竹取翁と万葉集のお勉強

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柿本朝臣人麻呂の歌並びに人麻呂歌集の歌 6

2013年01月20日 | 万葉 みそひと謌
柿本朝臣人麻呂の歌並びに人麻呂歌集の歌

吉備津采女死時、柿本朝臣人麿作歌一首并短哥
標訓 吉備(きび)の津(つ)の采女(うねめ)の死(みまか)りし時に、柿本朝臣人麿の作れる歌一首并せて短歌
集歌217 秋山 下部留妹 奈用竹乃 騰遠依子等者 何方尓 念居可 栲紲之 長命乎 露己曽婆 朝尓置而 夕者 消等言 霧己曽婆 夕立而 明者 失等言 梓弓 音聞吾母 髪髴見之 事悔敷乎 布栲乃 手枕纏而 釼刀 身二副寐價牟 若草 其嬬子者 不怜弥可 念而寐良武 悔弥可 念戀良武 時不在 過去子等我 朝露乃如也 夕霧乃如也

訓読 秋し山 したへる妹し なよ竹の とをよる子らは いかさまに 思ひしをれか 栲縄(たくなは)し 長き命を 露こそは 朝(あした)に置きて 夕へしは 消ゆと言ひし 霧こそは 夕へし立ちて 朝(あした)しは 失すと言ひし 梓弓 音聞くわれも おほに見し 事悔しきを 敷栲の 手枕まきて 剣刃 身に副(そ)へ寝けむ 若草し その嬬し子は さぶしみか 思ひて寝らむ 悔しみか 思ひ恋ふらむ 時ならず 過ぎにし子らが 朝露のごとや 夕霧のごとや

私訳 秋山の木々の間に光が差し込め、美しく輝く貴女、なめらかな竹のようなしなやかな体をした貴女は、どう思ったのか、栲の繩のように長い命を、露だったら朝に降りて夕べには消え、霧だったら夕べに立ち込めて朝には消え失せるという、采女の貴女が神を呼ぶ梓の弓をかき鳴らす音を聞いた私も、その姿をかすかにしか見なかったことが残念で、閨の寝具の上で手枕を交わして剣や太刀を身に添えるように寄り添って寝た、若草のような貴女の若い恋人は、貴女を亡くした寂しさか、思い出して夜を寝られるでしょう。悔しみか、思い出して恋しがるでしょう。思いもかけず、亡くなった貴女は、朝露のようで、夕霧のようです。

短歌二首
集歌218 楽浪之 志我津子等何(一云、志我乃津之子我) 罷道之 川瀬道 見者不怜毛
訓読 楽浪(さざなみ)し志賀津し子らが(一は云はく、志我の津し子が)罷道(まかりぢ)し川瀬し道し見ればさぶしも
私訳 さざなみが立つの志賀の津で備中国津から来たあの人の葬送の送りの行列を川瀬の道に見ると心寂しいことです。

集歌219 天數 凡津子之 相日 於保尓見敷者 今叙悔
訓読 天(あま)数(かぞ)ふ凡津(おほつ)し子らし逢ひし日しおほに見しくは今ぞ悔しき
私訳 天の星をおおよそに数える、大津の宮であの人に会った日にぼんやりとだけ見たことは今は残念なことです。

讃岐狭峯嶋、視石中死人、柿本朝臣人麿作歌一首并短哥
標訓 讃岐の狭岑(さみねの)島(しま)に、石(いは)の中に死(みまか)れる人を視て、柿本朝臣人麿の作れる歌一首并せて短歌
集歌220 玉藻吉 讃岐國者 國柄加 雖見不飽 神柄加 幾許貴寸 天地 日月與共 満将行 神乃御面跡 次来 中乃水門従 船浮而 吾榜来者 時風 雲居尓吹尓 奥見者 跡位浪立 邊見者 白浪散動 鯨魚取 海乎恐 行船乃 梶引折而 彼此之 嶋者雖多 名細之 狭峯之嶋乃 荒磯面尓 廬作而見者 浪音乃 茂濱邊乎 敷妙乃 枕尓為而 荒床 自伏君之 家知者 往而毛将告 妻知者 来毛問益乎 玉桙之 道太尓不知 鬱把久 待加戀良武 愛伎妻等者

訓読 玉藻よし 讃岐し国は 国柄か 見れども飽かぬ 神柄か ここだ貴き 天地し 日月とともに 満(た)りゆかむ 神の御面(みおも)と 継ぎ来たる 中の水門(みなと)ゆ 船浮けて わが漕来れば 時つ風 雲居に吹くに 沖見れば とゐ波立ちし 辺(へ)し見れば 白波さわく 鯨魚(いさな)取り 海を恐(かしこ)み 行く船の 梶引き折りて をちこちし 島は多けど 名くはし 狭岑(さみね)し島の 荒磯(ありそ)面(も)に いほりてみれば 波し音の 繁き濱辺を 敷栲の 枕になして 荒床に 自(ころ)伏(ふ)し君し 家知らば 行きても告げむ 妻知らば 来も問はましを 玉桙し 道だに知らず おほほしく 待ちか恋ふらむ 愛(は)しき妻らは

