竹取翁と万葉集のお勉強

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柿本朝臣人麻呂の歌並びに人麻呂歌集の歌 25

2013年06月09日 | 柿本朝臣人麻呂歌集及び万葉集に載る歌集
柿本朝臣人麻呂の歌並びに人麻呂歌集の歌

正述心緒
標訓 正に心緒を述べたる
集歌2841 我背子之 朝明形 吉不見 今日間 戀暮鴨
訓読 我が背子し朝明(あさけ)し姿よく見ずて今日し間(あひだ)し恋ひ暮らすかも
私訳 私の貴方がまだ薄暗い朝明けの中を帰っていく姿をはっきりと見ないまま、おぼつかなく、今日の一日を恋しく暮らすのでしょうか。

集歌2842 我心 等望使念 新夜 一夜不落 夢見
訓読 我が心見ぬ使(つかひ)思(も)ふ新夜(あらたよ)し一夜(ひとよ)もおちず夢(いめ)し見えこそ
私訳 私の気持ちは心を伝える貴方からの使いを見ることではなく、逢えない夜は一夜を欠けることなく夢の中に貴方の姿を見せてください。

集歌2843 愛 我念妹 人皆 如去見耶 手不纏為
訓読 愛(うつく)しと我が思ふ妹し人皆し行くごと見めや手し纏(まか)ずして
私訳 愛おしいと私が想う貴女を、世の人が皆するようにただ通り行くに、貴女の姿を眺めるだけなのでしょうか。貴女をこの手で抱きしめることもなく。

集歌2844 此日 寐之不寐 敷細布 手枕纏 寐欲
訓読 此(ここ)し日し眠(い)し寝(ね)らえぬは敷栲し手枕(たまくら)纏(まき)て寝まく欲(ほ)りこそ
私訳 この日の夜に寝るのに寝られないのは、床を敷く栲の上で貴女を手枕に抱きしめていっしょに寝たいと想うからでしょう。

集歌2845 忌哉 語 意遣 雖過不過 猶戀
訓読 忌(いと)ふやと物語りして心(こころ)遣(や)り過(す)ぐせど過ぎずなほ恋ひにけり
私訳 貴女のことを避けようと、人と話をして慕う気持ちを遣り過ごしたが、やはり、遣り過ごすことの出来ないのは貴女への恋心です。

集歌2846 夜不寐 安不有 白細布 衣不脱 及直相
訓読 夜し寝(ね)ず安くもあらず白栲し衣(ころも)し脱(ぬ)かじ直(ただ)し逢ふまでに
私訳 夜も貴方を想って寝られず、気持は不安です。貴方に抱かれた時の白い栲の衣は脱ぎません。直接に貴方に逢うまで。

集歌2847 後相 吾莫戀 妹雖云 戀間 年経乍
訓読 後(のち)逢はむ我にな恋ひそ妹し云へど恋(こ)ふる間(あひだ)し年し経(へ)につつ
私訳 「これから後に、貴方の想いを受け入れましょう。でも、今は私を求めないで」と貴女は云いましたが、貴女を慕っている間に年月が過ぎてしまった。

集歌2848 直不相者 有諾 夢谷 何人 事繁
訓読 直(ただ)逢はずはあるはうべなり夢しだに何しか人し事(こと)し繁けむ
私訳 直接に、貴方に逢わないでいることは、そうかもしれません。でも、夢の中ですが、どうして恋人は色々なことをするのでしょう。
或本歌曰、寐者 諾毛不相 夢左倍
或る本の歌に曰はく、
訓読 寝(い)ぬるしは諾(うべ)も逢はなく夢にさへ
私訳 すっかり寝込んでしまうと、夢で逢いましょうといっても逢えません。でも、夢の中までも、
注意 或本の原文の「寐者」の「寐」を、一般には「寤」の誤字として「現(うつつ)には」と訓みます。ここでは原文のままに訓んでいます。それで、歌意は正反対となります。

集歌2849 烏玉 彼夢 見継哉 袖乾日無 吾戀牟
訓読 ぬばたましその夢(いめ)しだに見え継ぐや袖乾(ふ)る日なく吾し恋ふるを
私訳 漆黒の夜に貴女が見るその夢の中の続きを私に見せてください。貴女を恋しくて涙で袖が乾く暇がなく、私は貴女に恋しているのだから。

集歌2850 現 直不相 夢谷 相見与 我戀國
訓読 現(うつつ)には直(ただ)には逢はず夢しだに逢ふと見えこそ我が恋ふらくに
私訳 実際には直接に逢えませんが、夢の中だけでも貴女に逢っていると見えて来い。私は恋しているのだから。

寄物陳思
標訓 物に寄せて思を陳べたる
集歌2851 人所見 表結 人不見 裏紐開 戀日太
訓読 人し見る表(うへ)し結びて人し見ぬ裏紐(したひも)開けて恋ふる日ぞ多(おほ)き
私訳 人が見る上着の紐はきちんと結んでいますが、人が見ることの出来ない下着の紐を解き開けて、夜の夢の中に貴方と恋の行為をする日々が多いことです。
注意 原文の「戀日太」の「戀」は、感情としての「恋」ではなく、行動としての「恋の行い」と解釈しています。集歌2854の歌の「戀」の解釈も同等です。

集歌2852 人言 繁時 吾妹 衣有 裏服牟
訓読 人言(ひとこと)し繁き時には吾妹子し衣(きぬ)しありせば裏し着ましを
私訳 人の噂がうるさいときには、私の愛しい貴女が衣でしたら、人目に付かないように肌身を合わせる下着として着けるのに。

