一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『イニシエーション・ラブ』……前田敦子と木村文乃が魅せる恋愛の通過儀礼……

2015年05月31日 | 映画
※お願い
ネタバレは極力しないつもりですが、
『イニシエーション・ラブ』という作品の性格上、
レビューを書く上で、
やむを得ずネタバレになってしまう部分があるかもしれません。
或は、ネタバレのヒントを読者に与えてしまうかもしれません。
これから映画『イニシエーション・ラブ』を見ようと思っていらっしゃる方は、
映画鑑賞後にお読み下さるよう、お願い致します。




原作本である乾くるみの『イニシエーション・ラブ』は、
2004年4月1日に原書房より刊行され、
ミステリー小説ファンの間では、すごく話題になった作品である。
普通に読めば青春小説・恋愛小説として読めるのに、
最後の2行で、大どんでん返し。
ミステリー小説と化すのだ。
叙述トリックを用いた傑作で、
「読み終わった後は必ずもう一度読み返したくなる」
と絶賛された。
ただ、叙述トリックの性格上、曖昧にぼかした表現も多く、
いろんな読み方ができる小説だったので、
当時、私も、ミステリー仲間と大いに議論を闘わせたものである。

あれから10年後、
2014年3月3日に放送された日本テレビ系バラエティー『しゃべくり007』で、
くりぃむしちゅーの有田哲平が、
「最高傑作のミステリー」
とコメントしたことにより、
小説『イニシエーション・ラブ』の人気が再燃。


私的には、
「何を今さら……」
と思ったし、
傑作ではあっても、
「最高傑作は言い過ぎ」
とひとりごちたのであったが、
放送後の1か月で21万部を増刷。
2015年4月現在、累計発行部数150万部を超えるミリオンセラーとなっている。

その『イニシエーション・ラブ』が映画化されるという話を初めて聞いたとき、
「ウソだろ~」
と叫んだものだった。
なぜなら、映像化は不可能だと思ったからである。
先程も述べたように、
『イニシエーション・ラブ』は叙述トリックを用いた小説である。
叙述トリックとは、
文章上の仕掛けによって読者のミスリードを誘う手法で、
登場人物の性別や国籍、
事件の発生した時間や場所などを示す記述を意図的に伏せることで、
読者の先入観を利用し、
誤った解釈を与えることで、
読後の衝撃をもたらすテクニックのことである。
『イニシエーション・ラブ』もまた、
読者の先入観を巧みに利用した小説で、
読者の誤った解釈、誤った想像に導いて衝撃を与える作品なので、
映像化は無理だと思ったのだ。

パンフレットには、
「原作とは異なる衝撃のエンディング。最後の5分、これまでのラブストーリーの常識を覆す、日本映画史上に残るラストシーンをお楽しみに」
とあった。
見ないわけにはいかないではないか……(笑)
ということで、映画館に足を運んだのだった。

【Side-A】
1980年代後半、
バブル最盛期の静岡。
就職活動中の大学生・鈴木は、
友人に誘われ気乗りしないまま、合コンに参加。
しかし、その席で、歯科助手のマユ(前田敦子)と運命的な出会いを果たす。


奥手で恋愛経験がなかった鈴木だが、
マユと出会って変わっていく。
流行りのヘアスタイル、オシャレな洋服、
マユに釣り合う男性になろうと、
自分を磨く鈴木だったが……


【Side-B】
二人だけの甘い時間も束の間、
就職した鈴木(松田翔太)は東京本社勤務となり、
静岡にマユ(前田敦子)を置いて上京することに。


それでも距離は二人の愛にとって障害にならないと、
週末ごとに東京と静岡を行き来する鈴木。


しかし、東京本社の同僚・美弥子(木村文乃)との出会いを経て、
心が揺れ始める……



と、ストーリーを簡単に紹介したが、
映画で【Side-A】が始まると、
思わず「え~」と心で叫んでしまった。
(このあたりから、ちょっとネタバレ)
【Side-A】は、マユ役の前田敦子以外、ほとんど無名の俳優ばかり。
なんだか自主制作の映画を見ている気分。
だからなのか、【Side-A】はあまり面白くない。
それをあらかじめ予想していたのか、
小説と違って、コメディ風な演出にしてあるのだが、
なんだか笑えない。
そして、【Side-A】から【Side-B】につなげるときに、
ある方法(手段)を用いているのだが、
これがやや強引すぎて、原作を読んでいる者には、
「なるほど、そんな手を使うのね」
と、たぶん苦笑い。(あるいは失笑)

