タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

妊娠と葉酸

2016-08-19 21:41:10 | 産科


お盆に生まれた赤ちゃんたちです。
下の写真のお兄ちゃん3人には、弟くんが生まれたのですよ。
すごいですね。
ちなみに私の亡き父親は男ばかりの6人兄弟でしたよ。
1人は戦争のせいで亡くなったそうです。

今の時代もまた、きな臭い匂いがしていますね。
世界の平和を守るためには、日本の中だけで憲法を守れと言っているだけでなく、
世界に出て行って、平和活動をしなくてはならないでしょう。
興味有る方にはその方法を教えちゃいますけれど。

さて、今日は葉酸のお話でもしましょうか。
タマル産では妊娠の初期と中期に貧血の検査をしています。
妊婦健診助成券には、1回分の貧血の検査しか付いていないのですが、これもサービスです。
妊娠初期には貧血でない女性でも、
中期の検査では貧血が目立ってくることが多いです。

原因は妊娠中に、お産に備えて血液をたくさん作らないといけないからでしょう。
誤解してはいけないのは、お母さんがたくさん血液を作って、胎児にあげているのではありませんよ。
胎児は自分で血液を作るのですからね。
初めは卵黄のうで、次に胎児自身の肝臓や脾臓で、後半は胎児の骨髄で作るのです。
お母さんの血液が増えるのは、あくまでお母さんのためです。

血液成分の水っぽい成分である血漿が増える割には、赤血球などはそれほど増えません。
ですから見かけ上は、血が薄まっているように見えます。
血液は増えているけれど、見かけ上の貧血と呼ばれます。
だから本当の貧血ではないのですね。
赤血球の1個ずつの形を見れば分かりますよ。
正常の形をしているからです。

それに対して赤血球が小さくて色が薄いと、見かけ上ではなくて、本当の貧血です。
こんな時は鉄のサプリメントを処方するのですよ。

そしてもう1つ、赤血球が大きいと、この場合は葉酸が不足して起こるパターンが疑われるのです。
なぜ葉酸というビタミンB群の1つが不足するかと言えば、
たいていは本人かご主人の喫煙によります。
食物の中の葉酸が破壊されてしまうのですね。

葉酸が不足するとどうなるでしょう?
初期では流産が多くなります。
妊娠前では不妊症の原因の大きな部分です。
妊娠中期頃からは、胎児の発育の遅れが目立ってきます。
胎盤の働きが悪いので、胎盤が剥がれてしまって、胎児が死亡してしまうことも有ります。
いわゆる常位胎盤早期剥離という病気です。
後期では早産や、満期で生まれても低出生体重で生まれることが多いです。
生まれてからは、学校では落ち着きの無い子と先生に言われます。
大きくなったら?

もっと目に見えて分かることも有ります。
二分脊椎という病気です。
軽い場合は、生まれた時に背中に小さな穴が開いていることが有ります。
もしそこから脊髄液が漏れていれば、急いで手術をして塞がなければなりません。
ひどいと背中から脊髄が飛び出していたりするのですよ。
当然、運動障害も出るでしょう。

この二分脊椎という病気ですが、
以前は欧米人には多いけれど、日本人には稀な疾患ということになっていました。
ですが、欧米ではシリアルなどに積極的に葉酸を混ぜたものを販売するようになったのです。
その結果1990年頃から急激に減少し、逆に日本では増加しているのです。
日本では以前1万人の赤ちゃんに1人と言われていましたが、今では1万人に6人ほど発症します。
厚生省が2000年に葉酸を摂取するように広告したのもこのせいなのですよ。

よく妊娠ときづいてからタバコをやめたのに、という女性が居られるますが、
胎児の神経管ができあがるは、妊娠6週で、つわりが出る頃にはすでに完成しているのです。
簡単に言うと、妊娠に気づいてからではもう遅い、ということなのですね。
もっと言えば、赤ちゃんを授かる前の若い男女は喫煙してはいけない、ということですよ。
分かりましたか?
ついでに言うと、タバコを吸っていても葉酸を飲んでいると良いか、と聞かれても、
もちろん葉酸以外への影響も有りますからダメなのですね。




