一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『オケ老人!』……コメディエンヌ・杏の才能が発揮された、映画初主演作……

2016年11月29日 | 映画


杏といえば、
やはり、TVドラマの女優というイメージがあり、
『妖怪人間ベム』(2011年10月~12月)ベラ役
『剣客商売』佐々木三冬役
●御老中暗殺(2012年8月24日)
●剣の誓約(2013年12月27日)
●鬼熊酒屋(2014年8月8日)
●陽炎の男(2015年9月11日)
『ごちそうさん』(2013年9月~2014年3月)主演・卯野め以子役
『花咲舞が黙ってない』(第1シリーズ)(2014年4月~6月)主演・花咲舞役
『花咲舞が黙ってない』(第2シリーズ)(2015年7月~9月)
『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(2015年1月~3月)主演・藪下依子役
などがすぐに思い出され、
主演作も少なからずある。

だが、映画となると、出演作はあまり多くはない。
『おかえり、はやぶさ』(2012年3月10日公開)野村奈緒子役
『映画 妖怪人間ベム』(2012年12月15日公開)ベラ役
『プラチナデータ』(2013年3月16日公開)白鳥里沙役
『真夏の方程式』(2013年6月29日公開)川畑成実役
『星ガ丘ワンダーランド』(2016年3月5日公開)大林津奈子役
くらいであろうか?
主演作もない。

そんな杏の映画初主演作が公開された。
『オケ老人!』である。
オーケストラを題材にしたクラシック音楽エンタテインメント映画は、
これまでにもたくさん制作されており、
ちょっと食傷気味ではあったし、
それほど食指は動かなかったが、
杏の記念すべき映画初主演作ということで、
「見ておかねば」と思った。
で、映画館へ駆けつけたのだった。


梅が岡高校に赴任してきた数学教師の小山千鶴(杏)は、
〈バイオリンをもう一度演奏したい!〉
という気持ちに駆られ、
早速地元でエリートと言われているアマチュア・オーケストラに連絡を取り、
「入団したい」
と伝えると、あっさりOKの返事。
翌日、心躍らせながら練習会場の公民館へ向かうが、なんだか様子がおかしい。
やってくるのは老人ばかり。


どうやら梅が岡には2つのアマチュア・オーケストラが存在し、
千鶴が入団したかったオケは「梅が岡フィルハーモニー」(梅フィル)というエリート楽団で、
問合せをした「梅が岡交響楽団」(梅響)は老人ばかりのオケだった。
年寄りばかりのアマオケ「梅響」のメンバーは、
コンマスの野々村(笹野高史)をはじめ、


クラリネットのクラさん(左とん平)、


チェロのトミー(小松政夫)、


オーボエのマーサ(藤田弓子)、


ティンパニの棟梁(石倉三郎)、


第二バイオリンのしま子(喜多道枝)、


フルートの真弓センセイ(茅島成美)、


トランペットのラバウル(森下能幸)。


音楽は大好きだけれど、演奏はどヘタくそ、
オケの練習よりもその後の“飲み会”が楽しみな彼らは、
若い千鶴の入団を無邪気に喜ぶ。
その姿を見て千鶴は自分の勘違いを言い出せないまま、
しぶしぶ梅響のメンバーに加わることに……


さらには、心臓の調子が良くない野々村の代わりに指揮棒を振るはめになってしまう。
そして実は、「梅響」と「梅フィル」には因縁の関係にあり、
もともと梅フィルは梅響を勝手に脱退して作り上げた楽団。
さらに梅フィルのコンマス・大沢(光石研)は、
町に出来た大きな家電量販店「OS電気」の社長で、
野々村が経営する今にもつぶれそうな電気店「野々村ラヂオ商会」を買収しようとしていたのだった。


老人集団「梅響」と音楽エリート集団「梅フィル」という二つのアマオケの対立は深まるばかりだが、
そんなとき、野々村が倒れてしまい、
千鶴は梅フィルに内緒で入団して、梅響のことはほったらかし状態。
いよいよ梅響の存続に危機が訪れる。
千鶴がほのかに恋心を寄せる同僚の坂下先生(坂口健太郎)や、


