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日本企業が人権デューディリジェンスに取り組むべき理由

2011-07-21 09:32:31 | 多文化共生
(以下、ECO JAPANから転載)
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2011年7月21日
日本企業が人権デューディリジェンスに取り組むべき理由

 人権問題が、世界のCSRのホットイシューになっている。今回も、最新のトピックスを提供したい。
国外での不法行為責任を追及する米国判決

 7月11日、米国の大手タイヤメーカーであるファイアストンが西アフリカ・リベリアで運営する天然ゴム農園の違法な児童労働を告発する訴訟を、米連邦控訴裁判所が却下する決定を下した。

 1926年から経営されている11万8000エーカー(約477km2)に及ぶゴム園では、樹液を抽出させ回収する作業が行われている。そこで、農園従業員やその家族が過酷な労働を強いられており、子どもでも無給で農園の仕事に駆り出されているとの批判が巻き起こっていた。その作業では、一家族に回収量のノルマが与えられ、果たせないと賃金は支払われないのだという。その結果、子供も働かざるをえなくなる。子供たちは朝4時に起床し、何kmもの道を、重いバケツを担いで樹液を集めて回ることが日常化しているのだという。 

 これに対して会社側は「長い内戦の後遺症に苦しむリベリアに最も活発に投資し、雇用、教育、住宅供給のため貢献してきた」と全面的に争う姿勢を示してきたのであった。

 裁判所の決定は、ファイアストンが児童労働の使用に関する慣習的国際法に違反していると推論する根拠は十分でないという結論になった。「どれだけの数の子供が農場で働き、原告と動揺に過酷な労働を行っているのか」「平均的な子供がどの程度の労働を行い、それがどの程度の負担なのか」「この農場に暮らさないリベリアの子供たちと、状況はどの程度異なるのか」が明確ではないというのが裁判官の見解として示された。「考えられる限りでは、農場で働く子供たちの父親はリベリアの標準的な報酬を得られていることにより、その子供たちも平均的なリベリアの子供たちよりも、まともな暮らしができている。もし、ノルマが達成できなければ、父親は仕事を失うか、成人の手伝いを雇うかせざるを得なくなり、暮らし向きは悪くなる」という考え方が根拠になった。

 ただし、今回の決定でより注目を集めたのは、米連邦控訴裁判所が、「米国の法律で、海外において人権侵害を起こした企業の責任を問える」という見解を明示したことである。訴訟で原告側は「企業が意思決定レベルで人権侵害を指示、推奨、容認した場合には、外国人不法行為請求権法のもとで企業の責任を問える」とする主張を展開。決定はこれを認めたのである。ここで出てくる外国人不法行為請求権法とは、1789年に施行された古い法律だが、たとえ米国外の行為でも米国内で物やサービスを提供する会社であれば米国の裁判所で不法行為責任を追及することができるとする連邦法で、裁判法の一部を構成している。ここでいう「米国外の行為」に人権侵害を含むと認定したのだった。

 この見解は、国家管轄権の域外適用を「人権侵害」においては一般化するべきとの考え方に立つラギー報告書(3月21日に公表された、人権と多国籍企業問題に関する国連事務総長の特別代表を務めるジョン・ラギー氏が6年間にわたる調査研究活動の集大成としてまとめた最終報告書)の結論とも合致するものであり、6月に国連人権理事会が採択した「国連の保護・尊重・救済の枠組みを実践するための、企業と人権に関する指針原則」とも軌を一にする。今後、発展途上国における人権侵害の事案が、サプライチェーンの川下や親会社の存在する先進国で、訴訟として告発される傾向は決定的に強まっていくであろう。

倫理的消費が2倍に拡大した英国

 目を英国に転じると、7月5日、イギリス議会上院でコーポレート・ガバナンスについての興味深い議論があった。ここでウズベキスタンの綿花産業における強制児童労働の問題が取り上げられたのである。「Anti-Slavery International」という英国のNGOの報告書が紹介され、世界的不況下で多くの企業に雇用拡大が求められるとはいうものの、政府の過度な規制を回避しつつ、企業が普遍的な人権基準を合致した、より倫理的な行動をとり、説明責任を果たしていくためにはどうしたらよいかが論点となった。

 Responsible Sourcing Network (RSN)という動きがある。これは、米国と欧州のファッションブランド、小売業者が共同で綿花産業における強制児童労働の使用に反対する声明を打ち出したイニシアチブである。

 それでもなお、今回の議論をリードしたヤング上院議員は、「企業側のイニシアチブがあるとき、新たな立法化や複雑な規制に対してためらいが生じるが、欧州連合、各国政府と各国の輸入業者は確固とした行動をとる必要がある」「第一歩としてのイニシアチブは、引き続いて制度化されなければならない」「自己規制や自発的な対策は、最も立場の弱い人々に対する必要な支援を確実なものとするためには、必ずしも十分でない」という強硬な主張を展開した。

 ちなみに、ヤング上院議員は、NGOと連携して「倫理的な衣料」を推進する超党派の議員連盟の立ち上げに動いている人物である。日本では、こうした動きはほとんど見られないが、英国では倫理的消費の運動が拡大をつづけており、マーケット規模は1999年から2009年まで2倍以上に拡大しているといわれる。政治の側も、こうした世論の動向を無視できなくなっているといえる証左だろう。

 議会上院での議論は、ステークホルダーの透明性と責任追及の要求を反映して欧州各国が進める、企業の非財務情報開示の制度化に収れんしていったということだった。デンマークで2008年に成立した、アニュアルレポートにCSRの取り組みを開示することを義務付ける「改正財務諸表規則」やスペインで2011年3月に施行された同様の「持続的経済法」が、ひとつのモデルとして想定されている。

 訴訟への備え、人権侵害回避を誓約する自発的なイニシアチブへの参画、そして情報開示という3つのキーワードが、これらのトピックスからは浮かび上がる。いずれも、多くの日本企業のCSRではこれまで馴染みの薄いものばかりだろう。前回、指摘した人権デューディリジェンスに取り組む意義は、こうした点からも導かれるのである。