タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

3人に1人は、しんどいお産です

2018-10-29 21:15:17 | 産科
写真は、篠山市味間南の弘英(こうえい)くん、9月25日生まれ。
「優しい子に育ってね。
みなさん、優しく、丁寧でした。」

初めてのお産でしたからね。

先週から今週にかけては、4人連続でしんどいお産でしたよ。
4人中3人がへその緒が巻いていたからです。
1人は首に2重、1人は首に1重、1人は右足に1重、
もう1人は巻いていなかったのですが、早くから心音が下がるのですよ。

4人連続で何時間も私が付きっきりのお産でした。
助産師や看護師も一緒にです。
物凄く気を使いながらお産を進めていきます。
他院であれば、この4人のうちの何人かは帝王切開になったことでしょう。

なぜ分かるのかと言えば、県立塚口病院に勤務していた時に統計を取ったことが有るからです。
過去10人ほどのドクターの統計を取ると、
ほとんどの先生の帝王切開率は30%代だったのです。
1人だけ部長は40%代でした。リスクは犯さない先生でしたからね。
そして1人の先生は20%代でした。
そんな中で、私の患者さんだけ10%代だったのですよ。

当時はさかごや前回帝王切開のお母さんは全員が帝王切開という部長の方針下で10%代でしたが、
今では自分で方針で決められるので、さらに帝王切開率は下がり、
5〜7%程度になっています。

このように帝王切開率が低いのは、リスクの高いお産では、付きっきりでお産するからなのです。
ただしリスクが低いお産の時は、生まれる時にしか顔を出さないことも有りますよ。

ではリスクが高いか低いかはどうやって見分けるか、をお話しましょう。
胎児心音というのは普通は1分間に120回以上打つのですが、
へその緒が巻いていて引っ張れると、60回くらいまで落ちることが有るのです。
たいていはお腹が張った時に、胎児が降りてくるので、へその緒が引っ張れて、
胎児がしんどいと言う信号を送るのです。

60の法則と言って、心拍数が60以上落ちるか、
60以下まで落ちるか、60秒以上続くと、高度一過性徐脈という言い方をします。
これを見ると、ヒヤヒヤものなのですね。

ですが、へその緒が巻いていることによるので、
お母さんが右に向いたり左に向いたり、
寝ていたら座ったり、その逆をしたりといった体位の変換で改善することも有ります。
子宮の口が6センチも開いていれば、手助けすることによって、
すぐに10センチまで開いてあげることも可能です。
分娩の時間を短縮してあげることで、しんどい時間を短くすることができるのですね。

注意点としては、へその緒が首に巻いていると引っ張れて、
たまに逆回転をすることが有るので常に頭に置いておくことです。
お母さんのお尻側を向いて生まれてくるはずが、
お母さんのお腹側を向いて生まれようとすることが有るのです。
この場合は分娩の進行が停止してしまいやすいのです。
すると吸引分娩か帝王切開で産むことになるのですね。
経産婦さんであればなんとかそれでも生まれることも有りますよ。

先進国では3人に1人が帝王切開で産んでいます。
へその緒が首に巻いている確率も4人に1人と言われます。
ですが足に巻いていたり、巻いていなくても引っ張れていたりすることも有るので、
結局は3人に1人くらいがしんどいお産になるのですね。
しんどい場合は、世間では無理をせずに帝王切開されているのです。
タマル産ではそんなお母さんでも、なるべく産ませてあげようと頑張っているのですよ。

先日、へその緒が巻いていて心音が下がる初産婦さんにそのリスクを説明したのですが、
タマル産ではそれでも帝王切開は少ないのでしょう?と返されました。
いえいえそういうことではなくて、
リスクを下げるのはタマル産に来たら自然に下がるのではなくて、
それなりの努力をしないといけないのですよ、と理解して欲しかったのですけれどね。

というわけで、今日もしんどいお産でしたが、
無事に生まれてほっとしているのですよ。