集歌2853 真珠眼 遠兼 念 一重衣 一人服寐
訓読 真珠(またま)まな遠(をち)をし兼ねて思へこそ一重(ひとへ)し衣(ころも)一人着て寝(ぬ)れ
私訳 美しい珠のような目で遠くを見るように、心を凝らして貴方を想い、一枚の衣を独りで掛けて夜を寝ます。
注意 原文の「真珠眼」の「眼」は、一般に「服」の誤字として「真珠つく」と訓みますが、ここでは原文のままに訓んでいます。

集歌2854 白細布 我紐緒 不絶間 戀結為 及相日
訓読 白栲(しろたへ)し我が紐し緒し絶えぬ間(ま)に恋結びせむ逢はむ日までに
私訳 白い栲の夜着の私の紐の緒が切れないうちに、恋の行いの約束をしましょう。次に逢える日まで。

集歌2855 新治 今作路 清 聞鴨 妹於事牟
訓読 新墾(にひはり)し今作る路(みち)さやかにも聞きてけるかも妹し上(へ)しことを
私訳 新しく切り開いた今作った道が清らかであるように、さやに(=はっきりと)聞きました。貴女が新しく路を作るように、時を迎え女性になったという身の上の出来事を。

集歌2856 山代 石田社 心鈍 手向為在 妹相難
訓読 山背(やませ)し石田し社(もり)し心おそく手向(たむけ)したれや妹し逢ひ難(かた)き
私訳 山代の石田の杜に向かって、あやふやな気持ちで祈ったからでしょうか、貴女に逢うことが難しい。

集歌2857 菅根之 惻隠ゞゞ 照日 乾哉吾袖 於妹不相為
訓読 菅(すが)し根し惻(いた)み隠(こも)るる照れる日し乾(ひ)めや吾が袖妹し逢はずして
私訳 菅の根がたくさん大地に隠れている。その言葉のひびきではないが、わびしく同情してしまう。さて、照る太陽の日で乾くでしょうか。涙に濡れた私の袖は。貴女に逢わないでいて。

集歌2858 妹戀 不寐朝 吹風 妹経者 吾与経
訓読 妹し恋ひ寝(い)ねぬ朝明(あさけ)し吹く風し妹にし経(ふ)れば吾さへに経(ふ)れ
私訳 貴女に恋して眠れぬ夜の朝明けに吹く風が、貴女の住む方向から来るのなら、私にもその貴女からの風を触れさせよ。
注意 原文の「吾与経」の「与」は、一部に「共」の誤字として「わがむたに触れ」と訓みます。ここでは「与」の漢字の意味を尊重して原文のままに訓んでいます。

集歌2859 飛鳥川 高川避紫 越来 信今夜 不明行哉
訓読 明日香川高川(たかかわ)避(よ)けし越(こ)え来(き)ししまこと今夜(こよひ)し明(あ)けず行かぬか
私訳 明日香川の土手の高い川辺を避けて、たそがれ時にその川を越えて来て、本当に今夜は日を開けることなく貴女の許に行きましょう。

集歌2860 八鈎川 水底不絶 行水 續戀 是比歳
訓読 八釣川(やつりかは)水底(みなそこ)絶えず行く水し続(つ)ぎてぞ恋ふるこの年ころを
私訳 八釣川の川底を絶えず流れ行く水が次々と流れ下るように、ひたすらに貴女に恋しているこの年月です。
或本歌曰、水尾母不絶
或る本の歌に曰は、
訓読 水尾(みお)も絶えせず
私訳 水の流れも絶えることなく

集歌2861 磯上 生小松 名惜 人不知 戀渡鴨
訓読 礒(いそ)し上(へ)し生(お)ふる小松し名し惜しみ人し知らえず恋ひわたるかも
私訳 石上の岩の上に生える小松のような貴方の名を慈しみ、ひたすら慕っていることをその御方に知られずに私は恋心を抱いています。
注意 人麻呂歌集の歌として、この歌は人麻呂と隠れ妻との相聞として解釈しています。
或本歌曰、巌上尓 立小松 名惜 人尓者不云 戀渡鴨
或る本の歌に曰はく、
訓読 巌(いは)し上(へ)に立てる小松し名し惜しみ人には云はず恋ひ渡るかも
私訳 巌の上に生え立っている小松のように、はっきりと目立つように名を知られることを恐れて、人には告げずに恋い慕い続ける。

集歌2862 山川 水陰生 山草 不止妹 所念鴨
訓読 山川し水陰(みかげ)生(お)ふる山草し止(や)まずも妹し思ほゆるかも
私訳 山の川の水辺に生える山の草が刈っても刈っても無くなることのないように、止むことなく私は貴女を慕っています。

集歌2863 淺葉野 立神古 菅根 惻隠誰故 吾不戀
訓読 浅葉野(あさはの)し立ち神(かむ)さぶる菅し根し惻(いた)隠(こ)も誰(た)がゆゑ吾(あ)が恋ひざらむ
私訳 浅葉野に立ち古びてしまった菅の根が隠れて見えない、その言葉のひびきではないが、わびしく同情してしまう。誰のせいでしょうか、私は貴女との恋の行為が出来ません。
或本歌曰、誰葉野尓 立志奈比垂
或る本の歌にはく、
訓読 誰葉野(たがはの)に立ちしなひたる
私訳 誰葉野に生い立ちたわわに育つ、
右廿三首、柿本朝臣人麻呂之歌集出。
注訓 右の二十三首は、柿本朝臣人麿の歌集に出づ。

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