竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉集巻二十を鑑賞する  集歌4506から集歌4516まで

2012年09月22日 | 万葉集 旧読解
万葉集巻二十を鑑賞する


依興各思高圓離宮處作謌五首
標訓 興に依りて各(おのがじし)高円の離宮(とつみや)処(ところ)を思(しの)ひて作れる歌五首

集歌4506 多加麻刀能 努乃宇倍能美也波 安礼尓家里 多々志々伎美能 美与等保曽氣婆
訓読 高円(たかまと)の野の上の宮は荒れにけり立たしし君の御代(みよ)遠そけば

私訳 高円の野の高台にある宮の屋敷は荒れてしまったようだ。屋敷を建てられた皇子の生前の時代は遠くなったので。

右一首、右中辨大伴宿祢家持


集歌4507 多加麻刀能 乎能宇倍乃美也波 安礼奴等母 多々志々伎美能 美奈和須礼米也
訓読 高円(たかまと)の峰の上の宮は荒れぬとも立たしし君の御名忘れめや

私訳 高円の高台にある宮の屋敷は荒れ果てたとしても皇子のお名前は忘れるでしょうか。

右一首、治部少輔大原今城真人


集歌4508 多可麻刀能 努敝波布久受乃 須恵都比尓 知与尓和須礼牟 和我於保伎美加母
訓読 高円(たかまと)の野辺延ふ葛(くず)の末つひに千代に忘れむ我が王(おほきみ)かも

私訳 高円の野辺に生える葛の蔓が長く延びるように千代の後に忘れられるような我が王の御名でしょうか。

右一首、主人中臣清麿朝臣

集歌4509 波布久受能 多要受之努波牟 於保吉美乃 賣之思野邊尓波 之米由布倍之母
訓読 延ふ葛(くず)の絶えず偲はむ王(おほきみ)の見しし野辺には標(しめ)結ふべしも

私訳 野辺に延びる葛の蔓が絶えないように御偲びする王が眺められた高円の野辺に農民に荒らされないように禁制の標を結ぶべきでしょう。

右一首、右中辨大伴宿祢家持


集歌4510 於保吉美乃 都藝弖賣須良之 多加麻刀能 努敝美流其等尓 祢能未之奈加由
訓読 王(おほきみ)の継ぎて見すらし高円(たかまと)の野辺見るごとに哭(ね)のみし泣かゆ

私訳 葬られた場所から王が今も見ていられるでしょう。高円の野辺を見るたびに亡くなられたことを怨みながら泣けてしまう。

右一首、大蔵大輔甘南備伊香真人


属目山齊作謌三首
標訓 山齊(しま)を属目(み)て作れる謌三首

集歌4511 乎之能須牟 伎美我許乃之麻 家布美礼婆 安之婢乃波奈毛 左伎尓家流可母
訓読 鴛鴦(おしとり)の住む君がこの山斎(しま)今日見れば馬酔木(あしび)の花も咲きにけるかも

私訳 おしどりが棲む、私の大切な貴方のこの庭園を今日見ると、馬酔木の花も咲いていることです。

右一首、大監物御方王
注訓 右の一首は、大監物御方王(みかたのおほきみ)


集歌4512 伊氣美豆尓 可氣左倍見要氏 佐伎尓保布 安之婢乃波奈乎 蘇弖尓古伎礼奈
訓読 池(いけ)水(みず)に影さへ見えて咲きにほふ馬酔木(あしび)の花を袖に扱入(こき)れな

私訳 池の水面に影までも映して咲き誇る馬酔木の花を袖にしごき取って入れましょう。

右一首、右中辨大伴宿祢家持
注訓 右の一首は、右中辨大伴宿祢家持


集歌4513 伊蘇可氣乃 美由流伊氣美豆 氏流麻埿尓 左家流安之婢乃 知良麻久乎思母
訓読 礒影の見ゆる池(いけ)水(みず)照るまでに咲ける馬酔木(あしび)の散らまく惜しも

私訳 磯岩の影が水面に見える池の水面を輝かすほどに咲いた馬酔木の花が散っていくことが惜しいことです。

右一首、大蔵大輔甘南備伊香真人
注訓 右の一首は、大蔵大輔甘南備伊香真人


二月十日、於内相宅餞渤海大使小野田守朝臣等宴謌一首
標訓 二月十日に、内相の宅(いへ)にして渤海大使小野田守朝臣等に餞(はなむけ)して宴(うたげ)せし謌一首

集歌4514 阿乎宇奈波良 加是奈美奈妣伎 由久左久佐 都々牟許等奈久 布祢波々夜家無
訓読 青海原(あおうなはら)風波(かぜなみ)靡き行くさ来さつつむことなく船は速けむ

私訳 青海原は風に波が靡き、貴方が行くも帰るも差し障りもなく、船足は速いでしょう。

右一首、右中辨大伴宿祢家持 (未誦之)
注訓 右の一首は、右中辨大伴宿祢家持 (未だこれを誦(よ)まず)


七月五日、於式部少輔大原今城真人宅、餞因幡守大伴宿祢家持宴謌一首
標訓 七月五日に、式部少輔大原今城真人の宅(いへ)にして、因幡守大伴宿祢家持を餞(はなむけ)して宴(うたげ)せし謌一首

集歌4515 秋風乃 須恵布伎奈婢久 波疑能花 登毛尓加射左受 安比加和可礼牟
訓読 秋風の末吹き靡く萩の花ともにかざさず相(あひ)か別れむ

私訳 秋風が枝先に吹いて靡く萩の花、その花枝を共にかざしましょう。これから互いに別れて行くのだから。

右一首、大伴宿祢家持作之
注訓 右の一首は、大伴宿祢家持の之を作れり


三年春正月一日、於因幡國廳、賜饗國郡司等之宴謌一首
標訓 三年春正月一日に、因幡國(いなばのくに)の廳(ちやう)にして、饗(あへ)を國郡(くにのこほり)の司等(つかさたち)に賜(たま)はりて宴(うたげ)せし謌一首

集歌4516 新 年乃始乃 波都波流能 家布敷流由伎能 伊夜之家餘其騰
訓読 新しき年の始(はじめ)の初春の今日降る雪のいやしけ吉事(よこと)

私訳 新しい年の始めの初春の今日、その今日に降るこの雪のように、たくさん積もりあがれ、吉き事よ。
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万葉集巻二十を鑑賞する  集歌4485から集歌4505まで

2012年09月20日 | 万葉集 旧読解
万葉集巻二十を鑑賞する


集歌4485 時花 伊夜米豆良之母 可久之許曽 賣之安伎良米晩 阿伎多都其等尓
訓読 時の花いやめづらしもかくしこそ見し明らめめ秋立つごとに

私訳 その時々に咲く花に、一層、心が惹かれるのも、このように咲くからこそ。ご覧になり、お心を晴らされるでしょう、秋が深まるたびに。

右、大伴宿祢家持作之
注訓 右は、大伴宿祢家持の之を作れり


天平寶字元年十一月十八日於内裏肆宴謌二首
標訓 天平寶字元年十一月十八日に、内裏(うち)にして肆宴(とよのあかり)せる謌二首

集歌4486 天地乎 弖良須日月乃 極奈久 阿流倍伎母能乎 奈尓乎加於毛波牟
訓読 天地を照らす日月の極(きは)みなくあるべきものを何をか思はむ

私訳 天と地とを照らす太陽や月が限りがないように存在するように、何を物思いしましょう。

右一首、皇太子御謌
注訓 右の一首は、皇太子(ひつぎのみこ)の御(かた)りし謌


集歌4487 伊射子等毛 多波和射奈世曽 天地能 加多米之久尓曽 夜麻登之麻祢波
訓読 いざ子ども狂業(たはわざ)なせそ天地の堅めし国ぞ大和島根は

私訳 さあ、肝の小さい人よ、たわけた事を云ってはいけない。(私が)天と地との国の形を堅めた国です。この大和島根は。

右一首、内相藤原朝臣奏之
注訓 右の一首は、内相藤原朝臣(仲麿)の之を奏(まを)せり
注意 集歌4486の歌の皇太子とは大炊王(後の淳仁天皇)で、その大炊王を皇太子や天皇に擁立したのは義理父である藤原仲麿(後の恵美押勝)であることを踏まえて鑑賞しています。


