映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

おくりびと

2008年09月16日 | 映画(あ行)

この映画の主人公大悟(本木雅弘)は、チェロ奏者なのですが、
ようやく入ったオーケストラが解散してしまい、あっさり失業。
借金の残っている高価なチェロも手放し、故郷の山形へ帰ります。
けなげに彼を励ましつつ、文句も言わずついていく妻、美香(広末涼子)。

そこで彼が見つけた職は納棺師。
NKエージェントという意味不明の会社に面接に行ってその場で採用。
新聞広告に出ていた「旅のお手伝い」というのは、
実は「安らかな旅立ちのお手伝い」だったということ・・・。

それにしても、納棺師なんていう職業があるなんて全然知りませんでした。
つまり、亡くなった人の身を清め、装束を調え、死に化粧を施してお棺に納める、
それだけのことではありますが。
しかし、それだけのことが、実は大変貴重なことなわけです。
まず、死んだ人に係ることなので進んでやりたがる人はいません。
そして、人の死を食い物にしているとか、穢れているとか、
差別的に見られることもあるという。
大悟は妻に自分から仕事の内容を伝えることができませんでした。

しかし、幾度か出てくるその納棺のシーンはとても厳粛で、
なぜか思わず涙してしまいました。
別に、ことさらその人の死を悲しませるシーンではないのです。
ただ、静かに、いつもの通りの仕事が進むだけ。
決して家族にはその肌を見せないように体を清めたり、着替えをしたり、
それはきちんと定められた様式ではあるのですが、
まるでお茶の作法のように美しい様式美であるわけです。
人の尊厳を感じさせます。
こういうところに感じいってしまうのですねえ・・・。
死は必ず誰にでも訪れるものではありますが、
生が大事なことと同じだけ、死も大切なんですね。
お弔いというのは本当は残ったもののためにあるのだとしても。

大変重いテーマではあるのですが、時にユーモアも交えながら語られるこの物語は極上質。

そんな中では、わたしたちは生き物を食べなければ生きていけない、
そういう性(さが)である・・・ということも語っています。
そういいながら彼らがほおばる河豚の白子、
山盛りのフライドチキン。
だからこそ、おいしくいただかなくては・・・!ということでね。

この山形の舞台もいいですね。
この夫婦が住む一階が喫茶店仕様の古い家や
NKエージェントの古い建物、
それから、山形弁。
やはり、この物語は東京が舞台では成り立たないような気がします。
ちょっとひなびたこの舞台があってこそ引き立つストーリー。
バックに流れるチェロ曲もまたいいですね。

死をテーマにしながら、二人のこれからの人生に希望が見える。
そういうところもステキです。

2008年/日本/130分
監督:滝田洋二郎
出演:本木雅弘、広末涼子、山崎努、吉行和子、笹野高史



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