第７章 楽観しつつ... ４．

４．
　フォーラムの講演は、図解と要点を箇条書きにしたパワーポイントによる見やすくわかりやすい内容で、しかも、全国各地での講演を専門にしているのではないかと思われるほどの、よどみなさと話し馴れた雰囲気だった。フォーラム全体も実に淡々と手際よく運営されていて、協賛の医薬品会社が作った乳がん患者のためのパンフレットまでが３冊セットで配られ、無料にしてはあまりによくできすぎているように思えた。
　さらに、「ホルモン療法が自分にとって本当に必要なのだろうか？」という疑問符を抱えていた私に聞かせるためにあったような内容で、偶然の一致とはいえ何か釈然としないものが残った。なんとなれば、「補助治療が大切だ」と言いつつも、放射線治療にはほとんど触れず、ホルモン療法にばかり力点を置いていることに納得がいかなかったのだ。ホルモン治療には医薬品会社が作る薬品が使われるから…？？？　そんな考えがふとよぎった。
　質問を会場からその場で受けつけないことにも疑問が湧いた。申し込み時に受けた主な質問への回答を予め用意してあると言って、すでに活字になったQ&Aがスクリーンに映し出されたのだ。事前に自分たちの都合のよいように作られたQ&Aと思えなくもなかった。

　コンサルタント会社と医薬品会社がタイアップし、わざわざ無料で聴衆を集め、「補助治療を、ホルモン療法をしっかりやりなさい」と啓蒙する目的は、一体何だろうか？　何か裏があるのでは？　そんなうがった見方をしてしまう私がいた。
　なぜなら、ほんの１週間前の朝日新聞で、「どう養う『私の治療』選ぶ目」と題した記事を読んだばかりだったからだ。「乳がんの薬物療法は、ここ数年大規模臨床試験の結果を受けてめまぐるしい進歩を遂げている。その一方で、同じ情報を手にしても、それをどう考え実際にどんな治療法を選ぶかは、患者と医師、あるいは専門医同士でも判断が分かれることが少なくない。よりよい治療を選ぶには、患者の側にも情報を受け止める素地が欠かせなくなってきている」という内容で、副作用と再発予防の間で揺れるある主婦の実例が挙げられていた。主治医が「再発リスクは低いし、副作用があるのだから、ホルモン療法は必要ない」と判断しているにもかかわらず、子どもの年齢を考えて再発予防を優先し、彼女はホルモン療法を受けていたのだ。彼女の揺れる気持ちに、私は大いに共感したものだ。故絵門ゆう子さんの主治医だったS病院のN医師の言葉にも、大いにうなずけた。「ホルモン療法は効果が実感しにくい割に副作用があり、お金もかかる。科学的根拠だけに基づいて、機械的に当てはめる治療法決定には、限界があるかもしれない」
　さらに、何年か前アメリカでホルモン療法の副作用が大々的に報じられ、患者が次々ホルモン療法を拒否して問題になった時期があったことを、私は新聞記事で知ってもいた。良きにつけ悪しきにつけ何でもアメリカに追随するのが日本人の傾向だ。しかも何年か遅れて…。第一、無料のフォーラムだ、ただより怖いものはない…。

　そんなこんなで、多少うさんくささを感じないでもないフォーラムだったが、それでもやはり、ホルモン治療にもっと前向きに取り組んでみようという気に私はなっていた。懐疑的な気持ちで治療を続けても効果は上がらないだろう、少なくともそう思えた。