十二月十八日、於大監物三形王之宅宴謌三首
標訓 十二月十八日に、大監物三形王の宅にて宴(うたげ)せし謌三首

集歌4488 三雪布流 布由波祁布能未 鴬乃 奈加牟春敝波 安須尓之安流良之
訓読 み雪降る冬は今日のみ鴬の鳴かむ春へは明日にしあるらし

私訳 美しい雪が降る冬は今日だけです、鶯の鳴くでしょう春は、明日であるようです。

右一首、主人三形王
注訓 右の一首は、主人(あるじ)三形王


集歌4489 宇知奈婢久 波流乎知可美加 奴婆玉乃 己与比能都久欲 可須美多流良牟
訓読 うち靡く春を近みかぬばたまの今夜(こよひ)の月夜(つくよ)霞みたるらむ

私訳 風に木葉が靡く春を近く感じ、漆黒の今夜の月夜には霞立つでしょう。

右一首、大蔵大輔甘南備伊香真人
注訓 右の一首は、大蔵大輔甘南備伊香真人


集歌4490 安良多末能 等之由伎我敝理 波流多々婆 末豆和我夜度尓 宇具比須波奈家
訓読 あらたまの年行き返り春立たばまづ吾が宿に鴬は鳴け

私訳 年の気の改まる、年が逝き去り、よみ返る、その春になったなら、最初に私の屋敷に鶯よ啼け。

右一首、右中辨大伴宿祢家持
注訓 右の一首は、右中辨大伴宿祢家持


集歌4491 於保吉宇美能 美奈曽己布可久 於毛比都々 毛婢伎奈良之思 須我波良能佐刀
訓読 大き海(うみ)の水底(みなそこ)深く思ひつつ裳引き馴(なら)しし菅原の里

私訳 大海の水底のように深く恋い慕いながら、裳裾を引き門に出て地を均した、その言葉のような、貴方が訪れに馴れた菅原の里。

右一首、藤原宿奈麿朝臣之妻石川女郎、薄愛離別悲恨作歌也 年月未詳
注訓 右の一首は、藤原宿奈麿朝臣の妻(め)石川女郎の、愛(うつくしび)薄(うす)らぎ離別せらえしを悲しび恨みて作れる歌。 年月は未だ詳(つばび)らかならず。


廿三日、於治部少輔大原今城真人之宅宴謌一首
標訓 廿三日に、治部少輔大原今城真人の宅(いへ)にして宴(うたげ)せし謌一首

集歌4492 都奇餘米婆 伊麻太冬奈里 之可須我尓 霞多奈婢久 波流多知奴等可
訓読 月(つく)数(よ)めばいまだ冬なりしかすがに霞たなびく春立ちぬとか

私訳 暦からすると、いまだに冬ですが、しかし、もう霞が棚引く春になったと云うのでしょうか。

右一首、右中辨大伴宿祢家持作
注訓 右の一首は、右中辨大伴宿祢家持の作れり


二年正月三日、召侍従竪子王臣等、令侍於内裏之東屋垣下、即賜玉箒肆宴。于時内相藤原朝臣奉勅、宣諸王卿等、随堪、任意作謌并賦詩。仍應詔旨、各陳心緒作謌賦詩。 未得諸人之賦詩并作謌也
標訓 二年の正月三日に、侍従(じじゆう)・竪子(じゆし)・王臣等(わうしんたち)を召して、内裏(うち)の東(ひむがし)の屋の垣下に侍(さむら)はしめ、即ち玉箒(たまはばき)を賜ひて肆宴(とよのほあかり)す。時に内相藤原朝臣の勅(みことのり)を奉(たてまつ)りて、宣(のりたま)はく「諸(もろもろの)王卿等(おほきみたち)、堪(あ)ふるまにま、意(こころ)に任(まか)せて謌を作り并せて詩を賦」と。仍(よ)りて詔旨(みことのり)に應(こた)へ、各(おのおの)心緒(おもひ)を陳べて謌を作り詩を賦む。
補訓 未だ諸人(もろひと)の賦(よ)める詩并せて作れる謌とを得ず

集歌4493 始春乃 波都祢乃家布能 多麻婆波伎 手尓等流可良尓 由良久多麻能乎
訓読 始(はつ)春(はる)の初子(はつね)の今日の玉(たま)箒手(はばき)に取るからに揺らく玉の緒

私訳 始春の初子の今日の玉箒は、手に取るだけで揺れる玉の緒よ。

右一首、右中辨大伴宿祢家持作。但依大蔵政不堪奏之也
注訓 右の一首は、右中辨大伴宿祢家持の作れり。但し大蔵(おほくら)の政(まつりごと)に依りて之を奏(まを)し堪(あ)へざりき。


集歌4494 水鳥乃 可毛羽能伊呂乃 青馬乎 家布美流比等波 可藝利奈之等伊布
訓読 水鳥の鴨羽(かもは)の色の青馬(あおむま)を今日見る人は限りなしといふ

私訳 水鳥の鴨の羽の色のような青馬を今日見る人は、その命に限りがないと云います。

右一首、為七日侍宴、右中辨大伴宿祢家持、預作此謌。但依仁王會事、却以六日、於内裏召諸王卿等賜酒肆宴、給祿。因斯不奏也
注訓 右の一首は、七日に宴(うたげ)に侍(はべ)るために、右中辨大伴宿祢家持の、預(あらか)じめ此の謌を作れり。但し、仁王會(にわうゑ)の事に依りて、却(かへ)りて六日を以ちて、内裏(うち)に諸(もろもろの)王卿等(おほまえつきみたち)を召して酒を賜ひて肆宴(とよのあかり)し、祿を給ひき。これに因りて奏(もを)さざりき。


六日、内庭假植樹木、以作林帷而為肆宴謌
標訓 六日に、内(うち)の庭に假(かり)に樹木を植ゑ、以ちて林帷(かきしろ)と作(な)して、肆宴(とよのあかり)せる謌

集歌4495 打奈婢久 波流等毛之流久 宇具比須波 宇恵木之樹間乎 奈伎和多良奈牟
訓読 うち靡く春ともしるく鴬は植木の木間(このま)を鳴き渡らなむ

私訳 風に木葉が靡く春だとはっきり知られるように、鶯は植木の木々の間を啼き渡るでしょう。

右一首、右中辨大伴宿祢家持 (不奏)
注訓 右の一首は、右中辨大伴宿祢家持 (奏(もを)さず)


