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後撰和歌集 原文 その十 巻十八後半(歌番1271)から巻二十まで

2017年02月05日 | 後撰和歌集 初回
後撰和歌集 その十 巻十八後半(歌番1271)から巻二十まで

簡単な解説を「後撰和歌集 その一」に載せています。

巻十八 雑歌四 後半

歌番号1271
ある所にすのまへに、かれこれ物かたりし侍りけるをききて、うちより女のこゑにて、あやしく物のあはれしりかほなるおきなかなといふをききて
つらゆき
和歌 あはれてふ ことにしるしは なけれとも いはてはえこそ あらぬものなれ
解釈 あはれてふ事にしるしはなけれともいはてはえこそあらぬ物なれ

歌番号1272
女ともたちの、つねにいひかはしけるを、ひさしくおとつれさりけれは、十月はかりに、あた人の思ふといひし事のははといふふることをいひかはしたりけれは、竹のはにかきつけてつかはしける
よみ人しらす
和歌 うつろはぬ なになかれたる かはたけの いつれのよにか あきをしるへき
解釈 うつろはぬなになかれたるかは竹のいつれの世にか秋をしるへき

歌番号1273
題しらす
贈太政大臣
和歌 ふかきおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる
解釈 ふかき思ひそめつといひし事のははいつか秋風ふきてちりぬる

歌番号1274
返し
伊勢
和歌 こころなき みはくさきにも あらなくに あきくるかせに うたかはるらむ
解釈 心なき身は草木にもあらなくに秋くる風にうたかはるらむ

歌番号1275
題しらす
伊勢
和歌 みのうきを しれははしたに なりぬへみ おもひはむねの こかれのみする
解釈 身のうきをしれははしたになりぬへみおもひはむねのこかれのみする

歌番号1276
題しらす
よみ人しらす
和歌 くもちをも しらぬわれさへ もろこゑに けふはかりとそ なきかへりぬる
解釈 雲ちをもしらぬ我さへもろこゑにけふはかりとそなきかへりぬる

歌番号1277
題しらす
よみ人しらす
和歌 またきから おもひこきいろに そめむとや わかむらさきの ねをたつぬらむ
解釈 またきからおもひこきいろにそめむとやわか紫のねをたつぬらん

歌番号1278
題しらす
伊勢
和歌 みえもせぬ ふかきこころを かたりては ひとにかちぬと おもふものかは
解釈 見えもせぬ深き心をかたりては人にかちぬと思ふものかは

歌番号1279
亭子院にさふらひけるに、御ときのおろしたまはせたりけれは
伊勢
和歌 いせのうみに としへてすみし あまなれと かかるみるめは かつかさりしを
解釈 伊勢の海に年へてすみしあまなれとかかるみるめはかつかさりしを

歌番号1280
粟田の家にて人につかはしける
かねすけの朝臣
和歌 あしひきの やまのやまとり かひもなし みねのしらくも たちしよらねは
解釈 あしひきの山の山鳥かひもなし峰の白雲たちしよらねは

歌番号1281
左大臣の家にて、かれこれ題をさくりて歌よみけるに、つゆといふもしをえ侍りて
ふちはらのたたくに
和歌 われならぬ くさはもものは おもひけり そてよりほかに おけるしらつゆ
解釈 我ならぬ草葉もものは思ひけり袖より外におけるしらつゆ

歌番号1282
人のもとにつかはしける
伊勢
和歌 ひとこころ あらしのかせの さむけれは このめもみえす えたそしをるる
解釈 人心嵐の風のさむけれはこのめも見えす枝そしをるる

歌番号1283
こと人をあひかたらふとききてつかはしける
よみ人しらす
和歌 うきなから ひとをわすれむ ことかたみ わかこころこそ かはらさりけれ
解釈 うきなから人をわすれん事かたみわか心こそかはらさりけれ

歌番号1284
ある法師の、源のひとしの朝臣の家にまかりて、すすのすかりをおとしおけるを、あしたにおくるとて
源のひとしの朝臣
和歌 うたたねの とこにとまれる しらたまは きみかおきける つゆにやあるらむ
解釈 うたたねのとこにとまれる白玉は君かおきけるつゆにやあるらん

歌番号1285
返し
ある法師
和歌 かひもなき くさのまくらに おくつゆの なににきえなて おちとまりけむ
解釈 かひもなき草の枕におくつゆの何にきえなておちとまりけん

歌番号1286
題しらす
よみ人しらす
和歌 おもひやる かたもしられす くるしきは こころまとひの つねにやあるらむ
解釈 思ひやる方もしられすくるしきは心まとひのつねにやあるらむ

歌番号1287
むかしを思ひいてて、むらのこの内侍につかはしける
左大臣
和歌 すすむしに おとらぬねこそ なかれけれ むかしのあきを おもひやりつつ
解釈 鈴虫におとらぬねこそなかれけれ昔の秋を思ひやりつつ

歌番号1288
ひとり侍りけるころ、人のもとよりいかにそととふらひて侍りけれは、あさかほの花につけてつかはしける
よみ人しらす
和歌 ゆふくれの さひしきものは あさかほの はなをたのめる やとにそありける
解釈 ゆふくれのさひしき物は槿の花をたのめるやとにそ有りける

歌番号1289
左大臣のかかせ侍りけるさうしのおくにかきつけ侍りける
つらゆき
和歌 ははそやま みねのあらしの かせをいたみ ふることのはを かきそあつむる
解釈 ははそ山峰の嵐の風をいたみふることのはをかきそあつむる

歌番号1290
題しらす
こまちかあね
和歌 よのなかを いとひてあまの すむかたも うきめのみこそ みえわたりけれ
解釈 世中をいとひてあまのすむ方もうきめのみこそ見えわたりけれ

歌番号1291
むかしあひしりて侍りける人の、内にさふらひけるかもとにつかはしける
伊勢
和歌 やまかはの おとにのみきく ももしきを みをはやなから みるよしもかな
解釈 山河のおとにのみきくももしきを身をはやなから見るよしもかな

歌番号1292
人にわすられたりときく女のもとにつかはしける
よみ人しらす
和歌 よのなかは いかにやいかに かせのおとを きくにもいまは ものやかなしき
解釈 世中はいかにやいかに風のおとをきくにも今は物やかなしき

歌番号1293
返し
伊勢
和歌 よのなかは いさともいさや かせのおとは あきにあきそふ ここちこそすれ
解釈 よのなかはいさともいさや風のおとは秋に秋そふ心地こそすれ

歌番号1294
題しらす
よみ人も
和歌 たとへくる つゆとひとしき みにしあらは わかおもひにも きえむとやする
解釈 たとへくるつゆとひとしき身にしあらはわか思ひにもきえんとやする

歌番号1295
つらかりけるをとこのはらからのもとにつかはしける
よみ人も
和歌 ささかにの そらにすかける いとよりも こころほそしや たえぬとおもへは
解釈 ささかにのそらにすかけるいとよりも心ほそしやたえぬとおもへは

歌番号1296
返し
よみ人も
和歌 かせふけは たえぬとみゆる くものいも またかきつかて やむとやはきく
解釈 風ふけはたえぬと見ゆるくものいも又かきつかてやむとやはきく

歌番号1297
ふしみといふ所にて
よみ人も
和歌 なにたちて ふしみのさとと いふことは もみちをとこに しけはなりけり
解釈 名にたちてふしみのさとといふ事はもみちをとこにしけはなりけり

歌番号1298
題しらす
ひとしきこのみこ
和歌 われもおもふ ひともわするな ありそうみの うらふくかせの やむときもなく
解釈 我も思ふ人もわするなありそ海の浦吹く風のやむ時もなく

歌番号1299
題しらす
山田法師
和歌 あしひきの やましたとよみ なくとりも わかことたえす ものおもふらめや
解釈 あしひきの山したとよみなくとりもわかことたえす物思ふらめや

歌番号1300
神な月のついたちころ、めのみそかをとこしたりけるを見つけて、いひなとしてつとめて
よみ人しらす
和歌 いまはとて あきはてられし みなれとも きりたちひとを えやはわするる
解釈 今はとて秋はてられし身なれともきりたち人をえやはわするる

歌番号13歌番号1
十月はかり、おもしろかりし所なれはとて、北山のほとりにこれかれあそひ侍りけるついてに
兼輔朝臣
和歌 おもひいてて きつるもしるく もみちはの いろはむかしに かはらさりけり
解釈 思ひいててきつるもしるくもみちはの色は昔にかはらさりけり

歌番号1302
おなし心を
坂上是則
和歌 みねたかみ ゆきてもみへき もみちはを わかゐなからも かさしつるかな
解釈 峰高み行きても見へきもみちはをわかゐなからもかさしつるかな

歌番号1303
しはすはかりに、あつまよりまうてきけるをとこの、もとより京にあひしりて侍りける女のもとに、正月ついたちまておとつれす侍りけれは
よみ人しらす
和歌 まつひとは きぬときけとも あらたまの としのみこゆる あふさかのせき
解釈 まつ人はきぬときけともあらたまのとしのみこゆるあふさかのせき


巻十九 離別歌(附 羈旅歌)

歌番号1304
みちのくにへまかりける人に、火うちをつかはすとてかきつけ侍りける
貫之
和歌 をりをりに うちてたくひの けふりあらは こころさすかを しのへとそおもふ
解釈 をりをりに打ちてたく火の煙あらは心さすかをしのへとそ思ふ

歌番号1305
あひしりて侍りける人のあつまの方へまかりけるに、さくらの花のかたにぬさをしてつかはしける
よみ人しらす
和歌 あたひとの たむけにをれる さくらはな あふさかまては ちらすもあらなむ
解釈 あた人のたむけにをれるさくら花相坂まてはちらすもあらなん

歌番号1306
とほくまかりける人に餞し侍りける所にて
橘直幹
和歌 おもひやる こころはかりは さはらしを なにへたつらむ みねのしらくも
解釈 思ひやる心はかりはさはらしを何へたつらん峰の白雲

歌番号1307
しもつけにまかりける女に、かかみにそへてつかはしける
よみ人しらす
和歌 ふたみやま ともにこえねと ますかかみ そこなるかけを たくへてそやる
解釈 ふたみ山ともにこえねとますかかみそこなる影をたくへてそやる

歌番号1308
しなのへまかりける人に、たき物つかはすとて
するか
和歌 しなのなる あさまのやまも もゆなれは ふしのけふりの かひやなからむ
解釈 しなのなるあさまの山ももゆなれはふしのけふりのかひやなからん

歌番号1309
とほきくにへまかりけるともたちに、火うちにそへてつかはしける
よみ人しらす
和歌 このたひも われをわすれぬ ものならは うちみむたひに おもひいてなむ
解釈 このたひも我をわすれぬ物ならはうち見むたひに思ひいてなん

歌番号1310
京に侍りける女子を、いかなる事か侍りけん、心うしとてととめおきて、いなはのくにへまかりけれは、むすめ
よみ人しらす
和歌 うちすてて きみしいなはの つゆのみは きえぬはかりそ ありとたのむな
解釈 打ちすてて君しいなはのつゆの身はきえぬはかりそ有りとたのむな

歌番号1311
伊勢にまかりける人、とくいなんと心もとなかるとききて、たひのてうとなととらするものから、たたむかみにかきてとらする、名をはむまといひけるに
よみ人しらす
和歌 をしとおもふ こころはなくて このたひは ゆくうまにむちを おほせつるかな
解釈 をしと思ふ心はなくてこのたひはゆく馬にむちをおほせつるかな

歌番号1312
返し
むま
和歌 きみかてを かれゆくあきの すゑにしも のかひにはなつ うまそかなしき
解釈 君か手をかれゆく秋のすゑにしものかひにはなつむまそかなしき

歌番号1313
おなし家にひさしう侍りける女の、みののくににおやの侍りける、とふらひにまかりけるに
藤原きよたた
和歌 いまはとて たちかへりゆく ふるさとの ふはのせきちに みやこわするな
解釈 今はとて立帰りゆくふるさとのふはのせきちにみやこわするな

歌番号1314
とほきくににまかりける人に、たひのくつかはしける、かかみのはこのうらにかきつけてつかはしける
おほくほののりよし
和歌 みをわくる ことのかたさに ますかかみ かけはかりをそ きみにそへつる
解釈 身をわくる事のかたさにます鏡影はかりをそ君にそへつる

歌番号1315
このたひのいてたちなん物うくおほゆるといひけれは
よみ人しらす
和歌 はつかりの われもそらなる ほとなれは きみもものうき たひにやあるらむ
解釈 はつかりの我もそらなるほとなれは君も物うきたひにやあるらん

歌番号1316
あひしりて侍りける女の、人のくににまかりけるにつかはしける
公忠朝臣
和歌 いとせめて こひしきたひの からころも ほとなくかへす ひともあらなむ
解釈 いとせめてこひしきたひの唐衣ほとなくかへす人もあらなん

