竹取翁と万葉集のお勉強

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柿本朝臣人麻呂の歌並びに人麻呂歌集の歌 5

2013年01月13日 | 柿本朝臣人麻呂歌集及び万葉集に載る歌集
柿本朝臣人麻呂の歌並びに人麻呂歌集の歌

柿本朝臣人麿妻死之後泣血哀慟作歌二首并短哥
標訓 柿本朝臣人麿の妻死りし後に泣(い)血(さ)ち哀慟(かなし)みて作れる歌二首并せて短歌
集歌207 天飛也 軽路者 吾妹兒之 里尓思有者 懃 欲見騰 不己行者 人目乎多見 真根久往者 人應知見 狭根葛 後毛将相等 大船之 思憑而 玉蜻 磐垣渕之 隠耳 戀管在尓 度日乃 晩去之如 照月乃 雲隠如 奥津藻之 名延之妹者 黄葉乃 過伊去等 玉梓之 使乃言者 梓弓 聲尓聞而(一云、聲耳聞而) 将言為便 世武為便不知尓 聲耳乎 聞而有不得者 吾戀 千重之一隔毛 遣悶流 情毛有八等 吾妹子之 不止出見之 軽市尓 吾立聞者 玉手次 畝火乃山尓 喧鳥之 音母不所聞 玉桙 道行人毛 獨谷 似之不去者 為便乎無見 妹之名喚而 袖曽振鶴(或本、有謂之名耳聞而有不得者句)

訓読 天(あま)飛(と)ぶや 軽し道は 吾妹児し 里にしあれば ねもころに 見まく欲(ほ)しけど 止(や)まず行かば 人目を多(おほ)み 数多(まね)く行かば 人知りぬべみ さね葛(かづら) 後も逢はむと 大船し 思ひ憑(たの)みて 玉かぎる 磐(いは)垣(かき)淵(ふち)し 隠(こ)りのみ 恋ひつつあるに 渡る日の 暮れ去(い)ぬしがごと 照る月の 雲隠(くもかく)るごと 沖つ藻し 靡きし妹は 黄葉(もみちは)の 過ぎて去(い)にきと 玉梓(たまずさ)し 使(つかひ)の言へば 梓(あずさ)弓(ゆみ) 音に聞きて (一は云はく、 音のみ聞きて) 言はむ術(すべ) 為(せ)むすべ知らに 音のみを 聞きてあり得(え)ねば 吾が恋ふる 千重(ちへ)し一重(ひとへ)も 慰(なぐさ)もる 情(こころ)もありやと 吾妹子し 止(や)まず出で見し 軽し市に 吾が立ち聞けば 玉(たま)襷(たすき) 畝傍の山に 喧(な)く鳥し 音(こへ)も聞こえず 玉桙し 道行く人も ひとりだに 似てし去(ゆ)かねば 術(すべ)を無み 妹し名呼びて 袖ぞ振りつる (或る本に、「名のみを聞きてありえねば」といへる句あり)

私訳 空を飛ぶのか、雁よ、その言葉のひびきのような軽の路は私の愛しい貴女の子供が住んでいる里だと思うと、ねんごろに逢いに行きたいのですが、ひっきりなしに行くと人の目を引くし、たびたび行くと人が気づいてしまうだろう。さね葛の根が絡みあっているように後にも逢えると、大船が確かであるように、いつでも逢えるでしょうと思い込んでいて、美しい玉となって輝く玉石の磐垣の淵に隠れるように想いを隠して貴女に恋しているのに、空を渡る日が暮れていくように、夜照る月が雲に隠れるように、沖の藻が浪に靡き寄せるように私に靡いた貴女は、黄葉のように過ぎて去って行った玉梓の使いが言うので、巫女が神寄せする梓弓の音のように聞いて、答えるべき言葉も為すべきことも思いもつかず、使いが言う言葉の音だけ聞いて、その内容が理解できずにいると、「貴方の恋するあの人へ千回の想いを一回にするような悼む気持ちはありますか」と。私の愛しい貴女が、儀式がある毎にたびたび出かけていって見ていた軽の市の辻に私が立ち、辻占として人の言葉を聞くと、美しい玉の襷をかけるような畝傍の山に普段は鳴き騒ぐ鳥の声も聞こえず、美しい玉の鉾を立てる道を行く人も、誰一人、鳥の行いに似て立ち去らない。貴女の行方を占う辻占も出来ずにどうしようもなく、貴女の名前を口に出して呼んで、魂を呼び戻す袖を振りました。

短歌二首
集歌208 秋山之 黄葉乎茂 迷流 妹乎将求 山道不知母
訓読 秋山し黄葉(もみち)を茂み迷(まと)ひぬる妹を求めむ山道知らずも
私訳 秋山の黄葉の落ち葉が沢山落ちているので道に迷ってしまった。居なくなった貴女を探そう、山の道を知らなくても。
一云、路不知而
一は云はく、路知らずして

