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『ロード・オブ・ウォー』(アンドリュー・ニコル監督)

2005年12月18日 04時17分33秒 | 映画雑感

 これは極めて分かりやすいラブ・ストーリーである。一般のラブ・ストーリーと違うのは、その愛の対象が「武器」だということだけだ。

 アンドリュー・ニコルは一貫して「男のフェティシズム」を描き続ける。
 初監督作品にして最高傑作『ガタカ』は宇宙飛行士に恋をした男の話だったし、『シモーヌ』ではCGの女性に恋をした男の話だった。彼は普通恋愛対象にはならないはずのモノに恋愛をする男たちの、悲しくもひたむきな努力を描き出すのである。

以下ネタバレあり!

 

 

 この映画でニコラス・ケイジ扮する武器商人が武器に恋愛をしている。そのことを示すかのような、銃弾の主観ショットで幕を開ける。銃弾が世界を見ているような擬人法的なショットが積み重ねられて武器に人格を認めるよう、われわれは誘導される。この冒頭のショット群を目にしたわれわれは、自分たちの住む世界とは違うフェティシズムの世界に引き込まれていく。そしてその弾丸は見事に少年兵の額に打ち込まれる。

 恋愛がドラマとして成立するためには、その恋愛を邪魔する力が働かなければならない。『ガタカ』ではそれが遺伝子だし、『シモーヌ』ではシモーヌを愛することでしか立場を保てなくなった映画監督のシモーヌへの依存度合いであった。

 武器を恋愛対象にした男の恋愛を邪魔するのは、家族である。浮気を妻に隠すように、彼は自分の商売を妻に隠す。浮気などないことになっている家庭では、隠蔽はうまくいっているが、妻が疑いを持ち始めるとあっという間にばれてしまう。

 この映画は、浮気がばれて家庭が崩壊し、浮気の相手のところにいってしまう男の典型的な物語を忠実に再現するのである。

 

 この映画が、武器商人の重く暗い、ことさら平和ボケの傾向著しいわれわれ日本人には極めて重いテーマを扱いながら、決して暗くならないのは、アンドリュー・ニコル監督の正しい演出があるからだ。彼は憎むべき対象として武器を描くのではなく、ほとんど狂気に絡み取られた恋愛をする武器商人を描き出す。そこに愛があるかぎり、たとえそれがありとあらゆる嘘偽りに彩られた平和を乱す狂気の世界であっても、どこかにほのぼのとした憎めなさがにじみ出てきてしまうのだ。

 しかしわたしたちが断固として闘わなければならないのは、こうしたわたしたちの心情なのである。

 


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2 コメント

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武器に恋する男の話 (bakabros)
2005-12-18 05:10:28
こちらの記事を読んで、なぜユーリという人物が憎めない存在なのかが少しわかりました。ニコラス・ケイジが演じた事でよりこの役に魅力が増したような気がします。

「ガタカ」は素晴らしい作品ですね!

また寄らせて頂きたいと思います。
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はじめまして。 (たいむ)
2005-12-18 13:15:24
武器=恋愛、とは上手く表現されましたね。

武器を売るという天性の才能=生きがい、とも取れますね。

感想は難しく、単に「平和ボケ日本」と結論つけるのもどうかと、どーんと重苦しい気持ちが残っています。



気の利いた会話や、音楽で重苦しくならないようにしてあったのが救いでした。
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