歌番号1317
返し、女
よみ人しらす
和歌 からころも たつひをよそに きくひとは かへすはかりの ほともこひしを
解釈 唐衣たつ日をよそにきく人はかへすはかりのほともこひしを

歌番号1318
三月はかり、こしのくにへまかりける人に、さけたうひけるついてに
よみ人しらす
和歌 こひしくは ことつてもせむ かへるさの かりかねはまつ わかやとになけ
解釈 こひしくは事つてもせむかへるさのかりかねはまつわかやとになけ

歌番号1319
善祐法師の伊豆のくにになかされ侍りけるに
伊勢
和歌 わかれては いつあひみむと おもふらむ かきりあるよの いのちともなし
解釈 別れてはいつあひみんと思ふらん限あるよのいのちともなし

歌番号1320
題しらす
よみ人も
和歌 そむかれぬ まつのちとせの ほとよりも ともともとたに したはれそせし
解釈 そむかれぬ松のちとせのほとよりもともともとたにしたはれそせし

歌番号1321
返し
よみ人も
和歌 ともともと したふなみたの そふみつは いかなるいろに みえてゆくらむ
解釈 ともともとしたふ涙のそふ水はいかなる色に見えてゆくらん

歌番号1322
亭子のみかとおりゐたまうける秋、弘徽殿のかへにかきつけける
伊勢
和歌 わかるれと あひもをしまぬ ももしきを みさらむことや なにかかなしき
解釈 わかるれとあひもをしまぬももしきを見さらん事やなにかかなしき

歌番号1323
みかと御覧して、御返し
亭子のみかと
和歌 みひとつに あらぬはかりを おしなへて ゆきめくりても なとかみさらむ
解釈 身ひとつにあらぬはかりをおしなへてゆきめくりてもなとかみさらん

歌番号1324
みちのくにへまかりける人に、あふきてうしてうたゑにかかせ侍りける
よみ人しらす
和歌 わかれゆく みちのくもゐに なりゆけは とまるこころも そらにこそなれ
解釈 別れゆく道のくもゐになりゆけはとまる心もそらにこそなれ

歌番号1325
宗于朝臣のむすめ、みちのくにへくたりけるに
よみ人しらす
和歌 いかてなほ かさとりやまに みをなして つゆけきたひに そはむとそおもふ
解釈 いかて猶かさとり山に身をなしてつゆけきたひにそはんとそ思ふ

歌番号1326
返し
宗于朝臣のむすめ
和歌 かさとりの やまとたのみし きみをおきて なみたのあめに ぬれつつそゆく
解釈 かさとりの山とたのみし君をおきて涙の雨にぬれつつそゆく

歌番号1327
をとこの伊勢のくにへまかりけるに
よみ人しらす
和歌 きみかゆく かたにありてふ なみたかは まつはそてにそ なかるへらなる
解釈 君かゆく方に有りてふ涙河まつは袖にそ流るへらなる

歌番号1328
たひにまかりける人にさうそくつかはすとて、そへてつかはしける
よみ人しらす
和歌 そてぬれて わかれはすとも からころも ゆくとないひそ きたりとをみむ
解釈 袖ぬれて別はすとも唐衣ゆくとないひそきたりとを見む

歌番号1329
返し
よみ人しらす
和歌 わかれちは こころもゆかす からころも きれはなみたそ さきにたちける
解釈 別ちは心もゆかす唐衣きれは涙そさきにたちける

歌番号1330
たひにまかりける人に、扇つかはすとて
よみ人しらす
和歌 そへてやる あふきのかせし こころあらは わかおもふひとの てをなはなれそ
解釈 そへてやる扇の風し心あらはわか思ふ人の手をなはなれそ

歌番号1331
友則かむすめのみちのくにへまかりけるにつかはしける
藤原滋幹かむすめ
和歌 きみをのみ しのふのさとへ ゆくものを あひつのやまの はるけきやなそ
解釈 君をのみしのふのさとへゆくものをあひつの山のはるけきやなそ

歌番号1332
つくしへまかるとて、きよいこの命婦におくりける
小野好古朝臣
和歌 としをへて あひみるひとの わかれには をしきものこそ いのちなりけれ
解釈 年をへてあひみる人の別にはをしき物こそいのちなりけれ

歌番号1333
出羽よりのほりけるに、これかれむまのはなむけしけるに、かはらけとりて
源のわたる
和歌 ゆくさきを しらぬなみたの かなしきは たためのまへに おつるなりけり
解釈 ゆくさきをしらぬ涙の悲しきはたためのまへにおつるなりけり

歌番号1334
平のたかとほかいやしき名とりて人のくにへまかりけるに、わするなといへりけれは、たかとほかめのいへる
たかとほかめ
和歌 わするなと いふになかるる なみたかは うきなをすすく せともならなむ
解釈 わするなといふになかるる涙河うきなをすすくせともならなん

歌番号1335
あひしりて侍りける人の、あからさまにこしの国へまかりけるに、ぬさ心さすとて
よみ人しらす
和歌 われをのみ おもひつるかの うらならは かへるのやまは まとはさらまし
解釈 我をのみ思ひつるかの浦ならはかへるの山はまとはさらまし

歌番号1336
返し
よみ人しらす
和歌 きみをのみ いつはたとおもひ こしなれは ゆききのみちは はるけからしを
解釈 君をのみいつはたと思ひこしなれはゆききの道ははるけからしを

歌番号1337
秋たひまかりける人に、ぬさをもみちの枝につけてつかはしける
よみ人しらす
和歌 あきふかく たひゆくひとの たむけには もみちにまさる ぬさなかりけり
解釈 秋ふかくたひゆく人のたむけにはもみちにまさるぬさなかりけり

歌番号1338
西四条の斎宮の九月晦日くたり給ひけるともなる人に、ぬさつかはすとて
大輔
和歌 もみちはを ぬさとたむけて ちらしつつ あきとともにや ゆかむとすらむ
解釈 もみちはをぬさとたむけてちらしつつ秋とともにやゆかんとすらん

歌番号1339
ものへまかりける人につかはしける
伊勢
和歌 まちわひて こひしくならは たつぬへく あとなきみつの うへならてゆけ
解釈 まちわひてこひしくならはたつぬへくあとなき水のうへならてゆけ

歌番号1340
題しらす
贈太政大臣
和歌 こむといひて わかるるたにも あるものを しられぬけさの ましてわひしき
解釈 こむといひてわかるるたにもあるものをしられぬけさのましてわひしさ

歌番号1341
返し
伊勢
和歌 さらはよと わかれしときに いはませは われもなみたに おほほれなまし
解釈 さらはよと別れし時にいはませは我も涙におほほれなまし

歌番号1342
題しらす
よみ人しらす
和歌 はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき
解釈 春霞はかなくたちてわかるとも風より外にたれかとふへき

歌番号1343
返し
伊勢
和歌 めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ
解釈 めにみえぬ風に心をたくへつつやらはかすみのわかれこそせめ

歌番号1344
かひへまかりける人につかはしける
伊勢
和歌 きみかよは つるのこほりに あえてきね さためなきよの うたかひもなく
解釈 君か世はつるのこほりにあえてきね定なきよのうたかひもなく

歌番号1345
舟にて物へまかりける人につかはしける
伊勢
和歌 おくれすそ こころにのりて こかるへき なみにもとめよ ふねみえすとも
解釈 おくれすそ心にのりてこかるへき浪にもとめよ舟みえすとも

歌番号1346
返し
よみ人しらす
和歌 ふねなくは あまのかはまて もとめてむ こきつつしほの なかにきえすは
解釈 舟なくはあまのかはまてもとめてむこきつつしほのなかにきえすは

歌番号1347
舟にて物へまかりける人につかはしける
よみ人しらす
和歌 かねてより なみたそそてを うちぬらす うかへるふねに のらむとおもへは
解釈 かねてより涙そ袖をうちぬらすうかへる舟にのらむと思へは

歌番号1348
返し
伊勢
和歌 おさへつつ われはそてにそ せきとむる ふねこすしほに なさしとおもへは
解釈 おさへつつ我は袖にそせきとむる舟こすしほになさしとおもへは

歌番号1349
とほき所にまかるとて、女のもとにつかはしける
貫之
和歌 わすれしと ことにむすひて わかるれは あひみむまては おもひみたるな
解釈 わすれしとことにむすひてわかるれはあひ見むまては思ひみたるな

歌番号1350
ある人いやしき名とりて遠江国へまかるとて、はつせ河をわたるとてよみ侍りける
よみ人しらす
和歌 はつせかは わたるせさへや にこるらむ よにすみかたき わかみとおもへは
解釈 はつせ河わたるせさへやにこるらん世にすみかたきわか身と思へは

歌番号1351
たはれしまを見て
よみ人しらす
和歌 なにしおはは あたにそおもふ たはれしま なみのぬれきぬ いくよきつらむ
解釈 名にしおははあたにそ思ふたはれしま浪のぬれきぬいくよきつらん

歌番号1352
あつまへまかりけるに、すきぬる方こひしくおほえけるほとに、河をわたりけるになみのたちけるを見て
業平朝臣
和歌 いととしく すきゆくかたの こひしきに うらやましくも かへるなみかな
解釈 いととしくすきゆく方のこひしきにうら山しくも帰る浪かな

歌番号1353
しら山へまうてけるに、みち中よりたよりの人につけてつかはしける
よみ人しらす
和歌 みやこまて おとにふりくる しらやまは ゆきつきかたき ところなりけり
解釈 宮こまておとにふりくる白山はゆきつきかたき所なりけり

歌番号1354
なかはらのむねきかみののくにへまかりくたり侍りけるに、みちに女の家にやとりて、いひつきてさりかたくおほえけれは、二、三日侍りて、やむことなき事によりてまかりたちけれは、きぬをつつみて、それかうへにかきておくり侍りける
中原宗興
和歌 やまさとの くさはのつゆも しけからむ みのしろころも ぬはすともきよ
解釈 山さとの草はのつゆもしけからんみのしろ衣ぬはすともきよ

歌番号1355
土左よりまかりのほりける舟のうちにて見侍りけるに、山のはならて月の浪のなかよりいつるやうにみえけれは、むかし安倍のなかまろかもろこしにて、ふりさけみれはといへることを思ひやりて
つらゆき
和歌 みやこにて やまのはにみし つきなれと うみよりいてて うみにこそいれ
解釈 宮こにて山のはに見し月なれと海よりいてて海にこそいれ

歌番号1356
法皇宮のたきといふ所御覧しける御ともにて
菅原右大臣
和歌 みつひきの しらいとはへて おるはたは たひのころもに たちやかさねむ
解釈 水ひきのしらいとはへておるはたは旅の衣にたちやかさねん

歌番号1357
道まかりけるついてに、ひくらしの山をまかり侍りて
菅原右大臣
和歌 ひくらしの やまちをくらみ さよふけて このすゑことに もみちてらせる
解釈 ひくらしの山ちをくらみさよふけてこのすゑことにもみちてらせる

歌番号1358
はつせへまうつとて、山のへといふわたりにてよみ侍りける
伊勢
和歌 くさまくら たひとなりなは やまのへに しらくもならぬ われややとらむ
解釈 草枕たひとなりなは山のへにしらくもならぬ我ややとらむ

歌番号1359
うちとのといふ所を
伊勢
和歌 みつもせに うきたるときは しからみの うちのとのとも みえぬもみちは
解釈 水もせにうきぬる時はしからみのうちのとのとも見えぬもみちは

歌番号1360
海のほとりにて、これかれせうえうし侍りけるついてに
こまち
和歌 はなさきて みならぬものは わたつうみの かさしにさせる おきつしらなみ
解釈 花さきてみならぬ物はわたつうみのかさしにさせるおきつ白浪

歌番号1361
あつまなる人のもとへまかりける道に、さかみのあしからのせきにて、女の京にまかりのほりけるにあひて
真静法師
和歌 あしからの せきのやまちを ゆくひとは しるもしらぬも うとからぬかな
解釈 あしからのせきの山ちをゆく人はしるもしらぬもうとからぬかな

歌番号1362
法皇とほき所に山ふみしたまうて、京にかへりたまふにたひやとりしたまうて、御ともにさふらふ道俗うたよませ給ひけるに
僧正聖宝
和歌 ひとことに けふけふとのみ こひらるる みやこちかくも なりにけるかな
解釈 人ことにけふけふとのみこひらるる宮こちかくも成りにけるかな

歌番号1363
土左より任はててのほり侍りけるに、舟のうちにて月を見て
つらゆき
和歌 てるつきの なかるるみれは あまのかは いつるみなとは うみにそありける
解釈 てる月のなかるる見れはあまのかはいつるみなとは海にそ有りける

歌番号1364
題しらす
亭子院御製
和歌 くさまくら もみちむしろに かへたらは こころをくたく ものならましや
解釈 草枕紅葉むしろにかへたらは心をくたく物ならましや

歌番号1365
京に思ふ人侍りて、とほき所よりかへりまうてきけるみちにととまりて、九月はかりに
よみ人しらす
和歌 おもふひと ありてかへれは いつしかの つままつよひの こゑそかなしき
解釈 思ふ人ありてかへれはいつしかのつままつよひのこゑそかなしき

