竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉集巻十五を鑑賞する  集歌3760から集歌3785まで

2012年06月14日 | 万葉集巻十五を鑑賞する
万葉集巻十五を鑑賞する


集歌3760 左奴流欲波 於保久安礼杼母 毛能毛波受 夜須久奴流欲波 佐祢奈伎母能乎
訓読 さ寝(ぬ)る夜は多くあれども物(もの)思(も)はず安く寝(ぬ)る夜は実(さね)なきものを

私訳 寝る夜は幾夜もありますが、物思いをせずに気持ちよく寝る夜はまったくありません。


集歌3761 与能奈可能 都年能己等和利 可久左麻尓 奈里伎尓家良之 須恵之多祢可良
訓読 世の中の常(つね)の道理(ことわり)かくさまになり来(き)にけらし据(すゑ)し多(ま)ねから

私訳 世の中の普通の人の感情の自然な道理は、このような姿になってくるらしい。貴方(万葉集)に心を預ける回数が多くなったから。


集歌3762 和伎毛故尓 安布左可山乎 故要弖伎弖 奈伎都々乎礼杼 安布余思毛奈之
訓読 吾妹子に逢(あ)ふ坂山(さかやま)を越えて来て泣きつつ居れど逢ふよしもなし

私訳 愛しい人に逢うと云うその会う坂や山を越えて来て、ここで寂しく泣き暮らしているが、貴方(万葉集)を見る手段がありません。


集歌3763 多婢等伊倍婆 許登尓曽夜須伎 須敝毛奈久 々流思伎多婢毛 許等尓麻左米也母
訓読 旅と云へば事にぞやすき術(すべ)もなく苦しき旅も事にまさめやも

私訳 今のここでの生活は旅のようなものと云へば物事は簡単ですが、抗うことの出来ない苦しい流刑での生活も万葉集を見ることが出来ないこの苦しみに勝るでしょうか。


集歌3764 山川乎 奈可尓敝奈里弖 等保久登母 許己呂乎知可久 於毛保世和伎母
訓読 山川を中(なか)にへなりて遠くとも心を近く思ほせ吾妹(わぎも)

私訳 山や川を間に挟んで隔たって京から遠くにいますが、私の気持ちは近くにあると想ってください、私の尊敬する貴方(万葉集)。


集歌3765 麻蘇可我美 可氣弖之奴敝等 麻都里太須 可多美乃母能乎 比等尓之賣須奈
訓読 真澄鏡(まそかがみ)懸(か)けて偲(しぬ)へと奉(まつ)り出す形見のものを人に示(しめ)すな

私訳 祈願すると見たいものを見せると云う、その真澄鏡に「懸けて偲んで下さい」と贈呈する形見のもの(和歌)を他の人に見せないで下さい。


集歌3766 宇流波之等 於毛比之於毛波婆 之多婢毛尓 由比都氣毛知弖 夜麻受之努波世
訓読 愛(うるは)しと思ひし思はば下紐に結ひつけ持ちてやまず偲(しの)はせ

私訳 「和歌が愛しいと思う」と思ったならば、贈る形見のもの(和歌)を下紐で結び付けて常に身に付けるように絶えることなく思い出してください。

右十三首、中臣朝臣宅守
注訓 右は十三首、中臣朝臣宅守
私訳 右の十三首は、中臣朝臣宅守への贈答歌


集歌3767 多麻之比波 安之多由布敝尓 多麻布礼杼 安我牟祢伊多之 古非能之氣吉尓
訓読 魂(たましひ)は朝夕(あしたゆふへ)に給(たま)わるふれど吾(あ)が胸痛(いた)し恋の繁(しき)きに

私訳 貴方の万葉集の編纂の精神を朝に夕べに心を通わせて頂いていますが、私の気持ちは心痛いのです、貴方を慕う気持ちが激しくて。


集歌3768 己能許呂波 君乎於毛布等 須敝毛奈伎 古非能未之都々 祢能未之曽奈久
訓読 このころは君を思ふと術(すべ)もなき恋のみしつつ哭(ね)のみしぞ泣く

私訳 近頃は貴方のことを思うと、どうしようもありません。尊敬の念を持って万葉集の編纂の難しさを怨みながら泣いています。


集歌3769 奴婆多麻乃 欲流見之君乎 安久流安之多 安波受麻尓之弖 伊麻曽久夜思吉
訓読 ぬばたまの夜(よる)見し君を明くる朝(あした)逢はずまにして今ぞ悔しき

私訳 暗闇の夜の夢に見る貴方を、夜が明ける日中は遠く離れて住んでいるためにお目にかかれないままにして、今はそれが残念です。


集歌3770 安治麻野尓 屋杼礼流君我 可反里許武 等伎能牟可倍乎 伊都等可麻多武
訓読 あぢ真野に宿れる君が帰り来む時の迎へをいつとか待たむ

私訳 配流地のあぢの群れが鳴き騒ぐ原野に宿泊されている貴方が帰ってくる時のお迎えは何時かと待っています。

注意 普段の解説は「安治麻野」を味真野と訓読みして越前市味真野を示しますが、万葉集では「あぢ」はアジ鴨を指します。私は「あぢ真野」を一般名称としてアジ鴨の棲む原野としています。


集歌3771 宮人能 夜須伊毛祢受弖 家布々々等 麻都良武毛能乎 美要奴君可聞
訓読 宮人の安寝(やすい)も寝(ね)ずて今日(けふ)今日と待つらむものを見えぬ君かも

私訳 私は宮人たちがぐっすり寝る夜も安眠できずに、貴方が帰ってくるのは今日か今日かと待っているのに、お見えにならない貴方です。


集歌3772 可敝里家流 比等伎多礼里等 伊比之可婆 保等保登之尓吉 君香登於毛比弖
訓読 帰りける人(ひと)来(き)たれりと言ひしかばほとほと死にき君かと思ひて

私訳 帰って来る人が来たと云ったので、ほとんど死にそうになりました。貴方かと思って。


集歌3773 君我牟多 由可麻之毛能乎 於奈自許等 於久礼弖乎礼杼 与伎許等毛奈之
訓読 君が共(むた)行かましものを同じこと後(おく)れて居(を)れど良(よ)きこともなし

