【おさびし十首選 塔9月号】
放たれてどうと落ちくるダムの水さういうふうに曲がるのか、空(有櫛由之)
待ちをりしフクロウ便の来なかつた五月七日を子は終へむとす(岡本伸香)
白い花がしろい花呼び咲く森がどしやぶりの雨にかすみゆくなり(山尾春美)
あめんぼうばかりの堀の面に蛙死んでる、と見れば水蹴る(篠野 京)
ちひさくてもはや読めざる『草枕』文庫を閉ぢて目薬をさす(斎藤雅也)
清拭に似て静かなり梅の実を白き布巾に拭きゆく夜は(橋本恵美)
鉄塔をトーキョーと呼びていしころの息子はいつも何か握りて(山下裕美)
かしわ屋の息子に髭が生えてから商店街はしずかになりぬ(高橋武司)
かららんとしてをる時にあゝ空は落ちてくるなりまつすぐまつすぐ(國森久美子)
扇風機くらいの進化でいいような羽は付いているのがいいような(相原かろ)