竹取翁と万葉集のお勉強

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竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その3

2009年04月18日 | 万葉集 竹取翁の歌を鑑賞する
竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その3

原文 頚著之 童子蚊見庭 結幡之 袂著衣 服我矣
訓読 頚(うな)つきの 童(わらは)の時(かみ)には 結幡(けつはん)の 袖つけ衣(ころも) 着し我れを(03)
私訳 お下げ髪が肩まで伸びた少女の時には、花嫁衣裳の袖の付いた衣を着た私ですが

歌詞の「結幡」は婚姻の方の意味を採っています。染色方法の「絞り染め」の意味を採っていないところが普段の解説とは違っています。この婚姻の方の「結幡」は、家同士の結び付きの意味合いが強いので、親公認の恋愛や結婚を意味します。若い恋人同士の野良での自由恋愛ではありません。このように「結幡」を解釈しますと、幼髪の時に二人の男から女の親公認の求婚をされたのは、葦屋の菟名負処女だけとなります。
さて、この葦屋の菟名負処女の歌は高橋連虫麿歌集に採録されて、その高橋虫麿自身については歴史では不明の人物ですが、藤原宇合に関係深い人物ではないかと推定されています。高橋虫麿は、藤原宇合の養老三年(719)の常陸守就任及び安房・上総・下総三国の按察使兼務の時に、彼に従って関東を巡回し鄙の歌を採録したのではないかとされています。藤原宇合は養老五年には奈良の都に帰任していますが、高橋虫麿はもう少し常陸国庁に留まっていて、大伴旅人が検税使として常陸國を訪れた時に、そのお供をして筑波山を案内したようです。
その後に、高橋連虫麿歌集から神亀元年(724)三月の難波宮の着工の行事に参加したと思われますので、常陸国庁での役人の任期を終えて養老七年頃に奈良の都に戻ってきたと思われます。それ以降では天平四年の藤原宇合が西海道節度使に任命され出発する時の歌が、明確に詠われた時代として判るだけです。
結局、高橋虫麿については判ったような判らない結論ですが、養老・神亀年間に東国や河内地方の民謡や歌を採録したことに特徴があり、万葉集の編纂において欠くことの出来ない人物です。
なお、次の菟名負処女の歌は、現在の兵庫県芦屋市地方の民謡からの高橋虫麿の創作と思われます。当時は三四歳で女の子は髪を伸ばし始めたようですから、歌の世界は乙女が十二三歳の時に二人の壮年の男から求婚された設定でしょうか。
この歌の解釈で重要なのは、この菟名負処女の「処女」は生娘の意味でなく家に住む娘の意味で、その乙女は二人の男に「相結婚(あいよばひ)」されていますから、夜な夜な二人の男が入れ替わりに乙女の寝室に泊りに来て、どっちを選ぶのか乙女を抱き伏せながら問い詰めている景色です。たぶん、男同士がかちあうこともあったでしょう。それに、男達の夜這いは、乙女の親が二人の男に「娘が選んだ方と結婚させる」と云っているような親公認の夜這いです。それで、乙女は答えに窮して自殺したことになっています。この「処女」の言葉を江戸時代以降の和語として男を知らない生娘の意味に取ると、歌の理解が辛いと思います。漢語では実家にいる女の意味で、性体験の有無の意味合いはありません。
なお建前上、江戸期以降の学者は、この漢語の本来の意味を知っている上で儒教からの教養と要請でこの「処女」を男を知らない生娘と解釈することになっていますので、江戸期以降の解釈についてはその建前を踏まえる必要があります。

