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パパね、中身が女の人らしい💁🏻‍♀️

性同一性障害のカウンセリング 第三回 そして

「私、その頃から立ってトイレすることができなかったんです」
「それは今でもっていうこと?」
「はい、そうです」
「小学三年生の頃からずっとっていうことよね?でも男子トイレ使ってるだろうし、不便だったんじゃないの?」

小学校三年の時、学校で性教育の授業があった。
今の様にインターネットなどの情報が無い時代、小学生が手にすることができる情報源は雑誌やテレビくらいしかない。テレビは親の目もあるので性に関わる番組などを観るのは難しい。となればあとは雑誌を本屋さんで立ち読みする程度だろう。
親とはほとんど一緒に暮らしていない状態だったので、叔母の家で自由にテレビを観ることはでいたものの、さすがにキワドイ描写のあるシーンや、直接的な性に繋がる番組は抵抗がある。
その程度の知識、情報量では、男と女の違いは単純に生殖器、外性器が違うところくらいしかわかっていない。そこからさらに男と女の違いを学ぶために性教育の授業があり、生理や妊娠、射精などについて知っていくことになるのだ。

「性教育の授業の時に、先生が最初に話したのが、男の子は男子トイレを、女の子は女子トイレを使うっていうことで、男と女の体の違いを描いた大きな絵が黒板に貼られてたんです」
「うんうん、そういうのあったよね。それを見て体の違いがよくわかったんだね」
「いや、従姉妹と一緒にお風呂入ったりしていたので、ある程度はわかっていたんですよね。ただ、自分の身体がこれからどう変わっていくかっていうのがぼんやりとしかわかっていなかったのが、はっきりしていった感じでした」
「そうだね、女の子も男の子も二次性徴で大きく変わっていくことを説明していくから、ある意味ちょっとショックだしね」
「ショックはショックでしたけど、その使うトイレが違うっていうところをクローズアップしていたので、それでもう明確に男性拒絶というか、男子トイレに入ること自体苦痛になってしまって」
「そうなの?苦痛って、どういう風に?」
「あの小便器とか、そこでしてる後ろ姿とか、男って感じる様子を見ると強烈に吐き気がする様になっちゃって、男子トイレに入ることができなくなって。いつも我慢してましたね」
「先生に相談したりしたの?」
「はい、担任の先生が女の先生だったんですけど、授業中にトイレに行くことが何度かあったのでおかしいなって思われたんですよね、ある時職員室に呼ばれて。それで男子トイレ入るのが嫌だって話したら、“じゃあトイレ行きたくなったら先生に言ってね、先生用のトイレ連れてってあげるからね”って言ってくれて」
「優しいねぇ、いい先生だったんだね」
「はい、私がほとんど叔母の家で生活していることも知っていましたし、女の子の志向があることもわかっていたみたいなので、もしかしたら先生は私の心が女の子だって理解していたのかもしれないです」
「うん、そうかもね。先生用のトイレは女子トイレだったの?」
「はい、そうです。いつも先生が一緒に中へ入って個室へ入れてくれて、手洗い場のところで待っててくれました。その時にね、いつも先生が外から私に話しかけてくるんですよ。その話が面白くて、トイレ行くのが楽しくなっちゃって」
「うまいなぁ、その先生。苦手意識を克服するためにだったんだと思うよ。素晴らしいわ、その先生」

その先生が担任になったのは三年生の時だけだったが、その後卒業するまでずっと私を気にかけてくれていた。トイレはもちろん、他にもいろいろなこと、学校での不安はこの先生のおかげで克服できていたのだと思う。

性教育の授業で男と女の体の違いを学んだ。
その時、妊娠する仕組みとして、男の精液に含まれている精子が、女性の子宮へ入り、卵子と受精することで妊娠するという説明もあった。
だが、そうするためにどうするのかということについては一切触れていなかった。つまり、男性器を女性の膣へ挿入し、そこで射精するという行為、セックスという行為自体は分からないままだ。
性教育の授業が終わった後、担任の先生が私がどう思ったかを聞いてきた。場所は職員室の隣にあった応接室の様なところだった。

「大人になればそのやり方とかも少しずつ学んでいくんだけど、そのためにあなたの身体もどんどん変化していくの。男の人と女の人で使うトイレを分けているのも、男と女では世の役割が違うからなのよ。今は何かあっても先生が手伝ってあげることができるけど、それはまだあなたが小学生で、子供だからなの。これから中学生になって、高校生になって、大学生や社会人になっていくと、先生みたいに手伝ってくれる人はいなくなっていく。自分で全て解決していかないといけないんだよね。大人になるっていうのはそういうことも含めてなんだよ」

自分でもわかっていることではあったが、男子トイレに入ることができない気持ちは、どうにもできなかった。せめて男子トイレの個室にそのまま入ることができればいいのだろうが、そうもいかない。小便器を使うことすらできないのだから。

「立っておしっこすることできないの?」
「うん」
「それはそうやってするのが嫌なだけなのかな、それとも身体がなにかうまくできないような感じなのかな?」
「身体は普通だと思うんだけど、嫌なの。男みたいにするとか、そういうのが嫌なの」
「そっか、それじゃ仕方ないもんね」

