竹取翁と万葉集のお勉強

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笠朝臣麿  沙弥満誓の謌一首

2011年01月29日 | 柿本朝臣人麻呂歌集及び万葉集に載る歌集
沙弥満誓の謌一首
 この歌は、有名な大伴旅人の酒を讃へる歌十三首の直後に置かれていますから、大伴旅人の歌をある種の長歌と見做すと、その反歌に位置するような歌です。また、その内容も、互いに世の無常を嘆きます。
 ここらは、ブログ「日本挽歌を鑑賞する」を参照願います。普段の解説とは違う世界があり、この集歌351の沙弥満誓の謌と大伴卿の酒を讃へる歌十三首との関係が理解いただけるものと思っています。それで、原文の「且」を「旦」の誤字とはしていません。「且」と「旦」では、世の無常観が違うとする立場です。

沙弥満誓謌一首
標訓 沙弥満誓の謌一首
集歌351 世間乎 何物尓将譬 且開 榜去師船之 跡無如
訓読 世間(よのなか)を何に譬(たと)へむ且(そ)は開(ひら)き榜(こ)ぎ去(い)にし船の跡なきごとし

私訳 この世を何に譬えましょう。それは、(実際に船は航海をしても)帆を開き帆走して去っていった船の跡が残らないのと同じようなものです。


参考歌
太宰帥大伴卿讃酒謌十三首
標訓 太宰帥大伴卿の酒を讃へる歌十三首

集歌338 験無 物乎不念者 一坏乃 濁酒乎 可飲有良師
訓読 験(しるし)なき物を念(おも)はずは一杯(ひとつき)の濁れる酒を飲むべくあるらし

私訳 考えてもせん無いことを物思いせずに一杯の濁り酒を飲むほうが良いのらしい。


集歌339 酒名乎 聖跡負師 古昔 大聖之 言乃宜左
訓読 酒の名を聖(ひじり)と負(お)ほせし古(いにしへ)の大き聖(ひじり)の言(こと)の宣(よろ)しさ

私訳 酒の名を聖と名付けた昔の大聖の言葉の良さよ。


集歌340 古之 七賢 人等毛 欲為物者 酒西有良師
訓読 古(いにしへ)の七(なな)の賢(さか)しき人たちも欲(ほ)りせしものは酒にしあるらし

私訳 昔の七人の賢人たちも欲しいと思ったのは酒であるらしい。


集歌341 賢跡 物言従者 酒飲而 酔哭為師 益有良之
訓読 賢(さか)しみと物言ふよりは酒飲みて酔ひ泣きするしまさりたるらし

私訳 賢ぶってあれこれと物事を語るよりは、酒を飲んで酔い泣きするほうが良いらしい。


集歌342 将言為便 将為便不知 極 貴物者 酒西有良之
訓読 言(い)はむすべ為(せ)むすべ知らず極(きは)まりて貴(たふと)きものは酒にしあるらし

私訳 語ることや、ことを行うことの方法を知らず、出所進退が窮まると、そんな私に貴いものは酒らしい。


集歌343 中々尓 人跡不有者 酒壷二 成而師鴨 酒二染甞
訓読 なかなかに人とあらずは酒壷(さかつぼ)になりにてしかも酒に染(し)みなむ

私訳 中途半端に人として生きていくより、酒壷になりたかったものを。酒に身を染めてみよう。


集歌344 痛醜 賢良乎為跡 酒不飲 人乎熟見 猿二鴨似
訓読 あな醜(みにく)賢(さか)しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似む

私訳 なんと醜い。賢ぶって仏教の教えに従い酒を飲まない人をよく見るとまるで猿に似ている。


集歌345 價無 寳跡言十方 一坏乃 濁酒尓 豈益目八
訓読 価(あたひ)なき宝といふとも一杯(ひとつき)の濁れる酒にあにまさめやも

私訳 価格を付けようもない貴い宝といっても、一杯の濁った酒にどうして勝るでしょう。


集歌346 夜光 玉跡言十方 酒飲而 情乎遣尓 豈若目八方
訓読 夜光る玉といふとも酒飲みて情(ここら)を遣(や)るにあに若(し)かめやも

私訳 夜に光ると云う玉といっても、酒を飲んで心の憂さを払い遣るのにどうして及びましょう。


集歌347 世間之 遊道尓 冷者 酔泣為尓 可有良師
訓読 世間(よのなか)の遊(みや)びの道に冷(つめた)きは酔ひ泣きするにあるべくあるらし

私訳 世間で流行る漢詩の道に疎いこととは、酒に酔って泣いていることであるらしい。


集歌348 今代尓之 樂有者 来生者 蟲尓鳥尓毛 吾羽成奈武
訓読 この世にし楽しくあらば来(こ)む世には虫に鳥にも吾はなりなむ

私訳 この世が楽しく過ごせるのなら、来世では虫でも鳥でも私はなってもよい。


集歌349 生者 遂毛死 物尓有者 今在間者 樂乎有名
訓読 生(い)ける者遂にも死ぬるものにあればこの世なる間(ま)は楽しくをあらな

私訳 生きている者は最後には死ぬものであるならば、この世に居る間は楽しくこそあってほしい。


集歌350 黙然居而 賢良為者 飲酒而 酔泣為尓 尚不如来
訓読 黙然(もだ)居(を)りて賢(さか)しらするは酒飲みて酔ひ泣きするになほ若(し)かずけり

私訳 ただ沈黙して賢ぶっているよりは、酒を飲んで酔い泣きすることにどうして及びましょう。


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