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外国人労働者への支援強化、司令塔欠く対応に不安の声も

2014-08-18 09:22:24 | 多文化共生
(以下、REUTERSから転載)
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アングル:外国人労働者への支援強化、司令塔欠く対応に不安の声も
2014年 08月 15日 15:52 JST

8月15日、アベノミクス成長戦略の柱である外国人労働者の受け入れ拡大が来年度から本格化する。写真は新成長戦略を発表する安倍首相。都内で6月撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 15日 ロイター] - アベノミクス成長戦略の柱である外国人労働者の受け入れ拡大が来年度から本格化する。課題のひとつは日本での生活環境の整備だが、日系ブラジル人などすでに移住している外国人 労働者からは「場当たり的な対応が繰り返されるだけ」との厳しい反応も聞こえてくる。

日本の労働現場を支える新勢力として、外国人の存在をどう生かすか。雇用支援、日本語教育からコミュニティーづくりまで、総合的な政策対応の質が問われている。

<リーマンショックで政策が一変>

「政府はまた同じことをやっている」。群馬県大泉町に住む日系ブラジル人、高野祥子氏は、今年6月の成長戦略に外国人 労働者の活用促進が盛り込まれたことを知っても、素直には喜べなかった。いずれ景気が悪くなれば、外国人労働者の働き口はなくなるに違いない。そんな思いを禁じ得なかったからだ。

高野氏には苦い記憶がある。1990年、バブル景気による人手不足を解消するため、政府は入国管理法を改定。その波に乗って、ピーク時には33万人の日系人が南米から日本に移住した。しかし、2009年3月、世界的不況で国内の労働需要が激減、状況は一変する。政府は「帰国支援事業」を打ち出し、日系人失業者に対し一人30万円の支援金を払って、2万1675人が日本を離れた。

「リーマンショックが起きて仕事がなくなった。(政府は)生活保護のブラジル人が増えるだろうと帰国支援金を出す一方で、支援金をもらった人には(日本に)帰ってきたらいけませんよ、とまで言った」。出稼ぎ労働者として日本にやって4半世紀余り。大泉町に住み続け、今は大泉日伯センターの代表取締役として日系ブラジル人を支援する高野氏は、国内事情を優先した政府の対応に不満を隠さない。

昨秋になって、政府は一転、帰国支援事業により帰国した日系人の再入国を認める発表をした。「昨今の経済・雇用情勢等を踏まえ」(法務省)という政府発表の文面には、人手不足を解消したいという政策的意図が透けて見える。「(外国人 労働者は)労働力の供給調整弁として使われているだけ」と、NGOブラジル人労働者支援センターの加藤仁紀理事長は手厳しい。

受け入れ政策の一貫性だけでなく、生活環境への支援にもまだ改善すべき点が多い、というのが在日労働者や支援者の見方だ。今回の成長戦略(日本再興戦略)では、高い専門知識、技術、能力を持つ「高度人材」への積極的なアプローチがあるものの、建設分野などで働くそれ以外の労働者については「対策が一向に進んでいない」と、在日外国人 に雇用コンサルティングを行っているACROSEEDのマネージャー、宮川真史氏は指摘する。

<各省庁が様々な支援> 

政府側も手をこまねいているわけではない。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた建設需要の拡大などを見越して、政府は8月7日、来年度から建設現場の外国人労働者の賃金について、同じ技能を持つ日本人と同水準以上にするよう、受け入れ先企業に義務付けることを決めた。守れない企業に対しては受け入れ打ち切りなどの措置を取る。

また、1993年に始まった「外国人技能実習制度」について、共同通信によれば、政府は実態改善に向け、企業への立ち入り権限を持つ機関を創設する新法の制定を検討しているという。技能実習生について政府は、滞在期限を現行の3年から5年に延長し、受け入れ枠も拡大する方針だが、厚労省が2013年に行った調査では、受け入れ事業所の8割が労働基準法などに違反、いまだに実習生への賃金不払いや人権侵害などが横行しているとみられるためだ。

