オルガン同好会員のネタ帳

オルガンなのにあえて近現代志向

ケクラン:オルガンソナタ 第1番

2018年03月11日 | オルガン音楽
 作曲家というよりは音楽教育者として名を成したシャルル・ケクラン。なんと理系の名門として知られるエコール・ポリテクニークに在学しており、理系の高い素養が窺えます。エコール・ポリテクニークは病気で退学し、その後は音楽の道へ転進。膨大な教科書や理論書をものしていますが、作曲家としても多作で、様々な編成のための室内楽曲を残しています(指導用の教材だったのかもしれません)。ケクランは色彩豊かな和声と巧緻な対位法が聴きものですが、なかなかエキセントリックな展開を見せることもあり、幅広い作風を持ち味としています。ピアノのための「陸景と海景」には現代においても新鮮さを失わない時代を超越した感性が現れていますし、映画俳優を題材にした「7人のスター交響曲」ではメシアンよろしくオンド・マルトノが特異な音色を聴かせます。そのようなケクランの小宇宙の一角を飾るのが、オルガンのための作品です。
 ケクランのオルガン作品は、彼の全作品の中でも地味な扱いに甘んじています。少なくとも室内楽作品のような人気沸騰の兆しは見られません。ケクランの魅力である現代的な和声感覚や、音色の組み合わせのマジックがオルガン曲には見られず、聴き手を当惑させるのでしょう。ですが、そんな中にも、ケクランの持つ独創性はしっかりと刻まれています。第1楽章は、最低限の音数から、多様な転調を生み出している点が特筆されます。その無駄のなさはバッハのトリオ・ソナタを連想するかもしれません。第2楽章は古典的な緩徐楽章。しかし最小の音の変化で次々と表情を変えていく和声の職人芸はここにも現れます。
 評価が難しいのが第3楽章。オルガン愛好家としては、ケクランのお家芸ともいえるフーガを期待したいところですが、意外にも?物静かなパストラーレを置いています。楽譜はわずか2ページ。山彦のように主題が遅れて重ねられつつ進行し、最後は各声部が少しずつ積み重なって、空虚五度の終止和音を鳴らして停止します。古典的なソナタであれば急-緩-急の構成が常道ですが、このソナタは急-緩-緩となっています。調性も第1楽章がト長調、第2楽章がト短調なのに対し、終楽章はヘ長調で一貫していません。この意外な極小のフィナーレ楽章が何を意味するのか。この構成を採用した意図は何か。流れる音楽そのものよりも、ずっと難解なものをこのソナタは秘めているようです。