【おさびし十首選 塔8月号②】
届けたいひとがゐるから芍薬にゆつくり咲いてと声をかけたり(吉田京子)
山羊は山羊小屋にもどりて雨降らぬ土地に雨降る匂ひも知らず(山下好美)
豆腐屋の録音された笛の音のもの悲しくて豆腐買うたる(北野中子)
窓のなき窓枠として あなたには手紙を書いたことなどないが(石松 佳)
いずれ黴にまみれるパンのひとかけとわたし夜更けのキッチンにいる(福西直美)
流しから溢れむばかりの器具洗ふじゃん・ばるじゃんの歌を思ひて(近藤真啓)
カタクナという目つきにて無反応ふれあい動物広場のウサギ(相原かろ)
夜の更けて爪切る音のうすら寒さもの知らぬ夫をまたたしなめる(三浦こうこ)
見ないでと幼子の言う直截をときに憎みておりし我が稚気(三浦こうこ)
そしてまたひとりとひとり 分けあひておいしいねつて満たされしのち(澄田広枝)