私訳 貴方と一緒に行けばよかったものを、居残っていても同じこと、ここに残っていても良いことはなにもありません。


集歌3774 和我世故我 可反里吉麻佐武 等伎能多米 伊能知能己佐牟 和須礼多麻布奈
訓読 吾(あ)が背子が帰り来(き)まさむ時のため命残さむ忘れたまふな

私訳 私の大切な貴方が帰って来られる時のために命(私が創る万葉集)を残しましょう、和歌をお忘れにならないで下さい。

右八首、娘子
注訓 右は八首、娘子
私訳 右の八首は、娘子への贈答歌


集歌3775 安良多麻能 等之能乎奈我久 安波射礼杼 家之伎己許呂乎 安我毛波奈久尓
訓読 あらたまの年の緒長く逢はざれど異(け)しき心を吾(あ)が思はなくに

私訳 年が改まる長い年月を貴方が創る万葉集を見ていないけれど、和歌から漢詩への浮気心を私は思ってもいません。


集歌3776 家布毛可母 美也故奈里世婆 見麻久保里 尓之能御馬屋乃 刀尓多弖良麻之
訓読 今日もかも都なりせば見まく欲(ほ)り西の御厩(みまや)の外(と)に立てらまし

私訳 今日もまた、もし、都にいたならばと貴方の創る万葉集を見てみたいと思い、京への西の馬屋の外に立っています。

右二首、中臣朝臣宅守
注訓 右は二首、中臣朝臣宅守
私訳 右の二首は、中臣朝臣宅守への贈答歌


集歌3777 伎能布家布 伎美尓安波受弖 須流須敝能 多度伎乎之良尓 祢能未之曽奈久
訓読 昨日(きのふ)今日(けふ)君に逢はずてする術(すべ)のたどきを知らに哭(ね)のみしぞ泣く

私訳 昨日も今日も貴方に逢うことなく行う万葉集の編纂ですが、その編纂する方法が判らなくて怨みながら泣いています。


集歌3778 之路多倍乃 阿我許呂毛弖乎 登里母知弖 伊波敝和我勢古 多太尓安布末弖尓
訓読 白栲の吾(あ)が衣手を取り持ちて斎(いは)へ吾(わ)が背子直(ただ)に逢ふまでに

私訳 神に祈って白栲の私の衣の中の手による草稿を取り持って、その完成を祈って下さい。私の尊敬する貴方、直接にお目にかかるまで。

右二首、娘子
注訓 右は二首、娘子
私訳 右の二首は、娘子への贈答歌


集歌3779 和我夜度乃 波奈多知婆奈波 伊多都良尓 知利可須具良牟 見流比等奈思尓
訓読 吾(わ)が屋戸の花橘はいたづらに散りか過ぐらむ見る人なしに

試訳 私が尊敬する万葉集と橘家の人々は空しく散っていくのだろうか、思い出す人もいなくて。



集歌3780 古非之奈婆 古非毛之祢等也 保等登藝須 毛能毛布等伎尓 伎奈吉等余牟流
訓読 恋死なば恋ひも死ねとや霍公鳥物思ふ時に来鳴き響(とよ)むる

試訳 和歌が死ぬのなら和歌を慕う気持ちも死ねと云うのか。過去を乞う霍公鳥は私が和歌を思って物思いにふけるときに、その過ぎ去った過去を求める鳴き声を響かせる。


集歌3781 多婢尓之弖 毛能毛布等吉尓 保等登藝須 毛等奈那難吉曽 安我古非麻左流
訓読 たひにして物思ふ時に霍公鳥もとなな鳴きそ吾(あ)が恋まさる

試訳 多くの歌の牌の万葉集を思って物思いするときに、霍公鳥よ、頼りなくに過去を乞うて鳴くな。私の和歌を慕う気持ちが増してくる。

注意 旅の「たひ」の場合、万葉仮名では主に多比か多妣の用字を使います。それが多婢の用字です。私は「多牌」の字が欲しかったのだと想っています。また、集歌3781と集歌3783との歌の設定は、自宅の風景が目にあります。旅の宿ではありません。それに左注に「寄花鳥陳思」とあるように、娘女への贈答にはなっていません。


集歌3782 安麻其毛理 毛能母布等伎尓 保等登藝須 和我須武佐刀尓 伎奈伎等余母須
訓読 雨隠(あまごも)り物思ふ時に霍公鳥我が住む里に来鳴き響(とよ)もす

試訳 雨の日に家にこもって物思いするときに、霍公鳥が私の住む里に来鳴きて、その過去の時代を乞う鳴き声を私の心の中に響かせる。


集歌3783 多婢尓之弖 伊毛尓古布礼婆 保登等伎須 和我須武佐刀尓 許欲奈伎和多流
訓読 たひにして妹に恋ふれば霍公鳥我が住む里にこよ鳴き渡る

試訳 多くの歌の牌を編纂した万葉集を恋しく思うと、あの人が霍公鳥の姿に身を変えて私の住む里にやって来て過去を乞うて鳴き渡っていく。


集歌3784 許己呂奈伎 登里尓曽安利家流 保登等藝須 毛能毛布等伎尓 奈久倍吉毛能可
訓読 心なき鳥にぞありける霍公鳥物思ふ時に鳴くべきものか

私訳 無常な鳥だよなあ、霍公鳥は。私が物思いするときに鳴くだけだろうか。


集歌3785 保登等藝須 安比太之麻思於家 奈我奈氣婆 安我毛布許己呂 伊多母須敝奈之
訓読 霍公鳥間(あひだ)しまし置け汝(な)が鳴けば吾(あ)が思(も)ふ心いたも術(すべ)なし

私訳 霍公鳥よ、しばらく鳴くのに間を置け。お前が鳴くと私が昔の人々を物思う心はどうしようもなくなってします。

右七首、中臣朝臣宅守寄花鳥陳思作歌
注訓 右の七首は、中臣朝臣宅守の花鳥に寄せ思(おもひ)を陳(の)べて作れる歌
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万葉集巻十五を鑑賞する  集歌3740から集歌3759まで

2012年06月11日 | 万葉集巻十五を鑑賞する
万葉集巻十五を鑑賞する


集歌3740 安米都知能 可未奈伎毛能尓 安良婆許曽 安我毛布伊毛尓 安波受思仁世米
訓読 天地の神なきものにあらばこそ吾(あ)が思ふ妹に逢はず死にせめ

私訳 もし、この世に天と地とに神々がいらっしゃらないのであれば、私の愛する貴方(万葉集)を見せないままに死なせよ。


集歌3741 伊能知乎之 麻多久之安良婆 安里伎奴能 安里弖能知尓毛 安波射良米也母
訓読 命をし全(また)くしあらばあり衣(きぬ)のありて後(のち)にも逢はざらめやも