歌番号1366
京に思ふ人侍りて、とほき所よりかへりまうてきけるみちにととまりて、九月はかりに
よみ人しらす
和歌 くさまくら ゆふてはかりは なになれや つゆもなみたも おきかへりつつ
解釈 草枕ゆふてはかりはなになれやつゆもなみたもおきかへりつつ

歌番号1367
宮のたきといふ所に法皇おはしましたりけるに、おほせことありて
素性法師
和歌 あきやまに まとふこころを みやたきの たきのしらあわに けちやはててむ
解釈 秋山にまとふ心をみやたきのたきのしらあわにけちやはててむ


巻二十 慶賀歌(附 哀傷歌)

歌番号1368
女八のみこ元良のみこのために四十賀し侍りけるに、きくの花をかさしにをりて
藤原伊衡朝臣
和歌 よろつよの しもにもかれぬ しらきくを うしろやすくも かさしつるかな
解釈 よろつ世の霜にもかれぬ白菊をうしろやすくもかさしつるかな

歌番号1369
典侍あきらけいこ、ちちの宰相のために賀し侍りけるに、玄朝法師のもからきぬぬひてつかはしたりけれは
典侍あきらけい子
和歌 くもわくる あまのはころも うちきては きみかちとせに あはさらめやは
解釈 雲わくるあまの羽衣うちきては君かちとせにあはさらめやは

歌番号1370
題しらす
太政大臣
和歌 ことしより わかなにそへて おいのよに うれしきことを つまむとそおもふ
解釈 ことしよりわかなにそへておいのよにうれしき事をつまむとそ思ふ

歌番号1371
のりあきらのみこかうふりしける日あそひし侍りけるに、右大臣これかれうたよませ侍りけるに
つらゆき
和歌 ことのねも たけもちとせの こゑするは ひとのおもひに かよふなりけり
解釈 ことのねも竹もちとせのこゑするは人の思ひにかよふなりけり

歌番号1372
賀のやうなることし侍りける所にて
よみ人しらす
和歌 ももとせと いはふをわれは ききなから おもふかためは あかすそありける
解釈 ももとせといはふを我はききなから思ふかためはあかすそ有りける

歌番号1373
左大臣の家のをのここ女こ、かうふりしもき侍りけるに
つらゆき
和歌 おほはらや をしほのやまの こまつはら はやこたかかれ ちよのかけみむ
解釈 おほはらやをしほの山のこ松原はやこたかかれちよの影みん

歌番号1374
人のかうふりする所にて、ふちの花をかさして
よみ人しらす
和歌 うちよする なみのはなこそ さきにけれ ちよまつかせや はるになるらむ
解釈 打ちよする浪の花こそさきにけれちよ松風やはるになるらん

歌番号1375
女のもとにつかはしける
よみ人しらす
和歌 きみかため まつのちとせも つきぬへし これよりまさむ かみのよもかな
解釈 君かため松のちとせもつきぬへしこれよりまさん神の世もかな

歌番号1376
年星おこなふとて、女檀越のもとよりすすをかりて侍りけれは、くはへてつかはしける
ゆいせい法師
和歌 ももとせに やそとせそへて いのりくる たまのしるしを きみみさらめや
解釈 ももとせにやそとせそへていのりくる玉のしるしを君みさらめや

歌番号1377
左大臣の家にけふそく心さしおくるとてくはへける
僧都仁教
和歌 けふそくを おさへてまさへ よろつよに はなのさかりを こころしつかに
解釈 けふそくをおさへてまさへよろつよに花のさかりを心しつかに

歌番号1378
今上、帥のみこときこえし時、太政大臣の家にわたりおはしましてかへらせ給ふ御おくりものに、御本たてまつるとて
太政大臣
和歌 きみかため いはふこころの ふかけれは ひしりのみよの あとならへとそ
解釈 君かためいはふ心のふかけれはひしりのみよのあとならへとそ

歌番号1379
御返し
今上御製
和歌 をしへおく ことたかはすは ゆくすゑの みちとほくとも あとはまとはし
解釈 をしへおくことたかはすはゆくすゑの道とほくともあとはまとはし

歌番号1380
今上むめつほにおはしましし時、たき木こらせてたてまつり給ひける
太政大臣
和歌 やまひとの これるたききは きみかため おほくのとしを つまむとそおもふ
解釈 山人のこれるたききは君かためおほくの年をつまんとそ思ふ

歌番号1381
御返し
御製
和歌 としのかす つまむとすなる おもにには いととこつけを こりもそへなむ
解釈 年のかすつまんとすなるおもににはいととこつけをこりもそへなん

歌番号1382
東宮の御前にくれ竹うゑさせたまひけるに
きよたた
和歌 きみかため うつしてううる くれたけに ちよもこもれる ここちこそすれ
解釈 君かためうつしてううるくれ竹にちよもこもれる心地こそすれ

歌番号1383
院の殿上にて、宮の御方より碁盤いたさせたまひけるこいしけのふたに
命婦いさきよき子
和歌 をののえの くちむもしらす きみかよの つきむかきりは うちこころみよ
解釈 をののえのくちむもしらす君か世のつきんかきりはうちこころみよ

歌番号1384
西四条のみこの家の山にて、女四のみこのもとに
右大臣
和歌 なみたてる まつのみとりの えたわかす をりつつちよを たれとかはみむ
解釈 なみたてる松の緑の枝わかすをりつつちよを誰とかは見む

歌番号1385
十二月はかりに、かうふりする所にて
つらゆき
和歌 いはふこと ありとなるへし けふなれと としのこなたに はるもきにけり
解釈 いはふこと有りとなるへしけふなれと年のこなたにはるもきにけり

歌番号1386
あつとしか身まかりにけるをまたきかて、あつまより馬をおくりて侍りけれは
左大臣
和歌 またしらぬ ひともありけり あつまちに われもゆきてそ すむへかりける
解釈 またしらぬ人も有りけるあつまちに我も行きてそすむへかりける

歌番号1387
あにのふくにて一条にまかりて
太政大臣
和歌 はるのよの ゆめのなかにも おもひきや きみなきやとを ゆきてみむとは
解釈 春の夜の夢のなかにも思ひきや君なきやとをゆきてみんとは

歌番号1388
返し
よみ人しらす
和歌 やとみれは ねてもさめても こひしくて ゆめうつつとも わかれさりけり
解釈 やと見れはねてもさめてもこひしくて夢うつつともわかれさりけり

歌番号1389
先帝おはしまさて、世中思ひなけきてつかはしける
三条右大臣
和歌 はかなくて よにふるよりは やましなの みやのくさきと ならましものを
解釈 はかなくて世にふるよりは山しなの宮の草木とならましものを

歌番号1390
返し
兼輔朝臣
和歌 やましなの みやのくさきと きみならは われはしつくに ぬるはかりなり
解釈 山しなの宮の草木と君ならは我はしつくにぬるはかりなり

歌番号1391
時もちの朝臣身まかりてのち、はてのころちかくなりて、人のもとよりいかに思ふらむといひおこせたりけれは
時望朝臣妻
和歌 わかれにし ほとをはてとも おもほえす こひしきことの かきりなけれは
解釈 わかれにしほとをはてともおもほえすこひしきことの限なけれは

歌番号1392
女四のみこのふみの侍りけるに、かきつけて内侍のかみに
右大臣
和歌 たねもなき はなたにちらぬ やともあるを なとかかたみの こたになからむ
解釈 たねもなき花たにちらぬやともあるをなとかかたみのこたになからん

歌番号1393
返し
内侍のかみ
和歌 むすひおきし たねならねとも みるからに いととしのふの くさをつむかな
解釈 結ひおきしたねならねともみるからにいとと忍の草をつむかな

歌番号1394
女四のみこの事とふらひ侍りて
伊勢
和歌 ここらよを きくかうちにも かなしきは ひとのなみたも つきやしぬらむ
解釈 ここらよをきくか中にもかなしきは人の涙もつきやしぬらん

歌番号1395
返し
よみ人しらす
和歌 きくひとも あはれてふなる わかれには いととなみたそ つきせさりける
解釈 聞く人もあはれてふなる別にはいとと涙そつきせさりける

歌番号1396
先帝おはしまさて又の年の正月一日おくり侍りける
三条右大臣
和歌 いたつらに けふやくれなむ あたらしき はるのはしめは むかしなからに
解釈 いたつらにけふやくれなんあたらしき春の始は昔なからに

歌番号1397
返し
兼輔朝臣
和歌 なくなみた ふりにしとしの ころもては あたらしきにも かはらさりけり
解釈 なく涙ふりにし年の衣手はあたらしきにもかはらさりけり

歌番号1398
かさねてつかはしける
三条右大臣
和歌 ひとのよの おもひにかなふ ものならは わかみはきみに おくれましやは
解釈 人の世の思ひにかなふ物ならはわか身は君におくれましやは

歌番号1399
めの身まかりてのち、すみ侍りける所のかへに、かの侍りける時かきつけて侍りけるてを、み侍りて
兼輔朝臣
和歌 ねぬゆめに むかしのかへを みつるより うつつにものそ かなしかりける
解釈 ねぬ夢に昔のかへを見つるよりうつつに物そかなしかりける

歌番号1400
あひしりて侍りける女の身まかりにけるを、こひ侍りけるあひたに、よふけてをしのなき侍りけれは
閑院左大臣
和歌 ゆふされは ねになくをしの ひとりして つまこひすなる こゑのかなしさ
解釈 ゆふされはねにゆくをしのひとりしてつまこひすなるこゑのかなしさ

歌番号1401
七月はかりに、左大臣のはは身まかりにける時に、おもひに侍りけるあひた、きさいの宮より萩の花ををりてたまへりけれは
太政大臣
和歌 をみなへし かれにしのへに すむひとは まつさくはなを またてともみす
解釈 をみなへしかれにしのへにすむ人はまつさく花をまたてとも見す

歌番号1402
なくなりにける人の家にまかりて、かへりてのあしたにかしこなる人につかはしける
伊勢
和歌 なきひとの かけたにみえぬ やりみつの そこはなみたに なかしてそこし
解釈 なき人の影たに見えぬやり水のそこは涙になかしてそこし

歌番号1403
やまとに侍りける母身まかりてのち、かのくにへまかるとて
伊勢
和歌 ひとりゆく ことこそうけれ ふるさとの ならのならひて みしひともなみ
解釈 ひとりゆく事こそうけれふるさとのならのならひてみし人もなみ

歌番号1404
法皇の御ふくなりける時、にひいろのさいてにかきて人におくり侍りける
京極御息所
和歌 すみそめの こきもうすきも みるときは かさねてものそ かなしかりける
解釈 すみそめのこきもうすきも見る時はかさねて物そかなしかりける

歌番号1405
女四のみこのかくれ侍りにける時
右大臣
和歌 きのふまて ちよとちきりし きみをわか してのやまちに たつぬへきかな
解釈 昨日まてちよとちきりし君をわかしての山ちにたつぬへきかな

歌番号1406
先坊うせたまひてのはる、大輔につかはしける
はるかみの朝臣のむすめ
和歌 あらたまの としこえくらし つねもなき はつうくひすの ねにそなかるる
解釈 あらたまの年こえくらしつねもなきはつ鴬のねにそなかるる

歌番号1407
返し
大輔
和歌 ねにたてて なかぬひはなし うくひすの むかしのはるを おもひやりつつ
解釈 ねにたててなかぬ日はなし鴬の昔の春を思ひやりつつ

歌番号1408
おなし年の秋
玄上朝臣女
和歌 もろともに おきゐしあきの つゆはかり かからむものと おもひかけきや
解釈 もろともにおきゐし秋のつゆはかりかからん物と思ひかけきや

歌番号1409
清正か枇杷大臣のいみにこもりて侍りけるにつかはしける
藤原守文
和歌 よのなかの かなしきことを きくのうへに おくしらつゆそ なみたなりける
解釈 世中のかなしき事を菊のうへにおく白露そ涙なりける

歌番号1410
返し
きよたた
和歌 きくにたに つゆけかるらむ ひとのよを めにみしそてを おもひやらなむ
解釈 きくにたにつゆけかるらん人のよをめにみし袖を思ひやらなん

歌番号1411
兼輔朝臣なくなりてのち、土左のくによりまかりのほりて、かのあはたの家にて
つらゆき
和歌 ひきうゑし ふたはのまつは ありなから きみかちとせの なきそかなしき
解釈 ひきうゑしふたはの松は有りなから君かちとせのなきそ悲しき

歌番号1412
そのついてにかしこなる人
よみ人しらす
和歌 きみまさて としはへぬれと ふるさとに つきせぬものは なみたなりけり
解釈 君まさて年はへぬれとふるさとにつきせぬ物は涙なりけり

