オルガン同好会員のネタ帳

オルガンなのにあえて近現代志向

オルガンソナタとオルガン交響曲小史(バロックから現代)

2012年06月02日 | 雑記
バロック時代にも「オルガンソナタ」と名づけられた作品は多数ありましたが、スカルラッティのクラヴィーアソナタに類する小品が殆どです。バッハの作品は多楽章であるものの、当時流行していたトリオ・ソナタの様式をそのままオルガンに移植したもので、純粋にオルガン音楽としての演奏効果を追求したものとは言い難い部分があります。一方、大規模なソナタや交響曲が作られるようになった古典派期には、オルガンはチェンバロ等の古楽器と同じく衰退期にあり、注目されるべきソナタ群が登場するんは19世紀以降になります。この時代に、メンデルスゾーンによるバロック音楽の「再発見」があり、またオルガン自体も改修・大規模化したことで改めて注目され、オルガン付きの大管弦楽曲や独奏曲が競って作曲される「ロマンティック・オルガン」の時代を迎えます。このうちに、メンデルスゾーン(1~6番:1844-45)、リッター(1番:1847、2番:1850、3番:1855、4番:1856)、ロイプケ(1857)らが重要なオルガンソナタを作曲していますが、それらはほとんど単一楽章に近い「ロマンティック・オルガンソナタ」形式。特にロイプケの作品は表題性のある実質的な交響詩と呼べるもので、これを頂点として、ロマン派期のオルガンソナタの動向は2つに分かれます。

19世紀も後半に入り、ラインベルガーらが古典派時代のような多楽章による「新古典的オルガンソナタ」を書き始める頃、ヴィルヘルム・フォルクマールが「オルガン交響曲」(1867)を発表します。オルガン交響曲は、複数の楽器の集合体としてのオルガンの可能性をより追求したもので、オルガン及びそれを収納する建造物の音響の改良が大々的に行われたフランスで流行し、ヴィドール、ヴィエルヌ、トゥルヌミールと言ったロマン派・近代フランスの高名なオルガニスト達が手を染めているほか、ソラブジの演奏時間が数時間に及ぶ交響曲(1番:1924、2番:1929–32、3番:1949–53)や、タリヴェルディエフによる「チェルノブイリ交響曲」(1988)など、現代においても数点が作曲されています。「オルガン交響曲」という作品名がオルガンのための大規模な独奏曲の代名詞になりつつある中、あえて「オルガンソナタ」の名を使うことはすなわち、(メンデルスゾーンらの作品とは反対に)古典様式への敬意と回帰を暗に示すものとなりました。ラインベルガーの後には、エルガー(1895)、レーガー(1番:1899、2番:1901)に(ブラームスの影響が色濃い)チャールズ・スタンフォード(1番:1917、2番:1917、3番:1918、4番:1920)という、いささか頑固な面を持った作曲家が名を連ねています。その作品群は、複数の楽器を組み合わせるシンフォニックな面が全く見られないわけではありませんが、演奏効果との両立が難しいためにオルガン交響曲では用いられないことも多いフーガが積極的に用いられるなど、音響に依存せずに音楽を組み立てていく姿勢が強く見られます。そのため、オルガン同好会の使用する、小型で、音響の乏しい環境に置かれたオルガンには、より適していると思われます。