私訳 貴方(万葉集)の心が変わりなくあるのならば、玉のように美しい衣が常にあるようにいつかは貴方に逢えないことがあるでしょうか。

説明 「あり衣のありて」は訳さずに音感を取るほうがよいでしょう


集歌3742 安波牟日乎 其日等之良受 等許也未尓 伊豆礼能日麻弖 安礼古非乎良牟
訓読 逢はむ日をその日と知らず常闇(とこやみ)にいづれの日まで吾(あ)れ恋ひ居らむ

私訳 貴方(万葉集)を再び見る日はいつの日とは知らないが、先の見えない常闇の中に貴方を見る日まで私は貴方を愛し続けているでしょう。


集歌3743 多婢等伊倍婆 許等尓曽夜須伎 須久奈久毛 伊母尓戀都々 須敝奈家奈久尓
訓読 旅といへば事にぞやすきすくなくも妹に恋ひつつすべなけなくに

私訳 配所に居ることを遠い国への旅といってしまえば事は簡単だが、しかしながら、貴方(万葉集)を恋慕ってもこの地ではどうしようもないのに。


集歌3744 和伎毛故尓 古布流尓安礼波 多麻吉波流 美自可伎伊能知毛 乎之家久母奈思
訓読 吾妹子に恋ふるに吾(あ)れはたまきはる短き命(いのち)も惜(を)しけくもなし

私訳 貴方(万葉集)を恋することに、私は霊魂が宿る自分の短い命も惜しくもない。

右十四首、中臣朝臣宅守
注訓 右は十四首、中臣朝臣宅守
私訳 右の十四首は、中臣朝臣宅守への贈答歌


集歌3745 伊能知安良婆 安布許登母安良牟 和我由恵尓 波太奈於毛比曽 伊能知多尓敝波
訓読 命(いのち)あらば逢ふこともあらむ吾(あ)がゆゑにはだな思ひそ命だに経(へ)ば

私訳 生きていれば、また(万葉集と)見ることもあるでしょう。私の万葉集の編纂の状況のためにそんなにひどく思い込めないで、貴方の命さへ永らえれば。


集歌3746 比等能宇々流 田者宇恵麻佐受 伊麻佐良尓 久尓和可礼之弖 安礼波伊可尓勢武
訓読 人の植(う)うる田は植ゑまさず今さらに国別れして吾(あ)れはいかにせむ

私訳 いつもなら貴方が植える田は今は誰も田植えをされないように、貴方が編纂すべき万葉集を編纂する人もいなくて、今は他国と住む場所を別れて、私はどうしたらよいのでしょう。


集歌3747 和我屋度能 麻都能葉見都々 安礼麻多無 波夜可反里麻世 古非之奈奴刀尓
訓読 吾(あ)が宿の松の葉見つつ吾(あ)れ待たむ早帰りませ恋ひ死なぬとに

私訳 私の家の変わることのない松の葉を見ながら私は貴方を待ちましょう、早くお帰り下さい、貴方が万葉集に恋して恋死をしないうちに。


集歌3748 比等久尓波 須美安之等曽伊布 須牟也氣久 波也可反里万世 古非之奈奴刀尓
訓読 他国(ひとくに)は住み悪(あ)しとぞ言ふ速(すむや)けく早帰りませ恋ひ死なぬとに

私訳 地方の他の国は住みにくいと云います、早くお帰り下さい、貴方が万葉集に恋して恋死をしないうちに。


集歌3749 比等久尓々 伎美乎伊麻勢弖 伊都麻弖可 安我故非乎良牟 等伎乃之良奈久
訓読 他国(ひとくに)に君をいませていつまでか吾(あ)が恋ひ居らむ時の知らなく

私訳 地方の他の国に貴方を住まわせて、いつまででしょうか、私は貴方を慕っています。再び会える時は判りませんが。


集歌3750 安米都知乃 曽許比能宇良尓 安我其等久 伎美尓故布良牟 比等波左祢安良自
訓読 天地の底(そこ)ひのうらに吾(あ)がごとく君に恋ふらむ人は実(さね)あらじ

私訳 天地の底のその裏まで、そんな果てしない世界中に私のように貴方を尊敬して慕っている人はけっしていません。


集歌3751 之呂多倍能 安我之多其呂母 宇思奈波受 毛弖礼和我世故 多太尓安布麻弖尓
訓読 白栲の吾(あ)が下衣(したころも)失はず持てれ吾(わ)が背子直(ただ)に逢ふまでに

私訳 白栲の私の万葉集の草稿を失わないで持っていて下さい、私の尊敬する貴方、直接にお逢いするまで。


集歌3752 波流乃日能 宇良我奈之伎尓 於久礼為弖 君尓古非都々 宇都之家米也母
訓読 春の日のうら悲しきに後れ居(ゐ)て君に恋ひつつうつしけめやも

私訳 春の日の物悲しさに気持ちが沈んでいると、貴方を恋しく思って生きている実感がありません


集歌3753 安波牟日能 可多美尓世与等 多和也女能 於毛比美太礼弖 奴敝流許呂母曽
訓読 逢はむ日の形見にせよと手弱女(たおやめ)の思ひ乱(みだ)れて縫へる衣(ころも)ぞ

私訳 貴方に再び逢う日までの形見にして下さいと、力不足の私が思い乱れて編纂した万葉集の草稿です。

右九首、娘子
注訓 右は九首、娘子
私訳 右の九首は、娘子への贈答歌


集歌3754 過所奈之尓 世伎等婢古由流 保等登藝須 多我子尓毛 夜麻受可欲波牟
訓読 過所(くわそ)なしに堰飛び越ゆる霍公鳥(ほととぎす)髣髴(おほ)しが子にも止まず通はむ

私訳 遣り過ごすことなく、身分や場所を越えての弓削皇子と額田王との吉野の相聞歌や人麻呂の吉備津采女死時の歌にも、そんな万葉集に絶えることなく心を通わせます。


集歌3755 宇流波之等 安我毛布伊毛乎 山川乎 奈可尓敝奈里弖 夜須家久毛奈之
訓読 愛(うるは)しと吾(あ)が思ふ妹を山川を中(なか)に隔(へな)りて安けくもなし

