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22年目の夏6 美瑛の丘(北)

美瑛の丘。
富良野のラベンダーと並んで、今や北海道を代表する景観のひとつだ。

1970年代、写真家、前田真三によって発見された丘の美は、広告によって一気に全国区となった。

ケンとメリーの木。
セブンスターの木。
マイルドセブンの丘。

連作障害を回避するため、3年から4年周期で作物を入れ替える畑はパッチワークのような模様を丘に描き、
目印のために切り倒さずに残された木は、丘のオブジェとして人の目をひきつける。

僕らは北西の丘の展望台に立ち寄り、久しぶりの丘の風景を眺めながら一日の予定を立てた。

今日もよく晴れて、暑い一日になりそうだ。



美瑛は基本的に農村だ。
しかし、丘の景観が人気となり、展望台ができ、最近は深山峠に観覧車まで立ってしまった。
丘が人気になると、その丘の景観を眺める別荘はいかがでしょう、メルヘンの丘の中に立つあなたの素敵なお家…、という感じで、元来の畑の中に大きな駐車場や店、レストラン、メルヘンチックな家などが建ち始める。
すると、もともとの美しい農の風景は壊されていく…。

美しい丘の風景は、つらい農作業の積み重ねでしか維持できないのに、丘の景観にたくさんの人が訪れるなら、農作業よりも現金収入を得る道もまた、開けてくる。

農地の中まで踏み込んで写真を撮る人も後を絶たない。
丘の中の道を、僕らのようなバイクや、大型観光バスや、レンタカーの旅人たちが、ひっきりなしに走る。

それが今の美瑛の丘だ。



北海道には、美しい農の風景がたくさんあり、美しい丘もここだけでなく、網走の方や、空知地方などにもたくさんある。
しかし、美瑛だけがこんなにたくさんの人が訪れるのは、やはり有名になったからだろう。

CMで使われた「名前のついた木」たちは、道々にその木への道順を示す標識が立てられ、木のそばには駐車場ができて売店が開く。

本で見た木、写真で見て憧れた木。

人はその木の前で交互に記念写真を撮り、ソフトクリームを食べる。
観光とはそういうものだろう。
そしてそれは、間違いなく素敵なことなのだ。
僕らもまた、観光地、美瑛の丘をゆっくりバイクで巡っている。



丘の交差点の脇のちょっとした空間にあいつと僕はバイクを止める。

いい天気だ。
ここにはやはり、ここにしかない風景がある。
丘の稜線。
遠くの大雪山系。
森と緑のバランス。
渡る風の表情。
そのいずれもが、ここだけの、絵のような表情を見せる。

そうだ、この丘はとても気持ちいい。
写真を撮るのにばかり夢中にならずに、ゆっくり深呼吸してみればいい。



日本の食糧自給率は30%台。
安い外国産作物に押され、農業は厳しい経営を強いられる。
農業・林業・漁業に対する国としての敬意が、根本的に不足している。

本ブログでも何回か、赤井川村の農家、二川農園のeijiさんのブログを紹介し、eijiさんの作った作物をいただき、eijiさんの農業に対する思いを紹介しているが、(「赤井川の美しい里で」)商業主義拝金主義の蔓延した日本で、良心的に、安全でおいしい、真っ当な食料を生産している農家の方々を支えているのは、食糧生産に対する誇りと良心だ。

そうした人々がいるということを、僕らは誇りに思う。
金メダルが何個とか、経済が世界何位とか、そんなことに煽られなくても、誇るべきものは、僕らのそばにある。



遠く、丘の向こうの稜線にケンとメリーのポプラの木が見えた。
緑の丘、農の風景。
美瑛の丘をもう少し、巡ろう。国道を越えて、僕らは美馬牛方面へ向かう。
(つづく)
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コメント
 
 
 
お久しぶりです (いのぶ~)
2009-08-23 09:16:10
樹生さん、お久しぶりです。
過去ブログも読ませていただきました
うらやましくて、うらやましくて
まだ、まだバイクは復活できませんが
せめて行った気分をブログで楽しんでます

各北海道の観光地・有名地は意外と北海道に
住んでいる人よりも、道外の人の方が
思い入れや知識があるみたいですね
自分は札幌生まれ、空知育ちなのですが
地名はわかりますが、各地場の歴史や観光名所等
の詳しいことはあまり分かってません・・いけないことかも;;)
ただ、たぶん北海道の産業の状況は地方に行けば
行くほど悪化しているのは間違いありません
しかし、eijiクンみたいに頑張っている人も多く
いることも確かです(以前は同僚でした)
そんな人の邪魔にならない用に観光してます。
長々コメントすいません、また新しいブログ
楽しみにしています。
 
 
 
観光のありかたを (樹生和人)
2009-08-23 18:05:14
いのぶーさん、こんにちは。
今年の夏は少し頑張っちゃいました。
(その分早くも付けが回ってきていますが…)

いのぶーさんはeijiさんと元同僚だったんでしたね。
eijiさん、結婚もなさって、頑張ってますよね。

さてライダーの中には自分たちを観光客と一緒にするなという感覚を持つ人もいるようですが、私は基本的にツーリングも観光のひとつに過ぎないことを自覚しておくことが大事だと思うんです。
自分の中でその観光を「旅」と呼べるものに高め、深めていけるかが大事なのですが、していることは大括りにして観光そのものだと思うので。
観光の仕方、観光局の受け容れ方、これもまだまだ考えていく余地はあると思います。

やや、どうも偉そうにすみません。
いのぶーさん過去の記事もお読みいただいてありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
 
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