歌番号1413
人のとふらひにまうてきたりけるに、はやくなくなりにきといひ侍りけれは、かへてのもみちにかきつけ侍りける
戒仙法師
和歌 すきにける ひとをあきしも とふからに そてはもみちの いろにこそなれ
解釈 すきにける人を秋しも問ふからに袖はもみちの色にこそなれ

歌番号1414
なくなりて侍りける人のいみにこもりて侍りけるに、雨のふる日ひとのとひて侍りけれは
よみ人しらす
和歌 そてかわく ときなかりつる わかみには ふるをあめとも おもはさりけり
解釈 袖かわく時なかりつるわか身にはふるを雨ともおもはさりけり

歌番号1415
人のいみはててもとの家にかへりける日
よみ人しらす
和歌 ふるさとに きみはいつらと まちとはは いつれのそらの かすみといはまし
解釈 ふるさとに君はいつらとまちとははいつれのそらの霞といはまし

歌番号1416
敦忠朝臣身まかりて又の年、かの朝臣のをのなる家見むとてこれかれまかりて、ものかたりし侍りけるついてによみ侍りける
清正
和歌 きみかいにし かたやいつれそ しらくもの ぬしなきやとと みるかかなしさ
解釈 君かいにし方やいつれそ白雲のぬしなきやとと見るかかなしさ

歌番号1417
おやのわさしに寺にまうてきたりけるを、ききつけて、もろともにまうてましものをと人のいひけれは
よみ人しらす
和歌 わひひとの たもとにきみか うつりせは ふちのはなとそ いろはみえまし
解釈 わひ人のたもとに君かうつりせは藤の花とそ色は見えまし

歌番号1418
返し
よみ人しらす
和歌 よそにをる そてたにひちし ふちころも なみたにはなも みえすそあらまし
解釈 よそにをる袖たにひちし藤衣涙に花も見えすそあらまし

歌番号1419
題しらす
伊勢
和歌 ほともなく たれもおくれぬ よなれとも とまるはゆくを かなしとそみる
解釈 ほともなく誰もおくれぬ世なれともとまるはゆくをかなしとそみる

歌番号1420
人をなくなして、かきりなくこひて思ひいりてねたる夜のゆめに見えけれは、おもひける人にかくなんといひつかはしたりけれは
玄上朝臣女
和歌 ときのまも なくさめつらむ さめぬまは ゆめにたにみぬ われそかなしき
解釈 時のまもなくさめつらんさめぬまは夢にたに見ぬわれそかなしき

歌番号1421
返し
大輔
和歌 かなしさの なくさむへくも あらさりつ ゆめのうちにも ゆめとみゆれは
解釈 かなしさのなくさむへくもあらさりつゆめのうちにも夢とみゆれは

歌番号1422
在原としはるか身まかりにけるをききて
伊勢
和歌 かけてたに わかみのうへと おもひきや こむとしはるの はなをみしとは
解釈 かけてたにわか身のうへと思ひきやこむ年春の花をみしとは

歌番号1423
ひとつかひ侍りけるつるのひとつかなくなりにけれは、とまれるかいたくなき侍りけれは、雨のふり侍りけるに
伊勢
和歌 なくこゑに そひてなみたは のほらねと くものうへより あめとふるらむ
解釈 なくこゑにそひて涙はのほらねと雲のうへよりあめとふるらん

歌番号1424
めのみまかりてのとしのしはすのつこもりの日、ふることいひ侍りけるに
兼輔朝臣
和歌 なきひとの ともにしかへる としならは くれゆくけふは うれしからまし
解釈 なき人のともにし帰る年ならはくれゆくけふはうれしからまし

歌番号1425
返し
つらゆき
和歌 こふるまに としのくれなは なきひとの わかれやいとと とほくなりなむ
解釈 こふるまに年のくれなはなき人の別やいとととほくなりなん

コメント

後撰和歌集 原文 その九 巻十六から巻十八前半(歌番1270)まで

2017年02月05日 | 後撰和歌集 初回
後撰和歌集 その九 巻十六から巻十八前半(歌番1270)まで

簡単な解説を「後撰和歌集 その一」に載せています。

巻十六 雑歌二

歌番号1125
おもふ所ありて、前太政大臣によせて侍りける
在原業平朝臣
和歌 たのまれぬ うきよのなかを なけきつつ ひかけにおふる みをいかにせむ
解釈 たのまれぬうき世中を歎きつつ日かけにおふる身を如何せん

歌番号1126
やまひし侍りて、あふみの関寺にこもりて侍りけるに、まへのみちより閑院のこ、石山にまうてけるを、たたいまなん行きすきぬると人のつけ侍りけれは、おひてつかはしける
としゆきの朝臣
和歌 あふさかの ゆふつけになく とりのねを ききとかめすそ ゆきすきにける
解釈 相坂のゆふつけになく鳥のねをききとかめすそ行きすきにける

歌番号1127
前中宮宣旨、贈太政大臣の家よりまかりいててあるに、かの家に事にふれてひくらしといふ事なむ侍りける
宣旨
和歌 みやまより ひひききこゆる ひくらしの こゑをこひしみ いまもけぬへし
解釈 み山よりひひききこゆるひくらしの声をこひしみ今もけぬへし

歌番号1128
返し
贈太政大臣
和歌 ひくらしの こゑをこひしみ けぬへくは みやまとほりに はやもきねかし
解釈 ひくらしの声を恋しみけぬへくはみ山とほりにはやもきねかし

歌番号1129
河原にいててはらへし侍りけるに、おほいまうちきみもいてあひて侍りけれは
あつたたの朝臣の母
和歌 ちかはれし かものかはらに こまとめて しはしみつかへ かけをたにみむ
解釈 ちかはれしかもの河原に駒とめてしはし水かへ影をたに見む

歌番号1130
人の牛をかりて侍りけるに、しに侍りけれは、いひつかはしける
閑院のこ
和歌 わかのりし ことをうしとや きえにけむ くさはにかかる つゆのいのちは
解釈 わかのりし事をうしとやきえにけん草はにかかる露の命は

歌番号1131
延喜御時、賀茂臨時祭の日、御前にてさかつきとりて
三条右大臣
和歌 かくてのみ やむへきものか ちはやふる かものやしろの よろつよをみむ
解釈 かくてのみやむへきものかちはやふるかもの社のよろつ世を見む

歌番号1132
おなし御時、きたのの行幸にみこしをかにて
枇杷左大臣
和歌 みこしをか いくそのよよに としをへて けふのみゆきを まちてみつらむ
解釈 みこしをかいくその世世に年をへてけふのみ行をまちてみつらん

歌番号1133
戒仙かふかき山てらにこもり侍りけるに、こと法師まうてきて、雨にふりこめられて侍りけるに
よみ人しらす
和歌 いつれをか あめともわかむ やまふしの おつるなみたも ふりにこそふれ
解釈 いつれをか雨ともわかむ山ふしのおつる涙もふりにこそふれ

歌番号1134
これかれあひてよもすから物かたりして、つとめておくり侍りける
藤原おきかせ
和歌 おもひには きゆるものそと しりなから けさしもおきて なににきつらむ
解釈 思ひにはきゆる物そとしりなからけさしもおきてなににきつらん

歌番号1135
わかう侍りける時は、しかにつねにまうてけるを、年おいてはまゐり侍らさりけるに、まゐり侍りて
よみ人しらす
和歌 めつらしや むかしなからの やまのゐは しつめるかけそ くちはてにける
解釈 めつらしや昔なからの山の井はしつめる影そくちはてにける

歌番号1136
宇治のあしろにしれる人の侍りけれはまかりて
大江興俊
和歌 うちかはの なみにみなれし きみませは われもあしろに よりぬへきかな
解釈 うち河の浪にみなれし君ませは我もあしろによりぬへきかな

歌番号1137
院のみかと内におはしましし時、人人に扇てうせさせたまひける、たてまつるとて
小弐のめのと
和歌 ふきいつる ねところたかく きこゆなり はつあきかせは いさてならさし
解釈 吹きいつるね所たかくきこゆなりはつ秋風はいさてならさし

歌番号1138
返し
大輔
和歌 こころして まれにふきつる あきかせを やまおろしには なさしとそおもふ
解釈 心してまれに吹きつる秋風を山おろしにはなさしとそ思ふ

歌番号1139
をとこのふみおほくかきてといひけれは
よみ人しらす
和歌 はかなくて たえなむくもの いとゆゑに なににかおほく かかむとそおもふ
解釈 はかなくてたえなんくものいとゆゑに何にかおほくかかんとそ思ふ

歌番号1140
くらまのさかをよるこゆとてよみ侍りける
亭子院にいまあことめしける人
和歌 むかしより くらまのやまと いひけるは わかことひとも よるやこえけむ
解釈 昔よりくらまの山といひけるはわかこと人もよるやこえけん

歌番号1141
をとこにつけてみちのくにへむすめをつかはしたりけるか、そのをとこ、心かはりにたりとききて、心うしとおやのいひつかはしたりけれは
よみ人しらす
和歌 くもゐちの はるけきほとの そらことは いかなるかせの ふきてつけけむ
解釈 雲井ちのはるけきほとのそら事はいかなる風の吹きてつけけん

歌番号1142
返し、女のはは
よみ人しらす
和歌 あまくもの うきたることと ききしかと なほそこころは そらになりにし
解釈 あま雲のうきたることとききしかと猶そ心はそらになりにし

歌番号1143
たまさかにかよへるふみをこひかへしけれは、そのふみにくしてつかはしける
もとよしのみこ
和歌 やれはをし やらねはひとに みえぬへし なくなくもなほ かへすまされり
解釈 やれはをしやらねは人に見えぬへしなくなくも猶かへすまされり

歌番号1144
延喜御時、御むまをつかはして、はやくまゐるへきよしおほせつかはしたりけれは、すなはちまゐりて、おほせことうけたまはれる人につかはしける
素性法師
和歌 もちつきの こまよりおそく いてつれは たとるたとるそ やまはこえつる
解釈 もち月のこまよりおそくいてつれはたとるたとるそ山はこえつる

歌番号1145
やまひして心ほそしとて、大輔につかはしける
藤原敦敏
和歌 よろつよを ちきりしことの いたつらに ひとわらへにも なりぬへきかな
解釈 よろつ世を契りし事のいたつらに人わらへにもなりぬへきかな

歌番号1146
返し
大輔
和歌 かけていへは ゆゆしきものを よろつよと ちきりしことや かなはさるへき
解釈 かけていへはゆゆしきものを万代と契りし事やかなはさるへき

歌番号1147
あられのふるをそてにうけてきえけるを、うみのほとりにて
よみ人しらす
和歌 ちるとみて そてにうくれと たまらぬは あれたるなみの はなにそありける
解釈 ちると見てそてにうくれとたまらぬはあれたる浪の花にそ有りける

歌番号1148
ある所のわらは女、五節見に南殿にさふらひて、くつをうしなひてけり、すけむとの朝臣蔵人にてくつをかして侍りけるを、かへすとて
よみ人しらす
和歌 たちさわく なみまをわけて かつきてし おきのもくつを いつかわすれむ
解釈 たちさわく浪まをわけてかつきてしおきのもくつをいつかわすれん

歌番号1149
返し
輔臣朝臣
和歌 かつきいてし おきのもくつを わすれすは そこのみるめを われにからせよ
解釈 かつきいてしおきのもくつをわすれすはそこのみるめを我にからせよ

歌番号1150
人のもをぬはせ侍るに、ぬひてつかはすとて
よみ人しらす
和歌 かきりなく おもふこころは つくはねの このもやいかか あらむとすらむ
解釈 限なく思ふ心はつくはねのこのもやいかかあらんとすらん

歌番号1151
をとこのやまひしけるを、とふらはてありありて、やみかたにとへりけれは
よみ人しらす
和歌 おもひいてて とふことのはを たれみまし みのしらくもと なりなましかは
解釈 思ひいててとふ事のはをたれみまし身の白雲と成りなましかは

歌番号1152
みそかをとこしたる女を、あらくはいはてとへと、ものもいはさりけれは
よみ人しらす
和歌 わすれなむと おもふこころの つくからに ことのはさへや いへはゆゆしき
解釈 わすれなんと思ふ心のつくからに事のはさへやいへはゆゆしき

歌番号1153
をとこのかくれて女を見たりけれは、つかはしける
よみ人しらす
和歌 かくれゐて わかうきさまを みつのうへの あわともはやく おもひきえなむ
解釈 かくれゐてわかうきさまを水のうへのあわともはやく思ひきえなん

歌番号1154
世中をとかく思ひわつらひ侍りけるほとに、女ともたちなる人、猶わかいはむ事につきねとかたらひ侍りけれは
よみ人しらす
和歌 ひとこころ いさやしらなみ たかけれは よらむなきさそ かねてかなしき
解釈 人心いさやしら浪たかけれはよらむなきさそかねてかなしき

歌番号1155
いたく事このむよしを時の人いふとききて
高津内親王
和歌 なほききに まかれるえたも あるものを けをふききすを いふかわりなさ
解釈 なほき木にまかれる枝もあるものをけをふききすをいふかわりなさ

