アーカイブ『市民派アート活動の軌跡』

「アートNPO推進ネットワーク通信」
小冊子「アート市民たち」

2『絵はぼくを思索に誘う』(AS会誌掲載)

2016年04月06日 | YTアートコレクション
2、何故、絵など買うようになったのだろう

 私が本格的に絵を買うようになって、もう三十年を超える。何故、絵など買うようになったのだろう。昭和四十年代前半に損保業界に入り、高度経済成長時代を生きて来た。仕事は充実感もあり、概ね満足できる会社人生であったが、私の心の隅には、もう一つの自分の世界を築きたい願望のようなものが常にあった。そんな頃、日本橋の勤務先会社から直ぐのところにあったブリヂストン美術館で、ジョルジュ・ルオーの『郊外のキリスト』を見た。描かれているのは、貧しい場末の風景のなかに佇む三人の人影、キリストと子供たちつまり私たち人間の姿だ。寂しそうな風景だが、肩寄せ合う三人の辺りだけがあたたかい。そこにあるのは、アカデミックな宗教画が描いてきた栄光のキリスト像ではなく、貧しき人々に寄り添う人間キリストの姿であった。この絵は私の心に沁みた。この感動をきっかけに、私はルオーにこだわり、『ミゼレーレ』や『パッション』『流れる星のサーカス』などルオーの版画作品をコレクションしてきた。

私はここ数年、毎年のようにN・Yに旅しているが、楽しみの一つはMOMA(ニューヨーク近代美術館)でジャコメッティやマーク・ロスコなどの近・現代美術を見ることである。元々、初期に海外のコンテンポラリーアートを見る機会が多かったこともあり、抽象絵画を中心とした現代美術が好きである。そんな訳で、ルオー作品と併行して購入してきたのが現代美術であった。初期のコレクションはハワード・ホジキン、ジャン・シャルル・ブレ、マックス・ノイマン、サム・フランシス、アントニ・タピエス、など海外のコンテンポラリー作品であったが、次第に小野木学、菅井汲、白髪一雄、松田正平、李禹煥、草間彌生、山田正亮、マコト・フジムラ、岡村桂三郎など国内作家に広がりを見せてきた。2002年に『アートNPO推進ネットワーク』を立ち上げてからは、目立たないが、いい作品を制作し続ける中堅・若手作家の作品を購入してきた。早川俊二、半田強、山内龍雄、野坂徹夫、三浦逸雄、岸田淳平、横田海、前田昌良、森本秀樹などである。

これらの作品のなかで、今回のコレクション展への出品作を何にするか・・。当初は、新潟という土地柄を考え、海外作家や抽象作品は外し、日本の現代作家の具象作品に限定するつもりであった。しかし考え直し、具象・抽象にこだわらず、かつ私のコレクションの原点ともいえるルオー版画も加えることとしたのだが、結果的に展覧会は好評であった。選んだ作品四十点のプロ写真家による撮影、作家及び作品の紹介文章作り、作品運送手配など、思った以上に大変な作業であったが、どうにか準備を終えた。こうして、七月十七日、特に貴重な作品十数点を愛車に載せて、アシスタントのA子さんと二人、片道三百五十キロの道のりを新潟に向かった。砂丘館は元日本銀行新潟支店長の邸宅である。新潟市が所有するこの昭和初期の建物では、現在、各種芸術・文化活動が行われているが、その館長を務めるのが大倉さんである。この日、大倉さんとA子さんと私は汗をかきながら全作品の梱包を解き、展示したのであるが、洋間、居間、座敷、奥座敷、蔵など夫々に相応しい作品を即座に選び、次々壁に掛けていく大倉さんの手際いい行動に感心してしまった。


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