日本にいる人も含め外国人労働者に必要な支援策は、雇用サポート、日本語教育、地域住民との交流や相互理解など広範囲に及ぶ。厚生労働省はハローワークなどを通じた就労促進、文部科学省は外国人児童への教育、国土交通省は住宅の入居支援、経産省は企業団体との意見交換など、それぞれの官公庁が様々な取り組みを行っている。

そうした政府内の動きを取りまとめる組織として、内閣官房内に関係10省庁間が参加する「外国人労働者問題関係省庁連絡会議」がある。しかし、連絡会議の役割は「事務的な調整」(内閣官房)にとどまっている。各省庁がバラバラの政策をとっており、それを統括する司令塔がないのが現状だ。

外国人労働者問題に詳しい慶應義塾大学の後藤純一教授は、「全体を見渡す組織が不在のまま個別の政策がとられると、内容の重複や食い違いなどさまざまな問題が生じる」と指摘。政府内部で、外国人労働者の基本政策に関するコンセンサスが形成されていない現状の改善を訴える。

政府や企業が外国人労働者の受け入れに意欲を見せても、雇用環境などに十分な魅力がなければ人材確保は難しい。例えば、インドネシア・フィリピン・ベトナムとの経済連携協定による外国人看護師・介護福祉士受入事業は、2009-2013年の5年間、政府の受け入れ枠の5000人に対して、1624人しか埋まっておらず、「来て欲しい人材に実際に来てもらえていない」(後藤教授)現状がある。

「5年で帰ることが決まっている人が、本気で働くだろうか」とACROSEEDの宮川氏は言う。「スキルアップできる国だからこそ、日本に残ろうと思う。もっとしっかりと、外国人が自分のためになりやすい受入体制、研修体制を作ることが必要だ」。

<大泉町を悩ます「生活保護」問題> 

ブラジルからの移住者が集まる大泉町。在日25年になる高野氏は、1991年に自ら設立した「日伯学園」でブラジル人への日本語教育を進めている。ただ、行政による外国人への雇用・日本語教育サポートは不十分で、高野氏は最低限のことは行政が支援すべきだと訴える。これに対し、大泉町側は「役場として(状況を)認識」しているものの、「今のところ行政が主導して日本語教育を行っていく流れにはなっていない」(同町国際協働課)という。

同町の大きな悩みは、生活保護受給者の34%を外国人が占める(今年7月現在)という実態だ。この中には、年金をもらう資格がなく、貯蓄も十分にないため、本国に帰れずに生活保護に頼る高齢の外国人労働者も少なくない。外国人受け入れ拡大の先行きには、こうした問題も立ちはだかる。

労働力人口の減少が日本経済への大きな脅威として浮上する中、外国人労働者の受け入れ拡大は長期的な対応が不可欠だ。しかし、「今はこれから受け入れるという議論ばかりが先行している。既にいる外国人に人道的見地から国際的にも恥じないような対策を講じるのは絶対に必要」と後藤教授は指摘している。

(寺井綾乃 編集:北松克朗)

中国人は、なぜコンビニバイトに殺到するか

2014-08-18 09:22:01 | 多文化共生
(以下、PRESIDENT Onlineから転載)
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中国人は、なぜコンビニバイトに殺到するか
PRESIDENT 2014年8月4日号


4月に行われた経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議において、安倍晋三首相は外国人労働者の受け入れ拡大に向け、大きく舵を切った。従来受け入れてきた高度外国人材だけでは、労働人口減少への対策として不十分であるという判断を下したのだ。不可避かつ逼迫した議論が慎重になされるよう見守ることが重要だろう。ところで、そういった国の在り方を左右する議論がどのように決着しようとも、すでに日本では留学生をはじめとする多くの外国人アルバイトが働いている。特に都市部であれば、彼らの姿を見ずに1日を終えることはごくまれだろう。彼らの実情に肉薄すべく、中国人留学生である李陳平さん(仮名)にインタビューをした。

「新橋の居酒屋と住宅地のコンビニでバイトしています」

李さんが流暢な日本語でそう話す。日本にやってきたのは2年前。当時は日本語をほとんど話せなかった。

「まず工場で6カ月働きました。工場なら日本語ができなくてもOKですけど、ずっと立ったまま同じことを続けるからとても疲れます。そのあと中国人が経営する中華料理店で8カ月働きました。わからない言葉があってもすぐに助けてくれます」