二月、於式部大輔中臣清麿朝臣之宅宴謌十首
標訓 二月に、式部大輔の中臣清麿朝臣の宅(いへ)にして宴(うたげ)せる歌十首

集歌4496 宇良賣之久 伎美波母安流加 夜度乃烏梅能 知利須具流麻弖 美之米受安利家流
訓読 恨めしく君はもあるか宿の梅の散り過ぐるまで見しめずありける

試訳 あなたは、何と、うらめしい人でしょう。梅の花が咲き散って実を結ぶように、お宅で保管してあった大伴旅人の「烏梅の花の宴」の歌集が、このように「宇梅乃波奈(うめのはな)」と云う歌集して実を結ぶまで見せてくださらなかったのですね。

右一首、治部少輔大原今城真人


集歌4497 美牟等伊波婆 伊奈等伊波米也 宇梅乃波奈 知利須具流麻弖 伎美我伎麻左奴
訓読 見むと言はば否と言はめや梅の花散り過ぐるまで君が来まさぬ

試訳 そうではありません。貴方が「宇梅乃波奈」を見たいとおっしゃれば、どうしていやだといいましょう。梅の花が咲き散り実になるように「宇梅乃波奈」の完成まで、あなたがおいでにならなかっただけですよ。

右一首、主人中臣清麿朝臣


集歌4498 波之伎余之 家布能安路自波 伊蘇麻都能 都祢尓伊麻佐祢 伊麻母美流其等
訓読 はしきよし今日の主人は礒松の常にいまさね今も見るごと

試訳 麗しいこの日の主人である「宇梅乃波奈」の歌集本よ、この屋敷の主人である中臣清麿様の磯の松が常緑であるように、これからも、末長く、変わらなく在ってください。今、見ている姿のように。

右一首、右中辨大伴宿祢家持


集歌4499 和我勢故之 可久志伎許散婆 安米都知乃 可未乎許比能美 奈我久等曽於毛布
訓読 我が背子しかくし聞こさば天地の神を乞(こ)ひ祈(の)み長くとぞ思ふ

試訳 私の大切な「宇梅乃波奈」である歌集本のあなたが、このようにいらっしゃるのならば、私は天地の神に乞い願い、末世までもあなたが長くあって欲しいと願います。

右一首、主人中臣清麿朝臣


集歌4500 宇梅能波奈 香乎加具波之美 等保家杼母 己許呂母之努尓 伎美乎之曽於毛布
訓読 梅の花香をかぐはしみ遠けども心もしのに君をしぞ思ふ

試訳 歌集「宇梅乃波奈」が格調高く麗しいので、和歌の世界からは縁遠い私ですが、心から「宇梅乃波奈」を大切に思います。

右一首、治部大輔市原王


集歌4501 夜知久佐能 波奈波宇都呂布 等伎波奈流 麻都能左要太乎 和礼波牟須婆奈
訓読 八千種(やちくさ)の花は移ろふ常盤(ときは)なる松のさ枝を我れは結ばな

試訳 世の移り変わりにつれて、さまざまに美しい歌の花は移り変わっていきます。この屋敷の中臣清麿様の磯の常緑の松の枝に宇梅乃波奈が永遠でありますようにと願いを込めて、私はそのを誓いを結びましょう。

右一首、右中辨大伴宿祢家持


集歌4502 烏梅能波奈 左伎知流波流能 奈我伎比乎 美礼杼母安加奴 伊蘇尓母安流香母
訓読 梅の花咲き散る春の長き日を見れども飽かぬ礒にもあるかも

試訳 大伴旅人の大宰での「烏梅の宴」を想い起こす、この屋敷の庭の梅の花が咲いて散る春の長い一日に「宇梅乃波奈」は、一日中、見ていても見飽きことがないほどにすばらしい。その「宇梅乃波奈」である歌集が中臣清麿様の屋敷にありますね。

右一首、大蔵大輔甘南備伊香真人


集歌4503 伎美我伊敝能 伊氣乃之良奈美 伊蘇尓与世 之婆之婆美等母 安加無伎弥加毛
訓読 君が家の池の白波礒に寄せしばしば見とも飽かむ君かも

試訳 中臣清麿様のお宅の池の白波が池の島の岩に寄せ返すように、何度も何度も繰り返し見たとしても見飽きることのない「宇梅乃波奈」である歌集本ですね。

右一首、右中辨大伴宿祢家持


集歌4504 宇流波之等 阿我毛布伎美波 伊也比家尓 伎末勢和我世古 多由流日奈之尓
訓読 うるはしと我が思ふ君はいや日(ひ)異(け)に来ませ我が背子絶ゆる日なしに

試訳 立派な方と私が思う貴方は、毎日でもおいでいただきたい。私の大切な「宇梅乃波奈」の歌集の世界が、一日でも絶える日がないように。

右一首、主人中臣清麿朝臣

集歌4505 伊蘇能宇良尓 都祢欲比伎須牟 乎之杼里能 乎之伎安我未波 伎美我末仁麻尓
訓読 礒の浦に常夜日も来住む鴛鴦の惜しき我が身は君がまにまに

試訳 中臣清麿様のお宅の池の岸に毎日のように来て住む鴛鴦を口惜しく思う私の心は、貴方の御心のままにしてください。お許しあれば、毎日のように通って来て、私が見たい「宇梅乃波奈」です。

右一首、治部少輔大原今城真人
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万葉集巻二十を鑑賞する  集歌4465から集歌4484まで

2012年09月17日 | 万葉集 旧読解
万葉集巻二十を鑑賞する


喩族謌一首并短謌
標訓 族(やから)に喩(さと)せる謌一首并せて短謌

集歌4465 比左加多能 安麻能刀比良伎 多可知保乃 多氣尓阿毛理之 須賣呂伎能 可未能御代欲利 波自由美乎 多尓藝利母多之 麻可胡也乎 多婆左美蘇倍弖 於保久米能 麻須良多祁乎々 佐吉尓多弖 由伎登利於保世 山河乎 伊波祢左久美弖 布美等保利 久尓麻藝之都々 知波夜夫流 神乎許等牟氣 麻都呂倍奴 比等乎母夜波之 波吉伎欲米 都可倍麻都里弖 安吉豆之萬 夜萬登能久尓乃 可之[波]良能 宇祢備乃宮尓 美也[婆]之良 布刀之利多弖氏 安米能之多 之良志賣之祁流 須賣呂伎能 安麻能日継等 都藝弖久流 伎美能御代々々 加久左波奴 安加吉許己呂乎 須賣良弊尓 伎波米都久之弖 都加倍久流 於夜能都可佐等 許等太弖氏 佐豆氣多麻敝流 宇美乃古能 伊也都藝都岐尓 美流比等乃 可多里都藝弖氏 伎久比等能 可我見尓世武乎 安多良之伎 吉用伎曽乃名曽 於煩呂加尓 己許呂於母比弖 牟奈許等母 於夜乃名多都奈 大伴乃 宇治等名尓於敝流 麻須良乎能等母

訓読 久方の 天の門開き 高千穂の 岳(たけ)に天降りし 皇祖(すめろぎ)の 神の御代より 櫨弓(はじゆみ)を 手握り持たし 真鹿子矢(まかこや)を 手挟み添へて 大久米の ますら健男(たけを)を 先に立て 靫(ゆき)取り負ほせ 山川を 岩根さくみて 踏み通り 国(くに)覓(ま)ぎしつつ ちはやぶる 神を言向け まつろはぬ 人をも和(やは)し 掃き清め 仕へまつりて 蜻蛉島(あきつしま) 大和の国の 橿原の 畝傍の宮に 宮柱 太知り立てて 天の下 知らしめしける 天皇(すめろぎ)の 天の日継と 継ぎてくる 大王(きみ)の御代御代 隠さはぬ 明き心を 皇辺(すめらへ)に 極め尽して 仕へくる 祖(おや)の官(つかさ)と 辞(こと)立(た)てて 授けたまへる 子孫(うみのこ)の いや継ぎ継ぎに 見る人の 語り継ぎてて 聞く人の 鏡にせむを 惜しき 清きその名ぞ おぼろかに 心思ひて 虚言(むなこと)も 祖(おや)の名絶つな 大伴の 氏と名に負へる 大夫(ますらを)の伴

