映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

すばらしき世界

2021年02月24日 | 映画(さ行)

すばらしき世界?

* * * * * * * * * * * *

西川美和監督作品ということで、重い腰を上げて3か月ぶりくらいに映画館へ行きました。

映画館通い再開にはふさわしい作品。

殺人の罪で13年の刑期を終えた三上(役所広司)。
それ以前にも何度も服役しており、
これまで人生の大半を獄中で過ごしてきたといっても過言ではありません。
身元引受人の弁護士らの助けを借りながら、今度こそは、社会復帰を目指します。

そしてまた、子どもの頃生き別れになった母を探そうと三上は思うのですが、
その話に飛びついてきたのが、テレビディレクター津之田(仲野太賀)と
やり手プロデューサー吉澤(長澤まさみ)。
社会に適応しようとあがきながら生き別れの母を探す、
三上の感動ドキュメンタリーを仕立てようというのです・・・。

三上は、一本気で、ある意味優しく、正義感に富んでいるということもできます。
しかし、直情的でキレやすく、いったん火が付くと止められない。
例えば、チンピラに絡まれている人を見ると助けようとするのはいいけれど、
チンピラをたたきのめしてしまい、
そのため相手が命を落とすことになろうとお構いなしという勢い。
まるで爆弾を抱えているようで、ちょっと怖い。

弁護士の先生は「孤独に陥らないことが肝心」と言って、自らも世話役を厭いません。
持病のある三上なので、生活保護を受ける手続きも面倒を見てくれる。
それでも、生保を嫌い、なんとか経済的自立を図ろうとする三上ですが、
前科者の彼にそう簡単に仕事は見つかりません。

そんなことをする内に、三上の事情を知った上で
手を差し伸べてくれる人が何人か出てきます。
津之田も、三上の危うい部分も見てしまいますが、
それでもなんとか彼の社会復帰を支えるようになっていく。
三上のまっすぐな部分は、人間的魅力でもあるのですね。

やはり、孤独に陥りがちな三上を支えるのは人の輪。
人の絆なのです。

だがしかし、私たちは愕然とする事実をも知ることになる。

三上が世間に溶け込んで人並みの生活をするというのはつまり、
人並みに「見てみないふりをする」、
「気づかないことにする」ということなのです・・・。

善と悪。
正しいこと、誤ったこと。
それらは一元的なものではなくて複雑に入り交じっている。
そしてそれこそが「世界」というものなのでしょう。

本作は西川美和監督のオリジナルストーリーではなくて、
佐木隆三「身分帳」をもとにしています。
題名をそのまま「身分帳」ではなく「すばらしき世界」としたのが、
なんともセンセーショナルというか英断というか・・・。
作品を見ていると、これがすばらしき世界?と思えてしまいます。
でも、一言で言い表せない複雑な様相を世界というのならば、
それは「すばらしい」という形容もあながち間違いではないのかも・・・
と、次第に納得していくのです。

 

役所広司さんの危うい感じの元受刑者、さすがです。

そして私は仲野太賀さんを前期テレビドラマでいい感じ、と思い、
本作ですっかりファンになりました!

 

<シネマフロンティアにて>

「すばらしき世界」

2021年/日本/126分

監督・脚本:西川美和

原案:佐木隆三「身分帳」

出演:役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白龍、長澤まさみ

 

キレやすさ★★★★★

満足度★★★★.5

 

※都合により、一週間程度更新をお休みします・・・。
 肩こりが高じて、キーボードを打つのがしんどいのです・・・
 ナサケナイ・・・

 

 



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