李さんのバイト遍歴は留学生にとっては典型的コースだ。日本語が上達するにしたがって選択肢が増えるが、大抵は居酒屋やコンビニといった業種に落ち着く。日本語が上達しなければ接客なしの単純作業に従事するしかないので留学生にとって日本語学習は語学習得以上の意味を持つ。

現在、李さんは時給1000円の居酒屋で午後5時から12時まで週に3回、時給900円のコンビニで5時から11時まで週に2回働いているという。なぜ今のバイトを選んだのか。

「居酒屋はやらないといけないことが多いし、たくさん動くし、皿洗いが特に大変。だけど、お給料がいい。コンビニはとても楽ですけど、みんなそのことを知っていて応募するので、シフトを増やすのは無理です。ただし、セブン-イレブンはお客さんに人気があってとても忙しいから、留学生には人気が少ないです(笑)」

李さんは同じ学校の中国人留学生たちとバイトに関する情報を交換している。仲間内で最も人気があるのは、来客の少ないコンビニと、中国語を生かせるデスクワークだ。


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留学・就学生の稼働時間の制限
「貿易会社でバイトしている友達は時給1200円です。座ってパソコンで仕事するだけなのにお給料がいいから、うらやましい。牛丼屋の友人は『疲れた。死ぬ』と言っているから私はやりたくない」

しかし李さんは週に30時間以上働いていることになる。就労制限に抵触しないのか。

「留学生は1週間に28時間までしか働けません。内緒ですけど、個人営業のコンビニでは、労務管理がいい加減で私の労働時間は公にはバレません。お給料はもらっても、税金はかからない、そういうコンビニはたくさんありますよ」

「女性が輝く国」で苦闘するフィリピン人女性の現実

2014-08-18 09:21:19 | ダイバーシティ
(以下、JBPRESSから転載)
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「女性が輝く国」で苦闘するフィリピン人女性の現実
DV被害者やシングルマザーが連帯し、助け合いの場を模索

2014.08.18(月) 巣内 尚子

「女性が輝く日本へ?」 「それはなに?」 「私に関係あるの?」

 安倍政権が掲げる「女性が輝く日本へ」とのスローガンを耳にし、こう感じた読者は男女問わずいないだろうか。

 非正規雇用、家庭内で抱え込まれる介護・育児の負担、長時間就労などにかかわる問題が解決されないまま、「女性の就労(=労働力化)」だけ促されても、多くの女性はそう簡単には輝けないだろう。

 さらに、日本政府は、ある女性たちを忘れているのではないか。それは海外出身の女性たちだ。

 日本で暮らす外国人女性の中には、長年にわたり日本で暮らし、就労し、結婚・出産を経験した人も多いが、困難に直面している人も少なくない。彼女たちは果たして「女性が輝く日本へ」というスローガンの対象になっているのだろうか。

 一方、外国人女性の中には、自ら助け合いの場をつくり、連帯する動きが出るなど、「自分の輝く場」をつかみとろうと模索し、奮闘している人もいる。そんな女性たちが集まる外国人女性支援組織「KAFIN(カフィン)」の道のりを3回にわたり紹介したい。

それぞれの物語を共有し、支え合う女性たち

 「自分のよいところを紹介し合いましょう」

 司会のフィリピン人女性がにこやかに、明るい声で、こう呼びかけた。会場には、フィリピン人が多いが、日本人も少なくなかった。日系ブラジル人とウクライナ人も参加している。来日して10年以上の人も少なくない。中には来日20年ほどを数える人もいる。出席者の中心は女性だが、男性も数人参加していた。

 今からおよそ5カ月前、その日は3月8日の「国際女性の日」に合わせてフィリピン人女性支援組織「KAFIN」の会があった。

 KAFINは在日フィリピン人女性を対象に、DV被害者やシングルマザーらの支援を行う団体だ。フィリピン人女性やこれを支援する日本人が協力して組織運営に当たり、日本の暮らしの中で困難に陥った外国人女性たちが助け合う場を形成している。

