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先日、ブルースハープ ベンドの力学的なイメージを示したが、
我ながら、幾つか不備な点があった。
最も重要な点は、ブルースハープのリードの強制振動を考えたが、そのためには、強制振動を生じさせる外力が必要であるのに、外力が何かを示さなかったことだ。
その点を考慮して、再考してみた。
まず、ハーモニカを吸ったときに、何故下側のリードだけが振動するのか?という、基本的な問題から考えてみる。模式図を図1に示す。

図1 ハーモニカを吸ったときにリードとリード周囲の圧力分布について
図1は、ハーモニカの一つの穴の模式図であり、吸った場合である。ハーモニカを吸うということは、ハーモニカの外の圧力(Po)よりも、口腔の圧力(Pmouth1)の方が小さいということである。
このとき、上側のリードは下向きにたわみ、下側のリードは上向きにたわむ。たわんだ状態のリードを赤線で示している。
リード長手方向の圧力分布ΔPがどうなるかというと、アゲミによる隙間の形状から、固定端側の圧力は低く、自由端側のは圧力が大きい(ベルヌーイの法則による)。
上側および下側のリードがたわむと、上側のリードの長手方向の圧力分布は、自由端側の圧力がより大きくなる(隙間がふえるため)。一方、下側のリード長手方向の圧力分布は、自由端側の圧力が小さくなる(隙間が小さくなるため)。
リードから離れたところの圧力Poと口腔圧力Pmouth、および空気の速度uoとumouthは定常流的とみなせるであろう。
そうなれば、穴を吸ったとき、上側のリードのたわみは圧力PoとPmouthの圧力差により決まるたわみで静止し、振動しない。
しかし、下側のリードは、たわむとリード長手方向の圧力勾配が減るため、リードのたわみは、釣り合い位置に対して振動するようになる。
これが、ハーモニカの基本的な原理となる。
吹いたときは、口腔内圧力が大きく、外側を圧力が低いので、上側のリードのみ振動する。
さて、次に、ドローベンドのとき、上側と下側のどちらのリードが鳴るのかということについてである。このことについて、簡単な実験をしてみた。
3番穴のドローベンドを起こすリードを確認するために、まず、上側のリードをセロハンテープにより固定した(図2)。加えて、下側のリードの1、2、4、および5もセロハンテープにより固定した(図3)

図2 上側リードをセロハンテープにより固定した状態。

図3 下側リードをセロハンテープにより固定した状態。
その上で、3番穴を吹くことと吸うことを行った。
実験結果は、こちら。

事前に考えていた通り、下側のリードのみで、ベンドが起きる。
三つ目に、ベンドのメカニズムについてである。
問題を簡単するために、一自由度のバネマス系を考える(図4)。

図4 バネマス系
図4において、m、kおよびFはそれぞれ、質量、バネ定数、および、外力である。
ベンドにより、普通に吸ったときよりも低い音が出るのあれば、図4の単振動系において、質量mが増えるか、バネ定数kが小さくなるか、または、外力Fの周波数によるかのいずれかである。
前回のイメージは、外力Fによると考えた。しかし、そのために、外力Fを考えなければならない。つまり、最も重要な考察が欠けていた。
質量mの増加は、リードの長さも厚さも変化しないので、起きそうもない。
では、バネ定数kの変化は、どうか?普通の片持ちハリでは、バネ定数kの変化は起きにくい。
しかし、ハリが長手方向に湾曲してしていたらどうか?実は、ハリが湾曲していると、ハリの曲げ剛性が低下するのである。
それは、図5のようなプラスチックの定規を真っ直ぐ場合と湾曲した場合に片方を揺らしてみると、湾曲した場合には容易に変形しやすいということを実感できるはずである。

図5 プラスチックの定規の例
実際に、ハープの3番下側のリードが普通のときと湾曲したときでどうなるかを確認してみた。
普通のときのリードは、図6のようにそっている。

図6 リードの普通の状態
リードを縫い針とミニドライバーにより湾曲するように塑性変形をさせてみた(図7)。なお、これをすると、ピッチを戻せなくなるので、大事な楽器は使わないように注意して下さい。私は、捨てても良いハープで試しました。

図7 曲げて塑性変形による湾曲を作ったリード
実験結果は、こちら。

実験結果は湾曲した場合のみ示しているが、普通に吸った音が、本来ならBのはずがB♭になった。そして、ベンドをさせると、F♯に安定して下がった。
この実験結果を、模式的に図にすると、図8のように考えられる。

