アントキノイノチ
2011年/日本
微妙な齟齬と‘受け取り間違い’
総合 70点
ストーリー 0点
キャスト 0点
演出 0点
ビジュアル 0点
音楽 0点
日本の有名なプロレスラーの名前を語源とするタイトルは、本作が‘受け取り間違い’をテーマとする物語であることを暗示しており、確かに主人公の永島杏平には軽い吃音があり、彼が勤める遺品整理業社の先輩社員の名前は佐藤ではなくて佐相であると注意を促されるし、仕事においても‘不’要品と‘供’養品を注意深く仕分ける必要にせまられる。
永島杏平が精神を病むきっかけとなった出来事は、高校時代に親友の山木信夫がネット上でのトラブルが原因で同級生の松井新太郎と喧嘩になった際に、無駄な喧嘩を止めさせるつもりで言った言葉が、松井を庇っていると誤解されてしまい、山木を飛び降り自殺に追い詰めてしまったことと、それ以来松井に良い感情を抱いていなかった杏平が登山合宿で松井と2人きりで危険な山路を歩いていた際に、前方を歩いていた松井に殺意を覚えた杏平が、一瞬松井に手を出したにも関わらず、結局足を踏み外した松井を助け、それが自分の本意とは反対に感動的な救出劇のように写真に撮られてしまったことにある。
同じことは久保田ゆきも経験しており、高校時代にレイプされたにも関わらず、相手や母親から自分に非があるように責められてから、心に重い傷を抱えてしまうことになる。
この微妙な齟齬によって引き起こされる大きな‘受け取り間違い’をいかにして解消すれば良いのかが本作のテーマとなる。遺品整理業を経験する中で杏平は、ある時は、癌で亡くなった女性が、幼い頃に捨ててしまった娘に宛てて書いた何通もの手紙を、拒絶されることを覚悟で成人して子供もいる娘に届けに行き、またある時は、アルツハイマー病で迷惑をかけたくないために勝手に病院に入った妻の声が録音されていた電話を探し出して彼女の夫に聞かせ、‘受け取り間違い’を修正することに全力を尽くすことになる。
‘文字’や‘音’で‘受け取り間違い’を正した杏平であったが、やがて‘写真’でもって自分自身も‘受け取り間違い’を犯していたことに気づくのである。
ここまでの脚本の組み立て方は見事だと思うが、ラストシーンがベタ過ぎて一気に興ざめしてしまった。
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