 都内からおおむね1時間弱のところにあるコミュニティスペースでKAFINのイベントが開かれ、数十人が集まった。

 広々としたスペースの真ん中に、参加者たちは椅子を持ち寄って楕円形に座った。和気藹々とした雰囲気の中、久しぶりに会う仲間と談笑したり、初対面の者同士が挨拶したりする。

 部屋の入り口付近には、料理やお菓子がずらりと並ぶ。具をたっぷり入れたサンドイッチや海苔巻もあれば、目移りするようなさまざまなおかず、カラフルなクッキーやケーキもある。子供連れの参加者も多く、子供たちがにこにこしながら部屋の隅で仲よく遊んでいて、全体的になんともリラックスした雰囲気だ。

 あまりにゆったりし、気を使わない感じなので、私は自分の子供を連れてこなかったことを少しだけ後悔した。取材先に子供を連れていくことは通常ないことだ。ただし、KAFINの集まりの打ち解けた雰囲気と、子供たちが楽しそうに遊んでいるのを見ると、一緒に来ていたら息子はとても喜んだろうにと思えたほどだった。

 今回の会では、何人かの参加者が自分のライフストーリーを話し、それから各人がペアになり自分のことを語り合うことが行われた。この主眼はそれぞれが自分の話をし、相手の話に耳を傾けることで、悩みや思いを共有するというもの。その後、ご飯やお菓子を食べながら、フィリピン人女性家事労働者を描いた映画『ミグランテ』を観るという流れだ。

 イベントの幕開けは自己紹介だった。女性たちは英語か日本語で、それぞれ自己紹介する際、「自分のよいところ」も教えあった。

 「自分のよいところ」を話すことは、この集まりでは何よりも大事なことだった。女性たちは「自分のよいところ」を損ねられるような経験をこれまでに幾度も経験し、さまざまな痛みとともに生きてきたからだ。

 でも、この日は自分のことを自然に話すことができる日だった。

 「私のよいところはハッピーなところです」

 「私は足立区に住んでいます」

 「私は狭山市のお弁当屋さんで働いています」

 「入間市から来ました。私は料理が好きで、とてもフレンドリーです」

 「私はダンスや歌が得意です。孫が2人います」

 女性たちはこうして、1人ずつ、はにかみながら、あるいは堂々と自己紹介した後、2人ずつになりお互いのストーリーを語り合った。仕事のこと、結婚や離婚、育児をはじめ家族のこと、出身地のこと、そしてどうやってこれまで生きてきて何を感じてきたのかを語るのだ。

 嬉しかったこと、悲しかったこと、驚いたこと、傷ついたこと、一人ひとりの物語が静かに共有されていった。

海外就労するフィリピン人には高学歴者や専門職経験者も

 KAFINでは、フィリピン人や日本人が、DV被害者やシングルマザーといったフィリピン人をはじめとする外国人女性の支援活動を行う。

 外国人女性からの相談を受け、電話や対面で話を聞き、なにができ、なにが課題となっているのかを話し合い、女性たちが困難から脱出できるよう一つひとつサポートする。いわば外国人女性の駆け込み寺だ。

 DVや離婚問題、離婚後の自立や子育ての悩みなどに直面する外国人女性は少なくない。外国人というと、「一時滞在のお客さん」と思う人もいるかもしれないが、実際には日本で働き、中には結婚をし子供を産む人もいるなど、その実態は「生活者」だ。

 一人ひとりが日本という国で、日本人と同じように、日々ご飯を食べ、仕事をし、家族や友人と交流し生活している。しかし、どこかで道がふさがれ困難にぶつかったとき、外国人である彼女たちが問題の解決策を自力で見出すことは簡単ではない。

 フィリピン人女性の中には、来日前に高校や大学で教育を受けた人も少なくない。「アジア出身の出稼ぎ者」という言葉からは、「貧しい国から来た人」といったステレオタイプのイメージが持たれるかもしれない。