歌番号1156
みかとにたてまつりたまひける
嵯峨后
和歌 うつろはぬ こころのふかく ありけれは ここらちるはな はるにあへること
解釈 うつろはぬ心のふかく有りけれはここらちる花春にあへること

歌番号1157
これかれ女のもとにまかりて物いひなとしけるに、女のあなさむの風やと申しけれは
よみ人しらす
和歌 たまたれの あみめのまより ふくかせの さむくはそへて いれむおもひを
解釈 玉たれのあみめのまよりふく風のさむくはそへていれん思ひを

歌番号1158
をとこの物いひけるをさわきけれは、かへりてあしたにつかはしける
よみ人しらす
和歌 しらなみの うちさわかれて たちしかは みをうしほにそ そてはぬれにし
解釈  白浪のうちさわかれてたちしかは身をうしほにそ袖はぬれにし

歌番号1159
返し
よみ人しらす
和歌 とりもあへす たちさわかれし あたなみに あやなくなにに そてのぬれけむ
解釈 とりもあへすたちさわかれしあた浪にあやなく何に袖のぬれけん

歌番号1160
題しらす
よみ人しらす
和歌 たたちとも たのまさらなむ みにちかき ころものせきも ありといふなり
解釈  たたちともたのまさらなん身にちかき衣の関もありといふなり

歌番号1161
ともたちのひさしくあはさりけるに、まかりあひてよみ侍りける
よみ人しらす
和歌 あはぬまに こひしきみちも しりにしを なとうれしきに まよふこころそ
解釈  あはぬまに恋しき道もしりにしをなとうれしきに迷ふ心そ

歌番号1162
題しらす
よみ人しらす
和歌 いかなりし ふしにかいとの みたれけむ しひてくれとも とけすみゆるは
解釈 いかなりしふしにかいとのみたれけんしひてくれともとけすみゆるは

歌番号1163
人のめにかよひける、みつけられ侍りて
賀朝法師
和歌 みなくとも ひとにしられし よのなかに しられぬやまを しるよしもかな
解釈 身なくとも人にしられし世中にしられぬ山をしるよしもかな

歌番号1164
返し、もとのをとこ
賀朝法師
和歌 よのなかに しられぬやまに みなくとも たにのこころや いはておもはむ
解釈 世中にしられぬ山に身なくとも谷の心やいはておもはむ

歌番号1165
山の井のきみにつかはしける
よみ人しらす
和歌 おとにのみ ききてはやまし あさくとも いさくみみてむ やまのゐのみつ
解釈 おとにのみききてはやましあさくともいさくみみてん山の井の水

歌番号1166
やまひしけるを、からうしておこたれりとききて
よみ人しらす
和歌 してのやま たとるたとるも こえななて うきよのなかに なにかへりけむ
解釈 しての山たとるたとるもこえななてうき世中になにかへりけん

歌番号1167
題しらす
よみ人しらす
和歌 かすならぬ みをもちににて よしのやま たかきなけきを おもひこりぬる
解釈 かすならぬ身をもちににて吉野山高き歎を思ひこりぬる

歌番号1168
返し
よみ人しらす
和歌 よしのやま こえむことこそ かたからめ こらむなけきの かすはしりなむ
解釈 吉野山こえん事こそかたからめこらむ歎のかすはしりなん

歌番号1169
陽成院のみかと、時時とのゐにさふらはせたまうけるを、ひさしうめしなかりけれはたてまつりける
武蔵
和歌 かすならぬ みにおくよひの しらたまは ひかりみえさす ものにそありける
解釈 かすならぬ身におくよひの白玉は光見えさす物にそ有りける

歌番号1170
まかりかよひける女の心とけすのみ見え侍りけれは、年月もへぬるを、今さへかかることといひつかはしたりけれは
よみ人しらす
和歌 なにはかた みきはのあしの おいかよに うらみてそふる ひとのこころを
解釈 なにはかたみきはのあしのおいかよに怨みてそふる人の心を

歌番号1171
女のもとより怨みおこせて侍りける返事に
よみ人しらす
和歌 わするとは うらみさらなむ はしたかの とかへるやまの しひはもみちす
解釈 わするとは怨みさらなんはしたかのとかへる山のしひはもみちす

歌番号1172
むかしおなし所に宮つかへし侍りける女の、をとこにつきて人のくににおちゐたりけるをききつけて、心ありける人なれは、いひつかはしける
よみ人しらす
和歌 をちこちの ひとめまれなる やまさとに いへゐせむとは おもひきやきみ
解釈 をちこちの人めまれなる山里に家ゐせんとは思ひきや君

歌番号1173
返し
よみ人しらす
和歌 みをうしと ひとしれぬよを たつねこし くものやへたつ やまにやはあらぬ
解釈 身をうしと人しれぬ世を尋ねこし雲のやへ立つ山にやはあらぬ

歌番号1174
をとこなと侍らすして、としころ山里にこもり侍りける女を、むかしあひしりて侍りける人、みちまかりけるついてに、ひさしうきこえさりつるを、ここになりけりといひいれて侍りけれは
土左
和歌 あさなけに よのうきことを しのひつつ なかめせしまに としはへにけり
解釈 あさなけに世のうきことをしのひつつなかめせしまに年はへにけり

歌番号1175
山里に侍りけるに、むかしあひしれる人の、いつよりここにはすむそととひけれは
閑院
和歌 はるやこし あきやゆきけむ おほつかな かけのくちきと よをすくすみは
解釈 春やこし秋やゆきけんおほつかな影の朽木と世をすくす身は

歌番号1176
題しらす
つらゆき
和歌 よのなかは うきものなれや ひとことの とにもかくにも きこえくるしき
解釈 世中はうき物なれや人ことのとにもかくにもきこえくるしき

歌番号1177
題しらす
よみ人しらす
和歌 むさしのは そてひつはかり わけしかと わかむらさきは たつねわひにき
解釈 武蔵野は袖ひつはかりわけしかとわか紫はたつねわひにき

歌番号1178
いとまにてこもりゐて侍りけるころ、人のとはす侍りけれは
壬生忠岑
和歌 おほあらきの もりのくさとや なりにけむ かりにたにきて とふひとのなき
解釈 おほあらきのもりの草とやなりにけむかりにたにきてとふ人のなき

歌番号1179
ある所に宮つかへし侍りける女のあたなたちけるかもとより、おのれかうへはそこになんくちのはにかけていはるなると、うらみて侍りけれは
よみ人しらす
和歌 あはれてふ ことこそつねの くちのはに かかるやひとを おもふなるらむ
解釈 あはれてふ事こそつねのくちのはにかかるや人を思ふなるらん

歌番号1180
題しらす
伊勢
和歌 ふくかせの したのちりにも あらなくに さもたちやすき わかなきなかな
解釈 吹く風のしたのちりにもあらなくにさもたちやすきわかなきなかな

歌番号1181
かすかにまうてける道にさほ河のほとりに、はつせよりかへる女くるまのあひて侍りけるか、すたれのあきたるよりはつかに見いれけれは、あひしりて侍りける女の、心さしふかく思ひかはしなから、ははかる事侍りて、あひはなれて六、七年はかりになり侍りにける女に侍りけれは、かのくるまにいひいれ侍りける
閑院左大臣
和歌 ふるさとの さほのかはみつ けふもなほ かくてあふせは うれしかりけり
解釈 ふるさとのさほの河水けふも猶かくてあふせはうれしかりけり

歌番号1182
枇杷左大臣、よう侍りてならのはをもとめ侍りけれは、ちかぬかあひしりて侍りける家にとりにつかはしたりけれは
俊子
和歌 わかやとを いつならしてか ならのはを ならしかほには をりにおこする
解釈 わかやとをいつならしてかならのはをならしかほにはをりにおこする

歌番号1183
返し
枇杷左大臣
和歌 ならのはの はもりのかみの ましけるを しらてそをりし たたりなさるな
解釈 ならの葉のはもりの神のましけるをしらてそをりしたたりなさるな

歌番号1184
ともたちのもとにまかりて、さかつきあまたたひになりにけれは、にけてまかりけるを、ととめわつらひてもて侍りけるふえをとりととめて、又のあしたにつかはしける
よみ人しらす
和歌 かへりては こゑやたかはむ ふえたけの つらきひとよの かたみとおもへは
解釈 帰りては声やたかはむふえ竹のつらきひとよのかたみと思へは

歌番号1185
返し
よみ人しらす
和歌 ひとふしに うらみなはてそ ふえたけの こゑのうちにも おもふこころあり
解釈 ひとふしに怨みなはてそ笛竹のこゑの内にも思ふ心あり

歌番号1186
もとより友たちに侍りけれは、つらゆきにあひかたらひて、兼輔朝臣の家に名つきをつたへさせ侍りけるに、そのなつきにくはへてつらゆきにおくりける
みつね
和歌 ひとにつく たよりたになし おほあらきの もりのしたなる くさのみなれは
解釈 人につくたよりたになしおほあらきのもりのしたなる草の身なれは

歌番号1187
兼忠朝臣、母身まかりにけれは、兼忠をは故枇杷左大臣の家に、むすめをはきさいの宮にさふらはせむとあひさためて、ふたりなからまつ枇杷の家にわたしおくるとてくはへて侍りける
兼忠朝臣母のめのと
和歌 むすひおきし かたみのこたに なかりせは なににしのふの くさをつままし
解釈 結ひおきしかたみのこたになかりせは何に忍の草をつままし

歌番号1188
もの思ひ侍りけるころ、やむことなきたかき所よりとはせたまへりけれは
よみ人しらす
和歌 うれしきも うきもこころは ひとつにて わかれぬものは なみたなりけり
解釈 うれしきもうきも心はひとつにてわかれぬ物は涙なりけり

歌番号1189
世中の心にかなはぬ事申しけるついてに
つらゆき
和歌 をしからて かなしきものは みなりけり うきよそむかむ かたをしらねは
解釈 をしからてかなしき物は身なりけりうき世そむかん方をしらねは

歌番号1190
おもふこと侍りけるころ、人につかはしける
よみひとしらす
和歌 おもひいつる ときそかなしき よのなかは そらゆくくもの はてをしらねは
解釈 思ひいつる時そかなしき世中はそら行く雲のはてをしらねは

歌番号1191
題しらす
よみひとしらす
和歌 あはれとも うしともいはし かけろふの あるかなきかに けぬるよなれは
解釈 あはれともうしともいはしかけろふのあるかなきかにけぬるよなれは

歌番号1192
題しらす
よみひとしらす
和歌 あはれてふ ことになくさむ よのなかを なとかむかしと いひてすくらむ
解釈 あはれてふ事になくさむ世中をなとか昔といひてすくらん

歌番号1193
はりまのくににたかかたといふ所に、おもしろき家もちて侍りけるを、京にてははかおもひにてひさしうまからて、かのたかかたに侍りける人にいひつかはしける
よみひとしらす
和歌 ものおもふと ゆきてもみねは たかかたの あまのとまやは くちやしぬらむ
解釈 物思ふと行きても見ねはたかかたのあまのとまやはくちやしぬらん

歌番号1194
延喜御時、ときの蔵人のもとに、そうしもせよとおほしくてつかはしける
みつね
和歌 ゆめにたに うれしともみは うつつにて わひしきよりは なほまさりなむ
解釈 夢にたにうれしとも見はうつつにてわひしきよりは猶まさりなん


巻十七 雑歌三

歌番号1195
いその神といふてらにまうてて、日のくれにけれは、夜あけてまかりかへらむとてととまりて、この寺に遍昭侍りと人のつけ侍りけれは、ものいひ心見むとていひ侍りける
小野小町
和歌 いはのうへに たひねをすれは いとさむし こけのころもを われにかさなむ
解釈 いはのうへに旅ねをすれはいとさむし音の衣を我にかさなん

歌番号1196
返し
遍昭
和歌 よをそむく こけのころもは たたひとへ かさねはうとし いさふたりねむ
解釈 世をそむく苔の衣はたたひとへかさねはうとしいさふたりねん

歌番号1197
法皇かへり見たまひけるを、のちのちは時おとろへて有りしやうにもあらすなりにけれは、さとにのみ侍りてたてまつらせける
せかゐのきみ
和歌 あふことの としきりしぬる なけきには みのかすならぬ ものにそありける
解釈 逢ふ事の年きりしぬるなけきには身のかすならぬ物にそ有りける

歌番号1198
女のもとより、あたにきこゆることなといひて侍りけれは
左大臣
和歌 あたひとも なきにはあらす ありなから わかみにはまた ききそならはぬ
解釈 あた人もなきにはあらす有りなからわか身にはまたききそならはぬ

歌番号1199
題しらす
よみ人も
和歌 みやひとと ならまほしきを をみなへし のへよりきりの たちいててそくる
解釈 宮人とならまほしきを女郎花のへよりきりのたちいててそくる

