竹取翁と万葉集のお勉強

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竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その35

2009年05月21日 | 万葉集 竹取翁の歌を鑑賞する
竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その35

原文 古部之 賢人藻
訓読 古(いにしへ)の 賢(さか)しき人も(35)
私訳 昔の賢い人たちも

歌と同じ言葉を万葉集の集歌0339の歌から拾って見ました。この歌は本来十三首で一組の歌で鎮魂と悲痛な心の訴えの世界ですが、漢文・故事と和歌との融合の歌でもあります。漢詩的な鑑賞方法を求められる新たな和歌のジャンルです。

大宰帥大伴卿讃酒謌十三首
標訓 大宰帥大伴卿の酒を讃へる歌十三首
集歌0338 験無 物乎不念者 一坏乃 濁酒乎 可飲有良師
訓読 験(しるし)なき物を念(おも)はずは一杯(ひとつき)の濁れる酒を飲むべくあるらし
私訳 考えてもせん無いことを物思いせずに一杯の濁り酒を飲むほうが良いのらしい。

集歌0339 酒名乎 聖跡負師 古昔 大聖之 言乃宜左
訓読 酒の名を聖(ひじり)と負(お)ほせし古(いにしへ)の大き聖(ひじり)の言(こと)の宣(よろ)しさ
私訳 酒の名を聖と名付けた昔の大聖の言葉の良さよ。

集歌0340 古之 七賢 人等毛 欲為物者 酒西有良師
訓読 古(いにしへ)の七(なな)の賢(さか)しき人たちも欲(ほ)りせしものは酒にしあるらし
私訳 昔の七人の賢人たちも欲しいと思ったのは酒であるらしい。

集歌0341 賢跡 物言従者 酒飲而 酔哭為師 益有良之
訓読 賢(さか)しみと物言ふよりは酒飲みて酔ひ泣きするしまさりたるらし
私訳 賢ぶってあれこれと物事を語るよりは、酒を飲んで酔い泣きするほうが良いらしい。

集歌0342 将言為便 将為便不知 極 貴物者 酒西有良之
訓読 言(い)はむすべ為(せ)むすべ知らず極(きは)まりて貴(たふと)きものは酒にしあるらし
私訳 語ることや、ことを行うことの方法を知らず、出所進退が窮まると、そんな私に貴いものは酒らしい。

集歌0343 中々尓 人跡不有者 酒壷二 成而師鴨 酒二染甞
訓読 なかなかに人とあらずは酒壷(さかつぼ)になりにてしかも酒に染(し)みなむ
私訳 中途半端に人として生きていくより、酒壷になりたかったものを。酒に身を染めてみよう。

集歌0344 痛醜 賢良乎為跡 酒不飲 人乎熟見者 猿二鴨似
訓読 あな醜(みにく)賢(さか)しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む
私訳 なんと醜い。賢ぶって酒を飲まない人をよく見るとまるで猿に似ている。

集歌0345 價無 寳跡言十方 一坏乃 濁酒尓 豈益目八方
訓読 価(あたひ)なき宝といふとも一杯(ひとつき)の濁れる酒にあにまさめやも
私訳 価格を付けようもない貴い宝といっても、一杯の濁った酒にどうして勝るでしょう。

集歌0346 夜光 玉跡言十方 酒飲而 情乎遣尓 豈若目八方
訓読 夜光る玉といふとも酒飲みて情(ここら)を遣(や)るにあに若(し)かめやも
私訳 夜に光ると云う玉といっても、酒を飲んで心の憂さを払い遣るのにどうして及びましょう。

集歌0347 世間之 遊道尓 冷者 酔泣為尓 可有良師
訓読 世間(よのなか)の遊(みや)びの道に冷(つめた)きは酔ひ泣きするにあるべくあるらし
私訳 世間で流行る漢詩の道に冷たいことは、酒に酔って泣いていることであるらしい。

集歌0348 今代尓之 樂有者 来生者 蟲尓鳥尓毛 吾羽成奈武
訓読 この世にし楽しくあらば来(こ)む世には虫に鳥にも吾はなりなむ
私訳 この世が楽しく過ごせるのなら、来世では虫でも鳥でも私はなってもよい。

集歌0349 生者 遂毛死 物尓有者 今生在間者 樂乎有名
訓読 生(い)ける者遂にも死ぬるものにあればこの世なる間(ま)は楽しくをあらな
私訳 生きている者は最後には死ぬものであるならば、この世に居る間は楽しくこそあってほしい。

集歌0350 黙然居而 賢良為者 飲酒而 酔泣為尓 尚不如来
訓読 黙然(もだ)居(を)りて賢(さか)しらするは酒飲みて酔ひ泣きするになほ若(し)かずけり
私訳 ただ沈黙して賢ぶっているよりは、酒を飲んで酔い泣きすることにどうして及びましょう。

この讃酒謌十三首は、万葉集の歌の分類では雜歌に区分されています。そして、伴の大夫と自負する大伴旅人が、何時この歌を詠ったのかが重要です。私の推定で、この歌が詠われたのは神亀六年夏から天平元年冬の間です。
私が推理する万葉集後編「宇梅乃波奈」は、大伴旅人を中心に編纂されています。このため、神亀六年二月の長屋王の変は避けて通れないテーマで、その長屋王の変での旅人の想いがこの讃酒謌十三首です。大王の伴の大夫が「長屋王と膳部王が生き返るなら、来世で虫でも鳥でも何にでもなる。」そんな決心の歌です。それが出来ないから、辛くとも決して泣くことが出来ない伴の大夫が「酒に酔って泣く」のです。大伴旅人は、この世が辛くて泣くのではありません。すべて、酒に酔ったせいなのです。それで、

集歌0342 将言為便 将為便不知 極 貴物者 酒西有良之
訓読 言(い)はむすべ為(せ)むすべ知らず極(きは)まりて貴(たふと)きものは酒にしあるらし

なのです。男が男であり、責任と云う言葉が生きていた時代の進退窮まった男の歌です。
その同士の長屋王への想いは、次の歌です。山田史三方ではありません、依頼主です。

集歌4227 大殿之 此廻之 雪莫踏祢 數毛 不零雪曽 山耳尓 零之雪曽 由米縁勿 人哉莫履祢 雪者
訓読 大殿の この廻(もとは)りの 雪な踏みそね しばしばも 降らぬ雪ぞ 山のみに 降りし雪ぞ ゆめ寄るな 人やな踏みそね 雪は
私訳 大殿のこのまわりの雪を踏むな。しばしばは降らない貴重な雪だ。山にしか降らない雪だ。けっして近寄るな。人よ、踏むな。雪を。

反謌一首
集歌4228 有都々毛 御見多麻波牟曽 大殿乃 此母等保里能 雪奈布美曽祢
訓読 ありつつも見(め)したまはむぞ大殿のこの廻(もとは)りの雪な踏みそね
私訳 いつまでも御覧になるであろう。この大殿のまわりの雪を踏むな。


この想いで竹取翁の歌は閉じています。
もう一度、伴の大夫の大伴旅人の心です。

訓読 黙然(もだ)居(を)りて賢(さか)しらするは酒飲みて酔ひ泣きするになほ若(し)かずけり




詰まらないでしょうが、歌の色々な解釈はそれぞれの歌への感性と心意気です。

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