私訳 遥か彼方の天の戸を開き高千穂の岳に天降りした天皇の祖の神の御代から、櫨弓を手に握り持ち、真鹿児矢を脇にかかえて、大久米部の勇敢な男たちを先頭に立て、靫を取り背負い、山川を巖根を乗り越え踏み越えて、国土を求めて、神の岩戸を開けて現れた神を平定し、従わない人々も従え、国土を掃き清めて、天皇に奉仕して、秋津島の大和の国の橿原の畝傍の宮に、宮柱を立派に立てて、天下を統治なされた天皇の、その天皇の日嗣として継ぎて来た大王の御代御代に、隠すことのない赤心を、天皇のお側に極め尽くして、お仕えて来た祖先からの役目として、誓いを立てて、その役目をお授けになされる、われら子孫は、一層に継ぎ継ぎに、見る人が語り継ぎ、聴く人が手本にするはずのものを。惜しむべき清らかなその名であるぞ、おろそかに心に思って、かりそめにも祖先の名を絶つな。大伴の氏と名を背負う、立派な大夫たる男たちよ。


集歌4466 之奇志麻乃 夜末等能久尓々 安伎良氣伎 名尓於布等毛能乎 己許呂都刀米与
訓読 磯城島の大和の国に明らけき名に負ふ伴(とも)の男(を)心つとめよ

私訳 磯城島の大和の国において、高名な名を負う一族の男たちよ、心励みなさい。


集歌4467 都流藝多知 伊与餘刀具倍之 伊尓之敝由 佐夜氣久於比弖 伎尓之曽乃名曽
訓読 剣太刀いよよ磨ぐべし古(いにしへ)ゆさやけく負ひて来にしその名ぞ

私訳 剣太刀、一層ますます磨ぐべきだ、古来、けがれなく負うて来た、その一族の名であるぞ。

右、縁淡海真人三船讒言、出雲守大伴古慈斐宿祢解任。是以家持作此謌也
注訓 右は、淡海真人三船の讒言(ざんげん)に縁り、出雲守大伴古慈斐宿祢の任(まけ)を解(と)かゆ。是を以ちて家持の此の謌を作れり。


臥病悲無常、欲修道作謌二首
標訓 病に臥して無常を悲しび、修道を欲(ほり)して作れる謌二首

集歌4468 宇都世美波 加受奈吉身奈利 夜麻加波乃 佐夜氣吉見都々 美知乎多豆祢奈
訓読 現世(うつせみ)は数なき身なり山川のさやけき見つつ道を尋ねな

私訳 この世では数えられるような身ではない、山川の清らかさを眺めつつ、人の道を尋ねよう。


集歌4469 和多流日能 加氣尓伎保比弖 多豆祢弖奈 伎欲吉曽能美知 末多母安波無多米
訓読 渡る日の影に競ひて尋ねてな清きその道またもあはむため

私訳 大空を渡る太陽の光に競って尋ねよう、清きその人の道に、再び、会うために。


願壽作謌一首
標訓 壽(いのち)を願ひて作れる謌一首

集歌4470 美都煩奈須 可礼流身曽等波 之礼々杼母 奈保之祢我比都 知等世能伊乃知乎
訓読 水泡(みつぼ)なす仮(か)れる身ぞとは知れれどもなほし願ひつ千年(ちとせ)の命を

私訳 この世では水泡のようなかりそめの身だとは知ってはいるが、それでも願う、千年もの命を。

以前謌六首、六月十七日、大伴宿祢家持作
注訓 以前(さき)の謌六首は、六月十七日に、大伴宿祢家持の作れり


冬十一月五日夜、小雷起鳴、雪落覆庭。忽懐盛憐、聊作短謌一首
標訓 冬十一月五日の夜に、小し雷(いかづち)起こり鳴れり、雪落(ふ)りて庭を覆ふ。忽ちに盛(さかん)に憐(あわれみ)を懐(むだ)きて、聊(いささ)かに作れる短謌一首

集歌4471 氣能己里能 由伎尓安倍弖流 安之比奇之 夜麻多知波奈乎 都刀尓通弥許奈
訓読 消残(けのこ)りの雪にあへ照るあしひきの山橘をつとに摘み来な

私訳 消え残る雪に交じりて光り輝く、葦や桧の生える山橘を土産として摘んで来た。

右一首、兵部少輔大伴宿祢家持
注訓 右の一首は、兵部少輔大伴宿祢家持


八日、讃岐守安宿王等、集於出雲掾安宿奈杼麿之家宴謌二首
標訓 八日に、讃岐守安宿王等の、出雲掾安宿奈杼麿の家に集(つど)ひて宴(うたげ)せし謌二首

集歌4472 於保吉美乃 美許登加之古美 於保乃宇良乎 曽我比尓美都々 美也古敝能保流
訓読 大王(おほきみ)の御言(みこと)畏(かしこ)み於保(おほ)の浦をそがひに見つつ京(みやこ)へ上る

私訳 大王の御命令を畏み、於保の浦を背に見て都に上る。

右、掾安宿奈杼麿
注訓 右は、掾安宿奈杼麿


集歌4473 宇知比左須 美也古乃比等尓 都氣麻久波 美之比乃其等久 安里等都氣己曽
訓読 うちひさす京(みやこ)の人に告げまくは見し日のごとくありと告げこそ

私訳 日の光輝く都の人に告げて欲しいことは「昔、会ったままでいる」と告げて欲しい。

右一首、守山背王謌也。主人安宿奈杼麿語云、奈杼麿被差朝集使、擬入京師。因此餞之日、各[作]謌聊陳所心也
注訓 右の一首は、守(かみ)山背王の謌なり。主人(あるじ)安宿奈杼麿の語りて云はく「奈杼麿の朝集使に差(つか)はせえ、京師(みやこ)に入らむとしき。此に因りて餞(はなむけ)せし日に、各(おのおの)此の謌を作りて聊(いささ)かに所心(おもひ)を陳(の)べき」と。


集歌4474 武良等里乃 安佐太知伊尓之 伎美我宇倍波 左夜加尓伎吉都 於毛比之其等久
訓読 群鳥(むらとり)の朝立ち去(い)にし君が上はさやかに聞きつ思ひしごとく