歌番号1200
かしこまる事侍りてさとに侍りけるを、しのひてさうしにまゐれりけるを、おほいまうちきみのなとかおともせぬなとうらみ侍りけれは
大輔
和歌 わかみにも あらぬわかみの かなしきに こころもことに なりやしにけむ
解釈 わか身にもあらぬわか身の悲しきに心もことに成りやしにけん

歌番号1201
人のむすめに名たち侍りて
よみ人しらす
和歌 よのなかを しらすなからも つのくにの なにはたちぬる ものにそありける
解釈 世中をしらすなからもつのくにのなには立ちぬる物にそ有りける

歌番号1202
なきなたち侍りけるころ
よみ人しらす
和歌 よとともに わかぬれきぬと なるものは わふるなみたの きするなりけり
解釈 よとともにわかぬれきぬとなる物はわふる涙のきするなりけり

歌番号1203
前坊おはしまさすなりてのころ、五節の師のもとにつかはしける
大輔
和歌 うけれとも かなしきものを ひたふるに われをやひとの おもひすつらむ
解釈 うけれとも悲しきものをひたふるに我をや人の思ひすつらん

歌番号1204
返し
よみ人しらす
和歌 かなしきも うきもしりにし ひとつなを たれをわくとか おもひすつへき
解釈 悲しきもうきもしりにしひとつ名をたれをわくとか思ひすつへき

歌番号1205
大輔かさうしに、あつたたの朝臣の物へつかはしけるふみをもてたかへたりけれは、つかはしける
大輔
和歌 みちしらぬ ものならなくに あしひきの やまふみまよふ ひともありけり
解釈 道しらぬ物ならなくにあしひきの山ふみ迷ふ人もありけり

歌番号1206
返し
敦忠朝臣
和歌 しらかしの ゆきもきえにし あしひきの やまちをたれか ふみまよふへき
解釈 しらかしの雪もきえにし葦引の山ちを誰かふみ迷ふへき

歌番号1207
いひちきりてのち、こと人につきぬとききて
よみ人しらす
和歌 いふことの たかはぬものに あらませは のちうきことと きこえさらまし
解釈 いふ事のたかはぬ物にあらませは後うき事ときこえさらまし

歌番号1208
題しらす
伊勢
和歌 おもかけを あひみしかすに なすときは こころのみこそ しつめられけれ
解釈 おも影をあひ見しかすになす時は心のみこそしつめられけれ

歌番号1209
かしらしろかりける女を見て
伊勢
和歌 ぬきとめぬ かみのすちもて あやしくも へにけるとしの かすをしるかな
解釈 ぬきとめぬかみのすちもてあやしくもへにける年のかすをしるかな

歌番号1210
題しらす
よみ人も
和歌 なみかすに あらぬみなれは すみよしの きしにもよらす なりやはてなむ
解釈 浪かすにあらぬ身なれは住吉の岸にもよらすなりやはてなん

歌番号1211
題しらす
よみ人も
和歌 つきもせす うきことのはの おほかるを はやくあらしの かせもふかなむ
解釈 つきもせすうき事のはのおほかるをはやく嵐の風もふかなむ

歌番号1212
いとしのひてかたらひける女のもとにつかはしけるふみを、心にもあらておとしたりけるを見つけて、つかはしける
よみ人も
和歌 しまかくれ ありそにかよふ あしたつの ふみおくあとは なみもけたなむ
解釈 島かくれ有そにかよふあしたつのふみおく跡は浪もけたなん

歌番号1213
むかしおなし所にみやつかへしける人、年ころいかにそなととひおこせて侍りけれは、つかはしける
伊勢
和歌 みははやく なきもののこと なりにしを きえせぬものは こころなりけり
解釈 身ははやくなき物のこと成りにしをきえせぬ物は心なりけり

歌番号1214
はらからのなかにいかなる事かありけん、つねならぬさまに見え侍りけれは
よみ人しらす
和歌 むつましき いもせのやまの なかにさへ へたつるくもの はれすもあるかな
解釈 むつましきいもせの山の中にさへへたつる雲のはれすもあるかな

歌番号1215
女のいとくらへかたく侍りけるを、あひはなれにけるか、こと人にむかへられぬとききて、をとこのつかはしける
よみ人しらす
和歌 わかために おきにくかりし はしたかの ひとのてにありと きくはまことか
解釈 わかためにおきにくかりしはしたかの人のてに有りときくはまことか

歌番号1216
くちなしある所にこひにつかはしたるに、いろのいとあしかりけれは
よみ人しらす
和歌 こゑにたてて いはねとしるし くちなしの いろはわかため うすきなりけり
解釈 声にたてていはねとしるしくちなしの色はわかためうすきなりけり

歌番号1217
題しらす
よみ人しらす
和歌 たきつせの はやからぬをそ うらみつる みすともおとに きかむとおもへは
解釈 たきつせのはやからぬをそ怨みつる見すともおとにきかんとおもへは

歌番号1218
人のもとにふみつかはしけるをとこ、人に見せけりとききてつかはしける
よみ人しらす
和歌 みなひとに ふみみせけりな みなせかは そのわたりこそ まつはあさけれ
解釈 みな人にふみみせけりなみなせ河その渡こそまつはあさけれ

歌番号1219
つくしのしらかはといふ所にすみ侍りけるに、大弐藤原おきのりの朝臣のまかりわたるついてに、水たへむとてうちよりてこひ侍りけれは、水をもていててよみ侍りける/かしこに名たかく事このむ女になん侍りける
ひかきの嫗
和歌 としふれは わかくろかみも しらかはの みつはくむまて おいにけるかな
解釈 年ふれはわかくろかみもしら河のみつはくむまて老いにけるかな

歌番号1220
しそくに侍りける女の、をとこになたちて、かかる事なむある、人にいひさわけといひ侍りけれは
つらゆき
和歌 かさすとも たちとたちなむ なきなをは ことなしくさの かひやなからむ
解釈 かさすともたちとたちなんなきなをは事なし草のかひやなからん

歌番号1221
題しらす
つらゆき
和歌 かへりくる みちにそけさは まよふらむ これになすらふ はななきものを
解釈 帰りくる道にそけさは迷ふらんこれになすらふ花なきものを

歌番号1222
女のもとにふみつかはしけるを、返事もせすして、のちのちはふみを見もせてとりなむおくと、人のつけけれは
よみ人しらす
和歌 おほそらに ゆきかふとりの くもちをそ ひとのふみみぬ ものといふなる
解釈 おほそらに行きかふ鳥の雲ちをそ人のふみみぬ物といふなる

歌番号1223
きのすけに侍りけるをとこのまかりかよはすなりにけれは、かのをとこのあねのもとにうれへおこせて侍りけれは、いと心うきことかなといひつかはしたりける返事に
よみ人しらす
和歌 きのくにの なくさのはまは きみなれや ことのいふかひ ありとききつる
解釈 きのくにのなくさのはまは君なれや事のいふかひ有りとききつる

歌番号1224
すみ侍りける女、宮つかへし侍りけるを、ともたちなりける女、おなしくるまにてつらゆきか家にまうてきたりけり、つらゆきかめ、まらうとにあるしせんとてまかりおりて侍りけるほとに、かの女を思ひかけて侍りけれは、しのひてくるまにいれ侍りける
つらゆき
和歌 なみにのみ ぬれつるものを ふくかせの たよりうれしき あまのつりふね
解釈 浪にのみぬれつるものを吹く風のたよりうれしきあまのつり舟

歌番号1225
をとこの物にまかりて、ふたとせはかり有りてまうてきたりけるを、ほとへてのちに、ことなしひに、こと人になたつとききしはまことなりけりといへりけれは
よみ人しらす
和歌 みとりなる まつほとすきは いかてかは したははかりも もみちせさらむ
解釈 緑なる松ほとすきはいかてかはしたははかりももみちせさらん

歌番号1226
故女四のみこののちのわさせむとて、ほたいしのすすをなん右大臣もとめ侍るとききて、このすすをおくるとてくはへ侍りける
真延法師
和歌 おもひいての けふりやまさむ なきひとの ほとけになれる このみみはきみ
解釈 思いての煙やまさんなき人のほとけになれるこのみみは君

歌番号1227
返し
右大臣
和歌 みちなれる このみたつねて こころさし ありとみるにそ ねをはましける
解釈 道なれるこの身尋ねて心さし有りと見るにそねをはましける

歌番号1228
さためたるめも侍らすひとりふしをのみすと、女ともたちのもとよりたはふれて侍りけれは
よみ人しらす
和歌 いつこにも みをははなれぬ かけしあれは ふすとこことに ひとりやはぬる
解釈 いつこにも身をははなれぬ影しあれはふすとこことにひとりやはぬる

歌番号1229
前栽のなかにすろの木おひて侍るとききて、ゆきあきらのみこのもとよりひと木こひにつかはしたれは、くはへてつかはしける
真延法師
和歌 かせしもに いろもこころも かはらねは あるしににたる うゑきなりけり
解釈 風霜に色も心もかはらねはあるしににたるうゑ木なりけり

歌番号1230
返し
行明のみこ
和歌 やまふかみ あるしににたる うゑきをは みえぬいろとそ いふへかりける
解釈 山深みあるしににたるうゑ木をは見えぬ色とそいふへかりける

歌番号1231
大井なる所にて、人人さけたうへけるついてに
なりひらの朝臣
和歌 おほゐかは うかへるふねの かかりひに をくらのやまも なのみなりけり
解釈 大井河うかへる舟のかかり火にをくらの山も名のみなりけり

歌番号1232
題しらす
よみ人も
和歌 あすかかは わかみひとつの ふちせゆゑ なへてのよをも うらみつるかな
解釈 明日香河わか身ひとつのふちせゆゑなへての世をも怨みつるかな

歌番号1233
思ふ事侍りけるころ、志賀にまうてて
よみ人も
和歌 よのなかを いとひかてらに こしかとも うきみなからの やまにそありける
解釈 世中をいとひかてらにこしかともうき身なからの山にそ有りける

歌番号1234
ちちはは侍りける人のむすめにしのひてかよひ侍りけるを、ききつけてかうしせられ侍りけるを、月日へてかくれわたりけれと、雨ふりてえまかりいて侍らてこもりゐて侍りけるを、ちちははききつけていかかはせむとて、ゆるすよしいひて侍りけれは
よみ人も
和歌 したにのみ はひわたりつる あしのねの うれしきあめに あらはるるかな
解釈 したにのみはひ渡りつるあしのねのうれしき雨にあらはるるかな

歌番号1235
人の家にまかりたりけるに、やり水にたきいとおもしろかりけれは、かへりてつかはしける
よみ人も
和歌 たきつせに たれしらたまを みたりけむ ひろふとせしに そてはひちにき
解釈 たきつせに誰白玉をみたりけんひろふとせしに袖はひちにき

歌番号1236
法皇よしののたき御覧しける御ともにて
源昇朝臣
和歌 いつのまに ふりつもるらむ みよしのの やまのかひより くつれおつるゆき
解釈 いつのまにふりつもるらんみよしのの山のかひよりくつれおつる雪

歌番号1237
法皇よしののたき御覧しける御ともにて
法皇御製
和歌 みやのたき うへもなにおひて きこえけり おつるしらあわの たまとひひけは
解釈 宮のたきむへも名におひてきこえけりおつるしらあわの玉とひひけは

歌番号1238
山ふみしはしめける時
僧正遍昭
和歌 いまさらに われはかへらし たきみつつ よへときかすと とははこたへよ
解釈 今更に我はかへらしたき見つつよへときかすととははこたへよ

歌番号1239
題しらす
よみ人も
和歌 たきつせの うつまきことに とめくれと なほたつねくる よのうきめかな
解釈 滝つせのうつまきことにとめくれと猶尋ねくる世のうきめかな

歌番号1240
はしめてかしらおろし侍りける時、ものにかきつけ侍りける
遍昭
和歌 たらちめは かかれとてしも うはたまの わかくろかみを なてすやありけむ
解釈 たらちめはかかれとてしもむはたまのわかくろかみをなてすや有りけん

歌番号1241
みちのくにのかみにまかりくたれりけるに、たけくまの松のかれて侍りけるをみて、こまつをうゑつかせ侍りて、任はててのち又おなしくににまかりなりて、かのさきの任にうゑし松を見侍りて
藤原もとよしの朝臣
和歌 うゑしとき ちきりやしけむ たけくまの まつをふたたひ あひみつるかな
解釈 栽ゑし時契りやしけんたけくまの松をふたたひあひみつるかな

歌番号1242
ふしみといふ所にて、その心をこれかれよみけるに
よみ人しらす
和歌 すかはらや ふしみのくれに みわたせは かすみにまかふ をはつせのやま
解釈 菅原や伏見のくれに見わたせは霞にまかふをはつせの山

歌番号1243
題しらす
よみ人しらす
和歌 ことのはも なくてへにける としつきに このはるたにも はなはさかなむ
解釈 事のはもなくてへにける年月にこの春たにも花はさかなん