HTLV-1の検査方法を変更しました

2016-08-17 20:58:02 | 産科

写真は、今入院中の赤ちゃんのお父さんたちです。
お盆には、たくさん赤ちゃんが生まれましたよ。
大きくなったら夏休みの誕生日になるね。

さて今日は、妊婦健診の検査項目の1つである血液検査の変更点についてお話しましょう。

妊娠初期の血液検査では、たくさんの項目を検査するのですが、
その中の1つにHTLV-1抗体というのが有ります。
もし陽性であっても、別にどうっていうことも有りません。
なぜなら一生涯のうちで、陽性の人のわずか0.3%の人だけが白血病になるだけだからです。

それでも厚生省としては、このウィルスを撲滅しようと計画しています。
方法はお母さんから赤ちゃんへの母子感染を防ぐことで、
時間をかけて減らす方針なのです。
方法は簡単で、お乳をあげない、ということです。
もし是非あげたいというお母さんは、数ヶ月などの短期間にしたり、
母乳をいったん凍結したりする方法もとれます。
母乳を禁止してもぜったいに母子感染しないとも限らないので、最終的にはお母さんの判断によりますが。

HTLV-1のウィルスを持っている人は、2015年の時点で、82万人と推計されています。
これは献血者の陽性率から計算しているのですよ。
2007年からの8年間で、26万人減少したと考えられるのです。
これは母子感染を防いだことによる結果です。
確かにこの調子でいけば、ウィルスのキャリアも減りそうですね。

5年ほど前から妊婦健診の際に、この検査をするように厚生省より指導されました。
もちろんタマル産では開業した17年前から全員に検査していますよ。
以前はというか先日までは一般的なPA法というスクリーニング検査だったのですが、
この夏からより感度の高い、CLEIA法というスクリーニング検査に変えました。
PA法ではどうしても検査をすり抜けてしまうことが有るからです。
CLEIA法の方が費用がかかるのですが、妊婦健診の費用は一定なので、値上げはできませんけれどね。

妊婦健診の費用は日本全国14回で12万円ほどの定価なのですが、
篠山では11万円ほど、丹波市では7万円ほどしか払ってもらえないのですよ。
ちなみに大きな病院ではこの差額で赤字になっても後で助成されるからいいのですよね。

そしてスクリーニング検査で陽性になると、
今度は確定検査でウエスタンブロット法という精密検査に回ります。
ところがこの検査は、20%以上が判定不能と出てしまうのです。
タマル産でも今年になって2人の方がスクリーニング検査で陽性だったのですが、
精密検査では2人とも判定不能と出てしまいました。
こういう時は、お乳をあげるあげないは、お母さんに判断していただくしかないわけですよ。
さらに精密検査でPCR法というのも有るのですが、
現在のところは研究室レベルの検査で、一般的ではありません。

HTLV-1というウィルス、みなさんは別に知らなくてもいい検査かもしれませんが、
人類をウィルスから護るために、血液を提供しているようなものですね。
そしてそれは検査費用は増えたけれど助成は増えないので、
結局産婦人科医が自腹を切っているという話でした。
あまりせこい話ばかりしていてはいけませんね。
それでも記憶に残りましたか?

星に願いを

2016-08-12 21:10:17 | つれづれ

最近生まれた赤ちゃんのお父さんたちです。幸せそうですね。
さて今夜は、ペルセウス座流星群が見えるそうですから、
ブログを読んだらすぐに、星空を見上げてください。
どこを向いても1分に1個くらいは見えるようですしね。

今から31年前に日航機が墜落した事故を、みなさんは知らないでしょう。
あの飛行機には坂本九ちゃんも乗っていたのですよね。
上を向いて歩こう、と歌われていました。
私たち夫婦が結婚した前日だったものですから、
大阪の地下街で、号外の新聞が配られていたのを、鮮明に思い出します。

墜落直前にメモを残されたお父さんたちの手記には、
わずかな時間に、みな、無念さとともに、家族への思いを綴られておられますよ。
感謝の気持ちとか、子供たちを頼む、という思いですね。
親になれば、子供や奥さんへの愛が、生きる希望になっているということでしょうね。