千鶴に何かとおせっかいを焼いてくる野々村の孫の和音(黒島結菜)をも巻き込んで、


千鶴とオケ老人!たちの梅響は怒涛の結末を迎える……




映画を見た感想は、
やはり、ありふれた題材だし、新鮮味もなかったので、
杏の映画初主演作でなかったら、レビューは書くか書かないか迷うところ。
杏の記念すべき映画初主演作ということで、
レビューを書き残しておきたいという気持ちが勝り、
こうしてブログ更新している次第。
とはいうものの、
この映画を見に来た人は、
中年、老年夫婦が多く、
あちこちで笑い声が聴こえ、
皆、楽しそうであった。
実は、私の配偶者も珍しくこの映画を見たいと言い、
一緒に鑑賞した後に感想を訊くと、
「面白かった~」
と言っていたので、
私のような“すれっからし”でなかったら、
大いに楽しめる作品ではないかと思った。


「梅が岡交響楽団」のメンバーの、笹野高史、左とん平、小松政夫、藤田弓子、石倉三郎、喜多道枝、茅島成美、森下能幸らが、大いに笑わせてくれるし、


肝心の演奏の方は、
当初は、老人ばかりで、音さえまともに出ない楽団だったので、
〈大丈夫か?〉
と思ったが、
ストーリーの進行とともに楽団員も増えて、


それにつれて、オーケストラの音に厚みが出てくるようになり、
最後は、感動の演奏会で幕を閉じる。
ベタな内容ではあるが、
期待通りになる心地良さと痛快さが味わえる作品になっている。


ベテラン俳優たちの演技合戦の面白さは格別であるが、
この映画の最大の魅力は、やはり、
バイオリン演奏と指揮にチャレンジした杏であろう。
老人ばかりの中で、ひときわ輝いていた。


2015年4月からクランクインまでの半年間、バイオリンを練習したそうで、
バイオリンと一緒に新幹線や飛行機で移動して、
出張先でも合間合間に練習していたとか。


音が出せなくても、運指だけでもやるようにして。バイオリンは接してみると、意外とカジュアルな楽器に感じました。『タイタニック』の酒場のシーンを思い出すというか、鼻歌を歌う感覚で身近な歌謡曲を弾いてみたくなるような。でも、クラシックのビブラートのような技巧的な部分はすぐにはできないものがある。身近さと果てしなさの両方を感じる楽器でした。

指揮の方はというと、
「指揮の練習はやりようがない」
と言われたので、
指揮棒の振り方や姿勢などの基礎だけは教えてもらった上で、
カット割りや映り方が決まってから、セッティングの合間に、次のシーンでの振り方を先生に教えてもらって、それをなぞる……という方法がとられたとか。

ディズニーの『ファンタジア』みたいに、音に合わせて波がザバーン! みたいな気持ちよさをイメージしていたら、実際に出ている音よりも逆算してちょっと早めに振らなければいけないという現実的な問題があって、難しかったです。

こうした苦労の甲斐あって、
杏の持ち前の美しい四肢が躍動し、見栄えの良いシーンが多かった。
抜群のスタイルでのバイオリンの演奏姿は美しく、
マニッシュな燕尾服での指揮姿も素晴らしかった。
コメディエンヌとしての才能が存分に発揮されているので、
杏のファンは必ず見ておくべき作品と言えるだろう。


本作『オケ老人!』は、
杏が産休に入る前の最後の撮影であり、
産休明けに人目に触れる最初の仕事になったとか。
そういう意味で、杏にとっても、忘れがたい作品になったのではないだろうか。


出勤前のブログ更新なので、
ちょっと急ぎ足になってしまったが、
杏の映画初主演作は、
今後もずっと活躍していくであろう女優・杏の、記念すべき作品であり、
映画ファン、そして杏のファンは、
必ず見ておかなければならない作品、見ておくべき作品であろう。
映画館で、ぜひぜひ。

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