映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「蜜蜂と遠雷」恩田陸

2017年06月03日 | 本(その他)
あ~、ピアノ曲が聞きたい!!

蜜蜂と遠雷
恩田 陸
幻冬舎


* * * * * * * * * *

3年ごとに開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。
「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」
ジンクスがあり近年、覇者である新たな才能の出現は音楽界の事件となっていた。
養蜂家の父とともに各地を転々とし自宅にピアノを持たない少年・風間塵15歳。
かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら
13歳のときの母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。
音大出身だが今は楽器店勤務のサラリーマンでコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。
完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される
名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳。
彼ら以外にも数多の天才たちが繰り広げる競争という名の自らとの闘い。
第1次から3次予選そして本選を勝ち抜き優勝するのは誰なのか?

* * * * * * * * * *

直木賞、本屋大賞、ダブル受賞で話題の本作をやっと読むことができました。
昔からの恩田陸ファンとしては直木賞受賞の時からすぐにでも読みたかったのですが、
例によって節約を心がけているところですので・・・、
しかし、当然ながら図書館予約では何年先になるのかもわからない人気の高さ。
そこで私は、とあるカードのポイントが貯まるのをじっと待っていて、
この度ようやくポイント交換で本書を入手。
・・・まあ、文庫を3冊も我慢すれば買えなくもないのですけれど。
ほとんど気持ちの問題ですね。


さてさて、内容はひたすら芳ヶ江国際ピアノコンクールに終始します。
第1次予選から第3時予選までがあり、そして本選という長い道のり。
紹介文にあるように、主にこのコンクールに出場する4名を中心として話は進みます。
視点は各出場者であったり、審査に当たる人であったり、
自在に入れ替わっていきます。


そもそも私はピアノを弾かないし、
クラシック曲の題名を聞いても全くピンときません。
それにもかかわらず、美しいピアノの音が聞こえるような気がする。
これはひたすらに著者の力量でありましょう。
そもそも目には見えず手で触ることもできない「音」。
その音が喚起するイメージ。
それを文章で表現するという究極の作業の塊が、この本なのであります。
凄いです・・・。


そして、これは言うまでもありませんが、登場人物が実に個性的で魅力的。
ひたすら音楽の神に愛されているとしか思えない生来の超天才少年風間塵は、まあ別格として、
読者が最も感情移入するのは栄伝亜夜でしょうか。
長らくピアノから遠ざかっていた彼女が、
覚醒していくさまをつぶさに見るのがなんとも心地よいのです。
こんな文章があります。

「観客は舞台の上の彼女を見つめ、彼女の演奏を聞きながら、自分を見ている。
自分のこれまでの人生、これまでの軌跡が
舞台の上に映し出されているのを目撃しているのだ。」

こんな風に自分の人生を思い起こさせるような音楽って一体・・・。
こんな音楽を聞いてみたいものだと、切に思ってしまいました。


そして私が好きだったのは、高島明石。
このようなコンクールに上位入賞しプロとなっていくのは、
大抵は幼い頃からピアノに触れ、高い授業料をかけて良い指導者につく、
そんな特別な教育を受けて育った人たち。
でも彼はごく普通の家庭に育ち、今も普通にサラリーマンとして仕事をしながら、
ピアノに触れているのです。
そんな彼に親しみが感じられて、つい応援したくなってしまいます。


長丁場を少しも飽きずに、コンクールの緊張感を保ったまま一気に読んでしまう、
そんな本です。
あ~、ピアノ曲が聞きたい!!


「蜜蜂と遠雷」恩田陸 幻冬舎
満足度★★★★★


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