タマル産では、明日から3日間、外来を休診とさせていただきます。
我が家でも、離れ離れになっている子たちが帰ってくるのですよ。
みなさんもそうなのかな?
あるいは、家族に会いに行ったりするのでしょうか。
今、丹波は人でごったがえしていますね。
家族への愛情を感じられる時なのでしょう。

*******
あなた方が泣き悲しむ時、
そこには神様の悲しみが、
あなた方と共にあります。
あなた方が無限に幸福を感ずる時、
神様もまた、無制限に幸福を感ずるのです。
ですから私たちが歓喜の勝利を得るために
前進を重ねる時、神様もその時
喜びを感じておられることを私たちは知るのです。
その神様の愛とその力で、
私たちは前進するのです。
私たちの前方には、希望と喜びが、
あるのみです。

   レバレンド・ムーン

臍帯の手触り

2016-08-10 21:45:05 | 産科

上の写真は、丹波市青垣町の碧羽(あおば)くん、7月9日生まれ。
「強くて純粋で、優しい子になってください。
優しい方ばかりで、たくさんお話もできました。
次も夫の立会いを希望します。」

ご主人と一緒にお産するだけで、とても安心して産める方が多いですよ。
とくに優しいお父さんですからね。
逆にお産でも仕事に行って付き添われないご主人も居られますが、
きっとお産なんて、たいしたことはないと思っておられるのでしょう。
とくに初めてのお産では、一生で一番たいへんな経験かもしれませんからね。

それでは今日は、たいへんなお産ということで、臍帯脱出のお話をしましょう。
両親学級でお産に対するバースプラン立てていただくのですが、
時にご主人が、へその緒を切りたいと言われるのです。
前の病院はさせてもらったとかで。
どうも結婚式のケーキカットと勘違いされているようです。

このへその緒ですが、触るとムニュムニュしているのですが、
医学用語では、キジョク感と呼びます。
漢字は奇褥感と書くのですが、びっくり箱の中のカエルを触ったような感じでしょうか。

さかごの時などは、あぐらをかいた隙間から、へその緒が垂れ下がってくることが有ります。
これを診察で、指の触覚だけで感じ取らないといけないのですよ。
頭が下に向いていても、頭と骨盤の間にへその緒を触れることは有ります。
経産婦さんの方がむしろ臍帯脱出を来たしやすいと感じています。
それは分娩が近づいても頭が降りてこないことが多く、
すきまができてしまうからです。

もしもお産の時にへその緒が垂れ下がってきたり、完全に脱出したりすれば、
緊急で帝王切開をしないといけません。
へその緒が挟まれると、心音が急激に悪くなりますから、超緊急の手術となります。
手術の準備ができるまで、お母さんの頭を下げて、骨盤を上向きにする体位を取ることがすすめられています。
ですが、それは機械式の分娩台に登っている時にしかできないでしょう。

タマル産でも臍帯下垂は時に経験しますが、急いで産んだりすることで、
幸いなことにこれまでは脳性マヒになる赤ちゃんはいませんでした。
ですがこれは運ですからね。

他院での事故報告が載っていましたが、
40歳代の経産婦さんで、満期に破水で夜中に入院し、
夜中の3時23分に臍帯脱出を確認し、もう1人の医師と麻酔科医に連絡、
近隣のNICUにも連絡し、4時ちょうどに手術を始め、4時05分に娩出するも、
仮死で生まれ、その後1歳7ヶ月で亡くなられたそうです。

夜中に、診察からたったの30分ほどで手術できているのですが、
日本ではベストな手術環境ですね。なかなか大きな病院でもこうはいきません。
それでも助けられなかったのは、臍帯脱出という病気が、救える病気ではないからですね。
もちろん脱出の程度によっては助かりもしたでしょう。
これで医療者が避難されては、誰もお産に手を出せなくなってしまいますよね。

世のお父さん、お産というのは、急に胎児が仮死になることが有るということは理解してくださいよ。
そんな時に仕事に行っている場合でしょうか。
それに奥さんが陣痛で苦しんでいるというのに、放っておける心境になれるのでしょうか。
赤ちゃんを産むお母さんも、お産までにご主人をしっかり教育しておいてくださいよ。
それにはソフロロジー教室に参加するのが一番良い方法ですからね。

