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知的障害者 裁く難しさ

2010-09-06 09:48:08 | 多文化共生
(以下、朝日新聞【佐賀】から転載)
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知的障害者 裁く難しさ

2010年09月06日

 2009年に刑務所に入った受刑者約2万8千人のうち、23%にあたる6520人は知能指数が知的障害相当だった。7月末に法務省がまとめた矯正統計年報で分かった。県内でも、罪を犯したとされる知的障害者の法廷が続いている。しかし、弁護人も含めて被告と法律家との意思疎通がうまくいかない例が少なくない。(波多野陽)

 8月上旬の佐賀地裁。知的障害がある被告の男性(58)に、若宮利信裁判長が「今日は我慢してね」と話しかけた。昨年の衆院選で候補者のポスターを破いたとして、公選法違反(選挙の自由妨害)の罪に問われている。
 男性は、じっとしているのが苦手な様子。開廷後まもなく、「きつかー」と廷内を歩き回り始めた。弁護人の名和田陽子弁護士が「私は誰ですか」と聞くと、「裁判官」と答えた。裁判長は、審理継続は無理だとして閉廷。弁護側は男性に訴訟能力がないとして公判中止と精神鑑定を求めたが、裁判長はその後の公判の期日を入れた。
 親族によると、男性は9年前に障害者向けの福祉サービスを受けるための療育手帳を得た。今回の事件で逮捕され、保釈された直後にバイパス道路の真ん中を歩いていたのを通報され、措置入院している。
 公選法違反罪は、犯人が選挙を理解していることが成立要件。検察側は「ポスターを破ると、候補者の選挙を妨害することになることは分かっていた」という趣旨の男性の調書を作った。
 だが、名和田弁護士は取材に「会話も成り立たない法廷の姿を見れば、こんなに『きれいな』調書は取れないと分かるはず。彼は裁判も理解できておらず、公判を中止すべきだ」と話している。
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 5月にあった県内4番目の裁判員裁判の被告の女性(34)も知的障害者だった。常連の飲食店への放火未遂罪で起訴され、責任能力が争われた。女性は法廷での質問に無言だったり、「はい」などの短い言葉で答えたりした。終始おとなしく座っていて、一見して障害があるとは分からない。
 弁護人の杉山林太郎弁護士が「障害者かも」と気付いたのは、2回目の接見でだった。話がかみ合わなかったからだ。しかし女性の母親によると、10代のころに養護学校への入学を本人が拒否して以来、福祉の支援は受けていなかったという。
 検察側は女性の責任能力を疑わず、起訴前鑑定をしなかった。だが、弁護側の求めで裁判所が医師に鑑定を嘱託。医師は女性と数十回面接し、刑事責任が限定される「心神耗弱状態だった」と法廷で述べた。
 判決は心神耗弱の指摘こそ退けたが、医師が引き出した「(放火ではなく、その前に店にかけた)いたずら電話をとがめられると思って現場から逃げた」という女性の供述を、罪の軽重の感覚の衰えを示す材料として採用した。捜査官も、弁護側も、予想しなかった障害の特質だった。女性は懲役3年保護観察付き執行猶予4年の判決を受け、控訴した。再び責任能力が争われる可能性が高い。
 杉山弁護士は「私が気付かなければ、鑑定の機会を失っていたかもしれない。弁護士は、拘置中の被告とアクリル板越しにしか話せない。取調室で直に接する捜査機関こそ、障害に配慮した態勢を築くべきだ」との見方だ。
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 一方で、被害者が知的障害者の場合はどうか。保護者など、意思疎通を助ける人が取り調べに同席することもある。容疑者についても制度上は可能だが、例は皆無に近いという。その理由について、佐賀地検の馬場浩一次席検事は「逮捕された被疑者に不当な影響を与えるなどの恐れがあるからだろう」と話している。

 ●取材後記 
 外国人の被告には通訳がつく。目や耳が不自由な被告には手話などが活用されている。それに比べて、知的障害者の被告を取り巻く環境は整備が遅れていると感じた。被告の権利保障や、裁判の役目の一つである真実究明のために改善する必要がある。どうするべきかを社会で議論するには、法廷の現状を多くの人が知ることが必要だろう。

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