 しかし、実際には、貧困層もいれど、中間層や高所得層もいる。出稼ぎに出るために、就労を仲介する業者に手数料を支払ったり、外国での就労情報にアクセスしたりできる人は、最貧世帯の出身者ではないことが多い。

 仲介業者への手数料は借金を背負う形で、出稼ぎ後に返済していくこともあるが、それでも海外で働けるだけの“健康”な身体や語学力、一定の学力などのような資源を持てる層が出稼ぎに出られると考えられる。

 例えば、フィリピンからは大卒の教師、医師、看護師など専門職の人々が、ほかの国に出稼ぎに出ている。なかには海外で看護師として就労したほうが収入がよいことから、医師が看護師免許を取得し、海外出稼ぎに出るケースもある。これはフィリピンの医療に打撃を与える重大な“頭脳流出”だが、それでも海外就労を選ぶ人が後を絶たない。

移動により下降する地位とヒエラルキーへの組み込み

 けれど、国境を越えて移動することは、就労による収入を得るという経済的な恩恵をもたらす半面、出稼ぎ先社会では外国人ゆえに諸権利は制限され、出身地で得た知識やスキルが十分に生かされない場面に直面する。そして、結果的に社会的な地位が下降する。

 出身地で「メイドさん」と呼ばれるような家事労働者を雇用している女性が、出稼ぎ先で家事労働者として就労することもある。本国で教師として働いていた人が、出稼ぎ先でホステスとして働き、その職業から出稼ぎ先社会で差別的な視線にさらされたり、買春や人身売買のリスクを背負ったりすることもあるだろう。

 こうしたことを踏まえ元エンターテイナーが少なくない在日フィリピン人女性について考えると、外国人であり、アジア出身者であり、女性であり、エンターテイナーのステレオタイプなイメージと結び付けられやすいということは、四重の制約となって彼女たちにのしかかることが想像できる。

 そして、そのことにより、彼女たちが日本社会における民族・ジェンダー・職業のヒエラルキーの下位に位置づけられてしまうことが懸念される。

 女性たちは就労できる分野が限られ、ときに差別的な扱いに遭遇することもある。DVや離婚、シングルマザー/シングルファザーとしての就労と子育てを乗り切るのは、日本人の女性や男性も簡単ではないが、外国人女性はさらに難しい。それは、とても1人で対処できるものではない。

 だからこそ、KAFINに集まることで、相談し合い、助け合い、お互いを認め合う場をつくろうと模索している。KAFINの女性たちは自分の悩みを話し、別の誰かの悩みを聞くという営みの中で、支え合っている。

紛争地からやって来た女性が立ち上げたKAFIN

 こうした女性たちが集まるKAFINとは、どうやって生まれたのか。それを知るため、KAFINを立ち上げたフィリピン南部ミンダナオ島出身の長瀬アガリンさんを訪ねた。

 西武線のある駅で待ち合わせたアガリンさんは、穏やかな雰囲気の人だった。黒目がちでくりっとした大きな目が印象的で、見つめられるとなんだかどぎまぎするほどだ。

 駅の改札口でアガリンさんに自己紹介すると、彼女は少しはにかんで、流暢な英語で自己紹介をしてくれた。すぐに打ち解けた雰囲気になれ、改札を出てすぐのところにある店に入り、ドーナツとコーヒーをそばに置いて話を聞いた。


KAFINを立ち上げた長瀬アガリンさん(筆者撮影)
 アガリンさんは1963年生まれで、ミンダナオ島ジェネラルサントスの出身だ。ミンダナオ島はマニラ首都圏のあるルソン島に次ぐフィリピンで2番目に大きな島。

 ダバオの麻栽培に日本からの移民がかかわった歴史があるほか、太平洋戦争時には日本と米国が戦闘を行うなど、日本にもなじみが深い。フィリピン出身の世界的なボクサー、マニー・パッキャオもミンダナオ島ブキドノンの出身として知られる。

