竹取翁と万葉集のお勉強

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田辺福麻呂歌集を鑑賞する  贈入唐使謌と他十首

2011年02月12日 | 柿本朝臣人麻呂歌集及び万葉集に載る歌集
贈入唐使謌一首
標訓 入唐使に贈れる歌一首

集歌1784 海若之 何神乎 齊祈者歟 徃方毛来方毛 船之早兼
訓読 海神(わたつみ)のいづれの神を祈(いの)らばか行くさも来(く)さも船の早けむ

私訳 海神のどの神にお願いすれば良いのでしょうか。行きも帰りも船が早く行きつきます様にと。
右一首、渡海年紀未詳。
注訓 右の一首は、渡海の年紀はいまだ詳(つばひ)らかならず。



天平五年癸酉、遣唐使舶發難波入海之時、親母贈子謌一首并短謌
標訓 天平五年癸酉、遣唐使の舶の難波を發(た)ちて海に入らむ時に、親母(しんぼ)の子に贈れる謌一首并せて短謌

集歌1790 秋芽子乎 妻問鹿許曽 一子二 子持有跡五十戸 鹿兒自物 吾獨子之 草枕 客二師徃者 竹珠乎 密貫垂 齊戸尓 木綿取四手而 忌日管 吾思吾子 真好去有欲得

訓読 秋萩を 妻どふ鹿こそ 独り子に 子持てりといへ 鹿児(かこ)じもの 吾(あ)が独り子の 草枕 旅にし行けば 竹玉(たかたま)を 繁(しじ)に貫(ぬ)き垂れ 斎瓮(いはひべ)に 木綿(ゆふ)取り垂(し)てし 斎(いは)ひつつ 吾が思(も)ふ吾子(あがこ) 真幸(まさき)くありこそ

私訳 秋萩の季節に妻を呼ぶ鹿こそ、独り児の子を持っていると云う。鹿の児ではないが私の独り子が草を枕にするような苦しい旅に出立して行くと、竹の玉をたくさんに紐に貫き垂らし、神を祭る甕に幣を取り付けて垂らし、神に祈る。私が念じる吾が子よ、無事であってほしいと。


反謌
集歌1791 客人之 宿将為野尓 霜降者 吾子羽裹 天乃鶴群
訓読 旅人の宿りせむ野に霜降らば吾が子(こ)羽(は)ぐくめ天の鶴群(たづむら)

私訳 旅人が宿るでしょう荒野に霜が降りたなら、私の子を羽で包んでくれ、空を飛び行く鶴の群れよ。



思娘子作謌一首并短謌
標訓 娘子(をとめ)を思(しの)ひて作れる謌一首并せて短謌

集歌1792 白玉之 人乃其名矣 中々二 辞緒不延 不遇日之 數多過者 戀日之 累行者 思遣 田時乎白土 肝向 心摧而 珠手次 不懸時無 口不息 吾戀兒矣 玉釧 手尓取持而 真十鏡 直目尓不視者 下桧山 下逝水乃 上丹不出 吾念情 安虚歟毛

訓読 白玉の 人のその名を なかなかに 辞(こと)の緒延(は)はず 逢はぬ日の 数多(まね)く過ぐれば 恋ふる日の 累(かさ)なり行(い)けば 思ひ遣(や)る たどきを知らに 肝(きも)向(むか)ふ 心(こころ)摧(くだ)けて 玉襷(たまたすき) 懸(か)けぬ時なく 口(くち)息(や)まず 吾が恋ふる児を 玉釧(たまくしろ) 手に取り持ちて 真澄鏡(まそかがみ) 直目(ただめ)に見ねば 下(した)桧山(ひやま) 下(した)逝(ゆ)く水の 上(うへ)に出(い)でず 吾が念(も)ふ情(こころ) 安きそらかも

私訳 美しい真珠のような貴女のその名を大切にして言葉の端々に出すことなく、貴女に逢えない日々が続くので、貴女を慕うだけの日々が積み重なってしまって、私の気持ちを伝える方法も無くて、肝が集る心臓も張り裂けて、神に願う玉襷を懸けない日々はなく、常に神に願って、私が恋い慕う貴女を、美しい釧のように手に取り持って願えばその姿を見せると云う真澄鏡でも、貴女の姿に直接に逢えないので、色づく桧の茂る山の隠れて流れる水のように、表には気持ちを表さず、忍ぶ私の恋い慕う気持ちは、落ち着かない。


