MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『羊飼いと風船』

2021-03-05 00:59:02 | goo映画レビュー

原題:『气球』 英題:『Balloon』
監督:ペマ・ツェテン
脚本:ペマ・ツェテン
撮影:リュ・ソンイェ
出演:ソナム・ワンモ/ジンパ/ヤンシクツォ
2019年/中国

人生を左右する「ゴム」について

 作品冒頭のシーンが随分と「濁っている」ような映像だと思いながら観ていたら、何とそれは膨らませたコンドーム越しから子供たちが見つめていた光景だった。2人の兄弟は風船の代わりに両親の部屋に隠してあったコンドームを膨らませて遊んでおり、結果的にそれが母親の妊娠に繋がってしまい、当時「一人っ子政策」を施していた中国においてタルギュとドルカルの夫婦はもう子供を持つことができないのだが、同じ頃に祖父を亡くしていたタルギュにとって生まれてくる子供は自分の父親の生まれ変わりだと信じている。ここに中国とチベットの文化の衝突がある。因みにドルカルの妹のシャンチュは(失恋で?)尼僧になっているのだが、元カレ(?)の教師から贈られた私小説(?)はドルカルに燃やされてしまう。
 しかし「衝突」ならば国レベルでなくても、男性と女性、あるいは大人と子供の衝突はしょっちゅうあり、2人が会話しているシーンにおいてわざわざ窓枠などを画面の中央に挟んで撮っているところは「断絶」の暗示なのであろう。
 以前から子供たちに欲しいと言われていた赤い風船を街で買って来たタルギュは2人に与えたのだが、弟はすぐに割ってしまい、兄の持っていた風船を巡って2人が争っているうちに兄は手を放してしまい風船は空に舞って行ってしまう。いつの間にかチベットの草原地帯で羊飼いとして暮らしながら彼らの人生は「ゴム」という特異な素材に翻弄されてしまっているのである。


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