私訳 愛しいと私が思う貴方(万葉集)を山や川を間に挟んで京から遠く隔たっていると、気が休まりません。


集歌3756 牟可比為弖 一日毛於知受 見之可杼母 伊等波奴伊毛乎 都奇和多流麻弖
訓読 向ひ居て一日(ひとひ)もおちず見しかども厭(いと)はぬ妹を月わたるまで

私訳 向かい合って一日も欠かさずに見ていても厭になることがない貴方(万葉集)を、幾月も渡ってしまうまで見ることが出来なくなって。


集歌3757 安我未許曽 世伎夜麻故要弖 許己尓安良米 許己呂波伊毛尓 与里尓之母能乎
訓読 吾(あ)が身こそ関山越えてここにあらめ心は妹に寄りにしものを

私訳 私の体だけは貴方(万葉集)から離れて関所や山を越えてここにあるが、私の気持ちは貴方(万葉集)に寄り添っているのだけど。


集歌3758 佐須太氣能 大宮人者 伊麻毛可母 比等奈夫理能未 許能美多流良武
訓読 さす竹(たき)の大宮人は今もかも人なふりのみ好みたるらむ

私訳 力強く成長する竹のように発展する京の高貴な人達は、今でも漢詩や仏典の流行だけを好んでいるのでしょうか。


集歌3759 多知可敝里 奈氣杼毛安礼波 之流思奈美 於毛比和夫礼弖 奴流欲之曽於保伎
訓読 たちかへり泣けども吾(あ)れは験(しるし)なみ思ひわぶれて寝(ぬ)る夜しぞ多き

私訳 繰り返し泣いているけど私には貴方(万葉集)を見ることの出来る実感がなくて、思い悲しんで寝る夜が多いことです。
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万葉集巻十五を鑑賞する  集歌3722から集歌3739まで

2012年06月09日 | 万葉集巻十五を鑑賞する
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中臣朝臣宅守与狭野弟上娘子贈答歌
標訓 中臣朝臣宅守の狭野弟上娘子に与えたる答へ贈れる歌
私訳 留守宅を守る式部大輔中臣朝臣清麿から「背の弟の上」である尊敬する年下の丹比国人に答え贈れる歌。

集歌3723 安之比奇能 夜麻治古延牟等 須流君乎 許々呂尓毛知弖 夜須家久母奈之
訓読 あしひきの山道越えむとする君を心に持ちて安けくもなし

私訳 あしひきの山道を越えて行こうとする貴方を気にかけて、気が休まることがありません。


集歌3724 君我由久 道乃奈我弖乎 久里多々祢 也伎保呂煩散牟 安米能火毛我母
訓読 君が行く道の長手を繰(く)り畳(たた)ね焼き滅(ほろ)ぼさむ天(あめ)の火もがも

私訳 貴方が行く道の長い道中を巻き紙のように手繰り寄せ畳んで焼き尽くすような天の火が欲しい。


集歌3725 和我世故之 氣太之麻可良婆 思漏多倍乃 蘇弖乎布良左祢 見都追志努波牟
訓読 吾(わ)が背子しけだし罷(まか)らば白栲の袖を振らさね見つつ偲(しの)はむ

私訳 私の尊敬する貴方がもし都から地方に下られことがあるならば、白栲の袖を振ってください、それを見て貴方を偲びましょう。


集歌3726 己能許呂波 古非都追母安良牟 多麻久之氣 安氣弖乎知欲利 須辨奈可流倍思
訓読 このころは恋ひつつもあらむ玉櫛笥(たまくしげ)明けて彼方(をち)より術(すべ)なかるべし

私訳 近頃は(万葉集を)慕いながらいます、玉櫛笥を開けて歌集を取り出しても貴方が遠くに居られるのでどうしていいのか判らないでしょう。

右四首、娘子臨別作歌
注訓 右は四首、娘子の別れに臨みて作れる歌
私訳 右の四首は、娘子との別れに臨みて作れる歌


集歌3727 知里比治能 可受尓母安良奴 和礼由恵尓 於毛比和夫良牟 伊母我可奈思佐
訓読 塵泥(ちりひぢ)の数(かず)にもあらぬ吾(わ)れゆゑに思ひわぶらむ妹がかなしさ

私訳 塵や泥の数にも入らないような力不足の私なので、万葉集の行く末を想い心配する貴方が可哀想です。。


集歌3728 安乎尓与之 奈良能於保知波 由吉余家杼 許能山道波 由伎安之可里家利
訓読 あをによし奈良の大道は行きよけどこの山道は行き悪しかりけり

私訳 青葉が美しい奈良の大道を行くのは楽ですが、万葉集を引き継いでいく事はこの山道は行くように難いことです。


集歌3729 宇流波之等 安我毛布伊毛乎 於毛比都追 由氣婆可母等奈 由伎安思可流良武
訓読 愛(うるは)しと吾(あ)が思(も)ふ妹を思ひつつ行けばかもとな行(ゆ)き悪(あ)しかるらむ

私訳 尊敬する人と私が想う貴方を思い出にしながら万葉集を編纂するからか、足元も覚束なく編纂を引き継いで行くのが難しいと思われます。


集歌3730 加思故美等 能良受安里思乎 美故之治能 多武氣尓多知弖 伊毛我名能里都
訓読 畏(かしこ)みと告(の)らずありしをみ越道の手向(たむ)けに立ちて妹が名告(の)りつ

私訳 恐れ多いと貴方の名前を口に出さずにいましたが、配流先へ山を越して行く道の手向けの場に立って、貴方の名前を思わず口に出してしまった。

右四首、中臣朝臣宅守上道作歌
注訓 右は四首、中臣朝臣宅守の上道(みちたち)に作れる歌
私訳 右の四首は、中臣朝臣の宅を守るが和歌を編纂するに当たって作った歌。


集歌3731 於毛布恵尓 安布毛能奈良婆 之末思久毛 伊母我目可礼弖 安礼乎良米也母
訓読 思ふゑに逢ふものならばしましくも妹が目(め)離(か)れて吾(あ)れ居(を)らめやも

私訳 逢いたいと念じると貴方(万葉集)に逢えるものであるならば、なぜ、これほどに貴方を目にすることが出来ないのでしょうか。


集歌3732 安可祢佐須 比流波毛能母比 奴婆多麻乃 欲流波須我良尓 祢能未之奈加由
訓読 あかねさす昼は物思ひぬばたまの夜(ゆる)はすがらに哭(ね)のみし泣かゆ

