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リーンとロール軸(1)

(和歌山利宏氏、写真は『バイカーズステーション』2010年3月号、63頁より)

バイクのコーナリング、コーナー進入でバイクを傾けるとき、ロール軸に沿った倒しこみの入力をするとよい…、ということは、本ブログでも何回か言ってきました。
そもそも「ロール軸」とは何か。
どうしてロール軸に沿った入力がいいのか。
そのあたりから考えて行きましょう。

まず、「ロール軸とは何か。」です。

本ブログでロール軸について解説しているのは、
リーン動作 ロール軸1
リーン動作 ロール軸2
また、上記2つの記事をまとめてコンパクトに説明しなおしたのが、
『「あれっ、曲がらない」(2)対策=総論=』
です。
この3つの記事をお読みいただけば、ロール軸とはどんなものであるかがお分かりいただけるのではないかと思います。

しかし、今日はもう一度、その存在とその意味について、改めてお話いたします。

まずは、ちょっと遠回りになりますが、和歌山利宏氏と根本健氏のライディングの写真を見ていただきましょう。



(写真は『ライダースクラブ』1995年9月号より。ライダー根本健氏。鈴鹿8耐、TRX850で参戦。ペアライダーは平忠彦。)


二人とも、とても美しいですね。文句なくかっこいい。
もう速く走ることを求めなくなった私ですが、この「かっこよさ」にはやはり憧れます。
この二人、私の感覚では、並み居る日本のバイクジャーナリストの中でも、走りが格段に美しいと思います。
(違う感覚の方もいっぱいいらっしゃると思います。あくまで私の感覚です。)
それは、おそらく無駄な力が入っていないから。

ぶっちゃけ話をしましょう。
最近のビッグバイクで、公道を限界まで攻めるのは、速度が上がりすぎて危険。
自分だけでなく、たまたま通りかかった他人をも巻き込む大事故になりまねません。
最近のバイクの加速力は、法定速度の倍くらいはちょっとした直線でもすぐに届いてしまうし、タイヤ性能の目覚しい向上で、コーナリング速度も上がっています。
バイク自体の限界が猛烈に高いところに上がってしまったため、心をマヒさせれば、時速○○○㎞など、誰でもすぐに出せてしまいます。
もう、マシンの限界に挑戦するのは、サーキットでなければ絶対に無理、と断言してもいいと思います。

公道で目指すべきは、絶対的な速度や速さ、ではなくて、効率の良い、美しい走り。
俗な言い方をすれば、「かっこいい走り」と言えるでしょう。


(写真は『ライダースクラブ』№122.1988年8月号。37頁から。400ccレプリカのグリップ力を最大限に引き出す根本健氏のフォーム。)


例えば、峠で自分を追い抜いていくバイクたち。
速いのは、みな速いにしても、かっこいい人と、どこかかっこ悪い人がいますよね。
別の言い方をすれば、華麗でスムーズに速い人と、なんだか力みが見えて動作が大きくて、無駄にガキガキしてて危なっかしく見える人がいると思います。

これ、見た目だけでなくて、かっこいい走りの人の方が、ガキガキしてる人より、同じ速さでも安全マージンが大きいんです。

かっこ悪い人の走りというのは、

○ライダーが力みまくって身体が硬直しているので、とっさの時の対応能力が非常に低くなっている。
○バイクを力でねじ伏せていることが多いので、タイヤに変な負担をかけていることが多く、
 グリップを失ったり、旋回できなくなったり、バイク全体が振動したりする可能性が高くなる。
○変な緊張と筋力の無駄遣いで疲れるので、長い距離を疲れずに走ることができず、
 疲労が溜まってくると集中力を失って事故しやすくなる。

など、危険で楽しくなく、そして肝心のかっこよさもないという、そんな状態になりがちです。

では、華麗でかっこいい人の走りはどこが違うのか。


(『バイカーズステーション』№224、2006年5月号、53頁より。カワサキER-6nを駆る和歌山利宏氏)

○無駄な力が抜けているので、とっさのことに対応しやすく、ライダーの感知能力も上がっている。
○もともとバイクは無駄に力をかけずに操れるようにできているので、
 バイク本来の性能を引き出して走っている状態だ。
○バイクに対していつでもライダーだけが自分の操作で力んでいるのでなく、
 バイクと対話しながら走っているので、
 操作が楽なだけでなく、バイクの存在を強く感じることができ、ライディングが楽しい。
○バイクに無理な力が加えられていないので、限界が高く、
 その分だけ安全マージンも大きくなっている。
○比較的疲れにくいので、疲労が溜まりにくく楽しく長距離ツーリングができる。