私訳 群鳥が朝飛び立ち行くように、都を立ち去っていった貴方の様子ははっきりと聞きました、私が思っていたように。

一云 於毛比之母乃乎
一(ある)は云はく、
訓読 思ひしものを

右一首、兵部少輔大伴宿祢家持、後日、追和出雲守山背王謌作之
注訓 右の一首は、兵部少輔大伴宿祢家持、後の日に、出雲守山背王の謌に追ひて和(こた)へて之を作れり


廿三日、集於式部少丞大伴宿祢池主之宅飲宴謌二首
標訓 廿三日に、式部少丞大伴宿祢池主の宅(いへ)に集(つど)ひて飲宴(うたげ)せし謌二首

集歌4475 波都由伎波 知敝尓布里之家 故非之久能 於保加流和礼波 美都々之努波牟
訓読 初雪は千重に降りしけ恋ひしくの多かる吾は見つつ偲はむ

私訳 初雪は千重に降り積もれ、物恋しい気持ちが募る私は、それを眺めて物思いをしましょう。


集歌4476 於久夜麻能 之伎美我波奈能 奈能其等也 之久之久伎美尓 故非和多利奈無
訓読 奥山の樒(しきみ)が花の名のごとやしくしく君に恋ひわたりなむ

私訳 奥山の樒の花の名のように、しきりに幾重にも貴方に心を寄せるでしょう。

右二首、兵部大丞大原真人今城
注訓 右の二首は、兵部大丞大原真人今城


智努女王卒後、圓方女王悲傷作謌一首
標訓 智努女王の卒(みまか)りし後に、圓方女王の悲傷(かなし)みて作れる謌一首

集歌4477 由布義利尓 知杼里乃奈吉志 佐保治乎婆 安良之也之弖牟 美流与之乎奈美
訓読 夕霧に千鳥の鳴きし佐保路をば荒しやしてむ見るよしをなみ

私訳 夕霧に千鳥が鳴いていた佐保の道を、ただ、荒らしてしまうでしょうか、お会い出来る機会が無くて。


大原櫻井真人、行佐保川邊之時作謌一首
標訓 大原櫻井真人の、佐保川の邊(ほとり)に行きし時に作れる謌一首

集歌4478 佐保河波尓 許保里和多礼流 宇須良婢乃 宇須伎許己呂乎 和我於毛波奈久尓
訓読 佐保川に凍りわたれる薄氷(うすらひ)の薄き心を吾が思はなくに

私訳 佐保川に凍り渡る薄氷のような、薄き真心を私は持ってはいません。


藤原夫人謌一首   浄御原宮御宇天皇之夫人也。字曰氷上大刀自也
標訓 藤原夫人(ぶにん)の謌一首
補訓 浄御原(きよみはら)の宮に御宇(あめのしたしらしめし)天皇(すめらみこと)の夫人(ぶにん)なり。字を曰はく氷上(ひかみの)大刀自(おほとじ)といへり

集歌4479 安佐欲比尓 祢能未之奈氣婆 夜伎多知能 刀其己呂毛安礼婆 於母比加祢都毛
訓読 朝夕(あさよひ)に音(ね)のみし哭(な)けば焼き太刀の利心(とこころ)も吾(あれ)は思ひかねつも

私訳 朝に夕べに声を上げて泣くと、焼き太刀のようなあれこれ考える鋭い気持ちなど、私は思うことも出来ない。


集歌4480 可之故伎也 安米乃美加度乎 可氣都礼婆 祢能未之奈加由 安佐欲比尓之弖 (作者未詳)
訓読 畏(かしこ)きや天(あめ)の御門を懸けつれば音のみし泣かゆ朝夕(あさよひ)にして (作れる者は未だ詳(つばび)らかならず)

私訳 畏れ多いことです。天皇が神上がりなされた天の御門を心に思うと、声を上げて泣いてしまう。朝に夕べに。

右件四首、傳讀兵部大丞大原今城
注訓 右の件の四首は、傳(つた)へて讀めるは兵部大丞大原今城


三月四日、於兵部大丞大原真人今城之宅宴謌一首
標訓 三月四日に、兵部大丞大原真人今城の宅(いへ)にして宴(うたげ)せし謌一首

集歌4481 安之比奇能 夜都乎乃都婆吉 都良々々尓 美等母安加米也 宇恵弖家流伎美
訓読 あしひきの八峯(やつを)の椿つらつらに見とも飽かめや植ゑてける君

私訳 葦や桧の生えるたくさんの峰の椿、その椿を一輪一輪ごとに眺めても見飽きることがあるでしょうか、その椿を庭に植えている貴方。

右、兵部少輔大伴家持属植椿作
注訓 右は、兵部少輔大伴家持、植ゑたる椿に属(つ)けて作れり


集歌4482 保里延故要 等保伎佐刀麻弖 於久利家流 伎美我許己呂波 和須良由麻之目
訓読 堀江越え遠き里まで送り来る君が心は忘らゆましめ

私訳 堀江を越えて遠き里まで見送りに来た貴方のお心使いを忘れられるでしょうか。

右一首、播磨介藤原朝臣執弓、赴任、悲別也。主人大原今城傳讀云尓
注訓 右の一首は、播磨介藤原朝臣執弓の、任(まけ)に赴(おもむ)きて、別れを悲ぶるなり。主人大原今城の傳(つた)へて讀みてしか云ふ。


勝寶九歳六月廿三日、於大監物三形王之宅宴謌一首
標訓 勝寶九歳六月廿三日に、大監物三形王の宅(いへ)にして宴(うたげ)せし謌一首

集歌4483 宇都里由久 時見其登尓 許己呂伊多久 牟可之能比等之 於毛保由流加母
訓読 移り行く時見るごとに心痛く昔の人し思ほゆるかも

私訳 移り行く時を感じるたびに、心が痛く、昔の人を思い浮かべます。

右、兵部大輔大伴宿祢家持作
注訓 右は、兵部大輔大伴宿祢家持の作れり


集歌4484 佐久波奈波 宇都呂布等伎安里 安之比奇乃 夜麻須我乃祢之 奈我久波安利家里
訓読 咲く花は移ろふ時ありあしひきの山菅の根し長くはありけり

私訳 咲く花は色褪せ散り逝く時がある、葦や桧の生える山の山菅の根が長いように、長くはありました。

右一首、大伴宿祢家持悲怜物色變化作之也
注訓 右の一首は、大伴宿祢家持の物色(ぶつしよく)の變化(うつろひ)を悲怜(かなし)びて之を作れり
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万葉集巻二十を鑑賞する  集歌4445から集歌4464まで

2012年09月15日 | 万葉集 旧読解
万葉集巻二十を鑑賞する


即聞鴬哢作謌一首
標訓 即ち鶯の啼くを聞きて作れる歌一首

集歌4445 宇具比須乃 許恵波須疑奴等 於毛倍杼母 之美尓之許己呂 奈保古非尓家里
訓読 鴬の声は過ぎぬと思へどもしみにし心なほ恋ひにけり

私訳 鶯の鳴く季節は過ぎたと思うのだが、鶯の鳴き声に染まった心は、その鳴声が恋しく思ってしまった。

右一首、大伴宿祢家持


同月十一日、左大臣橘卿、宴右大辨丹比國人真人之宅謌三首
標訓 同月十一日に、左大臣橘(諸兄)卿の、右大弁の丹比国人真人の家にして宴(うたげ)せる歌三首

集歌4446 和我夜度尓 佐家流奈弖之故 麻比波勢牟 由米波奈知流奈 伊也乎知尓左家
試訓 吾が八都(やと)に咲ける奈弖之故(なでしこ)幣(まひ)はせむゆめ花散るないやをちに咲け

試訳 私の屋敷にある八代の世に咲いた「奈弖之故」と云う和歌集よ。その完成の祈願をしましょう。決して、和歌の歌花が散ることなく、さあ、これからもずっと永遠に歌花よ咲け

右一首、丹比國人真人壽左大臣謌
注訓 右の一首は、丹比国人真人の左大臣を寿(いは)ふ歌なり。
注意 八都とは、舒明・皇極(斉明)・孝徳・天智・天武・持統・文武・元明天皇の八代の時世を示す。


集歌4447 麻比之都々 伎美我於保世流 奈弖之故我 波奈乃未等波無 伎美奈良奈久尓
試訓 幣(まひ)しつつ君が生(お)ほせる奈弖之故(なでしこ)が花のみ問はむ君ならなくに

