MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『あ・うん』

2015-08-21 00:20:34 | goo映画レビュー

原題:『あ・うん』
監督:降旗康男
脚本:中村努
撮影:木村大作
出演:高倉健/富司純子/板東英二/富田靖子/山口美江/真木蔵人/宮本信子
1989年/日本

三角関係を「美談」にする上の弊害について

 ストーリーは主人公の鋳物工場経営者の門倉修造と彼の親友で製薬会社に勤める水田仙吉と彼の妻の水田たみの絶妙な三角関係が描かれているのであるが、個人的には修造の妻である門倉君子の心情が気になってしまう。決して君子は修造に無関心ではなく、探偵を雇ってまでも修造がまり奴を「囲っている」ことを突き止める気概を持ち、水田夫妻が3年ごとに東京に転勤してくるたびに夫の言動が浮ついてくることまで分かっているのだから、修造とたみの関係を疑っていてもおかしくはないのであるが、何故か肝心な点が描かれておらず、君子の想いが最後まで描かれることがないのは三角関係の「美談」に都合が悪いために脚本家が無視したようにしか見えないのである。

 しかしそれよりも気になることは『海峡』(森谷司郎監督 1982年)に引き続き「赤いマフラー」の件である。召集令状を受け取った石川義彦が水田家を訪れ、水田さと子に別れを告げて立ち去った後に、修造はさと子の首に赤いマフラーをしっかり巻いて追いかけるように言う(写真左)。ところがさと子が家を飛び出して義彦の後を追っている時に、早々に首にしっかりまかれたはずのマフラーがほどけてしまうのである(写真右)。「絆」という暗示として正しくないように思うが、あるいはこれはいわゆる「『赤』の誘惑」()なのだろうか?


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『肉弾』

2015-08-20 00:03:18 | goo映画レビュー

原題:『肉弾』
監督:岡本喜八
脚本:岡本喜八
撮影:村井博
出演:寺田農/大谷直子/田中邦衛/笠智衆/北林谷栄/春川ますみ/仲代達矢
1968年/日本

構図の美しさだけで観ていられる作品について

 大学生だった主人公の若い兵隊が特攻隊員に選ばれ魚雷を備えたドラム缶に乗って海に漕ぎだし、偶然出会った汚わい船の船長から10日前に戦争が終わったと東京湾で聞かされるまでの物語を丁寧に理解しようと試みることは極めて困難なほどに前衛的な作品ではあるが、その構図の美しさだけでも観ていられるのだから岡本喜八監督はやはり一流なのである。
 例えば、ラストにおいて終戦を知った主人公が陸地まで引っ張ってもらおうと船長に頼み、汚わい船とドラム缶を縄でつないで引っ張っていく途中で縄が切れてしまうのであるが、船長は気がつかないまま行ってしまう。突然、昭和二十年から昭和四十三年の盛夏に場面は移り、多くの人々が海岸を訪れて遊んでいる。そこでは水上スキーを楽しんでいる若者たちがいるのであるが、モーターボートに持ち手の付いたロープを持って遊ぶ水上スキーと同じ「フォーム」を23年前の汚わい船とドラム缶のイメージにつなげる皮肉は指摘しておきたい。
 しかし最も驚くべきことは当時18歳の高校生だった大谷直子が、このような訳の分からない映画でデビューし、なおかつとりたてて「必然性」もないのにフルヌードになっていることである。『赤い鳥逃げた?』(藤田敏八監督 1973年)の桃井かおりもそうだが、やはり大物は最初から違うのである。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『彼女が水着にきがえたら』

2015-08-19 00:05:22 | goo映画レビュー

原題:『彼女が水着にきがえたら』
監督:馬場康夫
脚本:一色伸幸
撮影:長谷川元吉
出演:原田知世/織田裕二/伊藤かずえ/田中美佐子/谷啓/伊武雅刀
1989年/日本