など、力んでいないことが、様々なプラスを生み出しています。
バイクライディングでは、無駄な力を入れない操作が特に重要なのです。
と、いっても、全身から脱力してしまっては落ちてしまいます。
必要な分だけ、バランスよく力が出ている状態。
それが安全で、かっこよく、華麗なライディングの条件となります。

ところで、バイクに載るのに、ライダーは最低限どんな力が必要でしょうか。
操作系だけなら、アクセルを全開にするのに、そんなに力はいりませんね。
右手のブレーキ、フルブレーキでも、昔のように思い切り握らなくてはならないバイクは減りました。
むしろ、ロックさせないように気を使わなくてはならないのが最近のバイクの性能です。
左手のクラッチも、一日中操作を繰り返すと疲れてきますが、一回の操作に必要な握力は、それほど大きなものではありません。
両足のペダル類も、そんなに力はいりません。

つまり、バイクライディングでは、操作系そのものには余り筋力を使わなくていいものなのです。
では、何に筋力を使うかというと、慣性の法則に逆らって自分の体を支えるために使うのです。
フル加速時、バイクは加速していこうとしますが、身体は元の速度のままでいたがりますので、バイクについていくように、下半身で身体をバイクにホールドする必要があります。
フルブレーキ時、身体は慣性のままに前に行こうとしますが、バイクはブレーキが掛かって強烈に減速します。身体が前に投げ出されないように、バイクをホールドしなければなりません。
これらのホールドも、できるだけ無駄な力を使わずに、最低限の力でホールドしておきたいところです。

旋回時も、まっすぐ進もうとするバイクと身体の進行方向を曲げて旋回していくのですから、直進時と違う荷重がかかることになります。
バンクが安定して旋回が始まってしまえば、バンク角と遠心力がつりあって、ライダーはただシートに座っていればいい状態になりますが、直進してきたバイクを傾ける、そのときには、身体の慣性に逆らって進行方向に旋回できるよう、入力しなければなりません。

リーン動作、バイクを傾ける動作というのは、このときのことを指しているのです。
そしてこのときも、バイクに無駄な力、変な力を与えず、必要最低限の入力で、力みのないままにバイクを傾け、旋回に移行できれば、カッコいいし、無理がないので安全だし、バイクの動きが感じられて怖くなく、かつ楽しいし、で、いいことずくめなのです。

バイクライディングは、筋力を強めれば強めるほど速く安全になる…というものではありません。
バイクを走らせている様々な状況で、その状況下で必要な力が、文字通り「必要十分」に発揮されればいいので、それ以上の無駄な力が抜けていればいるほど、バイクは動きが素直で、美しく走れ、しかも安全になるのです。

「上手な走り」
その定義は様々にできるでしょうが、そのうちの1つとして
「無駄な力が入っていない」こともあげられるでしょう。

さてさて、私のGPZ1100ではガソリン満タンで約270㎏。最近のスポーツバイクはそれより4~50㎏かそれ以上軽いと思いますが、それでもバイクは人間3~5人分くらいの重さがあります。それに自分の体重が加わって、人間4~6人分くらいの重量を、直立状態から素早く倒し、かつ狙ったところで傾けるのを止める、というのが、バイクでコーナーに入るときに必要な操作です。
これはかなり力が必要に思えますね。
例えば止まった状態で、バイクを右に45°傾けておいて、笛の合図で一秒以内に反対、左に45°傾けてそこでぴたりと止める。…なんて、ひとりでは絶対にできそうにないですね。
それが、走っているバイクの上では、それほど力も使わずにひょいっとできたりする。
大きな力が必要なはずの動きが、余り筋力を使わずにできてしまう。
これもまた、スポーツとしてのバイクライディングの醍醐味の1つと言えるでしょう。

どうしたらそんな重いバイクを軽々とバンクさせられるのか?
それは、
1 慣性と重力を利用して筋力に頼らない入力をしているから。
2 無駄のない入力方向に必要最小限の入力をしているから。
の2つが理由です。

そして、バイクをバンクさせるとき、最も無駄のない、もっとも効率のよい入力が、
ロール軸に沿った入力なのです。



今日の話をまとめますと、

1 安全で華麗なかっこいい走りとは、無駄のない走りである。
2 バイクに乗る時は、必要最低限の力で乗るのが安全でかっこよく、疲れない。
3 バイクをバンクさせるときに最も無駄のないのは、ロール軸に沿った入力である。

ということになります。

では、どうしてロール軸に沿った入力が無駄がないのか。
そもそも、ロール軸とは、どんなものなのか、次回、改めて説明いたします。

ライテクインデックスⅢへ。
コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
先日のコメント (義太夫)
2010-02-20 23:11:43
先日のコメントでの樹生さんの返答、そして今回の記事を読み、自分の考えている進みたい方向がハッキリとした気がします。

「無駄な力が入っていない」
なんか今までバイクを降りても無駄な力を使っていたような気がします(笑)

今回のお話、私自身文章や言葉で説明は出来ませんが、良く理解できます!
 
