竹取翁と万葉集のお勉強

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竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その20

2009年05月06日 | 万葉集 竹取翁の歌を鑑賞する
竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その20

原文 禁尾迹女蚊 髣髴聞而
訓読 禁(いさ)め娘子(をとめ)か 髣髴(ほの)聞きて(20)
私訳 男性との交際を禁じられた娘女だろうか、おぼろげに聞いて

飛鳥奈良時代に男性と交際を禁じられたのが采女の女性です。その神事に従事する采女が掻き鳴らす神寄せの梓弓の音を髣髴に聞きました。
それで、人麻呂の吉備の津の釆女の挽歌です。

吉備津釆女死時柿本朝臣人麻呂作謌一首并短謌
標訓 吉備の津の釆女の死かりし時に柿本朝臣人麻呂の作れる歌一首并せて短歌
集歌0217 秋山 下部留妹 奈用竹乃 騰遠依子等者 何方尓 念居可 栲紲之 長命乎 露己曽婆 朝尓置而 夕者 消等言 霧己曽婆 夕立而 明者 失等言 梓弓 音聞吾母 髣髴見之 事悔敷乎 布栲乃 手枕纒而 劔刀 身二副寐價牟 若草 其嬬子者 不怜弥可 念而寐良武 悔弥可 念戀良武 時不在 過去子等我 朝露乃如也 夕霧乃如也
訓読 秋山の したへる妹 なよ竹の とをよる子らは いかさまに 念(おも)ひ居れか 栲縄(たくなは)の 長き命を 露こそば 朝(あした)に置きて 夕(ゆふへ)は 消(き)ゆといへ 霧こそば 夕に立ちて 朝(あした)は 失(う)すといへ 梓弓 音(おと)聞く吾も 髣髴(おほ)に見し こと悔しきを 敷栲の 手枕(たまくら)まきて 剣刀(つるぎたち) 身に副(そ)へ寝(ね)けむ 若草の その嬬(つま)の子は 寂(さぶ)しみか 念(おも)ひて寝(ぬ)らむ 悔しみか 念(おも)ひ恋ふらむ 時ならず 過ぎにし子らが 朝露の如(ごと) 夕霧の如(ごと)
私訳 秋山のように美しく輝く貴女、なめらかな竹のようなしなやかな体をした貴女は、どう思ったのか、栲の繩のように長い命を、露だったら朝に降りて夕べには消え、霧だったら夕べに立ち込めて朝には消え失せるという、采女の貴女が神を呼ぶ梓の弓をかき鳴らす音を聞いた私も、その姿をかすかにしか見なかったことが残念で、閨の寝具の上で手枕を交わして剣や太刀を身に添えるように寄り添って寝た、若草のような若い貴女の恋人は、貴女を亡くした寂しさか、思い出して夜を寝られるでしょう。悔しみか、思い出して恋しがるでしょう。思いもかけず、亡くなった貴女は、朝露のようで、夕霧のようです。

短謌二首
集歌0218 樂浪之 志賀津子等何 罷道之 川瀬道 見者不怜毛
訓読 楽浪(ささなみ)の志賀津(しがつ)の子らが 罷道(まかりぢ)の川瀬の道(みち)を見れば寂(さぶ)しも
私訳 さざなみの志賀の津の貴女の葬送の送りの行列を川瀬の道に見ると寂しいことです

集歌0219 天數 凡津子之 相日 於保尓見敷者 今叙悔
訓読 天(あま)数(かぞ)ふ凡津(おほつ)の子が逢ひし日におほに見しくは今ぞ悔しき
私訳 天の星を数える多くの大津の貴女に会った日に貴女をぼんやりと見たことは今は悔しいことです。

ここで、集歌217の歌の「若草 其嬬子者」は「若草のその夫の子は」と訓読みするのが普段の正統です。この普段の正統は天智天皇の太后御歌の集歌153の歌の「若草乃嬬之」を「若草の夫の」と読むところに従っています。ところが、「若草乃嬬之」を「若草の夫の」と読むのは倭建命の故事に従った大御葬(おほみはふり)での四歌(ようた)を知らないことからの誤訳ですから、「其嬬」を「その夫」と読むことは出来ません。「若草 其嬬子者」は「若草のその妻の子は」としか読めないことになります。それで、男女が逆転して解釈が違っていますし、若草の形容は「子」に対するものとしています。
また、集歌219の歌での「見る」行為は、その対象をはっきり認識すると云う行為でもありますから、若い女性を「見る」行為は肉体関係を想像させます。それで、人麻呂は「おほに見る」と詠って、歌においてはかすかにその存在を知っているとしているのです。実際は、神事や宮中行事で顔かたちは十分に知っている相手です。それで、「秋山の したへる妹 なよ竹の とをよる子らは」と吉備の津の釆女の容姿は十分に認識していますし、そして、同時に葬儀参列者の認識です。
蛇足ですが、歌の吉備津采女の女性については諸説ありますが、柿本氏や高市皇子の母方の宗像氏に関係する備中国都宇郡(岡山市津寺地区)の出身の采女の女性の説を採用しています。この歌は、人麻呂が高市皇子の下で鉱山関係の業務に従事していた時代に、若き高市皇子の密かな愛人である吉備津采女が妊娠し自殺した時に、人麻呂が高市皇子へ捧げた挽歌でしょう。推定で高市皇子が十七歳位、相手の吉備津采女が少し年上の十九歳ぐらいでしょうか。

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