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「鬼の橋」伊藤遊

2018年05月17日 | 本(SF・ファンタジー)

「喪失」の後に・・・

鬼の橋 (福音館創作童話シリーズ)
太田 大八
福音館書店

* * * * * * * * * *

平安時代の京の都。
妹を亡くし失意の日々を送る少年篁は、
ある日妹が落ちた古井戸から冥界の入り口へと迷い込む。
そこではすでに死んだはずの征夷大将軍坂上田村麻呂が、
いまだあの世への橋を渡れないまま、鬼から都を護っていた。
歴史上の人物、小野篁の少年時代を描いた第三回児童文学ファンタジー大賞受賞作。

* * * * * * * * * *

児童文学ですが、素晴らしいファンタジーです。
ときは平安時代、主人公は少年時代の小野篁(おののたかむら)。
さて小野篁、聞いたことはあるような気がするけれど、誰?
ということになりますが、平安時代4代の天皇に仕えた有能な官僚。
漢詩文に優れ、また、井戸を使って冥府と行き来したなどという不思議な伝説も残っています。
遣唐副使に任命されたおり、壊れた船をあてがわれたことに腹を立てて乗船拒否。
そのことを咎められて隠岐の島に島流しになったことも。
しかし二年後には許されて戻っておりますので、
やはり相当に有能で、天皇からもあてにされていたことが伺われます。


なるほど・・・反骨精神もあり、興味深い人物なのですね。
・・・恥ずかしながら、知りませんでした。
そのうち大河ドラマで扱っていただけないものか。
遣隋使の小野妹子の子孫で、絶世の美女・小野小町の祖先でもあるとか・・・?
ホンマかいな?
ちなみに空海が行った遣唐使はこれよりも少し前のことでした。

余談が過ぎました。
その小野篁の少年時代。
12歳、元服前の多感な年頃です。
前述を聞くといかにも悧発で心優しい・・・という姿を想像してしまうのですが、
ここではもっと普通の少年です。
良い家柄の子どもですから善悪はわきまえている。
けれども、それと感情とは別。
ごく普通の少年のように、ちょっとずるかったり意地悪だったり、弱気だったり、時には尊大だったり。
等身大です。
特に冒頭、ちょうど彼の妹(義理)が事故で亡くなっているのですが、
それは多分に篁にも責任のあることだった。
大好きな妹で、けれどその死の責任は自分にもあるという大人でも耐えきれない重圧の下で、
無気力であったり苛ついたり・・・とにかく常の状態ではありませんでした。
その彼が、京の五条橋を乱暴に渡った時、
橋の下からみすぼらしい少女が飛び出してきて、篁を咎めるのです。
「私の父親が作った大事な橋を蹴飛ばすな」と。
その場は無視して通り過ぎ、篁は妹が亡くなった井戸のところに行きます。
そしていつしかその井戸の中に入り込み、底に降り立ちます。
そこには誰もおらず大きな川が流れているだけ。
川沿いを歩いていくとやがて川に掛かる橋が見えてきます・・・・。
つまりその井戸は冥界へ通じる井戸。
その川はいわゆる三途の川ということでしょう。
篁はそこで鬼に遭遇しますが、
すでに死んだはずの征夷大将軍坂上田村麻呂が現れ、助けてくれるのです。
無事に井戸の上へ戻ることができた篁は
不思議な縁で橋の袂に住む少女と彼女を守る鬼・非天丸と交流するようになります。
そんな中での体験により、篁は人として成長してゆく。
これもまた「ゆきて帰りし物語」ではありますね。

この三人は、皆大切なものを欠いているのです。
片方のツノをなくした鬼の非天丸。
父親をなくした少女・阿子那。
「それぞれ、もぎとられたもののかわりに相手をもとめ、傷口をいたわりあっていた。」
この時篁は「自分もまた、かたツノをもがれた鬼であることを思いだし」ます。
このような思いに至ることができたのはもう篁もおとなになった証。
大きな喪失を経て、それを人と分かち合うこと・・・。
人の成長段階に必要なことなのかもしれません。


ちなみに本作は「絵本・児童文学研究センター」主催による児童文学ファンタジー大賞の第3回大賞受賞作。
実は「大賞」は今に至るまで毎年募集し、選考されていますが、
第1回梨木香歩さん「裏庭」と、第3回の本作、2つしか大賞の受賞作がありません。
妥協を許さない選考をしているようです。
ここらで、ど~んと次の大賞作を読んでみたいものです・・・。

図書館蔵書にて
「鬼の橋」伊藤遊 福音館書店
満足度★★★★★

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
読んでみました。 (山形支社長)
2018-05-26 12:55:13
確かに傑作でした!
うちの学校の図書館にあったんだけど司書は
「どこにでもあると思います」
課題図書だったんですね。
読書感想文書かなきゃいけないなこりゃ。
大人でも (たんぽぽ)
2018-05-26 19:30:12
山形支社長さま
たしかにこれは、どこの小学校の図書室にもあるはずです。
良いファンタジーは大人の目線でもなお良い作品であることが多いですね。楽しんでいただけたようで、幸いです。

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