 
 
 (樹生和人)
2010-02-21 06:41:54
義太夫さん、こんにちは。
「自然で理に適った動き」というのでしょうか。
一流のスポーツ選手の動きは、無駄がなく美しく思えます。
それは日常の動作にも言えることかもしれません。
無駄がないからこそ、必要な時に必要な所に大きな力が出せる。
そんな動きが出来たらいいなと思います。
でも、このブログ、すっごく力入ってますよね(^^;)
それと私仕事等の日常で無駄な力入れまくりで、疲弊しきってます。
なかなかに道は厳しいようです(^^;)
 
 
 
自分の気持ち (いのぶ~)
2010-02-23 08:55:03
こんにちは
そうですね、自分の感覚にあるコーナー進入時と
コーナリング最中、また立上りの感覚(イメージ)が
一つでも『おかしい?』と思った時は全体的にその日の走りはだめですね
それと、自分は同じRのコーナーでも曲がりやすいところと
曲がりにくいところがあります
樹生さんの言う、力みのない状態は絶対必要ですね
力んだ状態からの動作は、なんかテンポが狂いますね
自分は専門的な言葉では表現できませんが
こんな感じですかね
 
 
 
身体感覚 (樹生和人)
2010-02-23 21:16:21
いのぶ~さん、こんにちは。
力むとテンポが狂う…というのは、本当にそうですね。
理屈よりも感覚として、「なんかおかしい…」と思う、その身体感覚の方がたぶん大事なんだと思います。
ロール軸っていうのは、その感覚を充実させるのに役立つ「意識」だと思うのですが、これから、じっくり記事に書いていきたいと思います。
でも、今週も仕事が忙しくて、なかなか更新できないかもしれませんが…(^^;)
 
 
 
華麗なかっこいい走り (岸辺)
2018-11-07 04:35:43
『ライダースクラブ』№122.1988年8月号 根本健氏の写真は、とても法定速度でバンクしてるものではありません。
公道で目指すべきは、華麗なかっこいい走りでなくて、「かっこわるくても安全な走り」ではないのではないでしょうか?
 
 
 
コメントありがとうございます。 (樹生和人)
2018-11-07 21:02:43
岸辺さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

岸辺さんに伝わるかどうかわかりませんが、
私はゆっくりでも安全な運転は、華麗でかっこいいものだと考えています。
記事でも『もう速く走ることを求めなくなった私ですが、この「かっこよさ」にはやはり憧れます。』と述べており、その上は2枚ともサーキットでの写真ですので、かっこいいフォームの一例として、二人の写真を計4枚挙げたのみです。
ゆっくりでもかっこいいシーンをあげればよかったのですが、なにせ、個人としてかっこいいと思う写真を挙げてしまいました。そこは不十分だったかもしれません。お詫びします。
決して同じフォームや同じ速度で走ろうというものではありません。それは、記事を読めば伝わってくれると思ったのですが……。

さらに、私の上の記事でいう「かっこわるい」とは「遅い」という意味では全くなく、「無駄な力が入っている」ライディングを指しています。記事にもそう書いてあります。私はゆっくり走ることを「かっこわるい」と馬鹿にしたことは一度もありません。

「無駄な力が入っている」ライディングは、時速30kmでも、15kmでもかっこわるく、危ないのものです。
「そういう意味では」私は「かっこわるくても安全な走り」を目指そうとは思いません。安全な走りは、例えば白バイの交差点の左折時のように、ゆっくりでも、華麗でかっこいいものだと私は思っています。

この記事の趣旨は、「無駄な力を入れないライディングは、安全で華麗である」ということでした。この記事では速度域に関しては、範疇に入れていないのです。

岸部さんがライダースクラブ』№122の写真について取り上げたのは、公道上でのライディングとして暴走ではないのか、という観点からだと思います。(違ったらすみません。)
その点に関しては、その通りですというほかはありません。
(当時ライダースクラブの走行写真の撮影は、箱根、伊豆に限らず、阿蘇など九州を含む全国で行われており、公道に見える場合も、例えば伊豆のサイクルセンターだったり、ホンダやヤマハの持つテストコーだったりと、撮影場所を特定することはできません。しかし、写真イメージとして、公道上で飛ばしているイメージなのは私もそうだと思います。その点、岸辺さんの指摘には反論はありません。)