 しかし、ミンダナオ島ではこれまで、モロ・イスラム解放戦線などの反政府勢力とフィリピン国軍との武力紛争が続き、多数の犠牲者を出してきた。

 私はフィリピンにいた際、マニラ首都圏のマカティで暮らし、仕事をしていた。周辺は住宅や学校、オフィスビル、商業施設が立ち並び、紛争などとても考えられない雰囲気のところだ。

 人々は休日、マカティのショッピングモールで映画を観たり、カフェに行ったりして過ごしており、同じ国で紛争が続いているとは思えないほどだった。だが、そんなマニラ首都圏でも、新聞などにミンダナオ島の紛争の情報が途絶えることはなかった。

 紛争が続くことなどから、資源に恵まれつつもミンダナオ島の経済開発には課題もあり、貧しい地域が残されている。マニー・パッキャオがフィリピン人の心を強くとらえるのは、苦難を抱えるミンダナオ島の貧困家庭に生まれながらも世界に知られるボクサーへと駆け上がったという彼の物語が、庶民たちの心情に訴えるものがあるからだろう。

 こうしたミンダナオ島で生まれたアガリンさんだが、自身も紛争に巻き込まれ、つらい思いをしてきた紛争の当事者であり、被害者である。

 だが、アガリンさんは被害者として打ちひしがれているばかりではなかった。1983年から10年以上、紛争により被害を受けた女性を保護・支援する女性センターで働いたのだ。紛争により夫を亡くしたり、攻撃を受け傷ついたりした女性たちの支援活動に当たった。そうしてコミュニティ内での支援活動のノウハウやスキルを蓄積していった。

来日して初めて知ったフィリピン人女性が抱える問題

 そんなアガリンさんが日本とのかかわりを持ったのは、ボランティアでフィリピンに来ていた現在の夫と出会ったことがきっかけ。その後、2人は結婚を決め、アガリンさんは1996年に夫とともに来日した。

 来日当初は、台東区と荒川区にまたがるいわゆる「寄せ場」と呼ばれる「山谷」を訪れるなどし、日本が抱える課題を目の当たりにすることもあった。「豊かなはずの日本なのに、不利な立場に置かれた人がいる」ことに驚いたという。

 一方、アガリンさんは当時、日本でフィリピン人女性がエンターテイナーとして多数就労していることは知らなかった。しかし、日本で過ごすうちに、多数のフィリピン人女性が日本で暮らしていること、そして悩みを抱えるフィリピン人女性が少なくないことに気がついたのだ。

 特に大きな問題だと感じたのは、パートナーからのDVだった。日本人の夫や恋人によるDVで、心身が傷つけられたフィリピン人女性がいたのだ。

 そうしたフィリピン人女性の多くはエンターテイナーとしての就労をきっかけに日本で暮らし始め、後に日本人男性と結婚したり、付き合うようになったりした人たちだった。

 ミンダナオ島で女性支援活動を行ってきたアガリンさんは、日本にいるフィリピン人女性を放っておくことができず、自ら支援組織を立ち上げることを決断した。それがKAFINなのだ。1998年に埼玉県内にKAFINを設置し、活動を開始した。

 そして今、KAFINはフィリピン人女性を中心に外国人女性が集まり、助け合う場となっている。DVや離婚、シングルマザーといった課題について、当事者自らが協力し合いながら問題解決の道を模索している。

 ではKAFINに集まる外国人女性たちには、実際にどんなことが起きているのだろうか。次回は、フィリピン人を中心に外国人女性が直面した問題について見ていきたい。

ダイバーシティ推進の鍵は管理職の意識

2014-08-18 09:20:50 | ダイバーシティ
(以下、日本経済新聞から転載)
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ダイバーシティ推進の鍵は管理職の意識
2014/8/18 6:30

日経ウーマンオンライン

 終身雇用制度が崩れ始め、誰もが「自分らしい働き方」を模索する時代がやってきました。私たちの働き方はこれからどのように変わっていくのでしょうか? 経済産業政策局・経済社会政策室長の坂本里和さんに、これからの女性の働き方について教えていただきました。

