竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉集 古曲を鑑賞する 後編

2011年02月25日 | 柿本朝臣人麻呂歌集及び万葉集に載る歌集
万葉集 古曲を鑑賞する 後編



員外思故郷謌兩首
標訓 員外(いんがい)、故郷を思(しの)へる歌両首
集歌847 和我佐可理 伊多久々多知奴 久毛尓得夫 久須利波武等母 麻多遠知米也母
訓読 吾(わ)が盛(さか)りいたく降(くた)ちぬ雲に飛ぶ薬食(は)むともまた変若(をち)めやも

私訳 私の人生の盛りは相当降り過ぎたようだ、雲の中を飛ぶ仙人の薬を飲んだとしても若返ることがあるのだろうか。


集歌848 久毛尓得夫 久須利波牟用波 美也古弥婆 伊夜之吉阿何微 麻多越知奴倍之
訓読 雲に飛ぶ薬食(は)むよは都見ば卑(いや)しき吾(あ)が身また変若(をち)ぬべし

私訳 雲の中を飛ぶような仙人になる薬を飲むよりは、奈良の都を見れば卑しい普段の人である私はまた若返るでしょう。


後追和梅謌四首
標訓 後に追ひて梅の歌に和(こた)へたる四首
集歌849 能許利多留 由棄仁末自例留 宇梅能半奈 半也久奈知利曽 由吉波氣奴等勿
訓読 残りたる雪に交(まじ)れる梅の花早くな散りそ雪は消(け)ぬとも

私訳 枝先に消え残る雪に交じって咲く梅の花よ、早く散らないでくれ、雪は解け消えても


集歌850 由吉能伊呂遠 有婆比弖佐家流 有米能波奈 伊麻左加利奈利 弥牟必登母我聞
訓読 雪の色を奪ひて咲ける梅の花今盛(さか)りなり見む人もがも

私訳 雪の白い色を奪ったように咲いている梅の花は、今が盛りです。愛でる人がいてほしい。


集歌851 和我夜度尓 左加里尓散家留 宇梅能波奈 知流倍久奈里奴 美牟必登聞我母
訓読 吾(わ)が屋戸(やと)に盛りに咲ける梅の花散るべくなりぬ見む人もがも

私訳 私の家に盛りと咲いている梅の花は、その花が散る時期になったようだ。今、その花を見る人がいてほしい。


集歌852 烏梅能波奈 伊米尓加多良久 美也備多流 波奈等阿例母布 左氣尓于可倍許曽
訓読 梅の花夢に語らく風流(みや)びたる花と吾(あ)れ思(も)ふ酒に浮かべこそ

私訳 梅の花が夢に語るには「雅な花だと私は想う」、その雅な梅の花である私を酒に浮かべましょう。


 雑談として、普段の解説で集歌1011の歌が「ちりぬともよし」の語感から大伴坂上郎女の詠う集歌1656の歌と関係するとするならば、その集歌1656の歌は、大伴旅人が詠う集歌851と集歌852の歌に深く関係すると考えることも可能です。
 ただし、集歌1656の歌が詠われたのは天平九年(737)五月十九日の聖武天皇の飲酒の禁令以降の天平十年春のことになりますので、大伴坂上郎女は大伴旅人の歌の情景を引用しても、葛井広成の詠う集歌1011の歌とは関係がなくなります。


大伴坂上郎女謌一首
標訓 大伴坂上郎女の謌一首
集歌1656 酒杯尓 梅花浮 念共 飲而後者 落去登母与之
訓読 酒杯(さかづき)に梅の花浮かべ思ふどち飲みての後(のち)は落(ち)りぬともよし

私訳 酒盃に梅の花びらを浮かべ、風流を共にするものが酒を飲んだ後は、花が散ってしまっても良い。



和謌一首
標訓 和(こた)へたる謌一首
集歌1657 官尓毛 縦賜有 今夜耳 将欲酒可毛 散許須奈由米
訓読 官(つかさ)にも許(ゆる)したまへり今夜(こよひ)のみ飲まむ酒(さけ)かも散りこすなゆめ

私訳 天皇は酒は禁制とおっしゃっても、太政官はお許しくださっている。今夜だけ特別に飲む酒なのでしょうか。梅の花よ、決して散ってくれるな。

右、酒者、宮禁制称京中閭里不得集宴。但親々一二飲樂聴許者。縁此和人作此發句焉。
注訓 右は、酒は、宮(みかど)の禁制(きんせい)して称(い)はく「京(みやこ)の中(うち)の閭里(さと)に集宴(うたげ)することを得ざれ。ただ親々一二(はらからひとりふたり)の飲樂(うたげ)を許すは聴く」といへり。此の縁(えにし)に和(こた)ふる人、此の發句(はつく)を作れり。


 今回もとぼけた酔論となりました。最後まで、おつきあい有難うございます。
 ただし、万葉集の過半を占める詠み人知れずの歌の採歌の状況を推測する時、朝廷が関与したと思われる歌舞所の存在と活動は大きいのではないでしょうか。そして、天平年間全般に渡って、その歌舞所の運営に深く関与した葛井連広成の存在は、注目すべき事項と思います。
 また、原万葉集が孝謙天皇に奉呈された和歌集であろうと思うとき、天平勝宝元年に葛井広成が中務少輔に就任したのは偶然でしょうか。単に、詔勅等の文書作成や綬位・綬官の書類整備が主目的だったのでしょうか。場合により、彼が万葉集成立のミッシングリングの一つかもしれません。


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