MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『幕が上がる』

2015-03-24 00:41:23 | goo映画レビュー

原題:『幕が上がる』
監督:本広克行
脚本:喜安浩平
撮影:佐光朗
出演:百田夏菜子/玉井詩織/高城れに/有安杏果/佐々木彩夏/黒木華/ムロツヨシ
2015年/日本

 ストーリーの軸を歪めるほどの脇役の存在感について

 県立富士ヶ丘高校の演劇部は3年生が抜けて、高橋さおりが部長として活動することになる。脚本をどうすればいいのか分からなかった高橋はとりあえずチェーホフではなくベケットでもなくシェークスピアの『ロミオとジュリエット』のエッセンスをまとめたようなものを書くのだが、生徒たちには見向きもされなかった。
 そのような時に新任で元学生演劇の女王だったという吉岡美佐子と出会い、高橋たちは顧問になってくれるように頼み込む。吉岡の提案で高橋たちは『肖像画』という自分たちの経験を元にしたオリジナルを披露して好感触を得ると、高橋は転校してきた中西悦子と共に演劇の現場を手伝った経験などから宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を演目に選び、全国高等学校演劇大会の地区予選に挑むのである。
 監督がどのような意図で演出したのか定かではないが、当初は「ももいろクローバーZ」の5人のメンバー間においての友情や葛藤を描くつもりだったのではないだろうか。ところがまるで田中裕子ばりのベテラン感を醸し出す黒木華の存在によって、ストーリーの軸は黒木が演じる吉田と百田夏菜子が演じる高橋の、演技を巡る「静かなる戦い」へと移ってしまったように見える。
 つまり本作においては肝心の『銀河鉄道の夜』は『肖像画』のように丁寧に描かれておらず、オリジナルと高橋の演出の違いが明確にならないと同時に、メンバー間の葛藤が薄まる分、吉田と高橋の2人の存在が目立つようになり、本作は良質の作品のはずだが物足りなさを感じてしまう。もちろん谷川俊太郎の詩「二十億光年の孤独」で言われているように、絶えず膨らんでいる宇宙の中でたどり着ける「ゴール」など存在しないも同然で、実際に富士ヶ丘高校は優勝できなかったのだから本作も、いわゆる「アイドル映画」というレベルは超えてはいるのだが、この「夢の途中」の物語は思わぬライバルに翻弄されているように見えるのである。


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『くちびるに歌を』 | トップ | 『さいはてにて やさしい香... »
最新の画像もっと見る

goo映画レビュー」カテゴリの最新記事