私訳 茜色になる昼は物(和歌)を想い、闇夜の夜は夜通し恨めしく泣くことです。


集歌3733 和伎毛故我 可多美能許呂母 奈可里世婆 奈尓毛能母弖加 伊能知都我麻之
訓読 吾妹子が形見の衣(ころも)なかりせば何物もてか命継がまし

私訳 私の尊敬する貴方(万葉集)の形見の和歌の資料がなければ、何を貴方の代わりとして命を永らえましょうか。


集歌3734 等保伎山 世伎毛故要伎奴 伊麻左良尓 安布倍伎与之能 奈伎我佐夫之佐
訓読 遠き山(やま)関も越え来(き)ぬ今さらに逢ふべきよしのなきが寂(さぶ)しさ

私訳 宮から遠い山や関も越えてこの配所に来た。今更に貴方(万葉集)に逢う手段のないのが寂しいことです。


集歌3735 於毛波受母 麻許等安里衣牟也 左奴流欲能 伊米尓毛伊母我 美延射良奈久尓
訓読 思はずもまことあり得(え)むやさ寝(ぬ)る夜の夢(いめ)にも妹が見えざらなくに

私訳 思いがけずにこのようなことが起こるのでしょうか、寝る夜の夢にも貴方(万葉集)が出てこないことはないのに。


集歌3736 等保久安礼婆 一日一夜毛 於母波受弖 安流良牟母能等 於毛保之賣須奈
訓読 遠くあれば一日(ひとひ)一夜(ひとよ)も思はずてあるらむものと思ほしめすな

私訳 京の貴方(万葉集)と遠く離れているので、私が貴方のことを一日一夜もずっと想っていないだろうと想わないでください。


集歌3737 比等余里波 伊毛曽母安之伎 故非毛奈久 安良末思毛能乎 於毛波之米都追
訓読 他人(ひと)よりは妹ぞも悪(あ)しき恋もなくあらましものを思はしめつつ

私訳 他の人より貴方(万葉集)が憎い、「貴方への恋心が無いならば」と私に思わせ続けています。


集歌3738 於毛比都追 奴礼婆可毛等奈 奴婆多麻能 比等欲毛意知受 伊米尓之見由流
訓読 思ひつつ寝(ぬ)ればかもとなぬばたまの一夜(ひとよ)もおちず夢にし見ゆる

私訳 貴方(万葉集)を恋しく思って寝ると、漆黒の一夜が一日も欠けることがないように貴方が夢の中に出てきます。


集歌3739 可久婆可里 古非牟等可祢弖 之良末世婆 伊毛乎婆美受曽 安流倍久安里家留
訓読 かくばかり恋ひむとかねて知らませば妹をば見ずぞあるべくありける

私訳 このように恋しいと最初から判っていたならば、貴方(万葉集)だけは見ずにいるべきでした。
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万葉集巻十五を鑑賞する  集歌3700から集歌3722まで

2012年06月07日 | 万葉集巻十五を鑑賞する
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竹敷浦舶泊之時、陳心緒作歌十八首
標訓 竹敷の浦に舶(ふな)泊(はて)せし時に、心緒(おもひ)を陳(の)べて作れる歌十八首

集歌 3700 安之比奇能 山下比可流 毛美知葉能 知里能麻河比波 計布仁聞安流香母
訓読 あしひきの山下光る黄(もみち)葉(は)の散りの乱(まが)ひは今日にもあるかも

私訳 葦や檜の茂る山の木の下で光る黄葉の散る乱れる景色は、今日もありでしょうか。

右一首、大使
左注 右の一首は、大使


集歌 3701 多可之伎能 母美知乎見礼婆 和藝毛故我 麻多牟等伊比之 等伎曽伎尓家流
訓読 竹敷(たかしき)の黄葉(もみち)を見れば吾妹子が待たむと云ひし時ぞ来にける

私訳 竹敷の黄葉を見ると私の愛しい貴女が、私の還りを待っていると云ったその時が来てしまった。

右一首、副使
左注 右の一首は、副使


集歌 3702 多可思吉能 宇良末能毛美 知礼由伎弖 可敝里久流末弖 知里許須奈由米
訓読 竹敷(たかしき)の浦廻(うらみ)の黄葉(もみち)吾(あ)れ行きて帰り来るまで散りこすなゆめ

私訳 竹敷の湊付近の黄葉よ、私が行って還って来るまで散ってしまうな、きっと。

右一首、大判官
左注 右の一首は、大判官


集歌 3703 多可思吉能 宇敝可多山者 久礼奈為能 也之保能伊呂尓 奈里尓家流香聞
訓読 竹敷(たかしき)の宇敝可多(うへかた)山(やま)は紅(くれなゐ)の八しほの色になりにけるかも

私訳 竹敷の宇敝可多山は紅のたくさんに染めた色になったようです。

右一首、小判官
左注 右の一首は、小判官


集歌 3704 毛美知婆能 知良布山邊由 許具布祢能 尓保比尓米弖弖 伊弖弖伎尓家里
訓読 黄(もみち)葉(は)の散らふ山辺(やまへ)ゆ漕ぐ船のにほひにめでて出でて来にけり

私訳 黄葉の散る落ちる山辺に漕ぐ船は、山が黄葉で染まるのを愛でるように出港して来たようです。


集歌 3705 多可思吉能 多麻毛奈比可之 己伎弖奈牟 君我美布祢乎 伊都等可麻多牟
訓読 竹敷(たかしき)の玉藻靡かし漕ぎ出なむ君が御船(みふね)をいつとか待たむ

私訳 竹敷の海中に美しい藻を靡かして漕ぎ出て行かれる貴方の乗る御船が、いつここへ還っていらっしゃるかと待っていましょう。

右二首、對馬娘子名玉槻
左注 右の二首は、對馬の娘子(をとめ)名は玉槻


集歌 3706 多麻之家流 伎欲吉奈藝佐乎 之保美弖婆 安可受和礼由久 可反流左尓見牟
訓読 玉敷ける清き渚(なぎさ)を潮満てば飽(あ)かず吾(あ)れ行く帰(かへ)るさに見む

私訳 玉を敷くような清らかな渚に潮が満ちて来ると、渚を愛でることに飽きることがない私は出発しよう。また、ここに還って来て見ましょう。

右一首、大使
左注 右の一首は、大使


集歌 3707 安伎也麻能 毛美知乎可射之 和我乎礼婆 宇良之保美知久 伊麻太安可奈久尓
訓読 秋山の黄葉(もみち)をかざし吾(あ)が居れば浦(うら)潮(しほ)満ち来いまだ飽(あ)かなくに