ところで昨夜から今朝にかけて、赤ちゃんが4人も生まれたので、
私も病棟もてんてこまいです。
明日は1ヶ月ぶりの休みをいただけると良いのですが。

たかがシップ、されど

2016-08-08 21:23:43 | 産科

上の写真は篠山市石住の 咲南(さなみ)ちゃん、7月1日生まれ。
「いつも明るく笑っていてください。
3回目なので頭の中は冷静で、お腹の中から出てくる感覚が分かりました。
入院中はゆっくり過ごせ、リフレクソロジーがとても気持ち良かったです。」

3人目ともなると、お産が気持ちよく感じることだって有りますからね。
何人でも産めるような気になってくるのではないでしょうか。

何気なく、みなさんは妊婦健診と言えば、超音波検査のことだと思っておられるでしょう。
それはそれで間違いでもないし、尿検査や血圧、体重も重要なのですよ、
などと言っても分かってもらえないのです。

開業した頃は、画期的な擬似立体超音波という装置を導入したのですよ。
それまでは超音波と言えば、平面的な2次元の超音波しか無かったのです。
当初より体外受精もしていたので、不妊治療用の経膣超音波も導入していました。
擬似立体式では、現在の4D超音波には及びませんが、けっこう胎児の顔がリアルに見えたものです。

篠山に転居してからは、カラー4D超音波の装置をいち早く導入したのですよ。
町医者であっても、常に最新の機械だけは揃えていたのですね。
今、ちょっと欲しい超音波の機械と言えば、手の平サイズの小型のものや、
往診に持っていけるようなものではなく、
エラスティック超音波という装置でしょうか。
腫瘍の硬さまで手で触れるように分かるものです。
乳がん検診などには重宝する可能性が有るのですよ。
まだ一般的では有りませんが。

ところで、4D超音波にはデメリットも有って、
プローベが重くて大きくて、検査する人間の手首や肩を痛めるのですよ。
私も最近、肩が痛くて。
痛いとシップを貼る、というのが一方法ですね。あるいはサポーターとかでしょうか。
と、ここまでが前置きでした。

妊婦さんにシップって大丈夫だと思われますか?
腰が痛くてシップを貼っている、という妊婦さんをよく見かけます。
でもね、シップは禁忌なのですよ。とくに妊娠後期の妊婦さんは。
理由は、プロスタグランジン阻害薬を含んでいるからです。

赤ちゃんが生まれて、産声をあげる時、それは水中でのへその緒の呼吸から、肺呼吸に変わる瞬間なのですよ。
これにプロスタグランジンの抑制が関係しているのです。
だからシップを貼れば、胎児が羊水の中で呼吸してしまうかもしれませんね。
そうすれば溺れてしまいますよ。他にも理由が有ります。

胎児がへその緒で呼吸している時、肺は水で満たされていますから、
静脈血は肺では浄化できません。
代わりにへその緒で浄化しているわけです。
だから静脈血も動脈血も混ぜこぜなわけです。
心臓から出る大動脈と、肺に向かう肺動脈は動脈管という管でつながっているのですよ。
生まれて半日もすれば、この管は塞がってしまいます。
動脈血と静脈血が完全に分かれてしまう、という意味です。

シップに含まれる、プロスタグランジン抑制剤は、この動脈管を縮めてしまう作用も有るので、
生まれる前に塞がってしまうのですね。
すると血流が滞って、胎児が死んでしまうことも有るのです。

でもね、昔はこの薬は、切迫早産の薬として使われていたのですよ。
禁止されたのは、比較的新しいことなのです。
医学って、ホントにコロコロと変わりますからね。
私も若かりし頃は、この薬を切迫早産に使っていましたが、
生まれてきた早産の小さな赤ちゃんの電解質バランスが崩れていたことが有ります。
それ以来使用していなかったのですが、最近になって禁止されたというわけです。

みなさんもたかがシップと思われるでしょうが、
妊娠中は貼ってはいけないのですよ。
ご主人にマッサージしてもらうのが一番良いのですね。