
ムシヒキアブ科のトラフムシヒキ Astochia virgatipes (Coquillett)
三重県津市北部の豊津海岸。何年か前にアカウミガメが人知れず産卵して行った場所で,動かないトラフムシヒキ雄を見つけた。カメラを近づけたら,ほんの少しだけ動いた。生きている。
よく見ると,脚の色が白っぽい。翅が短い。羽化直後の個体である。1~2センチほど離れたところに砂に埋まった蛹の殻が見える。
このトラフムシヒキは2010.6.25の14時半頃に海岸の砂浜で生まれたのだ。
今年の砂浜海岸は例年に無くムシヒキアブの仲間が多いように思う。トラフムシヒキも去年は出会った記憶が無く,やはり絶滅危惧種だなあと思っていた。ところが今年のトラフムシヒキは4~5頭が群れている場面にも出くわして,町屋海岸や島崎海岸でも見かけるなど,砂浜を歩くたびに出会っている。
(大石ら,2006)によると,分布は「北海道,本州,四国,九州.国外ではサハリン,モンゴル,台湾に分布.県内では川越町高松,伊賀市一之宮,尾鷲市古和谷で記録がある.」とし,「成虫・幼虫ともに捕食性.シオヤアブに似るが翅脈によって区別できる.」という。
伊賀市や尾鷲市の記録は何の文献に載っているのか,私には今のところ確認できていない。
新訂原色昆虫大図鑑Ⅲによると,「翅は淡黄褐,M3と2ndMの両室は接する。脚は黄褐ないし赤褐,腿節は大半黒く,脛節末端及び付節も多少黒ずむ。前付節はやや拡大する。」
日本昆虫図鑑(1950)によると,「中形,黒色・額は頭幅の1/5弱,灰色粉にて密に被われ,側縁に黒毛を生ずる.翅は細く,外縁わずかに曇り,R1・M3及びCuは翅縁前にて鎖され,Cu1はMとM2との接点より生ずる.腹部は細く,各節後縁は灰色粉にて被われる.産卵管は甚だ細長,4節からなり,黒く光沢がある.雄の生殖器は顕著,上鋏子は長太,背片は細長く背上に突出し,毛塊を生ずる.体長19-24mm.」
普通種であるが,♂の採集例は少ない(蒔田,2002)
大石ら(2003)は本州の海浜性ムシヒキアブ相の基本的な構成要素であろうとして,トラフムシヒキ,ヒラタムシヒキ,ハマベコムシヒキ,Epitriptus sp.の4種をあげている。
文献
蒔田実造(2002)トラフムシヒキを三重郡川越町で採集.ひらくら,46(1):23,三重昆虫談話会.
大石久志・乙部宏(2003)三重の海浜性ムシヒキアブ.はなあぶ,16:49-52,双翅目談話会.
大石久志・蒔田実造(2006)トラフムシヒキ.三重県レッドデータブック2005動物:328,三重県環境森林部自然環境室.
田川勇治・山内智(2007)青森県のムシヒキアブ若干種について.青森県立郷土館調査研究年報,31:43-46.
トラフムシヒキ食事中
砂浜のトラフムシヒキ

羽化直後のトラフムシヒキ雄
前脚跗節第1節が多少太くなり,下面にスプーン状の剛毛がある(田川ら,2007)とのことだが,私の手元にある標本をあらためて調べたところ,スプーン状の剛毛は雌には無かった。また,雄の前跗節第1節には内側にのみしか生えておらず,下面の剛毛はスプーン状にはなっていなかった。雄の前跗節第2節以降には両サイドにスプーン状の剛毛が生えていた。

スプーン状の剛毛。肉眼では見えにくいと思うが,ルーペを使えば見える。雄だけの特徴だと思う。

砂から掘り出したトラフムシヒキさなぎの脱皮殻
トラフムシヒキの幼虫はこの砂浜で何を食べていたのだろうか。属は異なるが,シオヤアブの幼虫は土中にてコガネムシの幼虫を食する(田川ら,2007)。
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