嫌煙という「新興宗教」の脅威について

 ストーリーそのものは大したことはないが、おそらく当時の最新のクルーザーや水上オートバイ、水中スクーター、ホーバークラフト、あるいはダイビング器材のプロモーション映画として、またはサザンオールスターズのPVとして観るならば悪い出来ではない。角川映画の衣鉢を継いだのはフジテレビだったことは分かる。
 本作は当時のバブル感を醸し出しているだけではない。織田裕二が演じる吉岡文男がタバコを吸おうとする時に、原田知世が演じる主人公の田中真理子が断固として拒否するのであるが、そのような真理子のタバコに対する異常な嫌煙振りを見て文男は「新興宗教か!」とツッコミを入れる。おそらく当時のタバコに対する感覚が正確に反映されているセリフだと思われる。20年経ってその「新興宗教」が日本のみならず世界的にはびこることになるとは当時の織田裕二は想像すらしていなかったであろう。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『泣いてたまるか ああ無名戦士!』

2015-08-18 00:20:08 | goo映画レビュー

原題:『泣いてたまるか ああ無名戦士!』
監督:高橋繁男
脚本:早坂暁
撮影:森隆吉
出演:渥美清/津坂匡章/桜井啓子/田中邦衛/戸浦六宏/名古屋章/加藤武/若宮忠三郎/橋本功
1967年/日本

 祭られない「戦死者」について

 例えば、兵士として亡くなった者ならば戦没者の墓に祭られるであろうし、傷痍軍人はそれなりの恩給がもらえるであろうが、主人公の国崎五一は子供の頃に空襲で右足を負傷しても恩給がもらえる当てがなく、電車内でアコーディオンを弾きながら立花義幸の名を騙り傷痍軍人を装い「海行かば」のような軍歌を歌い施しを得ていた。
 ある日、電車内で若い女性のひろみに痴漢行為をしたことで五一はそばにいた浪人中の平和(ひらかず)に取り押さえられ警察に引き渡される。なんとか許してもらった五一は何故か警察署の前で待っていた平和とひろみと行動を共にすることになる。
 平和とひろみは五一の貯金通帳を勝手に持ち出して85万円の大金を引き出し、早速高級車を購入すると平和が通っていた予備校の構内を乗り回してしたのであるが、校舎に激突して平和は死んでしまい、ひろみは流産してしまうのである。
 昭和42年11月、ラストにおいて五一とひろみは「無名戦士の墓」の前で亡くなった平和と流産した子供を弔う。祭られる軍人たちの陰に隠れて日の目さえ見ない、民間人の戦災の負傷者や「受験戦争」や「交通戦争(最後に廃車が曳かれていくシーンがわざわざ挿入されている)」の犠牲者、さらにはこの世に生れ出ることもできないまま亡くなる子供に焦点を当てる早坂暁の脚本が冴える。


(東京都戦没者霊苑?)

 『泣いてたまるか ああ軍歌』(今井正監督 1967年)において反体制と「弱者」の矜恃がストレートに描かれる山田太一の脚本と比較しながら観るのも良いと思うのだが、一つ不思議に感じたことは、タイトルバックを見ても分かるように本作が「特集三部作の一」として制作されており、『ああ軍歌』は「特集三部作の3」として制作されている。本作の放映日は1967年11月26日であり、『ああ軍歌』は12月10日に放送されている。そうなると「特集三部作の2」はどうなったのかと思って調べたら、「特集三部作の2」は12月3日に放映された中村賀津雄主演の『泣いてたまるか あゝお父さん』(降旗康男監督)らしい。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』

2015-08-17 00:50:51 | goo映画レビュー

原題:『Mission: Impossible - Rogue Nation』
監督:クリストファー・マッカリー
脚本:クリストファー・マッカリー
撮影:ロバート・エルスウィット
出演:トム・クルーズ/ジェレミー・レナー/サイモン・ペグ/レベッカ・ファーガソン
2015年/アメリカ