反謌
集歌1793 垣保成 人之横辞 繁香裳 不遭日數多 月乃經良武
訓読 垣ほなす人の横辞(よここと)繁みかも逢はぬ日数多(まね)く月の経ぬらむ

私訳 垣根を作るような多くの人々が、妬みや噂を多くするからでしょうか、逢えない日々が重なり、ただ月日が経っていくのでしょう。


集歌1794 立易 月重而 難不遇 核不所忘 面影思天
訓読 たち替わり月(つき)重(かさ)なりて逢はねどもさね忘らえず面影(おもかげ)にして

私訳 この月も替わり月が重なり、貴女には逢えないけども、貴女をどうしても忘れることが出来ない。貴女の姿を思い浮かべると。

右三首、田邊福麻呂之謌集出
注訓 右の三首は、田辺福麻呂の歌集に出ず。



過足柄坂見死人作謌一首
標訓 足柄の坂を過ぎて死(みまか)れる人を見て作れる謌一首

集歌1800 小垣内之 麻矣引干 妹名根之 作服異六 白細乃 紐緒毛不解 一重結 帶矣三重結 苦侍尓 仕奉而 今谷裳 國尓退而 父妣毛 妻矣毛将見跡 思乍 徃祁牟君者 鳥鳴 東國能 恐耶 神之三坂尓 和霊乃 服寒等丹 烏玉乃 髪者乱而 邦問跡 國矣毛不告 家問跡 家矣毛不云 益荒夫乃 去能進尓 此間偃有

訓読 小垣内(をかきつ)の 麻(あさ)を引き干(ほ)し 妹なねが 作り着(き)せけむ 白栲の 紐をも解(と)かず 一重(ひとへ)結(ゆ)ふ 帯を三重(みへ)結(ゆ)ひ 苦(く)る侍(さ)むに 仕(つか)へ奉(まつ)りて 今だにも 国に罷(まか)りて 父母も 妻をも見むと 思ひつつ 往(い)きけむ君は 鶏(とり)が鳴く 東(あづま)の国の 恐(かしこ)きや 神の御坂(みさか)に 和霊(にぎたま)の 衣(ころも)寒(さむ)らに ぬばたまの 髪は乱れて 国問(と)へど 国をも告(の)らず 家問(と)へど 家をも云(い)はず 健男(ますらを)の 去(い)きの進(すす)みに 此処(ここ)に臥(こや)やせる

私訳 垣の内の麻を引き抜き干し、妻が作って着せてくれた白栲の衣の紐を解かずに、一重で結ぶ帯を三重に結ぶほど身も痩せるほど苦しい奉仕のために朝廷に仕え申されて、今だけはと故郷を旅立って、父母や妻にもまた逢おうと思って出発された貴方は、鶏が鳴く東の国にある畏れ多い神の宿る御坂に、安らかに横たわる和霊の衣も寒々に漆黒の黒髪は乱れて、生まれ故郷を聞いてもその故郷を答えず、家の場所を聞いてもその家の場所を答えない。健男が国に去ることも勤めに行く事もせずに、ここに身を横たえている。



過葦屋處女墓時作謌一首并短謌
標訓 葦屋(あしのや)の處女(をとめ)の墓を過ぎし時に作れる謌一首并せて短謌

集歌1801 古之 益荒丁子 各競 妻問為祁牟 葦屋乃 菟名日處女乃 奥城矣 吾立見者 永世乃 語尓為乍 後人 偲尓世武等 玉桙乃 道邊近 磐構 作冢矣 天雲乃 退部乃限 此道矣 去人毎 行因 射立嘆日 或人者 啼尓毛哭乍 語嗣 偲継来 處女等賀 奥城所 吾并 見者悲喪 古思者

訓読 古(いにしへ)の 健(ますら)壮士(をとこ)の 相(あひ)競(きほ)ひ 妻問ひしけむ 葦屋(あしのや)の 菟原処女(うなひをとめ)の 奥城(おくつき)を 吾が立ち見れば 永(なが)き世の 語りにしつつ 後人(のちひと)の 偲(しの)ひにせむと 玉桙の 道の辺(へ)近く 磐(いは)構(かま)へ 作れる塚を 天雲の そくへの限(かぎ)り この道を 去(い)く人ごとに 行きよりて い立ち嘆かひ ある人は 啼(な)くにも哭(ね)つつ 語り継ぎ 偲(しの)ひ継ぎくる 処女(をとめ)らが 奥城(おくつき)処(ところ) 吾さへに 見れば悲しも 古(いにしへ)へ思へば