先生は否定しなかった。
年齢的にもキャリアの長い年配の先生ではなかったが、私が意図することや含んでいることを正確に汲み取ってくれたのをよく覚えている。

「その先生との出会いはあなたにとって大きかったよね」
「そうですね、この先生がいなかったら、学校でトイレも行けない子供だったと思いますよ」
「その頃、立っておしっこできなかったのって、何がどう嫌だったんだろうね」
「私が女の子が好むおもちゃや物で遊んでいると、いつも母と姉が“あんたは男なんだから女みたいなことすんじゃないよ”って罵倒してきてたんですよね。母は父のことを引き合いに出して“男なんて汚らしい、お前も汚らしい男なんだよ”とかよく言ってたんです。それで男は汚らしいものみたいな意識がついたんだと思う。自分が女の子みたいになることを嫌がる様になったわけじゃなく、逆に自分が男であることが嫌で仕方なくなってたと思います」
「そりゃそうなるよねぇ。なんなんだろうな、お母さんは。お父さんとの間でいろいろあったのかな」
「そうだろうと思います。直接聞いてないですけどね」
「まぁその頃に植え付けられた意識で、男性は汚らしいみたいな強烈なイメージが出来ちゃってて、それがずっと残っていて男性と感じる様なシーンの一つとして男子トイレや、男の人が用を足してるところを受け入れられなくなった、っていうことなんだろうね。でも、息子さんがいるでしょ?小さい頃とかトイレに連れて行ったりして教えてあげたりするのは大丈夫だったの?」
「はい、それは大丈夫でしたね。男性拒絶も、相手が子供だったら全く問題ないんですよ。自分の子だけじゃなく、他人の子でもそこは平気なんです。二十歳くらいの頃に自分で思いついた対策があるんですけど、子供は全く問題なし、それ以外でも相手を自分なりにカテゴライズして役目や役割をつけてしまえばある程度大丈夫になりました」
「克服方法を自分で見つけたんだ。それは良かったね、だから院長先生とかは大丈夫なのね」
「はい、もう院長先生っていう役割としてカテゴライズしてるので、ぜんぜん大丈夫です」
「でも子供がトイレに行く時とかは一緒に男子トイレに入って行ったんでしょ?」
「はい、もうそれは苦痛で仕方なかったので、周りを一切見ない様にしながら、子供に話しかけたりして気を紛らわせていました」
「実際に男子トイレ、紳士用トイレに入ると、何かしら身体に反応が出るの?」
「吐き気がします。もう強烈に。子供が大きくなってきてからは一人で行かせる様にして、私は可能な限り我慢してましたね。膀胱炎になったこともありますけど、それでも紳士用トイレに入るよりはましなので」
「今もその状態っていうことだよね?」
「はい、そうです」
「ちょっとまだ先の話ではあるけど、性同一性障害の診断が確定して、女性化の治療を開始して、ある程度見た目が女性化したら、トイレも女性用を使う必要が出てくると思うんだけど、あなたにとってはそれは長年の苦しみを解放する一つの出来事になるよね」
「なりますね、相当大きな影響になると思います。出先で普通にトイレを使うことができるなんて、何十年もなかったわけですから」

私の様な人は他にもいるだろうとは思う。ただ、ここまで極端な例は少ないのではないだろうか。五体満足であることに感謝をしなければならないし、事情や状況はどうであれ私の性別違和は私個人問題であり、大きく言えば我が儘の一つとされるかもしれない。
ただ、当事者にとっては苦痛でしかなく、日常生活を営む上で外出を避ける理由にもなるために、何かがあって外出するということになった時、いつも踏みとどまる要素になっていた。
診断確定して女性化ができれば、そういった悩み苦しみからも解放されるのだろうか。

「小学校三年っていうのは、ある意味自分の性別を強く認識させられた大きな時期だったっていうことだね。ここで性別違和と性自認が決定づけられたのかもしれないなぁ」
「そうだと思います。この後から体育の授業なんかも着替えが男女別になりましたし、男と女って明確に分けられたので、自分はこっちじゃない、男と一緒は嫌だって凄く強く思っていました」
「そうだね、子供とはいえそういう意識は強く残るからねぇ。性教育の授業の後も、周りの女の子たちとはうまくやってたの?」
「全くかわりないというか、それまでそんなに仲良くしていなかった女の子たちからもよく話しかけられる様になって、それまで以上に女の子だらけの環境になりました」
「わかるなぁ、それ。周りの女の子にしてみれば、男子の中では特別な存在っていうか、女子のことをよくわかってくれる男の子っていう貴重な存在になってたんだと思うよ」
「そうなんですかね、そんな感じでしたね。それがその後の虐めに繋がるんですけどね」
「言ってたよね、虐めのこと。今日はこの辺にして、次回はその虐めのことについて話してもらえるかな」

小学校四年の終わりに起きたある出来事。それがきっかけになって五年生からは毎日虐めに遭っていた。酷い時期だった。このことも人に話したことがない。今日、ひとつ心の扉を開いたことで、話をすることに抵抗がなくなっていた。次回のカウンセリングで虐めのことも話せば、また少し心が軽くなる様な気がした。

病院を出て車に乗り込む。
黙り込んでいた彼女が口を開いた。

「次のカウンセリングもあたし同席させてもらいたいな」
「うん、いいよ。私もその方が嬉しいし」
「ほんと?よかった」

次は一ヶ月後だ。それまでにまた女性としての容姿を整えられる様に練習しなければ。

「おなかすいたね。なんか食べ行こうか?」

彼女の言葉で緊張が解け、おなかが空いてきた。
息子が帰ってくるまでまだ時間がある。
少し遠回りをしてもいいだろう。
海岸線へ向かって車を走らせた。

ある日突然、「パパね、中身が女の人らしい」と息子へカミングアウト。

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