 ストーリーをまとめる「クスリ」の信頼性について

 前作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(ブラッド・バード監督 2011年)は後味の悪いストーリーが残念な結果になったが、その点に関するならば本作は問題はないように思う。さらに『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(ジョス・ウェドン監督 2015年)同様に「テロリスム」を生み出すのは自分たち自身だという自覚が感じられる。
 興味深い点を挙げるならば、主人公のイーサン・ハントの行方を訊かれたベンジー・ダンが嘘発見器を騙すことができても、ハントがウィリアム・ブラントとアラン・ハンリーと共にイギリスの首相と対面したシーンにおいて自白剤の入った銃弾により撃たれた者が次々と真実を吐いてしまうところは機械の限界とクスリの威力の差を見せつけられ、作品冒頭においてハントがテロリストから神経ガスを奪う必死さに説得力を持たせ、さらにハントがロンドンでソロモン・レーンに捕えられた同じ方法で、ラストでハントたちがレーンを密室におびき寄せトランキライザーの白いガスで捕えるという方法が取られ、「クスリ」でストーリーを上手くまとめているように思う。
 『HERO』(鈴木雅之監督 2015年)において主人公の久利生公平が松葉圭介に対して「ちゃんと会って、しっかり目見て話したいんです」というセリフがあったが、本作でもハントがレーンに対して「面と向かって(face to face)話したい」というセリフがあり、世界的大スターが演じるキャラクターはセリフも似たようになるのだと得心した次第である。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』

2015-08-16 00:44:48 | goo映画レビュー

原題:『Avengers: Age of Ultron』
監督:ジョス・ウェドン
脚本:ジョス・ウェドン
撮影:ベン・デイヴィス
出演:ロバート・ダウニー・Jr/クリス・エヴァンス/マーク・ラファロ/スカーレット・ヨハンソン
2015年/アメリカ

着実に忍び寄る「愛」の問題について

 トニー・スタークが世界の平和のために立案した「ウルトロン計画」がやがてアベンジャーズがてこずる程の世界の脅威と化す様はいつものアメリカ自体の過ちを皮肉っているのであるが、個人的に気になるところはソーしか持ち上げられなかったムジョルニアと呼ばれる魔法のハンマーを持ち上げることができるヴィジョンが登場するなど、アベンジャーズを凌駕するような新人たちの驚異の能力が目立つ一方で、クリント・バートンに妻や子供がいたり、ブルース・バナーとナターシャ・ロマノフが恋仲になるような、戦闘意欲を失わせる「愛」の問題も生じ出し、今後のアベンジャーズの困難さが予想される展開となっている。
 しかし本シリーズがこのまま続くようだといずれ「マツコ・デラックス」という新キャラが登場する可能性が無くもないような気がしてきた。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ターミネーター:新機動/ジェニシス』

2015-08-15 00:55:13 | goo映画レビュー

原題:『Terminator Genisys
監督:アラン・テイラー
脚本:レータ・カログリディス/パトリック・ルシエ
撮影:クレイマー・モーゲンソー
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー/ジェイソン・クラーク/エミリア・クラーク
2015年/アメリカ

「ターミネーター」の本当の恐ろしさについて

 本作の評価も決して高いものではない。今まで抵抗軍のリーダーだったジョン・コナーがスカイネットに襲撃されて新型ターミネーターT-3000へ改造された辺りからストーリーがややこしくなり、ラストにおいてそのジョン・コナーと「おじさん(Pops)」ことT-800ターミネーターが「ミメチック・ポリアロイ(Mimetic polyalloy)」と呼ばれる液状金属の実験槽の中で死闘を演じ、高熱の液状金属の中で溶けたはずの「おじさん」がすぐにヴァージョンアップして現れた時には、思わず笑ってしまったが、あくまでも本作は3部作の最初であり、いくらおかしくても判断は留保しておかなければならないであろう。
 しかし個人的な一番の問題は、もはや基軸を失った次回作を観て理解できるかどうか自信を失ってしまったことにある。今回はっきり分かったことはジェイソン・クラークとエミリア・クラークは名字は同じでもオーストラリア人とイギリス人で親戚でもなんでもなかったということと、エミリア・クラークは今年29歳で意外と大人だったということくらいである。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』