集歌209 黄葉之 落去奈倍尓 玉梓之 使乎見者 相日所念
訓読 黄葉(もみちは)し落(ち)り去(ゆ)くなへに玉梓し使(つかひ)を見れば逢ひし日念(おも)ほゆ
私訳 黄葉の落ち葉の散っていくのつれて貴女が去っていったと告げに来た玉梓の使いを見ると、昔、最初に貴女に会ったとき手紙の遣り取りを使いに託した、そんな日々を思い出します。

集歌210 打蝉等 念之時尓(一云、宇都曽臣等 念之) 取持而 吾二人見之 走出之 堤尓立有 槻木之 己知碁智乃枝之 春葉之 茂之如久 念有之 妹者雖有 馮之 兒等尓者雖有 世間乎 背之不得者 蜻火之 燎流荒野尓 白妙之 天領巾隠 鳥自物 朝立伊麻之弖 入日成 隠去之鹿齒 吾妹子之 形見尓置有 若兒乃 乞泣毎 取與 物之無者 鳥穂自物 腋挟持 吾妹子与 二人吾宿之 枕付 嬬屋之内尓 晝羽裳 浦不楽晩之 夜者裳 氣衝明之 嘆友 世武為便不知尓 戀友 相因乎無見 大鳥 羽易乃山尓 吾戀流 妹者伊座等 人之云者 石根左久見乎 名積来之 吉雲曽無寸 打蝉等 念之妹之 珠蜻 髪髴谷裳 不見思者

訓読  現世(うつせみ)と 念(おも)ひし時に (一は云はく、 うつそみと 念(おもほ)ひし) 取り持ちて 吾が二人見し 走出し 堤に立てる 槻(つき)し木し こちごちの枝(え)し 春し葉し 茂きしごとく 念(おも)へりし 妹にはあれど 馮(たの)めりし 児らにはあれど 世間(よのなか)を 背(そむ)きし得(え)ねば かぎるひし 燃ゆる荒野に 白栲し 天(あま)領巾(ひれ)隠(かく)り 鳥じもし 朝立ちいまして 入日なす 隠(かく)りにしかば 吾妹子し 形見に置ける 緑児(みどりこ)の 乞(こ)ひ泣くごとに 取り与(あた)ふ 物し無ければ とりほじも 脇ばさみ持ち 吾妹子と ふたり吾が寝(ね)し 枕(まくら)付く 妻屋(つまや)しうちに 昼しはも うらさび暮らし 夜しはも 息づき明かし 嘆けども 為むすべ知らに 恋ふれども 逢ふ因(よし)を無み 大鳥し 羽易(はがひ)の山に 吾が恋ふる 妹は座(いま)すと 人し云へば 石根(いはね)さくみを なづみ来し 吉(よ)けくもぞ無き 現世(うつせみ)と 念(おも)ひし妹し 玉かぎる 髣髴(ほのか)にだにも 見えなく思へば

私訳 この世の中のことと思っていた時に、お互いの手を取り合って、私と貴女と二人で見た庭先の堤に立つ欅の木のあちらこちらの枝に春の葉が茂るように、生き生きとした貴女でしたが、そして、子供たちには頼りのなる貴女でしたが、人の生き死にの、この世のことの決まりことに背くことが出来なくて、ほむらの燃える荒野に白妙の布で貴女の遺体を包み隠して、鳥たちのように朝に送り立たせて、夕日のときに葬儀を終えて貴女の身をこの世から隠すと、貴女の形見に残した幼子が貴女を求めて泣くごとに、幼子にしゃぶらせることのできるようなものもないければ、親鳥のように腋に抱えてあやし、貴女と二人で私と共寝した枕を置く貴女との部屋の内に心悲しく日を暮らし、夜はため息を付いて朝を向かえ、嘆くのだけどどうしょうもなくて、貴女を恋しく思っても、再び貴女に逢うこともありえない。大きな鳥のような羽を交わすような山に私が恋しい貴女がいますと人が云うので、「巌根さくみ」の地に苦しみながらも来たことよ。貴女に逢えるという良いこともなくて、この世の人と思いたい貴女が、トンボ玉の光のようにほのかにも見えないことを思うと。

短歌二首
集歌211 去年見而之 秋乃月夜者 雖照 相見之妹者 弥年放
訓読 去年(こぞ)見てし秋の月夜(つくよ)は照らせれど相見し妹はいや年(とし)放(さか)る
私訳 去年に見たような、今年の秋の月は夜を同じように照らすけれど、去年の月を二人で見た貴女は、時間とともに想いから離れていくようです。

集歌212 衾道乎 引手乃山尓 妹乎置而 山侄往者 生跡毛無
試訓 衾(ふすま)道(ぢ)を引手の山に妹を置きて山(やま)姪(めひ)行けば生けりともなし
試訳 白妙の布で遺体を隠した葬送の列が行く道の引手の山に貴女を一人置いて、山道を姪たちが帰って行くと自分は生きている実感がありません。
注意 原文の「山侄往者」の「侄」は「姪」の異字体ですが、近年は「徑」の誤字として「山路を往けば」と訓みます。そのため、歌意は違います。