私訳 秋山の黄葉を髪に挿して、私がここに居ると浦に潮が満ちて来た。まだ、この風景に飽きてはいないのに。

右一首、副使
左注 右の一首は、副使


集歌 3708 毛能毛布等 比等尓波美要緇 之多婢毛能 思多由故布流尓 都奇曽倍尓家流
訓読 物思ふと人には見えじ下紐の下ゆ恋ふるに月ぞ経(へ)にける

私訳 貴女に恋して物思いをしていると人は気が付かないでしょうが、下に結ぶ紐の下、私がした貴女への恋心に月日が経ってしまった。

右一首、大使
左注 右の一首は、大使


集歌 3709 伊敝豆刀尓 可比乎比里布等 於伎敝欲里 与世久流奈美尓 許呂毛弖奴礼奴
訓読 家づとに貝を拾(ひり)ふと沖(おき)辺(へ)より寄せ来る波に衣手濡れぬ

私訳 家への土産に貝を拾おうとして、沖から打ち寄せる来る波に私の衣の袖が濡れた。


集歌 3710 之保非奈波 麻多母和礼許牟 伊射遊賀武 於伎都志保佐為 多可久多知伎奴
訓読 潮干(しほひ)なばまたも吾(あ)れ来むいざ行かむ沖つ潮騒(しほさゐ)高く立ち来ぬ

私訳 潮が干いたならば、また、私は来ましょう。さあ、行こう、沖からの満ちてくる潮騒の音が高く立ってやって来る。


集歌 3711 和我袖波 多毛登等保里弖 奴礼奴等母 故非和須礼我比 等良受波由可自
訓読 吾(あ)が袖は手本(たもと)通りて濡れぬとも恋忘れ貝取らずは行かじ

私訳 私の腕は、衣の袖口を通して濡れたとしても、苦しい恋を忘れさせる恋忘貝を拾っていかないでは他へは行けない。


集歌 3712 奴波多麻能 伊毛我保須倍久 安良奈久尓 和我許呂母弖乎 奴礼弖伊可尓勢牟
訓読 ぬばたまの妹が乾(ほ)すべくあらなくに吾(あ)が衣手(ころもて)を濡れていかにせむ

私訳 漆黒の夜に人に知られず逢う貴女が乾してくれるのではないので、私の衣の袖口が濡れてしまって、どうしよう。


集歌 3713 毛美知婆波 伊麻波宇都呂布 和伎毛故我 麻多牟等伊比之 等伎能倍由氣婆
訓読 黄(もみち)葉(は)は今はうつろふ吾妹子が待たむと云ひし時の経(へ)ゆけば

私訳 黄葉は、今は木々の色が日々変わって逝く。私の愛しい貴女が私の還りを待つと云った時は経ってゆく。


集歌 3714 安藝佐礼婆 故非之美伊母乎 伊米尓太尓 比左之久見牟乎 安氣尓家流香聞
訓読 秋されば恋しみ妹を夢にだに久しく見むを明けにけるかも

私訳 秋がやって来ると恋しい貴女を夢だけでも長く見たいと思うのに、夜は明けてしまったようだ。


集歌 3715 比等里能未 伎奴流許呂毛能 比毛等加婆 多礼可毛由波牟 伊敝杼保久之弖
訓読 一人のみ着寝る衣(ころも)の紐解かば誰れかも結はむ家遠くして

私訳 一人で着て寝る衣の紐を解くと、誰が再び結んでくれるのでしょう、家を遠くにして。


集歌 3716 安麻久毛能 多由多比久礼婆 九月能 毛未知能山毛 宇都呂比尓家里
訓読 天雲のたゆたひ来れば九月(ながつき)の黄葉(もみち)の山もうつろひにけり

私訳 天雲が豊かに流れて来ると九月の黄葉の山の木々の彩りは移り逝った。


集歌 3717 多婢尓弖母毛 奈久波也許等 和伎毛故我 牟須妣思比毛波 奈礼尓家流香聞
訓読 旅にても喪(も)なく早(はや)来(こ)と吾妹子が結びし紐は褻(な)れにけるかも

私訳 旅の道中で、不幸なことがなく早く還って来いと私の愛しい貴女が結んでくれた契の紐は、よれよれに古びてしまったようだ。


廻来筑紫海路入京、到播磨國家嶋之時作歌五首
標訓 筑紫より廻(まは)り来りて海路(うなぢ)より京(みやこ)に入らむとし、播磨國の家嶋に到りし時に作れる歌五首

集歌 3718 伊敝之麻波 奈尓許曽安里家礼 宇奈波良乎 安我古非伎都流 伊毛母安良奈久尓
訓読 家島(いへしま)は名にこそありけれ海原(うなはら)を吾(あ)が恋ひ来つる妹もあらなくに

私訳 私の家、家島は名だけにあるようです。海原を私が恋しく還って来たのだが、ここには私の貴女がいないので、


集歌 3719 久左麻久良 多婢尓比左之久 安良米也等 伊毛尓伊比之乎 等之能倍奴良久
訓読 草枕旅に久しくあらめやと妹に云ひしを年の経(へ)ぬらく

私訳 草を枕にするような旅は長くはないでしょうと、貴女に云ったのですが新しい年を経てしまった。


集歌 3720 和伎毛故乎 由伎弖波也美武 安波治之麻 久毛為尓見延奴 伊敝都久良之母
訓読 吾妹子を行きて早(はや)見む淡路島雲居に見えぬ家つくらしも

私訳 私の愛しい貴女の所に行って早く逢いたいと、淡路島の雲の彼方に見える、家に着くらしい。


集歌 3721 奴婆多麻能 欲安可之母布弥波 許藝由可奈 美都能波麻末都 麻知故非奴良武
訓読 ぬばたまの読ぬばたまの夜(よ)明(あか)しも船は漕ぎ行かな御津(みつ)の浜松待ち恋ひぬらむ

私訳 漆黒の夜を明かしても船よ漕ぎ行こう、御津の浜松は私たちを待ち焦がれているでしょう。


集歌 3722 大伴乃 美津能等麻里尓 布祢波弖々 多都多能山乎 伊都可故延伊加武
訓読 大伴の御津(みつ)の泊りに船(ふな)泊(は)てて龍田(たつた)の山をいつか越え行かむ

私訳 大伴の御津の泊りに船を停泊させて、龍田の山を朝廷の帰国の報告のお召があって何時に越えて行くのだろう。
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万葉集巻十五を鑑賞する  集歌3680から集歌3699まで

