映画と本の『たんぽぽ館』

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「映画の構造分析~ハリウッド映画で学べる現代思想」内田 樹

2011年06月10日 | 本(解説)
目からウロコの映画の見方

映画の構造分析―ハリウッド映画で学べる現代思想 (文春文庫)
内田 樹
文藝春秋


              * * * * * * * *

この本の目的は・・・
「みんなが見ている映画を分析することを通じて、
ラカンやフーコーやバルトの難解なる述語を分かりやすく説明すること」
にあります。


・・・とあるのですが、
そもそも私、ラカンもフーコーもバルトも誰のことやら全く解らない。
(つまりは哲学者のようなのですが。)
そんな私がこんな本を読むのは大それたことなのでは・・・
と思いながらおそるおそる読んでみました。
いやしくも映画好きを自称するからには、
たまにはこれくらいのものも読まなくては・・・
などという義務感に背中を押されつつ・・・。


たとえばいきなり具体例ですが、
「エイリアン」の話と行きましょう。
シガニー・ウィーヴァー演じるリプリーは、
「男性の暴力に決して屈しない自立し、自己決定するヒロイン」といいます。
リプリーはハリウッド映画が初めて造形に成功した
「ジェンダー・フリー」ヒロインであると。
はい。
そこは正に私が実感して思っていたことなので、
納得、納得。
一方エイリアンは、
その男根状の頭部とか、
口元からしたたる半透明の液体とか、
自己複製を作り出す欲望とか
・・・男性の性的攻撃の記号であると。
話がきわどくなってきましたが、た、確かに・・・。
つまり「エイリアン」はフェミニスト・ヒロインと
これを屈服させようとする家父長的な男性性の間のデス・マッチである。
そしてこの物語はハッピーエンドヘ向けて収斂して行く。

ところが、この作品のもう一つの秘密。
著者は妊娠と出産について述べています。
妊娠は女性にとって恐怖であり不安であり、嫌悪である。
・・・普通私たちはそれを"おめでたい"こと、とはいいますが、
実のところは、そういう感情が確かにあります。
「産む性であること」と「産むことへの恐怖と嫌悪」。
女性の中には、このような亀裂がある。
つまり、表面のストーリーとは別に、
映像の水準では、フェミニスト・ヒロインは繰り返し陵辱され、
傷つき、損なわれている、
というのです。

文中ではもっと具体的な例がいろいろ載っているのですが、
確かに納得させられることばかり。
このような物語と反物語的なものの拮抗関係が鋭い緊張状態をもたらしている。
・・・つまり、それがこの作品の魅力ということなのですね。


実は私は、これまで、映画のこのような解釈
<深読みというか穿ちすぎというか>、
そういうのは邪道だと思っていたのです。
でも、この本を読んで考えが変わりました。
表面的なストーリーに隠された何か。
たとえそれは映画の作り手(監督や、スタッフ、俳優たち)の意図することではなくても、
知らずと現れるものが確かにある。
それを探るのも、映画の楽しみの一つ、魅力の一つといえるのではないかな。
かなり、そう思えてきました。


★「大脱走」は女性が一人も登場しない作品であるにもかかわらず、
実は「女性」が始めから最後まで前面に出ていた。

★「北北西に進路を取れ」は母親から受けたトラウマと
自己のアイデンティティの物語・・・。

★アメリカ文化は女性嫌悪の文化・・・。

特に、最後の「アメリカの男はアメリカの女が嫌い」という話が、
すごく面白いのですが、
これ以上書くとまた長くなりすぎるので、やめておきます。
しかし確かに、こういうパターンの話は多いのですよ・・・。
私は「ポパイ」を連想してしまった。
いつもトラブルメーカーはオリーブなんですよね・・・。


他にも興味の尽きない話に満ちています。
確かに、私には難しい部分もありましたが、
おおむね語り口はやさしい「お話」となっていますので、最後まで楽しめました。
何だか目から鱗が落ちたような気がしています。


「映画の構造分析~ハリウッド映画で学べる現代思想」内田 樹 文春文庫
満足度★★★★★




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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
映画を観る姿勢 (こに)
2011-06-11 10:54:40
感性のみで観ているキライがあるので、とても参考になります
ふ~む、ナルホド
Unknown (たんぽぽ)
2011-06-12 16:52:35
>こにさま
何でもかんでも、そういう見方ができるわけではないと思うのですが、とても「おもしろい」と思いました。
以前私の「北北西に進路を取れ」のブログ記事には畏れ多くも「今見ると、それほど面白くない」なんて書いた記憶があるのですが、この本を読んでから見ると、またずいぶん違った感想になると思います。
無知というのは恐ろしいものでもありますね・・・。

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