或本歌曰
標訓 或る本の歌に曰く
集歌213 宇都曽臣等 念之時 携手 吾二見之 出立 百兄槻木 虚知期知尓 枝刺有如 春葉 茂如 念有之 妹庭雖在 恃有之 妹庭雖有 世中 背不得者 香切火之 燎流荒野尓 白栲 天領巾隠 鳥自物 朝立伊行而 入日成 隠西加婆 吾妹子之 形見尓置有 緑兒之 乞哭別 取委 物之無者 男自物 腋挟持 吾妹子與 二吾宿之 枕附 嬬屋内尓 旦者 浦不怜晩之 夜者 息衡明之 雖嘆 為便不知 唯戀 相縁無 大鳥 羽易山尓 汝戀 妹座等 人云者 石根割見而 奈積来之 好雲叙無 宇都曽臣 念之妹我 灰而座者

訓読  現世(うつせみ)と 念(おも)ひし時に 携(たづさ)へて 吾が二人見し 出立(いでたち)し 百枝(ももえ)槻(つき)し木 こちごちに 枝(えだ)させるごと 春し葉し 茂きがごとく 念(おも)へりし 妹にはあれど 恃(たの)めりし 妹にはあれど 世間(よのなか)し 背(そむ)きし得(え)ねば かぎるひし 燃ゆる荒野に 白栲し 天(あま)領巾(ひれ)隠(かく)り 鳥じもし 朝立ちい行きて 入日なす 隠(かく)りにしかば 吾妹子し 形見に置ける 緑子(みどりこ)し 乞(こ)ひ哭(な)くごとに 取り委(まか)す 物し無ければ 男(をとこ)じもし 脇ばさみ持ち 吾妹子と 二人吾が宿(ね)し 枕(まくら)付(つ)く 妻屋(つまや)しうちに 旦(あした)しは うらさび暮らし 夜(ゆふへ)しは 息つき明かし 嘆けども 為むすべ知らに 恋ふれども 逢ふ縁(よし)を無み 大鳥し 羽易(はがひ)し山に 汝(な)が恋ふる 妹し座(いま)すと 人し云へば 石(いは)根(ね)割(さく)見(み)て なづみ来し 好(よ)けくもぞ無き 現世(うつせみ)し 思ひし妹が 灰にていませば

私訳 この世の中のことと思っていた時に、お互いの手を取り合って、私と貴女と二人で見た庭先の堤に立つ欅の木のあちらこちらの枝に春の葉が茂るように、生き生きとした貴女でしたが、そして、頼りのなる若い貴女でしたが、人の生き死にの、この世のことの決まりことに背くことが出来なくて、ほむらの燃える荒野に白妙の布で貴女の遺体を包み隠して、鳥たちのように朝に送り立たせて、夕日のときに葬儀を終えて貴女の身をこの世から隠すと、貴女の形見に残した幼子が貴女を求めて泣くごとに、幼子にしゃぶらせることのできるようなものもないければ、男である私の腋に抱えてあやし、貴女と二人で私と共寝した枕を置く貴女との部屋の内に、または、心悲しく日を暮らし、夜はあれこれ考え朝迎え、嘆くのだけどどうしょうもなくて、貴女を恋しく思っても、再び貴女に逢うこともありえない。大きな鳥のような羽を交わすような山に私が恋しい貴女がいますと人が云うので、岩道を踏み分け苦しみながらも来たことよ。貴女に逢えるという良いこともなくて、この世の人と思いたい貴女が火葬の灰になっているので。

短歌三首
集歌214 去年見而之 秋月夜者 雖度 相見之妹者 益年離
訓読 去年(こぞ)見てし秋し月夜(つくよ)は渡れども相見し妹はいや年(とし)離(さか)る
私訳 去年二人で見た秋の月。月夜は過ぎて行くが二人で見た肝心の貴女の面影が年ごとに薄れて逝く。

集歌215 衾路 引出山 妹且 山路念迩 生刀毛無
試訓 衾(ふすま)路(ぢ)し引手し山し妹且(い)きて山路(やまぢ)思ふに生けるともなし
試訳 葬送の野辺路を通って引手の山に貴女が逝ってしまうと、この後、一人で帰る山路の道中を想うと悲しみに生きている感覚がありません。
注意 原文の「妹且」の「且」は「行く」と云う意味の漢字ですが、一般には「置」の誤字として「妹を置きて」と訓みます。

集歌216 家来而 吾屋乎見者 玉床之 外向来 妹木枕
訓読 家(いへ)し来て吾が屋(へ)を見れば玉(たま)床(とこ)し外(よそ)に向きけり妹し木(こ)枕(まくら)
私訳 家に戻ってきて私の家の中を見ると貴女と寝た美しい夜の床でいつもは並んでいるはずの枕が、外の方向を向いている貴女の木枕が。


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