竹取翁と万葉集のお勉強

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竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その33

2009年05月19日 | 万葉集 竹取翁の歌を鑑賞する
竹取翁の歌のお勉強 長歌のもじり歌 その33

原文 古部 狭々寸為我哉 端寸八為
訓読 古(いにしへ)の 小幸(ささき)し我れや 愛(は)しきやし(33)
私訳 昔に少し幸せを感じた私ですが、愛しいでしょう

長歌のもじり歌の「狭々寸為」を「ささきし」と読んでの「小幸し」です。ここから、「いにしへ」、「さき」、「はしき」の言葉と歌の意味から、集歌0111から0113までの三首の組み歌を想像しました。

幸于吉野宮時、弓削皇子贈与額田王謌一首
標訓 吉野宮に幸しし時に、弓削皇子の額田王に贈り与へたる歌一首
集歌0111 古尓 戀流鳥鴨 弓絃葉乃 三井能上従 鳴濟遊久
訓読 古(いにしへ)に恋ふる鳥かも弓絃葉(ゆづるは)の御井(みゐ)の上より鳴き渡り行く
私訳 昔を恋うる鳥だろうか、弓絃葉の御井の上を鳴きながら渡っていく

額田王和謌一首 従倭京進入
標訓 額田王の和へ奉れる歌一首 倭の京より奉り入る
集歌0112 古尓 戀良武鳥者 霍公鳥 盖哉鳴之 吾念流碁騰
訓読 古(いにしへ)に恋ふらむ鳥は霍公鳥けだしや鳴きし吾(わ)が念(おも)へるごと
私訳 昔を恋しがる鳥は霍公鳥です。さぞかし鳴いたでしょう。私が想っているように。

従吉野折取蘿生松柯遣時、額田王奉入謌一首
標訓 吉野より蘿生せる松の柯を折り取りて遣はしし時に、額田王の奉り入れたる歌一首
集歌0113 三吉野乃 玉松之枝者 波思吉香聞 君之御言乎 持而加欲波久
訓読 み吉野の玉松(たままつ)が枝(え)は愛(は)しきかも君が御言(みこと)を持ちて通はく
私訳 み吉野の美しい松の枝は愛しいものです。物言わぬその松の枝自身が、貴方の御言葉を持って遣って来ました。

これは、弓削皇子の持統四年(690)前後の持統天皇の吉野遊覧の時の歌と思われます。ちょうど、年代的には紀皇女への恋慕の歌四首が詠まれたときと、ほぼ、同時代となるようです。学問が面白くなったときと、異性を恋の対象として強く思うようになった時代が重なりますので、多感な十八歳前後の青春だったようです。
最初に、弓削皇子と額田王との二人の間での歌の遣り取りの風景を確認します。
まず、弓削皇子から最初の謎懸け歌が、吉野の皇子から飛鳥御浄原宮に居る額田王の許に贈られたようです。それが、集歌111です。その歌に対する額田王の返歌が集歌112ですが、これも含みを持たせています。私は、この額田王からの返歌に対する答えが、歌ではなく弓削皇子が贈った「苔生す松の枝」だったと思っています。この皇子の答えに額田王は満足したようです。
この歌の遣り取りの風景を殊更に細かく説明するのも興ざめかも知れませんが、確認のために少し触れます。これらの遣り取りは、集歌111の歌の中から初夏に鳴き渡る鳥の季節感と「古に恋ふる鳥かも」から、霍公鳥を導き出すところから始まります。この謎懸け歌での下句はおまけと思っています。無理に御井伝説や常緑の弓絃葉から永遠の命を引き出す必要はないと思います。吉野の自然の風景を歌ったもので、普通の人では気付かない謎を隠しているだけと思っています。
次に、額田王の返歌の「けだしや鳴きし吾が念へるごと」が難しいのです。霍公鳥は歌の世界では「不如帰去(帰り去くに如かず)」と中国語で鳴くのですが、それだけでは額田王の謎に答えたことになりません。さて、額田王は、どこに帰るのでしょうか。そして、「吾が念へるごと」とは何を希望したのでしょうか。ここに、額田王は含みを持たしているのです。額田王は、弓削皇子の歌の初句の「古尓」を繰り返すことで、謎をかけているのです。つまり、「若かった、昔の私に戻りたい。」の謎を隠しているのです。それで、額田王へ再度の返歌の代わりに、弓削皇子は長寿を祝う「苔生す松の枝」を、何の文も付けずに贈ったのです。
だから、額田王は集歌113で弓削皇子を誉めたのです。歌の生徒の成長に、目を見張るものがあったでしょうし、老女に長寿を願う言葉を、周囲が分かるような短歌の形で直接に贈るような不風流ではありません。教養ある額田王が見れば分かるとして、何も云わずに「苔生す松の枝」を贈るのが風流です。その皇子の配慮が愛しいのですし、言わずとも「松の枝」が「君が御言を持ちて通はく」のです。親子ぐらい年の離れた男女ですが、同じ価値観での歌の世界に生きています。紀貫之が云う、「身をあはせたりといふなるべし」の風景です。
この歌の世界は、和歌と云う手段でお互いに謎を掛けながら遠距離の知的な会話をしているのです。恋愛ですと心の通う決まったテーマですが、この歌々は違います。同じ風流の世界が一致しなければ成り立たない会話です。ここが、新しい世界です。
弓削皇子と額田王とは空間を越えての会話ですが、空間と時間を越えると丹比国人と紀貫之の会話になり、丹比国人と人麻呂や旅人との会話になります。

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