竹取翁と万葉集のお勉強

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笠朝臣金村歌集を鑑賞する  神亀二年(725)の歌 冬十月幸于難波宮

2011年01月03日 | 柿本朝臣人麻呂歌集及び万葉集に載る歌集
神亀二年(725)の歌 冬十月幸于難波宮
 正史によると神亀二年十月十日に天皇は難波宮に御幸されています。また、万葉集に載る歌の順から、この歌はこのときのものと思われます。なお、冬十月だけですと、翌年神亀三年十月十九日にも播磨国への御幸の帰路にこの難波宮に入られていますから、神亀三年の可能性も捨てきれません。万葉集に載る順を信じると、同じ笠金村が詠う集歌935の歌が神亀三年九月十五日の歌とされていますので、ここでは神亀二年十月十日の歌とします。
 万葉集では、この難波宮への御幸の折りに詠われた歌が他にもあります。それが、車持朝臣千年の詠う集歌931の歌と山部宿祢赤人の詠う集歌933の歌です。ここで、先の「天皇」と「大王」の表記問題を再び提起しますと、笠金村と山部赤人は「大王」と詠いますので統治を総べる大王の臣下の立場のようです。一方、車持千年は集歌932の歌の「二寶比天由香名」の表記から「天皇」に使える宮内官のような立場と感じられます。「天皇」と「大王」との、お二方による御幸のような興味ある漢字表現です。
 なお、万葉集を研究する専門家によっては、この車持千年は宮中女官ではなかったかと唱える人もいます。この車持千年については、笠金村の紹介が終わった後に、関連歌として宮中女官の可能性を下に私案で鑑賞したものを紹介します。

冬十月、幸于難波宮時、笠朝臣金村作謌一首并短謌
標訓 冬十月に、難波宮に幸しし時に、笠朝臣金村の作れる謌一首并せて短謌

集歌928 忍照 難波乃國者 葦垣乃 古郷跡 人皆之 念息而 都礼母無 有之間尓 續麻成 長柄之宮尓 真木柱 太高敷而 食國乎 治賜者 奥鳥 味經乃原尓 物部乃 八十伴雄者 廬為而 都成有 旅者安礼十方

訓読 押し照る 難波(なには)の国は 葦垣(あしかき)の 古(ふ)りにし郷(さと)と 人(ひと)皆(みな)の 思ひ息(やす)みて つれもなく ありし間(あひだ)に 続麻(うみを)なす 長柄(ながら)の宮に 真木柱(まきはしら) 太(ふと)高敷(たかし)きて 食国(をすくに)を 治めたまへば 沖つ鳥 味経(あじふ)の原に 物部(もののふ)の 八十伴(やそとも)の壮(を)は 廬(いほり)して 都(みやこ)成(な)したり 旅にはあれども

私訳 一面に光輝く難波の国は、葦で垣根を作るような古びた郷と人が皆、そのように思い忘れ去って、見向きもしない間に、紡いだ麻の糸が長いように長柄の宮に立派な柱を高々とお立てになり君臨なされて、御領土をお治めなさると、沖を飛ぶ味鴨が宿る味経の原に、立派な大王の廷臣の多くのつわものは、仮の宿りをして、さながら都の様をなした。旅ではあるのだが。


反謌二首
集歌929 荒野等丹 里者雖有 大王之 敷座時者 京師跡成宿
訓読 荒野(あらの)らに里はあれども大王(おほきみ)の敷きます時は京師(みやこ)となりぬ

私訳 荒野のような里ではあるが、大王が御出座しになるときは都となる。


集歌930 海末通女 棚無小舟 榜出良之 客乃屋取尓 梶音所聞
訓読 海(あま)未通女(をとめ)棚無し小舟榜(こ)ぎ出(づ)らし旅の宿りに梶の音聞こゆ

私訳 漁師のうら若い娘女が、側舷もない小さな船を操って船出をするようだ、旅の宿りにその船を操る梶の音が聞こえる。


参考歌
車持朝臣千年作謌一首并短謌
標訓 車持朝臣千年の作れる謌一首并せて短謌

集歌931 鯨魚取 濱邊乎清三 打靡 生玉藻尓 朝名寸二 千重浪縁 夕菜寸二 五百重浪因 邊津浪之 益敷布尓 月二異二 日日雖見 今耳二 秋足目八方 四良名美乃 五十開廻有 住吉能濱

訓読 鯨魚(いさな)取り 浜辺(はまへ)を清(きよ)み うち靡き 生(お)ふる玉藻に 朝凪に 千重(ちへ)浪(なみ)寄せ 夕凪に 五百重(いほへ)浪(なみ)寄す 辺(へ)つ浪の いやしくしくに 月に異(け)に 日に日に見とも 今のみに 飽き足(た)らめやも 白浪の い開(さ)き廻(めぐ)れる 住吉(すみのへ)の浜

私訳 鯨魚も取れると云う位の立派な海の浜辺が清らかで、波間に靡き生えている美しい藻に、朝凪に千重の浪が寄せ、夕凪に五百重の浪が寄せる、その岸辺に寄す浪が、次ぎ次ぎと寄せるように月を重ね、日々に見ていても、今このように見るだけで、見飽きるでしょうか。白波が花飛沫を咲かせている住吉の浜よ。


反謌一首
集歌932 白浪之 千重来縁流 住吉能 岸乃黄土粉 二寶比天由香名
訓読 白浪の千重(ちへ)に来(き)寄(よ)する住吉(すみのへ)の岸の黄土(はにふ)に色付(にほひ)て行かな

私訳 白浪が千重に寄せ来る住吉の岸の黄土の色を、思い出に衣に染めて往きたい。


山部宿祢赤人作謌一首并短謌
標訓 山部宿祢赤人の作れる謌一首并せて短謌

集歌933 天地之 遠我如 日月之 長我如 臨照 難波乃宮尓 和期大王 國所知良之 御食都國 日之御調等 淡路乃 野嶋之海子乃 海底 奥津伊久利二 鰒珠 左盤尓潜出 船並而 仕奉之 貴見礼者

訓読 天地(あまつち)の 遠きが如く 日月の 長きが如く 押し照る 難波の宮に 吾(わ)ご大王(おほきみ) 国知らすらし 御食(みけ)つ国 日の御調(みつき)と 淡路の 野島(のしま)の海人(あま)の 海(わた)の底(そこ) 沖つ海石(いくり)に 鰒(あはび)珠(たま) さはに潜(かづ)き出(で) 船並(な)めて 仕(つか)へ奉(まつ)るし 貴(とほと)し見れば

私訳 天と地が永遠であるように、日と月が長久であるように、照る陽に臨む難波の宮で吾らの大王がこの国を統治される。御食を奉仕する国、天皇への御調をする淡路の野島の海人が、海の底、その沖の海底にある岩にいる鰒の玉を大勢で潜水して取り出す。船を連ねて天皇に奉仕している姿を貴いと見ていると。


反謌一首
集歌934 朝名寸二 梶音所聞 三食津國 野嶋乃海子乃 船二四有良信
訓読 朝凪に梶(かぢ)の音(おと)聞こゆ御食(みけ)つ国野島(のしま)の海人(あま)の船にしあるらし

私訳 朝の凪に梶の音が聞こえる。御食を奉仕する国の野島の海人の船の音らしい。


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