他のところで何回か書いていますが、私は、あらゆる場合に絶対に「法定速度」を守ることを優先させる考え方を支持するものではありません。(街中走行時の原付での走行や、現実的な公道での交通の流れの中の合流時などを想定してみてください。法定速度そのものよりも、安全を優先すべき時はあるのです。)
しかし、暴走を容認、奨励する気持ちもむろんありません。むしろ、私自身はライダーとしては珍しいほどに法定速度を守って走行している時間の長い乗り手だと思います。ツーリングでも4輪を抜くことはめったになく、速い車や4輪に安全確認の上、左側に寄って道を譲ることもしょっちゅうです。

「かっこよさ」=速さ、
「かっこよさ」=ハングオン
「かっこよさ」=レーサー的な走り

そんな図式で、読者からの投稿写真を掲載し、煽った雑誌もありました。それは非常に愚かしいものでした。当時、一番売れていた雑誌だったと思います。1980年代はそういう時代でもあったと言えるかもしれません。

岸辺さんはそうした傾向に違和を覚え、見た目のかっこよさよりも、バイクを走らせるうえで、自分と他の人との命を守ること、「安全」が何より優先されるべきではないのか、と、おっしゃりたかったのだと思います。
私はその意味では、岸辺さんに深い同意を覚えます。


私の返答は、岸辺さんのコメントの意図から外れたものだったかもしれません、しかし、命を大切にし、バイクでの走行を愛する気持ちは、岸辺さんと共通していると思っています。
どうか、私の心あるところを、汲んでいただきますようにお願いいたします。

岸辺さん、コメントありがとうございました。
 
 
 
> 華麗なかっこいい走り (岸辺)
2018-12-19 01:46:21
お返事頂いてたんですね、すみませんでした。
「ロール軸」を調べてサーフィンしていたら、たまたま再訪問となり、このお返事にたどり着きました。

とても丁寧な返事を頂いたので少し掘り下げると・・・

「公道でゆっくり安全な走りでも、無駄な力さえ抜けばこんなにかっこいい」
模範として雑誌の写真が転載されているのだと読みました。

そこで「公道では速度域が違うのでこんなにカッコよくなりませんよ」
という意味でコメントさせていただきました。

写真にあるネモケンさんのフォームは惚れ惚れするほど素晴らしいですが、彼でも公道ではこうやって走りません。(ライパで何度かレクチャー受ける機会がありました)
雑誌でも、先が見えない環境と路面μの違いからレーステクニックとは逆の後輪主体のライディング理論を展開されてます。

つまり「遅くても写真みたいにかっこいいハングオン」は存在しないと思います。
コーナー曲率に対して速度が遅いのに、無理にリーンインやハングオンするとかなり滑稽な姿になります。
たとえばこんな(笑)
http://www.bikebros.co.jp/ridetech/index.php?e=10

もちろん佐川さんのスキルは一流で、この時は公道の撮影として分かりやすい姿勢を見せてくれてると承知してますが、プロをもってしてもこんなんになってしまいます。

つまり「サーキットで使う理論とテクニックは公道とまったくかけ離れてる」という観点で前回はコメント書いてみました。

あと、安全や法定速度のコメント頂きましたが、実は真逆の意見を持っていまして・・・また機会がありましたらお話しましょう。
 
 
 
プロに学ぶ。 (樹生和人)
2018-12-19 19:35:40
岸辺さん、コメントありがとうございます。

前回の岸辺さんのコメント意図、説明ありがとうございます。

そこから考えると、私の返事は岸辺さんのコメントに応えられている部分と、答えられていない部分があったように思います。
文章で内容を伝えることは、難しいものですね。

安全や法定速度の考え方も、もちろん、私は私の考え方が唯一正しいと考えているわけではなく、いろんな考え方があると思います。

私は私の個人ブログでは私の考えを書いているわけですが、いろんな考え方、もちろん、私のブログに頻繁に書いているように、私のようなド素人のものよりも、体系的、良心的に書かれたプロの文章や図解、動画などに触れ、そこから各自が、より安全で、より充実した、そしてできることなら、より人間的にも高めていくような、そんな走りを、求めていければいいなと考えています。
 
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