歌番号1244
身のうれへ侍りける時、つのくににまかりてすみはしめ侍りけるに
業平朝臣
和歌 なにはつを けふこそみつの うらことに これやこのよを うみわたるふね
解釈 なにはつをけふこそみつの浦ことにこれやこの世をうみわたる舟

歌番号1245
時にあはすして身をうらみてこもり侍りける時
文屋康秀
和歌 しらくもの きやとるみねの こまつはら えたしけけれや ひのひかりみぬ
解釈 白雲のきやとる峰のこ松原枝しけけれや日のひかりみぬ

歌番号1246
心にもあらぬことをいふころ、をとこの扇にかきつけ侍りける
土左
和歌 みにさむく あらぬものから わひしきは ひとのこころの あらしなりけり
解釈 身にさむくあらぬものからわひしきは人の心の嵐なりけり

歌番号1247
心にもあらぬことをいふころ、をとこの扇にかきつけ侍りける
土左
和歌 なからへは ひとのこころも みるへきを つゆのいのちそ かなしかりける
解釈 なからへは人の心も見るへきをつゆのいのちそかなしかりける

歌番号1248
人のもとより、ひさしう心地わつらひてほとほとしくなんありつるといひて侍りけれは
閑院大君
和歌 もろともに いさとはいはて してのやま いかてかひとり こえむとはせし
解釈 もろともにいさとはいはてしての山いかてかひとりこえんとはせし

歌番号1249
月よにかれこれして
かむつけのみねを
和歌 おしなへて みねもたひらに なりななむ やまのはなくは つきもかくれし
解釈 おしなへて峰もたひらになりななん山のはなくは月もかくれし


巻十八 雑歌四

歌番号1250
かはつをききて
よみ人しらす
和歌 わかやとに あひやとりして すむかはつ よるになれはや ものはかなしき
解釈 わかやとにあひやとりしてすむかはつよるになれはや物は悲しき

歌番号1251
ひとひとあまたしりて侍りける女のもとに、友たちのもとより、このころは思定めたるなめり、たのもしき事なりと、たはふれおこせて侍りけれは
よみ人しらす
和歌 たまえこく あしかりをふね さしわけて たれをたれとか われはさためむ
解釈 玉江こくあしかりを舟さしわけて誰をたれとか我は定めん

歌番号1252
をとこのはしめいかにおもへるさまにか有りけん、女のけしきも心とけぬを見て、あやしくおもはぬさまなることといひ侍りけれは
よみ人しらす
和歌 みちのくの をふちのこまも のかふには あれこそまされ なつくものかは
解釈 みちのくのをふちのこまものかふにはあれこそまされなつくものかは

歌番号1253
中将にて内にさふらひける時、あひしりたりける女蔵人のさうしに、つほやなくひおいかけをやとしおきて侍りけるを、にはかに事ありてとほき所にまかり侍りけり、この女のもとよりこのおいかけをおこせて、あはれなる事なといひて侍りける返事に
源善朝臣
和歌 いつくとて たつねきつらむ たまかつら われはむかしの われならなくに
解釈 いつくとて尋ねきつらん玉かつら我は昔の我ならなくに

歌番号1254
たよりにつきて人のくにの方に侍りて、京にひさしうまかりのほらさりける時に、ともたちにつかはしける
よみ人しらす
和歌 あさことに みしみやこちの たえぬれは ことあやまりに とふひともなし
解釈 あさことに見し宮こちのたえぬれは事あやまりにとふ人もなし

歌番号1255
とほきくにに侍りける人を、京にのほりたりとききてあひまつに、まうてきなからとはさりけれは
よみ人しらす
和歌 いつしかと まつちのやまの さくらはな まちてもよそに きくかかなしさ
解釈 いつしかとまつちの山の桜花まちてもよそにきくかかなしさ

歌番号1256
題しらす
伊勢
和歌 いせわたる かははそてより なかるれと とふにとはれぬ みはうきぬめり
解釈 いせわたる河は袖よりなかるれととふにとはれぬ身はうせぬめり

歌番号1257
題しらす
北辺左大臣
和歌 ひとめたに みえぬやまちに たつくもを たれすみかまの けふりといふらむ
解釈 人めたに見えぬ山ちに立つ雲をたれすみかまの煙といふらん

歌番号1258
をとこの、人にもあまたとへ、我やあたなる心あるといへりけれは
伊勢
和歌 あすかかは ふちせにかはる こころとは みなかみしもの ひともいふめり
解釈 あすか河淵せにかはる心とはみなかみしもの人もいふめり

歌番号1259
人のむこの、今まうてこむといひてまかりにけるか、ふみおこする人ありとききてひさしうまうてこさりけれは、あとうかたりの心をとりてかくなん申すめるといひつかはしける
女のはは
和歌 いまこむと いひしはかりを いのちにて まつにけぬへし さくさめのとし
解釈 今こむといひしはかりをいのちにてまつにけぬへしさくさめのとし

歌番号1260
返し
むこ
和歌 かすならぬ みのみものうく おもほえて またるるまても なりにけるかな
解釈 かすならぬ身のみ物うくおもほえてまたるるまてもなりにけるかな

歌番号1261
つねにくとてうるさかりてかくれけれは、つかはしける
よみ人しらす
和歌 ありときく おとはのやまの ほとときす なにかくるらむ なくこゑはして
解釈 有りと聞くおとはの山の郭公何かくるらんなくこゑはして

歌番号1262
物にこもりたるに、しりたる人のつほねならへて正月おこなひていつる暁に、いときたなけなるしたうつをおとしたりけるを、とりてつかはすとて
よみ人しらす
和歌 あしのうらの いときたなくも みゆるかな なみはよりても あらはさりけり
解釈 あしのうらのいときたなくも見ゆるかな浪はよりてもあらはさりけり

歌番号1263
題しらす
よみ人しらす
和歌 ひとこころ たとへてみれは しらつゆの きゆるまもなほ ひさしかりけり
解釈 人心たとへて見れは白露のきゆるまもなほひさしかりけり

歌番号1264
題しらす
よみ人しらす
和歌 よのなかと いひつるものか かけろふの あるかなきかの ほとにそありける
解釈 世中といひつるものかかけろふのあるかなきかのほとにそ有りける

歌番号1265
友たちに侍りける女の、としひさしくたのみて侍りけるをとこにとはれす侍りけれは、もろともになけきて
よみ人しらす
和歌 かくはかり わかれのやすき よのなかに つねとたのめる われそはかなき
解釈 かくはかり別のやすき世中につねとたのめる我そはかなき

歌番号1266
つねになきなたち侍りけれは
伊勢
和歌 ちりにたつ わかなきよめむ ももしきの ひとのこころを まくらともかな
解釈 ちりに立つわかなきよめんももしきの人の心をまくらともかな

歌番号1267
あたなる名たちていひさわかれけるころ、あるをとこほのかにききて、あはれいかにそととひ侍りけれは
こまちかむまこ
和歌 うきことを しのふるあめの したにして わかぬれきぬは ほせとかわかす
解釈 うき事をしのふる雨のしたにしてわかぬれきぬはほせとかわかす

歌番号1268
となりなりけることをかりてかへすついてに
よみ人しらす
和歌 あふことの かたみのこゑの たかけれは わかなくねとも ひとはきかなむ
解釈 逢ふ事のかたみのこゑのたかけれはわかなくねとも人はきかなん

歌番号1269
題しらす
よみ人しらす
和歌 なみたのみ しるみのうさも かたるへく なけくこころを まくらにもかな
解釈 涙のみしる身のうさもかたるへくなけく心をまくらにもかな

歌番号1270
物思ひけるころ
伊勢
和歌 あひにあひて ものおもふころの わかそては やとるつきさへ ぬるるかほなる
解釈 あひにあひて物思ふころのわか袖はやとる月さへぬるるかほなる


コメント

後撰和歌集 原文 その八 巻十三後半(歌番980)から巻十五まで

2017年02月05日 | 後撰和歌集 初回
後撰和歌集 その八 巻十三後半(歌番980)から巻十五まで

簡単な解説を「後撰解釈集 その一」に載せています。

巻十三後半 恋歌五

歌番号980
朝綱朝臣の女にふみなとつかはしけるを、こと女にいひつきてひさしうなりて、秋とふらひて侍りけれは
よみ人しらす
和歌 いつかたに ことつてやりて かりかねの あふことまれに いまはなるらむ
解釈 いつ方に事つてやりてかりかねのあふことまれに今はなるらん

歌番号981
をとこのかれはてぬに、ことをとこをあひしりて侍りけるに、もとのをとこのあつまへまかりけるをききてつかはしける
よみ人しらす
和歌 ありとたに きくへきものを あふさかの せきのあなたそ はるけかりける
解釈 有りとたにきくへきものを相坂の関のあなたそはるけかりける

歌番号982
返し
よみ人しらす
和歌 せきもりか あらたまるてふ あふさかの ゆふつけとりは なきつつそゆく
解釈 関もりかあらたまるてふ相坂のゆふつけ鳥はなきつつそゆく

歌番号983
又女のつかはしける
よみ人しらす
和歌 ゆきかへり きてもきなかむ あふさかの せきにかはれる ひともありやと
解釈 ゆき帰りきてもきかなん相坂の関にかはれる人も有りやと

歌番号984
返し
よみ人しらす
和歌 もるひとの あるとはきけと あふさかの せきもととめぬ わかなみたかな
解釈 もる人のあるとはきけと相坂のせきもととめぬわかなみたかな

歌番号985
かれにけるをとこの、思ひいててまてきて、物なといひてかへりて
よみ人しらす
和歌 かつらきや くめちにわたす いははしの なかなかにても かへりぬるかな
解釈 葛木やくめちにわたすいははしの中中にても帰りぬるかな

歌番号986
返し
よみ人しらす
和歌 なかたえて くるひともなき かつらきの くめちのはしは いまもあやふし
解釈 中たえてくる人もなきかつらきのくめちのはしはいまもあやふし

歌番号987
しろききぬともきたる女ともの、あまた月あかきに侍りけるを見て、あしたにひとりかもとにつかはしける
藤原有好
和歌 しらくもの みなひとむらに みえしかと たちいててきみを おもひそめてき
解釈 白雲のみなひとむらに見えしかとたちいてて君を思ひそめてき

歌番号988
女のもとにつかはしける
よみ人しらす
和歌 よそなれと こころはかりは かけたるを なとかおもひに かわかさるらむ
解釈 よそなれと心はかりはかけたるをなとかおもひにかわかさるらん

歌番号989
題しらす
よみ人しらす
和歌 わかこひの きゆるまもなく くるしきは あはぬなけきや もえわたるらむ
解釈 わかこひのきゆるまもなくくるしきはあはぬ歎やもえわたるらん

歌番号990
返し
よみ人しらす
和歌 きえすのみ もゆるおもひは とほけれと みもこかれぬる ものにそありける
解釈 きえすのみもゆる思ひはとほけれと身もこかれぬる物にそ有りける

歌番号991
又、をとこ
よみ人しらす
和歌 うへにのみ おろかにもゆる かやりひの よにもそこには おもひこかれし
解釈 うへにのみおろかにもゆるかやり火のよにもそこには思ひこかれし

歌番号992
又、返し
よみ人しらす
和歌 かはとのみ わたるをみるに なくさまて くるしきことそ いやまさりなる
解釈 河とのみわたるを見るになくさまてくるしきことそいやまさりなる

歌番号993
又、をとこ
よみ人しらす
和歌 みつまさる ここちのみして わかために うれしきせをは みせしとやする
解釈 水まさる心地のみしてわかためにうれしきせをは見せしとやする


巻十四 恋歌六

歌番号994
人のもとにつかはしける
よみ人しらす
和歌 あふことを よとにありてふ みつのもり つらしときみを みつるころかな
解釈 逢ふ事をよとに有りてふみつのもりつらしと君を見つるころかな

歌番号995
返し
よみ人しらす
和歌 みつのもり もるこのころの なかめには うらみもあへす よとのかはなみ
解釈 みつのもりもるこのころのなかめには怨みもあへすよとの河浪

歌番号996
みつからまてきて、よもすから物いひ侍りけるに、ほとなくあけ侍りにけれは、まかりかへりて
よみ人しらす
和歌 うきよとは おもふものから あまのとの あくるはつらき ものにそありける
解釈 うき世とは思ふものからあまのとのあくるはつらき物にそ有りける

歌番号997
女のもとにつかはしける
よみ人しらす
和歌 うらむれと こふれときみか よとともに しらすかほにて つれなかるらむ
解釈 うらむれとこふれと君かよとともにしらすかほにてつれなかるらん

歌番号998
返し
よみ人しらす
和歌 うらむとも こふともいかか くもゐより はるけきひとを そらにしるへき
解釈 怨むともこふともいかか雲井よりはるけき人をそらにしるへき

歌番号999
いひわつらひてやみにける人に、ひさしうありて又つかはしける
よみ人しらす
和歌 しつはたに へつるほとなり しらいとの たえぬるみとは おもはさらなむ
解釈 しつはたにへつるほとなり白糸のたえぬる身とはおもはさらなん