私訳 昔、勇ましい男が相競って求婚したと云う葦屋の菟原乙女の墓を私が立ち寄って見ると、永き世に物語としつつ、後世の人の昔を偲ぶすべにしようと、公の美しい鉾を立てる道の傍らに、岩を積み上げて作った塚を、空行く雲の流れる果ての、この道を行く人、皆がこの塚に寄って行っては菟原乙女の身の上を嘆き、或る人は、泣くにも身悶えて泣きながら、菟原乙女の身の上を語り継ぎ、偲び継ぎ来る。その菟原乙女の墓所は、私でも見れば悲しく思う、昔の出来事を想像すると。


反謌
集歌1802 古乃 小竹田丁子乃 妻問石 菟會處女乃 奥城叙此
訓読 古(いにしへ)の小竹田(しのだ)壮士(をとこ)の妻問ひし菟原処女(うなひをとめ)の奥城(おくつき)ぞこれ

私訳 昔、小竹田壮士が競って求婚した菟原乙女の墓所です。ここは。


集歌1803 語継 可良仁文幾許 戀布矣 直目尓見兼 古丁子
訓読 語り継ぐからにもここだ恋しきを直目(ただめ)に見けむ古(いにしへ)壮士(をとこ)

私訳 語り継ぐだけでも、これほどに菟原乙女を慕ってしまうのに、その菟原乙女に、直接、逢ったのでしょう、昔の壮士は。



哀弟死去作謌一首并短謌
標訓 弟の死去(みまか)れるを哀(かな)しびて作れる謌一首并せて短謌

集歌1804 父母賀 成乃任尓 箸向 弟乃命者 朝露乃 銷易杵壽 神之共 荒競不勝而 葦原乃 水穂之國尓 家無哉 又還不来 遠津國 黄泉乃界丹 蔓都多乃 各各向々 天雲乃 別石徃者 闇夜成 思迷匍匐 所射十六乃 意矣痛 葦垣之 思乱而 春鳥能 啼耳鳴乍 味澤相 宵晝不云 蜻蜒火之 心所燎管 悲悽別焉

訓読 父母が 成(な)しのまにまに 箸(はし)向(むか)ふ 弟(おと)の命(みこと)は 朝露の 消(け)やすき命(いのち) 神の共(むた) 争ひかねて 葦原の 瑞穂の国に 家無みか また還(かへ)り来ぬ 遠つ国 黄泉(よみ)の堺(さかひ)に 延(は)ふ蔦(つた)の おのが向き向き 天雲の 別れし往(い)けば 闇夜(やみよ)なす 思ひ惑(まと)はひ 射(い)ゆ鹿猪(しし)の 意(こころ)を痛み 葦垣の 思ひ乱れて 春鳥の 啼(ね)のみ鳴(な)きつつ あぢさはふ 夜昼(よるひる)知らず かぎろひの 心(こころ)燎(も)えつつ 悲しび別る

私訳 父母が定めなされたままに、争うことなく兄弟が二本の箸のように助け合い過した弟の貴方は、朝露のような消えやすい命を、神の御心に抗うことも出来ず、葦原の瑞穂の国に住むことが出来ないのか、再び、戻って来ることの出来ない遠い国の黄泉の境に、延びる蔦がそれぞれの向きに、空の雲のように別れて行くので、闇夜のように思いは惑い、射られた鹿や猪のように心は痛み、葦の垣根のように思い乱れて、春鳥のように血を吐くように声を張り上げて泣き、味鴨が鳴き騒ぐように夜昼を問わず、陽炎が立つように心は焼け、貴方と悲しみの中で別れる。


反謌
集歌1805 別而裳 復毛可遭 所念者 心乱 吾戀目八方
一云 意盡而
訓読 別れてもまたも遇ふべく思ほえば心乱れて吾れ恋ひめやも
一(ある)は云はく、心尽して

私訳 別れても再び遇うことがあると思えるならば、このように取り乱して、私が貴方を懐かしむようなことをするでしょうか。


集歌1806 蘆桧木笶 荒山中尓 送置而 還良布見者 情苦喪
訓読 あしひきの荒(あら)山中(やまなか)に送り置きて還(かへ)らふ見れば情(こころ)苦しも
私訳 葦や桧の生い茂る荒山の中に貴方を野辺送りして置いて来て、振り返り見ると気持ちは締め付けられます。

右七首、田邊福麻呂之謌集出。
注訓 右の七首は、田辺福麻呂の歌集に出づ。


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