昔に出会う旅

歴史好きの人生は、昔に出会う旅。
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旅の楽しみです。 妻の油絵もご覧下さい。

「神路通り」で知った伊勢地方の「しめ縄」の文化

2009年07月11日 | 近畿地方の旅
5月3日、外宮参拝を終えて別宮「月夜見宮」への道「神路通り」を進んで行きました。



まだ早朝6:30頃です。

「月夜見宮」への道は、単純な直進の道ですが、二又に別れ、親切にも案内標識がありました。



少し進むと左手の道路脇の木の下に目立たない「神路通り」の案内板があります。

写真に向かって左下に竹筒から水が出るように作られたものと、水の説明板があり、右上にその拡大写真を貼り付けています。

■「神路通り」の案内板を転記します。
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神路通
古くより外宮の裏参道と月夜見宮とを結ぶこの道は、「神の通う路」と言われています。
外宮の別宮である月夜見宮の神様(月夜見宮尊)が、外宮の神様(豊受大神)のもとへ通われる路です。
神様は夜、宮の石垣の一つを白馬にかえて、その馬に乗って行かれます。
夜、この道を通る人は、神様に出逢わないように畏れつつしんで、路の真ん中をさけ、端を通ったと伝えられています。
 「宮柱立てそめしより月よみの  神の行き交う巾の古道」
と古歌にも詠まれています。
  神宮司庁刊「伊勢信仰と民話」より
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■竹の筒から出る水の案内板です。
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このお水は 神路通の 神聖なお水です ごゆっくりどうぞ
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竹筒からは水が出ていませんでしたが、湧水が出るのでしょうか?

竹の柄杓が置かれており、参拝者をもてなす町の人々の温かい気持ちが感じられます。



「神路通り」に面した昔ながらの民家の玄関になぜか季節はずれとも思える「しめ飾り」と、「神路通り」の提灯が掛けてありました。



旅館組合の入口には「笑門」とだけ書かれたしめ縄があります。

他にも色々とタイプがあるのでしょうか?

調べてみると伊勢地方では「しめ縄」を年中するのは当たり前の風景のようです。



この民家にも同じように「しめ飾り」と、「神路通り」の提灯が掛けてあります。

しめ飾りには大きな「門」の文字の中に「蘇民将来子孫家」と書かれているようです。

「蘇民将来」の伝説は、「備後風土記」(広島県東部)の逸文にあります。

全国的に行われている「茅の輪くぐり」は神社境内に作られた大きな「茅の輪」を歩いてくぐる神事です。

各戸の玄関にしめ縄を掛ける風習が続けられている伊勢地方のスタイルは、「蘇民将来」の伝説で語られる「茅の輪」を腰に付けると疫病にならない内容に近いものと思われます。

■東洋文庫「風土記」吉野裕訳 にある備後風土記の逸文を転記します。
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備後国[きびのみちのしりのくに]
 蘇民将来
 備後の国の風土記にいう、-疫隅の国社[えのくまのくにつやしろ]。昔、北の海においでになった武塔[むとう]の神が、南の海の神の女子を与波比[よばい](求婚)に出ていかれたところが、日が暮れた。その所に将来兄弟の二人が住んでいた。
兄の蘇民将来はひどく貧しく、弟の将来は富み、家と倉がー百あった。ここに武塔の神は宿を借りたが、惜しんで借さなかった。兄の蘇民将来はお借し申しあげた。そして粟柄[あわがら](粟の茎)をもって御座所を造り、粟飯などをもって饗応した。
さて終わってお出ましになり、数年たって八桂の子供をつれて還って来て仰せられて、「私は将来にお返しをしよう。お前の子孫はこの家に在宅しているか」と問うた。蘇民将来は答えて申しあげた。「私の娘とこの妻がおります」と。そこで仰せられるには、「茅の輪を腰の上に着けさせよ」と。そこで仰せのままに〔腰に茅の輪を〕着けさせた。その夜、蘇民の女の子一人をのこして、全部ことごとく殺しほろばしてしまった。そこで仰せられて、「私は速須佐雄[はやすさのお]の神である。
後の世に疫病がはやったら、蘇民将来の子孫だといって、茅の輪を腰に着けた人は免れるであろう」と
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備後地方に住んでいますが、全国的に神社で行われる「茅の輪くぐり」しかなく、この話を知る者も特に多いとは思えません。

しめ縄の風習、「松下社」など、伊勢地方に色濃く残る「蘇民将来」の伝説は、忘れ去られた歴史の痕跡のようにも思えます。