図8 ベンドのメカニズム模式図
図8において、口腔内の圧力Pmouth2は図1の場合よりも低い。つまり、リード付け根(固定端側)はたわみ易い。
そのため、自由端側は大きく曲がり、リード長手方向に、変形しやすい形に湾曲する。
加えて、穴圧力には小さな圧力変動ΔPmouth2が重畳している。このΔPmouth2は、英語のLやRを発音するときのような舌の形にして、息を吸ったときに出るホワイトノイズ状の「シュー」とか「シー」とかの音である。
この小さな圧力変動ΔPmouth2に含まれる周波数成分とベンドによるリードの剛性低下による曲げ共振がベンドにより起きる音であると推察できる。
吹いて行うベンドは、逆に穴の圧力を頰を膨らませて高くし、ブーと鳴らすように吹くと、ベンドが起きる。
しかし、ドローベンドの場合に、穴の中の圧力を低くするすることは、難しい。
そのために、さまざまななことが言われている。
例えば、平松悟氏は、DVD「ブルースハープの嗜み」において、舌の形を変えてベンドを掛けると説明されている。
一方、α-ki氏は、ホームページ「ブルースハープ講座」において、「強く吸うこと」によりベンドを掛けると記している。
どちらも、事実であり、平松氏の説明は、LやRの発音をすることに重きを置いている。一方、a-ki氏の説明は、リードを変形させることに重きを置いている。
そのどちらもできれば、ベンドは可能である。しかし、二つの異なる現象を起こそうというのであるから、そうは簡単に行かない。
では、どうするか?
まず、Rの発音の巻き舌にして、ハーモニカ無しで息を吸ってみる。すると、口の両端から、シューという音が出るはずである。Lでも同様である。このとき、お腹に力を入れる感じが必要である。
その感じで、ハーモニカを吸ってみていただきたい。
それは、即ち、舌をノズルにして空気溜まりを口腔内に圧力の低い部分を作り、加えて、リードを振動させるホワイトノイズを作り出すことにより、変形したリードの共振を生じさせる。
なお、キーがCのハープの場合、3番の1音ベンドはしやすく、2番の1音ベンドはし難いと思う。その理由についても、いずれか機会があれば記事にしたいと思う。

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先日、ブルースハープ ベンドの力学的なイメージを示したが、
我ながら、幾つか不備な点があった。
最も重要な点は、ブルースハープのリードの強制振動を考えたが、そのためには、強制振動を生じさせる外力が必要であるのに、外力が何かを示さなかったことだ。
その点を考慮して、再考してみた。
まず、ハーモニカを吸ったときに、何故下側のリードだけが振動するのか?という、基本的な問題から考えてみる。模式図を図1に示す。

図1 ハーモニカを吸ったときにリードとリード周囲の圧力分布について
図1は、ハーモニカの一つの穴の模式図であり、吸った場合である。ハーモニカを吸うということは、ハーモニカの外の圧力(Po)よりも、口腔の圧力(Pmouth1)の方が小さいということである。
このとき、上側のリードは下向きにたわみ、下側のリードは上向きにたわむ。たわんだ状態のリードを赤線で示している。
リード長手方向の圧力分布ΔPがどうなるかというと、アゲミによる隙間の形状から、固定端側の圧力は低く、自由端側のは圧力が大きい(ベルヌーイの法則による)。
上側および下側のリードがたわむと、上側のリードの長手方向の圧力分布は、自由端側の圧力がより大きくなる(隙間がふえるため)。一方、下側のリード長手方向の圧力分布は、自由端側の圧力が小さくなる(隙間が小さくなるため)。
リードから離れたところの圧力Poと口腔圧力Pmouth、および空気の速度uoとumouthは定常流的とみなせるであろう。
そうなれば、穴を吸ったとき、上側のリードのたわみは圧力PoとPmouthの圧力差により決まるたわみで静止し、振動しない。
しかし、下側のリードは、たわむとリード長手方向の圧力勾配が減るため、リードのたわみは、釣り合い位置に対して振動するようになる。
これが、ハーモニカの基本的な原理となる。
吹いたときは、口腔内圧力が大きく、外側を圧力が低いので、上側のリードのみ振動する。
さて、次に、ドローベンドのとき、上側と下側のどちらのリードが鳴るのかということについてである。このことについて、簡単な実験をしてみた。
3番穴のドローベンドを起こすリードを確認するために、まず、上側のリードをセロハンテープにより固定した(図2)。加えて、下側のリードの1、2、4、および5もセロハンテープにより固定した(図3)