(高橋連虫麿歌集)
見菟原處女墓謌一首并短謌
標訓 菟原処女の墓を見る歌一首并びに短歌
集歌1809 葦屋之 菟名負處女之 八年兒之 片生之時従 小放尓 髪多久麻弖尓 並居 家尓毛不所見 虚木綿乃 牢而座在者 見而師香跡 悒憤時之 垣廬成 人之誂時 智弩壮士 宇奈比壮士乃 廬八燎 須酒師競 相結婚 為家類時者 焼大刀乃 手頴押祢利 白檀弓 靫取負而 入水 火尓毛将入跡 立向 競時尓 吾妹子之 母尓語久 倭文手纒 賎吾之故 大夫之 荒争見者 雖生 應合有哉 宍串呂 黄泉尓将待跡 隠沼乃 下延置而 打歎 妹之去者 血沼壮士 其夜夢見 取次寸 追去祁礼婆 後有 菟原壮士伊 仰天 叨於良妣 靦地 牙喫建怒而 如己男尓 負而者不有跡 懸佩之 小劔取佩 冬尉蕷都良 尋去祁礼婆 親族共 射歸集 永代尓 標将為跡 遐代尓 語将継常 處女墓 中尓造置 壮士墓 此方彼方二 造置有 故縁聞而 雖不知 新喪之如毛 哭泣鶴鴨
訓読 葦屋(あしのや)の 菟名負(うなひ)処女(をとめ)の 八年児(やとせご)の 片生(かたおひ)の時ゆ 小放髪(をはなり)に 髪たくまでに 並び居(を)る 家にも見えず 虚木綿(うつゆふ)の 牢(こも)りて座(いま)せば 見てしかと 悒憤(いぶせ)む時の 垣廬(かきほ)なす 人の誂(と)ふ時 茅渟(ちぬ)壮士(をとこ) 菟原(うなひ)壮士(をとこ)の 廬屋(ふせや)燎(や)く 荒(すす)し競(きほ)ひ 相結婚(あひよば)ひ しける時は 焼太刀(やきたち)の 手柄(たがみ)押しねり 白真弓(しらまゆみ) 靫(ゆき)取り負(お)ひて 水に入り 火にも入らむと 立ち向ひ 競(きほ)ひし時に 吾妹子が 母に語らく倭文(しつ)手纒(てま)き 賎(いや)しき吾が故(ゆゑ) 健男(ますらを)の 争ふ見れば 生けりとも 逢ふべくあれや ししくしろ 黄泉(よみ)に待たむと 隠沼(こもりぬ)の 下延(したは)へ置きて うち嘆き 妹が去(い)ぬれば 茅渟(ちぬ)壮士(をとこ) その夜夢(いめ)に見 取り続(つつ)き 追ひ行きければ 後れたる 菟原(うなひ)壮士(をとこ)い 天仰ぎ 叫びおらび 足づりし 牙喫(きか)み建(たけ)びて 如己男(もころを)に 負けてはあらじと 懸(か)け佩(は)きの 小太刀(をたち)取り佩き 冬尉蕷葛(ところづら) 尋(と)め去(い)きければ 親族(うから)どち い帰(い)き集(つど)ひ 永き代に 標(しるし)にせむと 遠き代に 語り継がむと 処女墓(をとめつか) 中に造り置き 壮士墓(をとこつか) 此方彼方(こなたかなた)に 造り置ける 故縁(ゆゑよし)聞きて 知らねども 新喪(にひも)の如(ごと)も 哭(ね)のみいし泣きつるかも
私訳 芦屋の菟原処女が、八歳頃の子供の時から振り分け髪を結ぶまで、となりの家にも顔を見せずに引きこもっているので、その処女を見たいと心に悩んで、垣根ができるほどの人が尋ねてきたとき、中にも茅渟壮士と菟原壮士が芦屋を焼くように激しく、互いに競い合って夜這ひした時は、焼き太刀の柄をひねり握り、真弓と靫を取って肩に背負い、娘子のためなら水の中にも火の中にも入るような思いで二人が立ち向かい競ったときに、貴女が母に語るには日本製の錦の帯を手に巻くような貧しい私のために、立派な勇者が争うのを見ると、生きて行けましょうか、どちらかと結婚出来ましょうか、それであの世で会いましょうと、ひっそりした沼の水草の生える中に悲しいことに貴女が死んでしまったので、茅渟壮士はその夜の夢の中に菟原処女の姿を見て、娘子に続いて死んでしまったので、死に遅れた菟原壮士は、天を仰いで叫びおらび足ずりして、歯をかみ締めたけびて、その男に負けては居られないと腰に懸けて着けた小太刀を取り出して、処女の跡をたどるように求めて死んでしまったので、親族たちは死んでしまった場所に集まってきて、末永い世に手本にしようと、遠い先の世に語り継ごうと、処女墓を真ん中に作って置き、二人の壮士墓を左右に造って置いた。この由来を聞いて、私のことではないのだけれど、新しい葬儀のように声を上げて泣いたことだ。

反謌
集歌1810 葦屋之 宇奈比處女之 奥槨乎 徃来跡見者 哭耳之所泣
訓読 葦屋(あしのや)の菟名負(うなひ)処女(をとめ)の奥城(おくつき)を往(ゆ)き来(く)と見れば哭(ね)のみし泣かゆ
私訳 芦屋にある菟原処女の墓を行くとなく帰るとなく見ると声を出して泣いてしまう

集歌1811 墓上之 木枝靡有 如聞 陳努壮士尓之 依家良信母
訓読 墓(はか)の上(うへ)の木(こ)の枝(え)靡けり聞きし如(ごと)茅渟(ちぬ)壮士(をとこ)にし寄りにけらしも
私訳 墓の上の木の枝が靡いている。聞いたように菟原処女は茅渟壮士に寄り添っているのだろうか


 雑談ですが、菟名負処女の歌の最初の一節、「葦屋の 菟名負処女の 八年児の 片生の時ゆ 小放髪に 髪たくまでに 並び居る 家にも見えず 虚木綿の 牢りて座せば 見てしかと 悒憤む時の 垣廬なす 人の誂ふ時」は、設定が地方の豪族の娘とその家です。これをもう少し身分の高い家の娘とすると、話に膨らみはありますが

このちごやしなふ程にすくゝゝとおほきになりまさる みつきばかりになるほどによきほどなる人に成ぬればかみあげげなどさうしてかみあげさせもきす ちゃうのうちよりもいださずいつきやしなふ このちごのかたちけうらなる事世になくやのうちはくらき所なくひかりみちたり 翁こゝちあしくくるしき時もこの子をみればくるしき事もやみぬはらだたしきこともなぐさみけり おきな竹をとる事久しくなりぬ いきほひもうのものに成にけり このこいとおほきに成ぬれば名をみむろどいんべのあきたをよびてつけさす あきたなよ竹のかぐや姫とつけつ この程三日うちあげあそぶ よろづのあそびをぞしける をとこはうけきらはずよびつどへていとかしこくあそぶ

のような世界になります。なにか、どっかで見たような文章です。たぶん、現代ですと盗作騒ぎになると思いますが。

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