2012年06月04日 | 万葉集巻十五を鑑賞する
万葉集巻十五を鑑賞する


集歌 3680 欲乎奈我美 伊能年良延奴尓 安之比奇能 山妣故等余米 佐乎思賀奈君母
訓読 夜(よ)を長(なが)み寝(ゐ)の寝(ぬ)らえぬにあしひきの山彦(やまひこ)響(とよ)めさ男鹿(をしか)鳴くも

私訳 夜が長い。私は恋しくて寝るに寝られずに、葦や檜が繁る山の山彦よ響け、妻を呼び立てる牡鹿が鳴いている。


肥前國松浦郡狛嶋亭舶泊之夜、遥望海浪、各慟旅心作歌七首
標訓 肥前國の松浦郡の狛嶋(こましま)の亭(とまり)に舶(ふね)泊(はて)せし夜に、遥かに海の浪を望みて、各(おのおの)の旅の心を慟(いたま)しめて作れる歌七首

集歌 3681 可敝里伎弖 見牟等於毛比之 和我夜度能 安伎波疑須々伎 知里尓家武可聞
訓読 帰り来(き)て見むと思ひし吾(あ)が宿の秋(あき)萩薄(すすき)散りにけむかも

私訳 無事に帰って来たら見ようと思った私家の秋のススキは散ってしまうだろう。

右一首、秦田麿
左注 右の一首は、秦田麿


集歌 3682 安米都知能 可未乎許比都々 安礼麻多武 波夜伎万世伎美 麻多婆久流思母
訓読 天地(あまつち)の神を祈(こ)ひつつ吾(あ)れ待たむ早来(はやき)ませ君待たば苦しも

私訳 天地の神に祈って、私は待ちましょう。早く帰って来て下さい。貴方のお還りを待つと気持ちが辛い。

右一首、娘子
左注 右の一首は、娘子(をとめ)


集歌 3683 伎美乎於毛比 安我古非万久波 安良多麻乃 多都追奇其等尓 与久流日毛安良自
訓読 君を思ひ吾(あ)が恋ひまくはあらたまの立つ月ごとに避(よ)くる日もあらじ

私訳 貴女を想い私が恋していると、貴女に対して新しい月が来る度に立てる物忌みのように貴女を忌諱する日はありません。


集歌 3684 秋夜乎 奈我美尓可安良武 奈曽許々波 伊能祢良要奴毛 比等里奴礼婆可
訓読 秋の夜(よ)を長みにかあらむなぞここば寝(ゐ)の寝(ぬ)らえぬも一人寝(ね)ればか

私訳 秋の夜を長くと思う、どうしてこのように寝るのに寝られないのだろう、独りで寝るからか。


集歌 3685 多良思比賣 御舶波弖家牟 松浦乃宇美 伊母我麻都敝伎 月者倍尓都々
訓読 足(たらし)姫(ひめ)御船(みふね)泊(は)てけむ松浦の海(うみ)妹が待つべき月は経(へ)につつ

私訳 足姫の御船を泊めたでしょう松浦の海、貴女が私に再び逢う日を待つでしょう、その月は経ってしまった。


集歌 3686 多婢奈礼婆 於毛比多要弖毛 安里都礼杼 伊敝尓安流伊毛之 於母比我奈思母
訓読 旅なれば思ひ絶(た)えてもありつれど家にある妹し思ひ悲しも

私訳 旅の途中なので、恋心は断っているのですが、家にいる貴女を想うとかなしくなります。


集歌 3687 安思必奇能 山等妣古田留 可里我祢波 美也故尓由加波 伊毛尓安比弖許祢
訓読 あしひきの山飛び越ゆる鴈がねは京に行かば妹に逢(あ)ひて来(こ)ね

私訳 葦や桧の茂る山を飛び越える雁が奈良の京に行ったならば、私の恋人に逢って来い。


至壹岐嶋、雪連宅滿忽遇鬼病死去之時作謌一首并短謌
標訓 壹岐の嶋に至りて、雪連宅滿の忽(には)かに鬼病(かみのやまひ)に遇(あ)ひて死去(みまか)りし時に作れる謌一首并せて短謌

集歌 3688 須賣呂伎能 等保能朝庭等 可良國尓 和多流和我世波 伊敝妣等能 伊波比麻多祢可 多太末可母 安夜麻知之家牟 安吉佐良婆 可敝里麻左牟等 多良知祢能 波々尓麻乎之弖 等伎毛須疑 都奇母倍奴礼婆 今日可許牟 明日可蒙許武登 伊敝比等波 麻知故布良牟尓 等保能久尓 伊麻太毛都可受 也麻等乎毛 登保久左可里弖 伊波我祢乃 安良伎之麻祢尓 夜杼理須流君

訓読 大王(すめろぎ)の 遠(とほ)の朝廷(みかど)と 韓国(からくに)に 渡る吾(あ)が背は 家人(いへひと)の 斎(いは)ひ待たねか 正身(ただみ)かも 過(あやま)ちしけむ 秋去らば 帰りまさむと たらちねの 母に申(まを)して 時も過ぎ 月も経ぬれば 今日か来む 明日かも来むと 家人は 待ち恋ふらむに 遠の国 いまだも着かず 大和をも 遠く離(さか)りて 岩が根の 荒き島根に 宿(やど)りする君

私訳 大王の遠の朝廷から韓国に渡ろうとする私の貴方は、家の人が神を斎って貴方を待っていないのか、それとも、貴方の身に過ちがあったのか、秋がやって来ると還って来るでしょうと、乳をくれた母に告げ、その時も過ぎ月も経ったので、今日か還って来る、明日か還って来ると家の人は待っていたのに、遠い国に未だ着かず大和をも遠く離れて、岩の陰の荒い島の陰に身を休めている貴方。


反歌二首
集歌 3689 伊波多野尓 夜杼里須流伎美 伊敝妣等乃 伊豆良等和礼乎 等婆波伊可尓伊波牟
訓読 岩田野(いはたの)に宿(やと)りする君家人(いへひと)のいづらと吾(あ)れを問ばはいかに言はむ

私訳 岩田野に身を横たえる貴方。貴方の家の人が「どこにいますか」と私を問うたら、どのように答えましょうか。


集歌 3690 与能奈可波 都祢可久能未等 和可礼奴流 君尓也毛登奈 安我孤悲由加牟
訓読 世間(よのなか)は常かくのみと別れぬる君にやもとな吾(あ)が恋ひ行かむ