試訳 立派なものを創りたいと祈願しながら貴方がお造りになった「奈弖之故」の花(=歌集編纂)だけを目的にするような貴方ではないでしょう。貴方も立派な歌人ではありませんか。

右一首、左大臣和謌
注訓 右の一首は、左大臣の和(こた)えたる謌


集歌4448 安治佐為能 夜敝佐久其等久 夜都与尓乎 伊麻世和我勢故 美都々思努波牟
試訓 あぢさゐの八重咲くごとく八都(やと)代(よ)にを坐(い)ませ我が背子見つつ偲はむ

試訳 紫陽花の小花が沢山に咲くように八代の世の多くの歌を網羅されていらっしゃる奈弖之故の名の歌集の貴方。その咲いた歌花の世界を観賞しながらを偲びましょう。

右一首、左大臣寄味狭藍花詠也
注訓 右一首は、左大臣、味狭藍(あぢさゐ)の花に寄せて詠めり


十八日、左大臣、宴於兵部卿橘奈良麿朝臣之宅謌三首
標訓 十八日、左大臣橘諸兄の、兵部卿橘奈良麿朝臣の宅(いへ)にして宴(うたげ)せる歌三首

集歌4449 奈弖之故我 波奈等里母知弖 宇都良々々々 美麻久能富之伎 吉美尓母安流加母
訓読 奈弖之故(なでしこ)が花取り持ちてうつらうつら見まくの欲しき君にもあるかも

私訳 奈弖之故の花を手に持ってよくよく見ていたいと思うような、奈弖之故のあなたです。

右一首、治部卿船王


集歌4450 和我勢故我 夜度能奈弖之故 知良米也母 伊夜波都波奈尓 佐伎波麻須等母
訓読 吾が背子が八都の奈弖之故(なでしこ)知らめやもいや初花に咲きは増すとも

私訳 私が尊敬あの御方が八代の奈弖之故を知らないことがあるでしょうか。もっともっと、新しい歌の花が咲き増すことはありますが。


集歌4451 宇流波之美 安我毛布伎美波 奈弖之故我 波奈尓奈曾倍弖 美礼杼安可奴香母
訓読 愛(うる)はしみ吾(あ)が思(も)ふ君は奈弖之故(なでしこ)が花になそへて見れど飽かぬかも

私訳 愛はしく大切な人と私が思うあの御方は、奈弖之故を花に見立てて見飽きることはないでしょう。

右二首、兵部少輔大伴宿祢家持追作
注訓 右は二首は、兵部少輔大伴宿祢家持、追ひて作れり


八月十三日、在内南安殿肆宴謌二首
標訓 八月十三日に、内の南の安殿(やすみとの)に在(いま)して肆宴(とよのあかり)せる謌二首

集歌4452 乎等賣良我 多麻毛須蘇婢久 許能尓波尓 安伎可是不吉弖 波奈波知里都々
訓読 感嬬(をとめ)らが玉裳裾引くこの庭に秋風吹きて花は散りつつ  (感は女+感の当字)

私訳 官女たちが美しい裳裾を引く、この庭に秋風が吹いて花は散り過ぎていく。

右一首、内匠頭兼播磨守正四位下安宿王奏之
注訓 右の一首は、内匠頭兼せて播磨守正四位下安宿王のこれを奏(もを)せり。


集歌4453 安吉加是能 布伎古吉之家流 波奈能尓波 伎欲伎都久欲仁 美礼杼安賀奴香母
訓読 秋風の吹き扱き敷ける花の庭清き月夜(つくよ)に見れど飽かぬかも

私訳 秋風が吹き、花びらをこき敷ける花の庭は、清らかな月夜に眺めるが見飽きることがありません。

右一首、兵部少輔従五位上大伴宿祢 (未奏)
注訓 右の一首は、兵部少輔従五位上大伴宿祢 (未だ奏(まを)さず)


十一月廿八日、左大臣集於兵部卿橘奈良麿朝臣宅宴謌一首
標訓 十一月廿八日に、左大臣の兵部卿橘奈良麿朝臣の宅(いへ)に集(つどい)ひ宴(うたげ)せし謌一首

集歌4454 高山乃 伊波保尓於布流 須我乃根能 祢母許呂其呂尓 布里於久白雪
訓読 高山の巌に生ふる菅の根のねもころそろに降り置く白雪

私訳 高山の巌に生える菅の根のように、ねんごろに降り積もった白雪よ。

右一首、左大臣作
注訓 右の一首は、左大臣の作れる


天平元年、班田之時使葛城王、従山背國贈薩妙觀命婦等所謌一首  副芹子裹
標訓 天平元年に、班田(はんでん)せし時の使葛城王の、山背國より薩妙觀命婦等の所に贈れる謌一首
補訓 芹子(せり)の裹(つと)に副(そ)へたり

集歌4455 安可祢佐須 比流波多々婢弖 奴婆多麻乃 欲流乃伊刀末仁 都賣流芹子許礼
訓読 あかねさす昼は田(た)賜(たひ)てぬばたまの夜のいとまに摘める芹子(せり)これ

私訳 茜が刺す昼は田を民に授けて、漆黒の夜には暇を見つけて摘んだ芹です。


薩妙觀命婦報贈謌一首
標訓 薩妙觀命婦の報(こた)へし贈(おく)れる謌一首

集歌4456 麻須良乎等 於毛敝流母能乎 多知波吉弖 可尓波乃多為尓 世理曽都美家流
訓読 大夫(ますらを)と思へるものを太刀佩きて可尓波(かにほ)の田居(たい)に芹ぞ摘みける

私訳 立派な大夫と思っていましたが、太刀を佩きて可尓波の田んぼで芹を摘まれた。

右二首、左大臣讀之云尓 (左大臣是葛城王 後賜橘姓也)
注訓 右の二首は、左大臣の讀みて之を云ふと。
補訓 左大臣はこれ葛城王なり。 後に橘の姓を賜へり。


天平勝寶八歳丙申、二月朔乙酉廿四日戊申 太上天皇太皇太后幸行於河内離宮 經信以壬子傳幸於難波宮也 三月七日於河内國伎人郷馬國人之家宴謌三首
標訓 天平勝寶八歳丙申、二月朔乙酉にして廿四日戊申に、太上天皇と太皇太后と、河内(かふち)の離宮(とつみや)に幸行(いでま)して、信(ふたよ)を經(へ)、壬子を以ちて難波の宮に傳幸(でんこう)したまへり。三月七日に、河内國の伎人(くれひとの)郷(さと)の馬國人の家にして宴(うたげ)せる謌三首

集歌4457 須美乃江能 波麻末都我根乃 之多波倍弖 和我見流乎努能 久佐奈加利曽祢
訓読 住吉の浜松が根の下(した)生(は)へて吾が見る小野の草な刈りそね

私訳 住吉の浜松の根の下に生える、私が眺める小野の草を刈らないで下さい。

注意 原文の「之多波倍弖」の「波」は、一般に「婆」とし「之多婆倍弖」として「下延へて」と訓見ます。歌意が異なります。

右一首、兵部少輔大伴宿祢家持
注訓 右の一首は、兵部少輔大伴宿祢家持


集歌4458 尓保杼里乃 於吉奈我河波半 多延奴等母 伎美尓可多良武 己等都奇米也母  (古新未詳)
訓読 にほ鳥の息長川(おきながかは)は絶えぬとも君に語らむ辞(こと)尽きめやも  (古新は未だ詳(つばび)らかならず)