 私は現在、「ダイバーシティ経営企業 100選」などのプロジェクトを推進しています。文字通り、ダイバーシティ経営に意欲的に取り組む企業を経済産業省が選定する取り組みです。こうした取り組みを通じて感じるのは、ダイバーシティ推進のカギを握っているのは、両立支援制度の導入ももちろん大変重要なのですが、それ以上に、現場のマネジメント改革だということです。

 多様な人材活用に取り組むインセンティブを管理職側に与えないと、ダイバーシティはなかなか進まないと感じています。例えば、多様な人材活用を管理職自身の評価項目として追加するといったことは効果的な試みの一つです。


■IT技術の進化でワークとライフの距離が近くなる

 女性の活躍にとって、多様で柔軟な働き方を推進することはとても重要です。その代表的なものに「モバイルワーク」というものがあります。

 これは、オフィスに限らず、時間や場所に縛られずにIT技術を活用して働く形を指します。具体的には携帯電話やノートパソコン、さまざまなファイル共有の仕組みなどを用いて時間や場所の縛りを極力排する働き方ですね。このモバイルワークも浸透の壁になっているのはセキュリティーの問題よりも、マネジメントの意識の問題だといわれています。

 部下が目の届く範囲にいないと不安、部下の仕事ぶりを自分の目で見て管理したい――こうした思いをマネジメントが抱いているとなかなか浸透しないのも道理です。

 日本マイクロソフトでは自社製品を使って積極的なモバイルワークに取り組み、単位時間あたりの売り上げが17%向上したそうです。例えば、営業の外回りをしていて、レポートを書くために会社に戻らないといけないということになれば移動の時間が余計にかかりますが、モバイルワークができれば家でも喫茶店でもどこでも仕事ができる。生産性が向上するという結果が見られます。

 こうしたモバイルワークを導入するにあたっては評価の在り方も変えていかなくてはいけません。職場に長くいる人ほど評価されるような価値観から脱却しないといけないということです。

 時間の長さではなくあくまで「成果」で評価するためには、一人ひとりが自律的に働ける状態になることが重要です。企業側も個人にある程度の裁量を与えることが求められます。

 「自律的に働く」というのは、業務を属人化させようということでは決してありません。社員のワークライフバランスを考えると、なるべく業務は属人化しないほうが望ましいのです。そこでやはり重要なのが「モバイルワーク」です。属人化させるとその人は職場を離れられなくなってしまいますが、IT技術を使って情報共有を行うと誰でも同じ知識を持って事に当たることができるようになります。その人は必ずしも職場にずっといなくてもよくなります。

 ある程度、ひとりひとりの担当が決まっていてその人がやり方も含めて自律的に働くことができると同時に、情報をシェアすることが重要ということです。

 私のチームにも、少し前まで、ワーキングマザーで、週3日在宅勤務をしている人がいました。最初はお互い手探りの部分もありましたが、慣れてしまえばオンラインでのやり取りが増えることで記録に残りますし、ペーパーレスにもなる。互いにこまやかに情報共有するようになり、かえって業務の進行にはプラスになったように感じています。

 「ワークライフバランス」というと、1日24時間をワークとライフで切り分けるような印象がありますが、テクノロジーの進化で働く時間や場所を自由に選べるようになると、ライフとワークが、個々の事情に応じて最適な形でミックスされていくようなイメージを持っています。

 例えば、家で子どもの様子を見守りながら業務のメールをチェックするといったことができるわけです。一般的には女性のほうがこうしたマルチタスク(家事こそ最たるものですが)は得意と言われていますから、未来は女性にとって、より働きやすいものになっていくのではないでしょうか。

この人に聞きました

坂本里和さん
 経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室長「ダイバーシティ経営企業100選」「なでしこ銘柄」担当。東京大学法学部卒業後の95年に当時の通商産業省へ入省。98年~2000年にかけてアメリカの法科大学院へ留学。2011年から現部署。女性がワークライフバランスを取りつつ、生き生きと活躍できる環境づくりのため、女性の活躍を推進する企業を後押ししている。監修した書籍『ホワイト企業 女性が本当に安心して働ける会社』(文藝春秋)が話題に。私生活では4女の母。

(ライター 田中美和)

[nikkei WOMAN Online 2014年6月25日付記事を基に再構成]