このアイデアは、
原作者である乾くるみ(あっ、ちなみに男性作家なんだよね)が考え、提案したとか。
あるインタビューで次のように語っている。

映画の制作発表の時に出したコメントは「映像化は無理でしょう」という突き放したものだったんですが、そう言っておいて、試写会を観てから「いや参りました」と前言撤回する流れを作りたかったんですよ。プロレス的なノリで(笑)。実際は、映画化の話が来た時に、映像化するならそれ用のアイデアがあるので、それを使って欲しいと申し上げていて、そのアイデアをもとにした脚本も読ませていただき、いいものになるという確信はありました。

この小説は10年前に発表したもので、その当時から、映像化は無理だろうと言われていて、でも僕には、こうしたら可能だという原案のようなものがあったんです。それはやったもの勝ちなので、早くやらないと誰かに先を超されてしまうかもしれないと心配していました。


しかしながら、
このアイデアは、必ずしも成功しているとは言い難い。
いや、アイデアそのものは悪くないのだが、
このアイデアを成功させるには、キャスティングが最重要課題であるのだが、
その部分をややおろそかにしているような気がしたのだ。
先程「たぶん苦笑い。(あるいは失笑)」と書いたのは、
それがあったからである。

【Side-A】の部分と、
【Side-A】から【Side-B】のつなぎの部分には苦言を呈したが、
【Side-B】に入ると、
それまでを挽回するように俄然良くなった。
松田翔太が登場し、
美しき木村文乃(私がこの映画を見にきた第一の目的)が出演する頃には、
トリックを知っているにもかかわらず、
映画の中にどっぷりと浸ることができた。
自主制作映画的な【Side-A】とは違って、
松田翔太、前田敦子、木村文乃の他にも、
三浦貴大、木梨憲武、手塚理美、片岡鶴太郎なども登場し、
華やかさが増して、楽しく見ることができた。


そして、ラスト。
「原作とは異なる衝撃のエンディング」
も、
「なるほど」
と思いながら、存分に楽しむことができた。
この部分は詳しくは書けないが、
最後に見せるマユ(前田敦子)の顔が、
コワイ。(笑)
いやはや、げに○○○とは恐ろしきものなり。(爆)


先程もちょっと書いたが、
この映画を見に行った第一の目的は、木村文乃。
彼女がスクリーンに現れただけで、
パッと華やかさが増し、
「美しい~」
と隣の若い女性が思わず呟いたほど、メッチャ綺麗であった。(コラコラ)
原作の美弥子も魅力的であったが、
映画の美弥子は、それ以上であった。


マユを演じた前田敦子は、
原作のマユとはちょっと違ったイメージであったが、
なかなか頑張っていたと思う。
とくに【Side-A】の方は、
前田敦子がいなかったら悲惨なことになっていただろう。
孤軍奮闘という言葉では表現しきれないほど、
【Side-A】の前田敦子は良かった。
そして、ラストのあの表情、
女優としてのこれからを期待させる演技力と美しさであった。


鈴木を演じた松田翔太。
原作の鈴木よりも数段イイ男で、
【Side-A】の鈴木とちょっとギャップがあり過ぎたように思った。
それでも、この作品のトリックを成功させるために、
かなり努力しているのが感じられ、
演技も素晴らしかった。
マユ(前田敦子)に暴力をふるうシーンでは、
隣りの若い女性が「コワ~イ」と呟いていたっけ。(笑)


小説『イニシエーション・ラブ』は、
各章のタイトルはそれぞれの内容を象徴する曲名が付けられていて、
映画でも、そのほとんどが劇中に使用されている。

Side-A
揺れるまなざし (小椋佳)
君は1000% (1986オメガトライブ)
Yes-No (オフコース)
Lucky Chanceをもう一度 (C-C-B)
愛のメモリー (松崎しげる)
君だけに (少年隊)

Side-B
木綿のハンカチーフ (太田裕美)
DANCE (浜田省吾)
夏をあきらめて (研ナオコ)
心の色 (中村雅俊)
ルビーの指環 (寺尾聰)
SHOW ME (森川由加里)


懐かしい曲ばかりなので、
中高年世代の人々にとっては、
音楽を聴いているだけでも楽しい映画である。
森川由加里が歌う『SHOW ME』は、
TBS系のテレビドラマ『男女7人秋物語』の主題歌として起用されて大ヒットしたが、


映画の最初と最後にこの曲が流れる。
『男女7人秋物語』に出演していた手塚理美と片岡鶴太郎が、
本作でも美弥子の両親役でキャスティングされていたのも嬉しいサプライズ。




原作を既読であるにもかかわらず、
なにかと楽しめたのは、
やはりこの作品に力があるからだろうと思われる。
原作が未読の方なら、もっと楽しめることと思う。
「映画は見に行くつもりはないから」と、
レビューを最後まで読んだあなた、(笑)
たまには、映画館へ、ぜひぜひ。


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