私訳 にほ鳥が息が長い、その言葉のような、息長川は水が絶えたとしても、貴方にお話しする物語は尽きません。

右一首、主人散位寮散位馬史國人
注訓 右の一首は、主人(あるじ)散位寮(さんゐのつかさ)の散位馬(うまの)史(ふひと)國人(くにひと)


集歌4459 蘆苅尓 保里江許具奈流 可治能於等波 於保美也比等能 未奈伎久麻泥尓
訓読 葦刈りに堀江漕ぐなる楫の音は大宮人の皆聞くまでに

私訳 葦を刈りに堀江を漕ぐのだろう楫の音は、大宮人の皆が聞こえるまでに響きます。

右一首、式部少丞大伴宿祢池主讀之。即云、兵部大丞大原真人今城、先日他所讀謌者也
注訓 右の一首は、式部少丞大伴宿祢池主のこれを讀める。即ち云はく「兵部大丞大原真人今城の、先日(さきつひ)に他所(あたしところ)にして讀みし謌なり」と。


集歌4460 保利江己具 伊豆手乃船乃 可治都久米 於等之婆多知奴 美乎波也美加母
訓読 堀江漕ぐ伊豆手の舟の楫つくめ音しば立ちぬ水脈(みを)早みかも

私訳 堀江を漕ぐ伊豆人の手による舟の楫を取り付ける目の、音がしばしば響く。水脈の流れが速いのか。


集歌4461 保里江欲利 美乎左可能保流 梶乃音乃 麻奈久曽奈良波 古非之可利家留
訓読 堀江より水脈(みを)さかのぼる梶の音の間なくぞ奈良は恋しかりける

私訳 堀江を通って水脈を遡る梶の音が絶え間ないように、絶え間なく奈良の都が恋しいことです。


集歌4462 布奈藝保布 保利江乃可波乃 美奈伎波尓 伎為都々奈久波 美夜故杼里香蒙
訓読 舟競ふ堀江の川の水際(みなきは)に来居つつ鳴くは都鳥かも

私訳 舟を漕ぎ競う堀江の川の水際に、飛び来て居ながら啼くのは都鳥でしょうか。

右三首、江邊作之
注訓 右の三首は、江(かは)の邊(ほとり)にして之を作れり。


集歌4463 保等登藝須 麻豆奈久安佐氣 伊可尓世婆 和我加度須疑自 可多利都具麻埿
訓読 霍公鳥(ほととぎす)まづ鳴く朝明(あさけ)いかにせば吾が門過ぎじ語り継ぐまで

私訳 ホトトギスが最初に啼く朝明けに、どうすれば、私の家を飛び過ぎずに啼くだろうか、後々に語り継ぐほどに。


集歌4464 保等登藝須 可氣都々伎美我 麻都可氣尓 比毛等伎佐久流 都奇知可都伎奴
訓読 霍公鳥(ほととぎす)懸けつつ君が松蔭に紐解き放(さ)くる月近づきぬ

私訳 ホトトギスを気に掛けながら貴方が待つ、その貴方の家の松の木陰で上着の紐を解き胸襟を開き宴する季節は近づいて来た。

右二首、廿日、大伴宿祢家持、依興作之
注訓 右の二首は、廿日に、大伴宿祢家持の、興に依りて之を作れり。
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万葉集巻二十を鑑賞する  集歌4425から集歌4444まで

2012年09月13日 | 万葉集 旧読解
万葉集巻二十を鑑賞する


集歌4425 佐伎毛利尓 由久波多我世登 刀布比登乎 美流我登毛之佐 毛乃母比毛世受
訓読 防人(さきもり)に行くは誰が背と問ふ人を見るが羨(とも)しさ物思ひもせず

私訳 防人に行くのは誰の夫ですかと問う人を見るのが羨ましい。何の物思いもしなくて。


集歌4426 阿米都之乃 可未尓奴佐於伎 伊波比都々 伊麻世和我世奈 阿礼乎之毛波婆
訓読 天地の神に幣(ぬさ)置き斎(いは)ひつついませ吾が背な吾をし思(しの)はば

私訳 天と地との神に幣を奉げ置き祈ります。無事にいて下さい。私の大切な貴方。私を思い出してください。


集歌4427 伊波乃伊毛呂 和乎之乃布良之 麻由須比尓 由須比之比毛乃 登久良久毛倍婆
訓読 家の妹ろ吾(わ)を偲ふらし真結ひに結ひし紐の解くらく思(も)へば

私訳 家に残るいとしいお前が私を懐かしんでいるようだ、しっかり結びに結んだ紐が解けるのを見ると。


集歌4428 和我世奈乎 都久志波夜利弖 宇都久之美 叡比波登加奈々 阿夜尓可毛祢牟
訓読 吾が背なを筑紫は遣りて愛(うつく)しみ帯(えひ)は解かななあやにかも寝む

私訳 私の大切な貴方を筑紫に旅立たせて、貴方が愛した帯は解きもしないで落ち着かない気持ちで寝るでしょう。


集歌4429 宇麻夜奈流 奈波多都古麻乃 於久流我弁 伊毛我伊比之乎 於岐弖可奈之毛
訓読 馬屋なる縄立つ駒の後(おく)るがへ妹が云ひしを置きて悲しも

私訳 「厩に居る手綱を切った馬が、どうして、そのままにいるでしょうか」と、いとしいお前が云ったのを、そのまま後に残してきたのが悲しい。


集歌4430 阿良之乎乃 伊乎佐太波佐美 牟可比多知 可奈流麻之都美 伊埿弖登阿我久流
試訓 荒し男(を)のい小矢(をさ)手挟み向ひ立ちかなる汝(まし)罪(つみ)出でてと吾が来る

試訳 荒々しい男の持つ矢を小脇に挟み防人の旅に向かい立ち、そのようなお前の責務と、私が出立して来た。

注意 原文の「可奈流麻之都美」は、一般に「かなる間しづみ」と訓みますが、ここでは特別に訓んでいます。


集歌4431 佐左賀波乃 佐也久志毛用尓 奈々弁加流 去呂毛尓麻世流 古侶賀波太波毛
訓読 笹が葉のさやぐ霜夜に七重(ななへ)着る衣に増せる子ろが肌はも

私訳 笹の葉が風に騒ぐ霜置く夜に、たくさん着る衣にまして、いとしいお前のあたたかい肌だったようなあ。


集歌4432 佐弁奈弁奴 美許登尓阿礼婆 可奈之伊毛我 多麻久良波奈礼 阿夜尓可奈之毛
訓読 障(さ)へなへぬ命にあれば愛(かな)し妹が手枕(たまくら)離(はな)れあやに悲しも

私訳 拒否できない命令なので、いとしいお前の手枕を離れて、なんとも悲しいことです。

右八首、昔年防人謌矣。主典刑部少録正七位上磐余伊美吉諸君、抄寫贈兵部少輔大伴宿祢家持
注訓 右の八首は、昔年(せきねん)の防人の謌なり。主典(さくわん)刑部(ぎやうぶの)少録(せうろく)正七位上磐余伊美吉諸君、抄寫(ぬきうつ)して兵部少輔大伴宿祢家持に贈れり。


三月三日、檢校防人勅使并兵部使人等、同集飲宴作謌三首
標訓 三月三日に、防人(さきもり)を檢校(けんかう)する勅使(ちよくし)并せて兵部(ひやうぶ)の使人等(つかひたち)と、同(とも)に集(つど)ひ飲宴(うたげ)して作れる謌三首