2015-08-14 00:17:36 | goo映画レビュー

原題:『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』
監督:樋口真嗣
脚本:渡部雄介/町山智浩
撮影:江原祥二
出演:三浦春馬/水原希子/長谷川博己/本郷奏多/三浦貴大/桜庭ななみ/武田梨奈/石原さとみ
2015年/日本

誰も撮らなくなった気味が悪い映像の重要性について

 前篇を観ただけで早々に酷評されていることが気の毒になってしまうが、個人的にはこれほど気持ちの悪いグロテスクな映像の新作を観ることができたことだけで満足している。昔は石井輝男監督などがこのような作品を撮っており、それはもちろん『鋼鉄の巨人(スーパージャイアンツ)』(1957年)ではなく、例えば、『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969年)のようなものである。このようなものを観慣れているためなのか、CGのクオリティーなども全く気にならない。

 さらに本作の脚本を担っているのは辛口の映画評論家として有名な町山智浩であり、誰も予想がつかない後篇の大どんでん返しは保証されているようなものだという「フリ」を書き留めておいて後篇の怒涛の展開に期待しておこう。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『リアル鬼ごっこ』

2015-08-13 00:43:32 | goo映画レビュー

原題:『リアル鬼ごっこ』
監督:園子温
脚本:園子温
撮影:伊藤麻樹
出演:トリンドル玲奈/篠田麻里子/真野恵里菜/高橋メアリージュン/磯山さやか/斎藤工
2015年/日本

最も怖いホラー映画について

 果たして主演のトリンドル玲奈をアイドルと見なしていいものかどうか微妙なところではあるが、本作をホラーとアイドルを組み合わせた「アイドル映画」の典型と見なすならば、大抵主演の顔の表情にフォーカスが当てられてしまいがちなアイドルのホラー作品とは一線を画し、冒頭の公道からラストの雪原までトリンドル玲奈を走らせるという思い切った演出に唸らされる。「シュールに負けるな」というセリフは当然私たち観客に向けられたものであろう。
 「私立女子高等学校」に通うミツコは、結婚式直前にウェディングドレスを身にまとうことになるケイコに変身し、すぐにマラソン大会でゴール寸前のいづみに変わるのであるが、それは全て「男の世界」からコントロールされていた結果なのである。「学業」も「結婚」も「スポーツ」も実は男の主導により女性たちは「させられている」のであり、男の支配から逃れたければ自殺すればいいという監督のメッセージを素直に受け入れることは出来ないが、今まで観てきた映画の中で自殺を推奨するという点において最も恐ろしいホラー映画ではある。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『脳漿炸裂ガール』

2015-08-12 00:46:01 | goo映画レビュー

原題:『脳漿炸裂ガール』
監督:アベユーイチ
脚本:吉田恵里香
撮影:神田創
出演:柏木ひなた/竹富聖花/上白石萌歌/岡崎紗絵/志田友美/荒井敦史/菅谷哲也/浅香航大
2015年/日本

ラストが安易に処理されてしまっているサバイバルゲームについて

 主人公の市位ハナと稲沢はなは聖アルテミス女学院の他のクラスメイトたちと共に「黄金卵の就職活動」というサバイバルゲームに参加させられることになる。その中から勝ち残った1人だけを「真の卵」として見いだそうとする教師の久保賀大治と教育実習生の古寺正義と田篠珠雲が使用する銃は生徒を意気阻喪させるものである。
 ここまでの設定もゲームの内容も悪くはない。最後に市位ハナが残るのも想像通りではあるが、この手の作品としては「お約束」に則ったものであろう。「意外とやる気のある生徒はおらず、寧ろ言いなりのまま従う傾向がある」というゲームの結果を教師たちが上司に皮肉を込めて報告するところまでは悪くはなかったのであるが、「真の卵」であるはずの市位ハナを放っておいてしまい、結果的に、戦意喪失してしまっている稲沢はなを抱えて銃を持って現れた市位ハナに安易に反旗を翻させ、上司が簡単に撃たれてしまうというラストのオチの甘さが勿体ないと思う。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする