竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉雑記 色眼鏡 二二二 今週のみそひと歌を振り返る その四二

2017年07月15日 | 万葉集 雑記
万葉雑記 色眼鏡 二二二 今週のみそひと歌を振り返る その四二

 今週は集歌1166の歌を中心に遊びます。

集歌1166 古尓 有監人之 覓乍 衣丹揩牟 真野之榛原
訓読 古(いにしへ)にありけむ人し求めつつ衣(ころも)に摺(す)りけむ真野(まの)し榛原(はりはら)
私訳 昔に生きていた人がその木を捜し求めながら衣に摺り染めたでしょう、その真野の榛原よ。

 歌に「真野之榛原」とあります。この「真野」は地名としますと、歌枕などでは「大和の真野」、「摂津の真野」、「近江の真野」、「陸奥の真野」が代表例として扱われます。この度の集歌1166の歌の「真野」は「覊旅作」の部立に含まれますから大和ではないでしょう。そこで前後の歌から邪推した上で「摂津の真野」として鑑賞したいと思います。
 そうしたとき、解説書では現在の神戸市長田区真野町から尻池町を万葉時代の「真野」と考えるようです。ただ、摂津の真野といいましたが、現代で考える摂津と古代の摂津は地理的に完全には一致しませんので注意をお願いします。
 さて、歌に「衣丹揩牟」とありますし、染料は榛です。つまり、榛の摺衣を詠いますから、歌の背景には古代の神事があることになります。なお、平安時代の書物になりますが延喜式に示すように古代において日常に着る榛の樹皮から得る染料で染めた褐色の染衣と榛の葉を白妙の衣に型摺染めした摺衣とはまったくに違うものです。標準的な万葉集の解説書では榛染衣と榛摺衣を混同していますが、注意をお願いします。
 雑談に走りましたが、集歌1166の歌は摂津地方の古代の神話や神事の様子を題材に風景を詠ったものと云うことになります。少し、場所は離れますが神戸市灘区の敏馬は神功皇后伝説地であり、「神功皇后が新羅へのご出兵のお還りの時、この地(神戸市灘区岩屋)で船が動かなくなったので、占い問うと神の御心なりと。故に美奴売の神様をこの地に祀り、船も献上した。」と解説します。古代の神事では御衣(みそ)を着用しますから、敏馬神社の由来や伝承を受けて、集歌1166の歌が詠われたのかもしれません。
 古代において、敏馬は海に突き出た岬状の地形をしており、その後背地で西側の樹帯一帯を大きな木が茂る「真野」と称した可能性があります。真野は地名でもありますが、一方で立派な野原のような意味合いも合わせて持ちます。湿地帯ではない丘陵のような乾いた土地です。

 今回も妄想と邪推での歌の鑑賞です。標準的なものではありませんので、よろしくお願いします。

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