竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その29

2009年05月15日 | 万葉集 竹取翁の歌を鑑賞する
竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その29

原文 還立 路尾所来者
訓読 還へり立ち 道を来れば(29)
私訳 帰ろうと道を歩いて来ると

歌の意味と「還へす」と「道を来る」の言葉から集歌0781の歌を見つけました。本来は、長歌のもじり歌の対象となる万葉集の歌は集歌0781の歌ですが、集歌0781の歌は大伴家持と紀女郎との相聞歌七首で構成する組歌の中の一首ですので、先に七首を紹介してこの歌との説明をします。
なお、この相聞歌七首は、万葉集で数少ない天平十三年(741)の大養徳(やまと)恭仁(くに)大宮(おおみや)を詠う歌でもあります。

大伴宿祢家持贈紀女郎謌一首
標訓 大伴宿祢家持の紀女郎に贈れる歌一首
集歌775 鶉鳴 故郷従 念友 何如裳妹尓 相縁毛無寸
訓読 鶉鳴く故(ふ)りにし郷(さと)ゆ念(おも)へども何ぞも妹に逢ふ縁(よし)も無き
私訳 すっかり面影も無いように寂れてしまって鶉が鳴くようなるような古き里、そんな昔から貴女を慕っているのですが、どのような訳か、愛しい貴女に逢う術がありません。

紀女郎報贈家持謌一首
標訓 紀女郎の報(こた)へ家持に贈れる歌一首
集歌776 事出之者 誰言尓有鹿 小山田之 苗代水乃 中与杼尓四手
訓読 事(こと)出(で)しは誰が言(こと)にあるか小山田(をやまだ)の苗代(なはしろ)水(みづ)の中淀(なかよど)にして
私訳 最初に会いたいと云い出したのは誰の言葉でしょうか、山の田の苗代の水が澱むように途中で会いに来ることを躊躇されて。

大伴宿祢家持更贈紀女郎謌五首
標訓 大伴宿祢家持の更らに紀女郎に贈れる歌五首
集歌777 吾妹子之 屋戸乃籬乎 見尓徃者 盖従門 将返却可聞
訓読 吾妹子が屋戸(やと)の籬(まがき)を見に行かばけだし門(かと)より返(かへ)してむかも
私訳 愛しい貴女の屋敷の垣根を見に行くと、きっと、中にも入れてくれずに門から私を追い返すのでしょうね。

集歌778 打妙尓 前垣乃酢堅 欲見 将行常云哉 君乎見尓許曽
訓読 うつたへに前垣(まえがき)の姿見まく欲(ほ)り行かむと言へや君を見にこそ
私訳 必ずしも貴女の屋敷の垣根だけを見てみたくて行くのではありません、貴女に逢いたくいくのです。

集歌779 板盖之 黒木乃屋根者 山近之 明日取而 持将参来
訓読 板葺(いたふき)の黒木(くろき)の屋根(やね)は山近し明日(あした)取りて持ちて参(ま)ゐ来(こ)む
私訳 板葺きの黒木の屋根の新嘗宮のある恭仁(くに)の都は平山(ならやま)に近いので、明日、黒木に因む尾花を取って貴女の許に持参しましょう。

集歌780 黒樹取 草毛苅乍 仕目利 勤和氣登 将譽十方不有
訓読 黒樹(くろき)取り草も刈りつつ仕(つか)へめど勤(いそ)しき奴(わけ)と誉(ほ)めむともあらず
私訳 行宮(かりのみや)でない新しい宮殿の新嘗宮で使う黒樹を取り束草(あつかくさ)の麁草(あらくさ)も刈りつつ天皇に仕えていますが、こうして勤勉に貴女に逢いに来ている私をまめな男とも貴女は誉めてもくれません。

集歌0781 野干玉能 昨夜者令還 今夜左倍 吾乎還莫 路之長手呼
訓読 ぬばたまの昨夜(きそ)は還(かへ)しつ今夜(こよひ)さへ吾を還(かへ)すな道の長手を
私訳 真っ暗な昨夜は逢ってもくれないで還しましたね。今夜こそは、逢わないと云って私を追い返さないで、暗い夜の長い道を。

 若き家持と歌の遣り取りを行なった紀女郎は、およそ、大伴旅人や坂上郎女と同じ時代の女性です。それが、集歌775の歌の「鶉鳴く故りにし郷ゆ」です。つまり、家持は母親と同じ年代の女性と歌の遣り取りを行なっています。
 この歌の世界は恋人の許を訪ねるのではなく、弓削皇子と額田王との吉野宮からの相聞のような関係です。家持の歌の先生には、このように坂上郎女や紀女郎たちの女流の人々が多かったのかもしれません。竹取翁の長歌のもじり歌に採用されたのは、家持の歌よりも幽かな大養徳恭仁大宮の歌の方の意味合いが強いと思います。

コメント   この記事についてブログを書く
« 竹取翁の歌のお勉強 長歌の... | トップ | 竹取翁の歌のお勉強 長歌の... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

万葉集 竹取翁の歌を鑑賞する」カテゴリの最新記事