する、日本での訓読法ということになります。

よって、ご指摘いただいたのは、中国の文献ですので、もし、その文献について日本で刊行された本などがあれば、参考にしたいところです。

国会図書館の所蔵などを調べましたが、単行本は無いようなので、現段階では資料としては使えない感じです。

せっかくご指摘いただいたのに申し訳ありません。
名前:
コメント:

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

最近の画像もっと見る

最近の「仏教・禅宗・曹洞宗」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー