竹取翁と万葉集のお勉強

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竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その18

2009年05月04日 | 万葉集 竹取翁の歌を鑑賞する
竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その18

原文 縫為黒沓 刺佩而
訓読 烏皮履(くりかわのくつ) 差(さ)し佩(は)きし
私訳 烏皮履の沓を履く大夫が太刀を腰に着けて

歌の一節である「縫為黒沓 刺佩而」を、私は「くりかはのくつ さしはきし」と読み、「烏皮履沓 刺し佩(は)きし」と訓読みしています。「烏皮履の沓」と云う言葉は普段の私達では馴染みのない言葉ですが、奈良時代に「皮を縫った黒い短沓」を烏皮履(うりう)の沓といい、大夫が履く沓です。これを大和読みしています。そして、これは天子が履く裏と表ともに綾布で縫った沓のことを挿鞋(そうかい)と云いますが、その挿鞋を暗示する「二綾裏沓」の言葉と対称となる言葉遊びです。
 つまり、「縫為黒沓」が「烏皮履の沓」を意味し、そこから大夫を意味すると解釈しますと、次の集歌2635の歌が浮かびます。

(読み人知れず)
集歌2635 剱刀 身尓佩副流 大夫也 戀云物乎 忍金手武
訓読 剣太刀(つるぎたち)身に佩き副(そ)ふる大夫(ますらを)や恋といふものを忍(しの)びかねてむ
私訳 剣や太刀を身に佩いて帯びる大夫も、恋というものに堪えられないのだろうか。

 この解釈だけでも面白いのですが、この読み人知れずが詠う集歌2635の歌は、万葉集の中で絶対に必要な歌でしょうか。ここが不思議です。
 私は、奈良時代の人々にとって「縫為黒沓」の言葉はなんら謎の言葉ではなかったと思います。現在の女性が云う「化粧室に行く」の言葉を、男性が理解するのと同じレベルのものでしょう。すると、集歌2635の歌から先があるはずです。まず、剣や太刀を帯びる大夫が激しい恋をすることに意味があると思われます。
 ここで、少し寄り道をします。先に「縫為黒沓」の言葉を、現在では忘れられた言葉としました。同じように「醜」の言葉が、当時と現在では意味合いが違うようです。この「醜」の言葉は、現在では「醜い」の意味合いが強いのですが、万葉の時代は「強く恐ろしい」、「頑強」、「頑固」の意味合いが強かったようです。頑固から「融通が利かない」、「気が利かない」へと変わっていったようで、最後には「愚か」、「卑しい」ような意味合いへと変化したと思われます。日本神話で大国主命の別名を葦原醜男と云いますが、この「醜男」の「醜」の意味合いは「強く恐ろしい」の方です。「醜い」や「愚か」ではありません。同じように万葉集の歌で「醜の御楯」と云う言葉があります。ほぼ、これも「強く恐ろしい」や「頑強」の意味合いです。「卑しい」とか、「卑下している」と解釈すると、天皇の兵が弱々しくなります。天皇の兵(つわもの)は誰にも負けない立派な武士(もののふ)なのです。
 長くなりました。この本来の「醜」の言葉を下に、集歌117の歌を見てみます。すると、私の理解では集歌2635の歌の世界と同じ世界が現れます。

舎人皇子御謌一首
標訓 舎人皇子の御歌一首
集歌0117 大夫哉 片戀将為跡 嘆友 鬼乃益卜雄 尚戀二家里
訓読 大夫(ますらを)や片恋せむと嘆けども鬼(しこ)の大夫(ますらを)なほ恋ひにけり
私訳 人の上に立つ立派な男が心を半ば奪われる恋をするとはと嘆いていると、その人の振る舞いを嘆いたこの頑強で立派な男である私が貴女に恋をしてしまった。

舎人娘子奉和謌一首
標訓 舎人娘子の和(こた)へ奉(たてまつ)れる歌一首
集歌0118 嘆管 大夫之 戀礼許曽 吾髪結乃 漬而奴礼計礼
訓読 嘆きつつ大夫(ますらを)の恋ふれこそ吾が髪結(かみゆひ)の漬(ひ)ぢてぬれけれ
私訳 恋を煩う人を何たる軟弱と嘆く一方、立派な男子である貴方が私を恋して下さるので、私の髪を束ねた結い紐も濡れて解けたのです。

 この舎人皇子と舎人娘子との相聞は恋の歌の交換のようですが、集歌118の歌は表記において大夫の礼、娘子の礼とその二人の間の礼と三回礼の言葉を使い、裏に三顧の礼の意味合いも持たせています。非常に高度な人麻呂調の和歌です。それでいて、歌には褥で白い裸体に髪を解き流し男性を迎える女性の濡れた性的興奮があります。
 この高度な作歌と元正天皇から天平年間初期に重要な役割を果たした舎人皇子にゆかりの歌として、もし、集歌2635の歌が舎人皇子の相聞の御歌を示唆するのですと、当然、万葉集の歌々の中で欠くことのできない歌になります。


参考 私の「醜」の言葉の理解による解釈事例
集歌3062 萱草 垣毛繁森 雖殖有 鬼之志許草 猶戀尓家利
訓読 萱草(わすれくさ)垣(かき)もしみみに植ゑたれど鬼(しこ)の醜草(しこくさ)なほ恋ひにけり
私訳 貴女を忘れるために想いを忘れるという萱草を生垣にぎっしり植えたけれど、鬼のような頑強な私なのにまだ貴女に恋をしている。

集歌4373 祁布与利波 可敝里見奈久弖 意富伎美乃 之許乃美多弖等 伊泥多都和例波
訓読 今日よりは返り見なくて大君の醜(しこ)の御楯と出で立つ我れは
私訳 今日からは故郷を返り見ることなく、大君の頑強な御楯として出発する。私は。

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