私訳 玉のような藻も美しい讃岐の国は、お国柄か何度見ても飽きることがなく、神代の飯依比古の時代からの神柄かなんと貴いことよ。天と地と日と月と共に満ち足りていく伊予の二名の飯依比古の神の御面と云い伝えて来た。その伝え来る中の那珂の湊から船を浮かべて我々が漕ぎ来ると、時ならぬ風が雲の中から吹き付けるので、沖を見るとうねり浪が立ち、岸辺を見ると白波が騒いでいる。大きな魚を取るような広い海を恐み、航行する船の梶を引き上げて仕舞い、あちらこちらに島はたくさんあるのだけれど、名の麗しい狭岑の島の荒磯に停泊してみると、波の音の騒がしい浜辺を夜寝る寝床として荒々しい床に伏している貴方の家を知っているのなら行って告げましょう。妻がここでの貴方の様子を知っていたらここに来て荒磯に伏す理由を聞くでしょう。玉の鉾を立てる立派な道筋すら知らず、おぼろげに貴方を待って恋しく思っているでしょう。貴方の愛しい妻たちは。

反歌二首
集歌221 妻毛有者 採而多宣麻之 佐美乃山 野上乃宇波疑 過去計良受也
訓読 妻もあらば採みてたげまし佐美の山野し上(へ)のうはぎ過ぎにけらずや
私訳 貴方の妻がいたならば摘んで食べたでしょう。狭岑の山の野上の嫁菜は季節を過ぎてしまったようだ。

集歌222 奥波 来依荒磯乎 色妙乃 枕等巻而 奈世流君香聞
訓読 沖し波来よる荒磯(ありそ)を敷栲の枕と枕(ま)きて寝(な)せる君かも
私訳 沖からの波が打ち寄せる荒磯を夜寝る寝床として寝ている貴方です。

柿本朝臣人麿在石見國時臨死時、自傷作歌一首
標訓 柿本朝臣人麿の石見国に在りし時の臨死(みまか)らむとせし時に、自ら傷(いた)みて作れる歌一首
集歌223 鴨山之 磐根之巻有 吾乎鴨 不知等妹之 待乍将有
訓読 鴨山し岩根し枕(ま)けるわれをかも知らにと妹し待ちつつあらむ
私訳 鴨山の岩を枕として死のうとしている私のことを知らないで妻はまっているであろう。
別訓
試訓 鴨山し巌根し枕(ま)けるわれをかも知らにと妹し待ちつつあるらむ
試訳 丹比道の鴨習太(かもならいた)の神の杜(やしろ)のほとりで旅寝をする私を、そうとも知らないで私の愛しい貴女は私を待っているらしい。

柿本朝臣人麿死時、妻依羅娘子作謌二首
標訓 柿本朝臣人麿の死(みまか)りし時に、妻の依羅娘子の作れる歌二首
集歌224 旦今日ゞゞゞ 吾待君者 石水之 貝尓(一云、谷尓)交而 有登不言八方
訓読 旦今日(けふ)旦今日(けふ)とあが待つ君は石見し貝に (一は云はく、 谷に) 交(まじ)りてありと言はずやも
私訳 今朝は帰られるか、今日は帰られるかよ私の待っていたあなたは石川の貝にまじってすでに亡くなられたと言うではありませんか。
別訓
試訓 旦今日(けふ)旦今日(けふ)とわれ待つ君は 石見しし貝(かひ)に交りてありといはずやも
試訳 貴方に再びお目に懸かれるのは今朝か今朝かと恋しく思っているのに、その貴方は、石見の国で出会った、その女を抱いていると云うようなことはありませんよね。
注意 原文の「旦今日ゞゞゞ」の「旦」は、一般には「且」の誤字として「且今日ゞゞゞ」とします。待っている気持ちに「今朝の今日」と「ひとまず今日」の違いがあります。

集歌225 直相者 相不勝 石川尓 雲立渡礼 見乍将偲
訓読 ただに逢(あ)ふは逢ひかつましじ石川に雲立ち渡れ見つつしのはむ
私訳 直接御目にかかることはもうできないでしょう。石川の上に雲よ立ちわたって下さい。それを見ながらお偲びしましょう。
別訓
試訓 直(ただ)逢ひは逢はずに勝る 石川に雲立ち渡れ見つつ偲はむ
試訳 直接、貴方に逢うことは、会わずに手紙を貰うことより勝ります。逢えない私は、雲が想いを届けると云う、あの石川精舎の大伽藍の上に立ち昇る雲を見ながら貴方を恋しく偲びましょう。

丹比真人(名闕)擬柿本朝臣人麿之意報歌一首
標訓 丹比真人(名(な)闕(か)けたり)の柿本朝臣人麿の意に擬(なぞら)へて報(こた)へたる歌一首
集歌226 荒浪尓 縁来玉乎 枕尓置 吾此間有跡 誰将告
訓読 荒浪により来る玉を枕に置き吾ここにありと誰れか告(つ)げけむ
私訳 荒浪の中をよって来る玉を枕もとに置いて自分がここにあるということを誰が知らせたのであろう。
別訓
試訓 荒波に寄りくる玉を枕に置き われこの間(ま)にありと誰か告げなむ
試訳 石見の荒波の中から手にいれた真珠を枕元に置き、私は貴女のすぐそばまで還ってきましたと、誰が貴女に告げるのでしょうか。

或本歌曰
標訓 或る本の歌に曰く
集歌227 天離 夷之荒野尓 君乎置而 念乍有者 生刀毛無
訓読 天(あま)離(さか)る鄙し荒野に君を置きて念(おも)ひつつあれば生けるともなし
私訳 天路も遠い夷の荒野にあなたをおいて、恋いつづけていると生きた心地もない。
別訓
試訓 天離る夷し荒野に君を置きて 思ひつつあれば生けりともなし
試訳 大和から遠く離れた荒びた田舎に貴方が行ってしまっていると思うと、私は恋しくて、そして、貴方の身が心配で生きている気持ちがしません。

右一首歌作者未詳。但、古本、以此歌載於此次也。
注訓 右の一首の歌の作る者は、いまだ詳(つばび)らかならず。ただ、古き本、この歌をもちてこの次(しだい)に載す。

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