集歌4433 阿佐奈佐奈 安我流比婆理尓 奈里弖之可 美也古尓由伎弖 波夜加弊里許牟
訓読 朝な朝な上がるひばりになりてしか京(みやこ)に行きて早帰り来む

私訳 毎朝、空に翔け昇る雲雀になりたいものです、奈良の都に行って、人に逢ったらすぐに帰って来よう。

右一首、勅使紫微大弼安倍沙弥麿朝臣
注訓 右の一首は、勅使(ちよくし)紫微(しびの)大弼(だいひつ)安倍沙弥麿朝臣


集歌4434 比婆里安我流 波流弊等佐夜尓 奈理奴礼波 美夜古母美要受 可須美多奈妣久
訓読 ひばり上がる春へとさやになりぬれば京(みやこ)も見えず霞たなびく

私訳 雲雀が空に翔け昇る春の季節へとはっきりなったので、都も見えない、霞が棚引いている。


集歌4435 布敷賣里之 波奈乃波自米尓 許之和礼夜 知里奈牟能知尓 美夜古敝由可無
訓読 ふふめりし花の初めに来し吾や散りなむ後に京(みやこ)へ行かむ

私訳 つぼみとして膨らんだ桜の花の咲き始めにやって来た私は、その桜花が散ってしまった後に都へ戻って行くでしょう。

右二首、兵部使少輔大伴宿祢家持
注訓 右の二首は、兵部使少輔大伴宿祢家持


昔年相替防人謌一首
標訓 昔年(せきねん)に相替りし防人の謌一首

集歌4436 夜未乃欲能 由久左伎之良受 由久和礼乎 伊都伎麻左牟等 登比之古良波母
訓読 闇の夜の行く先知らず行く吾をいつ来まさむと問ひし子らはも

私訳 闇の夜のように行く末を知らずに旅行く私を「いつ、帰って来るの」と問うたあの娘よ。


先太上天皇御製霍公鳥謌一首  日本根子高瑞日清足姫天皇也
標訓 先の太上天皇(おほきすめらみこと)の御(かた)りて製(つく)らしし霍公鳥(ほととぎす)の謌一首
補訓 日本根子(やまとねこ)高瑞日清足姫(たかみづひきよたらしひめ)の天皇(すめらみこと)なり

集歌4437 冨等登藝須 奈保毛奈賀那牟 母等都比等 可氣都々母等奈 安乎祢之奈久母
訓読 霍公鳥(ほととぎす)なほも鳴かなむ本(もと)つ人かけつつもとな吾を音(ね)し哭(な)くも

私訳 ホトトギスよ、もっと啼かないでしょうか、故人を偲んで、ぼんやりと、私は声をあげて泣いてしまう。


薩妙觀應詔奉和謌一首
標訓 薩妙觀の詔(みことのり)に應(こた)へて和(こた)へ奉(たてまつ)れる謌一首

集歌4438 保等登藝須 許々尓知可久乎 伎奈伎弖余 須疑奈無能知尓 之流志安良米夜母
訓読 霍公鳥(ほととぎす)ここに近くを来鳴きてよ過ぎなむ後に験(しるし)あらめやも

私訳 ホトトギスよ、ここに、だめなら近くを、飛び来て啼いてほしい。季節が過ぎた後では、どうして、啼き甲斐があるでしょうか。


冬日幸于靱負御井之時、内命婦石川朝臣應詔賦雪謌一首  諱曰邑婆
標訓 冬の日に靱負(ゆけひ)の御井(みゐ)に幸(いでま)しし時に、内命婦石川朝臣の詔(みことのり)に應(こた)へて雪を賦(よ)める謌一首
補訓 諱(いみな)に曰はく邑婆(おほば)

集歌4439 麻都我延乃 都知尓都久麻埿 布流由伎乎 美受弖也伊毛我 許母里乎流良牟
訓読 松が枝の土に着くまで降る雪を見ずてや妹が隠り居るらむ

私訳 松の枝が地に垂れ下がるほどに降った雪を眺めることなく、私の大切な貴女がこもっていらしゃる。

于時水主内親王、寝膳不安、累日不参。因以此日、太上天皇、勅侍嬬等曰、為遣水主内親王賦雪作謌奉獻者。於是諸命婦等不堪作謌。而此石川命婦、獨作此謌奏之
右件四首、上総國大様正六位上大原真人今城、傳誦云尓  (年月未詳)
注訓 時に水主内親王、寝膳(しんぜん)安(やす)からず、日を累ねて参りたまはず。因りて此の日を以ちて、太上天皇、侍嬬等(じじゆたち)に勅(みことのり)したまひく「水主内親王に遣(や)らむために雪を賦(よ)みて謌を作りて奉(たて)獻(まつ)れ」と。ここに諸(もろもろの)命婦等(みやうぶたち)謌を作り堪(あ)へず。此に石川命婦の、獨り此の謌を作りて奏(まを)しき。
右の件の四首は、上総國大様正六位上大原真人今城の、傳へて誦めると云へり  (年月は未だ詳(つばび)らかならず)


上総國朝集使大様大原真人今城、向京之時郡司妻女等餞之謌二首
標訓 上総國朝集使大様の大原真人今城、京(みやこ)に向ひし時に郡司(ぐんし)の妻女(め)等(たち)の餞(はなむけ)せる謌二首

集歌4440 安之我良乃 夜敝也麻故要弖 伊麻之奈波 多礼乎可伎美等 弥都々志努波牟
訓読 足柄の八重山越えて去(い)ましなば誰れをか君と見つつ偲はむ

私訳 足柄のたくさんの山を越えて都に去って行ったら、誰を貴方として見て、偲びましょうか。


集歌4441 多知之奈布 伎美我須我多乎 和須礼受波 与能可藝里尓夜 故非和多里奈無
訓読 立ちしなふ君が姿を忘れずは世の限りにや恋ひ渡りなむ

私訳 立ち姿美しい貴方の姿を忘れないことは、この世だけのことでしょうか、私は貴方をお慕いし続けます。


五月九日、兵部少輔大伴宿祢家持之宅集宴謌四首
標訓 五月九日、兵部少輔大伴宿祢家持の宅(いへ)に集いて宴せし歌四首

集歌4442 和我勢故我 夜度乃奈弖之故 比奈良倍弖 安米波布礼杼母 伊呂毛可波良受
訓読 吾が背子が八都の奈弖之故(なでしこ)比並(ひなら)べて雨は降れども色も変らず

私訳 私の愛する貴方の八代の奈弖之故よ。連日、雨は降り続きますが、奈弖之故がうつろい散ることはありません。

右一首、大原真人今城


集歌4443 比佐可多能 安米波布里之久 奈弖之故我 伊夜波都波奈尓 故非之伎和我勢
訓読 ひさかたの雨は降りしく奈弖之故(なでしこ)がいや初花に恋しき吾が背

私訳 天から降りくる雨は降り続きますが、奈弖之故のこの初のお披露目を見ると、愛しく思います。奈弖之故よ。

右一首、大伴宿祢家持


集歌4444 和我世故我 夜度奈流波疑乃 波奈佐可牟 安伎能由布敝波 和礼乎之努波世
訓読 吾が背子が宿なる萩の花咲かむ秋の夕は吾れを偲はせ

私訳 私は直ぐに上総の国に戻りますが、愛しい奈弖之故が保管してあるこの屋敷にある萩の花が咲く秋の七夕の歌会の夕べでは、奈弖之故よ、私を思い出してください。

右一首、大原真人今城
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