図2 上側リードをセロハンテープにより固定した状態。

図3 下側リードをセロハンテープにより固定した状態。
その上で、3番穴を吹くことと吸うことを行った。
実験結果は、こちら。

事前に考えていた通り、下側のリードのみで、ベンドが起きる。
三つ目に、ベンドのメカニズムについてである。
問題を簡単するために、一自由度のバネマス系を考える(図4)。

図4 バネマス系
図4において、m、kおよびFはそれぞれ、質量、バネ定数、および、外力である。
ベンドにより、普通に吸ったときよりも低い音が出るのあれば、図4の単振動系において、質量mが増えるか、バネ定数kが小さくなるか、または、外力Fの周波数によるかのいずれかである。
前回のイメージは、外力Fによると考えた。しかし、そのために、外力Fを考えなければならない。つまり、最も重要な考察が欠けていた。
質量mの増加は、リードの長さも厚さも変化しないので、起きそうもない。
では、バネ定数kの変化は、どうか?普通の片持ちハリでは、バネ定数kの変化は起きにくい。
しかし、ハリが長手方向に湾曲してしていたらどうか?実は、ハリが湾曲していると、ハリの曲げ剛性が低下するのである。
それは、図5のようなプラスチックの定規を真っ直ぐ場合と湾曲した場合に片方を揺らしてみると、湾曲した場合には容易に変形しやすいということを実感できるはずである。

図5 プラスチックの定規の例
実際に、ハープの3番下側のリードが普通のときと湾曲したときでどうなるかを確認してみた。
普通のときのリードは、図6のようにそっている。

図6 リードの普通の状態
リードを縫い針とミニドライバーにより湾曲するように塑性変形をさせてみた(図7)。なお、これをすると、ピッチを戻せなくなるので、大事な楽器は使わないように注意して下さい。私は、捨てても良いハープで試しました。

図7 曲げて塑性変形による湾曲を作ったリード
実験結果は、こちら。

実験結果は湾曲した場合のみ示しているが、普通に吸った音が、本来ならBのはずがB♭になった。そして、ベンドをさせると、F♯に安定して下がった。
この実験結果を、模式的に図にすると、図8のように考えられる。

図8 ベンドのメカニズム模式図
図8において、口腔内の圧力Pmouth2は図1の場合よりも低い。つまり、リード付け根(固定端側)はたわみ易い。
そのため、自由端側は大きく曲がり、リード長手方向に、変形しやすい形に湾曲する。
加えて、穴圧力には小さな圧力変動ΔPmouth2が重畳している。このΔPmouth2は、英語のLやRを発音するときのような舌の形にして、息を吸ったときに出るホワイトノイズ状の「シュー」とか「シー」とかの音である。
この小さな圧力変動ΔPmouth2に含まれる周波数成分とベンドによるリードの剛性低下による曲げ共振がベンドにより起きる音であると推察できる。
吹いて行うベンドは、逆に穴の圧力を頰を膨らませて高くし、ブーと鳴らすように吹くと、ベンドが起きる。
しかし、ドローベンドの場合に、穴の中の圧力を低くするすることは、難しい。
そのために、さまざまななことが言われている。
例えば、平松悟氏は、DVD「ブルースハープの嗜み」において、舌の形を変えてベンドを掛けると説明されている。
一方、α-ki氏は、ホームページ「ブルースハープ講座」において、「強く吸うこと」によりベンドを掛けると記している。
どちらも、事実であり、平松氏の説明は、LやRの発音をすることに重きを置いている。一方、a-ki氏の説明は、リードを変形させることに重きを置いている。
そのどちらもできれば、ベンドは可能である。しかし、二つの異なる現象を起こそうというのであるから、そうは簡単に行かない。
では、どうするか?
まず、Rの発音の巻き舌にして、ハーモニカ無しで息を吸ってみる。すると、口の両端から、シューという音が出るはずである。Lでも同様である。このとき、お腹に力を入れる感じが必要である。
その感じで、ハーモニカを吸ってみていただきたい。
それは、即ち、舌をノズルにして空気溜まりを口腔内に圧力の低い部分を作り、加えて、リードを振動させるホワイトノイズを作り出すことにより、変形したリードの共振を生じさせる。
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