私訳 この世の中は常にこのようなものですと、死に別れた貴方。訳もなく私は貴方を偲んで行きましょう。


右三首、挽歌
左注 右三首は、挽歌


集歌 3691 天地等 登毛尓母我毛等 於毛比都々 安里家牟毛能乎 波之家也思 伊敝乎波奈礼弖 奈美能宇倍由 奈豆佐比伎尓弖 安良多麻能 月日毛伎倍奴 可里我祢母 都藝弖伎奈氣婆 多良知祢能 波々母都末良母 安左都由尓 毛能須蘇比都知 由布疑里尓 己呂毛弖奴礼弖 左伎久之毛 安流良牟其登久 伊弖見都追 麻都良牟母能乎 世間能 比登能奈氣伎婆 安比於毛波奴 君尓安礼也母 安伎波疑能 知良敝流野邊乃 波都乎花 可里保尓布疑弖 久毛婆奈礼 等保伎久尓敝能 都由之毛能 佐武伎山邊尓 夜杼里世流良牟

訓読 天地と ともにもがもと 思ひつつ ありけむものを はしけやし 家を離(はな)れて 波の上ゆ なづさひ来にて あらたまの 月日も来(き)経(へ)ぬ 雁がねも 継ぎて来鳴けば たらちねの 母も妻らも 朝露に 裳の裾ひづち 夕霧に 衣手(ころもて)濡れて 幸(さき)くしも あるらむごとく 出で見つつ 待つらむものを 世間(よのなか)の 人の嘆きは 相思はぬ 君にあれやも 秋萩の 散らへる野辺の 初尾花(はつをばな)仮廬(かりほ)に葺きて 雲(くも)離(はな)れ 遠き国辺(くにへ)の 露霜の 寒き山辺(やまへ)に 宿りせるらむ

私訳 天地と共に一緒にと思っていたのですが、愛しい家を離れて浪の上を、苦しみながらやって来て、月も改まり月日は過ぎ経り、雁も次々と連なり飛び来て鳴くと、乳をくれた母や妻たちも、朝露に衣の裳の裾を濡らし、夕霧に衣の袖を濡らして、旅の貴方に幸があるようにと、門の外に出て貴方を待っているものを、世の中の人の嘆きを思いもよらない貴方なのでしょうか、秋萩の花散る野辺の初尾花の草で仮の小屋を葺いて、雲が流れ去る遠い国辺の露霜の降りる寒い山辺に身を横たえているのか。


反歌二首
集歌 3692 波之家也思 都麻毛古杼毛母 多可多加尓 麻都良牟伎美也 之麻我久礼奴流
訓読 はしけやし妻も子どもも高々(たかだか)に待つらむ君や島隠れぬる

私訳 愛しい妻や子たちも高々に還りを待っているでしょう。貴方は島に隠れてしまう。


集歌 3693 毛美知葉能 知里奈牟山尓 夜杼里奴流 君乎麻都良牟 比等之可奈之母
訓読 黄(もみち)葉(は)の散りなむ山に宿りぬる君を待つらむ人し悲しも

私訳 黄葉した木の葉の散って行く山に身を横たえる貴方の還りを待つ人は悲しいことです。

右三首、葛井連子老作挽歌
左注 右の三首は、葛井連子老の作れる挽歌


集歌 3694 和多都美能 下之故伎美知乎 也須家口母 奈久奈夜美伎弖 伊麻太尓母 毛奈久由可牟登 由吉能 安末能保都手乃宇良敝乎 可多夜伎弖 由加武土須流尓 伊米能其等 美知能蘇良治尓 和可礼須流伎美

訓読 わたつみの 畏(かしこ)き道を 安けくも なく悩み来て 今だにも 喪(も)なく行かむと 壱岐の 海人(あま)の上手(ほつて)の占部(うらへ)を かた焼きて 行かむとするに 夢のごと 道の空路(そらぢ)に 別れする君

私訳 渡す海の、大王の御命じになった道を心休まることもなくやって来て、今からは人との別れも無く無事に行こうと、壱岐の海人の上手な占部が今後の吉凶を象に焼き占って行こうとすると、夢のようにこれからの道の空に私たちに別れをする貴方です。


反歌二首
集歌 3695 牟可之欲里 伊比都流許等乃 可良久尓能可良 久毛己許尓 和可礼須留可聞
訓読 昔より云ひける事の韓国(からくに)のからくもここに別れするかも

私訳 昔から云ったように韓国の言葉のように辛くても、ここに貴方と別れをしよう。


集歌 3696 新羅奇敝可 伊敝尓可加反流 由吉能之麻 由加牟多登伎毛 於毛比可祢都母
訓読 新羅(しらき)へか家にか帰る壱岐(いき)の島行(ゆ)かむたどきも思ひかねつも

私訳 新羅へか、家へにか、帰るか行くかの壱岐の島、行くことも自体も思案してしまう。

右三首、六鯖作挽歌
左注 右の三首は、六鯖の作れる挽歌


到對馬嶋淺茅浦舶泊之時、不得順風、經停五箇日。於是瞻望物華、各陳慟心作歌三首
標訓 對馬嶋の淺茅浦に到りて舶(ふな)泊(はて)せし時に、順風を得ずして經停(とど)まれること五箇日(いつか)なり。ここに物華(ぶつか)を瞻望(せんぼう)し、各(おのおの)の慟(いた)める心(おもひ)を陳(の)べて作れる歌三首

集歌 3697 毛母布祢乃 波都流對馬能 安佐治山 志具礼能安米尓 毛美多比尓家里
訓読 百(もも)船(ふね)の泊(は)つる対馬の浅茅山(あさちやま)しぐれの雨にもみたひにけり

私訳 多くの船が泊まる対馬の浅茅山、しぐれの雨にも黄葉した。


集歌 3698 安麻射可流 比奈尓毛月波 弖礼々杼母 伊毛曽等保久波 和可礼伎尓家流
訓読 天離る鄙にも月は照れれども妹ぞ遠くは別れ来にける

私訳 奈良の京から遥か離れた田舎にも月は照るのだけぢ、貴女とは遥か遠く離れてやって来た。


集歌 3699 安伎左礼婆 於久都由之毛尓 安倍受之弖 京師乃山波 伊呂豆伎奴良牟
訓読 秋去れば置く露霜に堪(あ)へずして京の山は色づきぬらむ

私訳 秋がやって来ると天から地に置く露霜にあらがえずに奈良の京の山は色付くでしょう。
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