歌番号1000
返し
よみ人しらす
和歌 へつるより うすくなりにし しつはたの いとはたえても かひやなからむ
解釈 へつるよりうすくなりにししつはたのいとはたえてもかひやなからん

歌番号1001
をとこのまてきて、すき事をのみしけれは、人やいかか見るらんとて
よみ人しらす
和歌 くることは つねならすとも たまかつら たのみはたえしと おもふこころあり
解釈 くる事は常ならすともたまかつらたのみはたえしと思ふ心あり

歌番号1002
返し
よみ人しらす
和歌 たまかつら たのめくるひの かすはあれと たえたえにては かひなかりけり
解釈 玉鬘たのめくる日のかすはあれとたえたえにてはかひなかりけり

歌番号1003
をとこのひさしうおとつれさりけれは
よみ人しらす
和歌 いにしへの こころはなくや なりにけむ たのめしことの たえてとしふる
解釈 いにしへの心はなくや成りにけんたのめしことのたえてとしふる

歌番号1004
返し
よみ人しらす
和歌 いにしへも いまもこころの なけれはそ うきをもしらて としをのみふる
解釈 いにしへも今も心のなけれはそうきをもしらて年をのみふる

歌番号1005
をとこのたたなりける時にはつねにまうてきけるか、ものいひてのちはかとよりわたれとまてこさりけれは
よみ人しらす
和歌 たえたりし むかしたにみし うちはしを いまはわたると おとにのみきく
解釈 絶えたりし昔たに見しうちはしを今はわたるとおとにのみきく

歌番号1006
いひわひてふたとせはかりおともせすなりにけるをとこの、五月はかりにまうてきて、年ころひさしうありつるなといひてまかりにけるに
よみ人しらす
和歌 わすられて としふるさとの ほとときす なににひとこゑ なきてゆくらむ
解釈 わすられて年ふるさとの郭公なににひとこゑなきてゆくらん

歌番号1007
題しらす
よみ人しらす
和歌 とふやとて すきなきやとに きにけれと こひしきことそ しるへなりける
解釈 とふやとてすきなきやとにきにけれとこひしきことそしるへなりける

歌番号1008
物いひわひて女のもとにいひやりける
よみ人しらす
和歌 つゆのいのち いつともしらぬ よのなかに なとかつらしと おもひおかるる
解釈 露のいのちいつともしらぬ世中になとかつらしと思ひおかるる

歌番号1009
女のほかに侍りけるを、そこにとをしふる人も侍らさりけれは、心つからとふらひて侍りける返事につかはしける
よみ人しらす
和歌 かりひとの たつぬるしかは いなみのに あはてのみこそ あらまほしけれ
解釈 かり人のたつぬるしかはいなひのにあはてのみこそあらまほしけれ

歌番号1010
しのひたる女のもとより、なとかおともせぬと申したりけれは
右大臣
和歌 をやまたの みつならなくに かくはかり なかれそめては たえむものかは
解釈 を山田の水ならなくにかくはかり流れそめてはたえんものかは

歌番号1011
をとこのまてこて、ありありて雨のふる夜、おほかさをこひにつかはしたりけれは
これひらの朝臣のむすめいまき
和歌 つきにたに まつほとおほく すきぬれは あめもよにこしと おもほゆるかな
解釈 月にたにまつほとおほくすきぬれは雨もよにこしとおもほゆるかな

歌番号1012
はしめて人につかはしける
よみ人しらす
和歌 おもひつつ またいひそめぬ わかこひを おなしこころに しらせてしかな
解釈 思ひつつまたいひそめぬわかこひをおなし心にしらせてしかな

歌番号1013
いひわつらひてやみにけるを、又思ひいててとふらひ侍りけれは、いと定なき心かなといひて、あすか河の心をいひつかはして侍りけれは
よみ人しらす
和歌 あすかかは こころのうちに なかるれは そこのしからみ いつかよとまむ
解釈 あすか河心の内になかるれはそこのしからみいつかよとまん

歌番号1014
思ひかけたる女のもとに
あさよりの朝臣
和歌 ふしのねを よそにそききし いまはわか おもひにもゆる けふりなりけり
解釈 ふしのねをよそにそききし今はわか思ひにもゆる煙なりけり

歌番号1015
返し
よみ人しらす
和歌 しるしなき おもひとそきく ふしのねも かことはかりの けふりなるらむ
解釈 しるしなき思ひとそきくふしのねもかことはかりの煙なるらん

歌番号1016
いひかはしけるをとこのおや、いといたうせいすとききて、女のいひつかはしける
よみ人しらす
和歌 いひさして ととめらるなる いけみつの なみいつかたに おもひよるらむ
解釈 いひさしてととめらるなる池水の波いつかたに思ひよるらん

歌番号1017
おなし所に侍りける人の、思ふ心侍りけれといはてしのひけるを、いかなるをりにかありけん、あたりにかきておとしける
よみ人しらす
和歌 しられしな わかひとしれぬ こころもて きみをおもひの なかにもゆとは
解釈 しられしなわかひとしれぬ心もて君を思ひのなかにもゆとは

歌番号1018
心さしをはあはれとおもへと、人めになんつつむといひて侍りけれは
よみ人しらす
和歌 あふはかり なくてのみふる わかこひを ひとめにかくる ことのわひしさ
解釈 あふはかりなくてのみふるわかこひを人めにかくる事のわひしさ

歌番号1019
題しらす
よみ人しらす
和歌 なつころも みにはなるとも わかために うすきこころは かけすもあらなむ
解釈 夏衣身にはなるともわかためにうすき心はかけすもあらなん

歌番号1020
題しらす
よみ人しらす
和歌 いかにして ことかたらはむ ほとときす なけきのしたに なけはかひなし
解釈 いかにして事かたらはん郭公歎のしたになけはかひなし

歌番号1021
題しらす
よみ人しらす
和歌 おもひつつ へにけるとしを しるへにて なれぬるものは こころなりけり
解釈 思ひつつへにける年をしるへにてなれぬる物は心なりけり

歌番号1022
ふみなとつかはしける女の、ことをとこにつき侍りけるにつかはしける
源ととのふ
和歌 われならぬ ひとすみのえの きしにいてて なにはのかたを うらみつるかな
解釈 我ならぬ人住の江の岸にいててなにはの方を怨みつるかな

歌番号1023
ととのふかれかたになり侍りにけれは、ととめおきたるふえをつかはすとて
よみ人しらす
和歌 にこりゆく みつにはかけの みえはこそ あしまよふえを ととめてもみめ
解釈 にこりゆく水には影の見えはこそあしまよふえをととめても見め

歌番号1024
菅原のおほいまうちきみの家に侍りける女にかよひ侍りけるをとこ、なかたえて又とひて侍りけれは
よみ人しらす
和歌 すかはらや ふしみのさとの あれしより かよひしひとの あともたえにき
解釈 菅原や伏見の里のあれしよりかよひし人の跡もたえにき

歌番号1025
女のをとこをいとひて、さすかにいかかおほえけん、いへりける
よみ人しらす
和歌 ちはやふる かみにもあらぬ わかなかの くもゐはるかに なりもゆくかな
解釈 ちはやふる神にもあらぬわかなかの雲井遥に成りもゆくかな

歌番号1026
返し
よみ人しらす
和歌 ちはやふる かみにもなにに たとふらむ おのれくもゐに ひとをなしつつ
解釈 千早振神にも何にたとふらんおのれくもゐに人をなしつつ

歌番号1027
女三のみこに
あつよしのみこ
和歌 うきしつみ ふちせにさわく にほとりは そこものとかに あらしとそおもふ
解釈 うきしつみふちせにさわくにほとりはそこものとかにあらしとそ思ふ

歌番号1028
かひに人のものいふとききて
藤原守文
和歌 まつやまに なみたかきおとそ きこゆなる われよりこゆる ひとはあらしを
解釈 松山に浪たかきおとそきこゆなる我よりこゆる人はあらしを

歌番号1029
をとこのもとに、雨ふる夜かさをやりてよひけれと、こさりけれは
よみ人しらす
和歌 さしてこと おもひしものを みかさやま かひなくあめの もりにけるかな
解釈 さしてこと思ひしものをみかさ山かひなく雨のもりにけるかな

歌番号1030
返し
よみ人しらす
和歌 もるめのみ あまたみゆれは みかさやま しるしるいかか さしてゆくへき
解釈 もるめのみあまたみゆれはみかさ山しるしるいかかさしてゆくへき

歌番号1031
女のもとより、いといたくな思ひわひそと、たのめおこせて侍りけれは
よみ人しらす
和歌 なくさむる ことのはにたに かからすは いまもけぬへき つゆのいのちを
解釈 なくさむることのはにたにかからすは今もけぬへき露の命を

歌番号1032
元良のみこのみそかにすみ侍りける、今こむとたのめてこすなりにけれは
兵衛
和歌 ひとしれす まつにねられぬ ありあけの つきにさへこそ あさむかれけれ
解釈 ひとしれすまつにねられぬ晨明の月にさへこそあさむかれけれ

歌番号1033
しのひてすみ侍りける人のもとより、かかるけしき人に見すないへりけれは
もとかた
和歌 たつたかは たちなはきみか なををしみ いはせのもりの いはしとそおもふ
解釈 竜田河たちなは君か名ををしみいはせのもりのいはしとそ思ふ

歌番号1034
宇多院に侍りける人に、せうそこつかはしける返事も侍らさりけれは
よみ人しらす
和歌 うたののは みみなしやまか よふことり よふこゑにたに こたへさるらむ
解釈 うたののはみみなし山かよふこ鳥よふこゑにたにこたへさるらん

歌番号1035
返し
女五のみこ
和歌 みみなしの やまならすとも よふことり なにかはきかむ ときならぬねを
解釈 耳なしの山ならすともよふことり何かはきかん時ならぬねを

歌番号1036
つれなく侍りける人に
たたみね
和歌 こひわひて しぬてふことは またなきを よのためしにも なりぬへきかな
解釈 こひわひてしぬてふことはまたなきを世のためしにもなりぬへきかな

歌番号1037
たちよりけるに、女にけていりけれは、つかはしける
よみ人しらす
和歌 かけみれは おくへいりける きみにより なとかなみたの とへはいつらむ
解釈 影見れはおくへいりける君によりなとか涙のとへはいつらむ

歌番号1038
あひにける女のまたあはさりけれは
よみ人しらす
和歌 しらさりし ときたにこえし あふさかを なといまさらに われまよふらむ
解釈 しらさりし時たにこえし相坂をなと今更にわれ迷ふらん

歌番号1039
女のもとにまかりそめて、あしたに
藤原かけもと
和歌 あかすして まくらのうへに わかれにし ゆめちをまたも たつねてしかな
解釈 あかすして枕のうへに別れにしゆめちを又もたつねてしかな

歌番号1040
をとこのとはすなりにけれは
よみ人しらす
和歌 おともせす なりもゆくかな すすかやま こゆてふなのみ たかくたちつつ
解釈 おともせすなりもゆくかなすすか山こゆてふなのみたかくたちつつ

歌番号1041
返し
よみ人しらす
和歌 こえぬてふ なをなうらみそ すすかやま いととまちかく ならむとおもふを
解釈 こえぬてふ名をなうらみそすすか山いととまちかくならんと思ふを

歌番号1042
女に物いはんとてきたりけれと、こと人に物いひけれは、かへりて
よみ人しらす
和歌 わかために かつはつらしと みやまきの こりともこりぬ かかるこひせし
解釈 わかためにかつはつらしと見山木のこりともこりぬかかるこひせし

歌番号1043
返し
よみ人しらす
和歌 あふこなき みとはしるしる こひすとて なけきこりつむ ひとはよきかは
解釈 あふこなき身とはしるしる恋すとて歎こりつむ人はよきかは

歌番号1044
人につかはしける
戒仙法師
和歌 あさことに つゆはおけとも ひとこふる わかことのはは いろもかはらす
解釈 あさことに露はおけとも人こふるわか事のはは色もかはらす

歌番号1045
きてものいひけるひとの、おほかたはむつましかりけれと、ちかうはえあらすして
よみ人しらす
和歌 まちかくて つらきをみるは うけれとも うきはものかは こひしきよりは
解釈 まちかくてつらきを見るはうけれともうきはものかはこひしきよりは

歌番号1046
女のもとにつかはしける
藤原さねたた
和歌 つくしなる おもひそめかは わたりなは みつやまさらむ よとむときなく
解釈 つくしなる思ひそめ河わたりなは水やまさらんよとむ時なく

歌番号1047
返し
よみ人しらす
和歌 わたりては あたになるてふ そめかはの こころつくしに なりもこそすれ
解釈 渡りてはあたになるてふ染河の心つくしになりもこそすれ

歌番号1048
をとこのもとより、花さかりにこむといひて、こさりけれは
よみ人しらす
和歌 はなさかり すくししひとは つらけれと ことのはをさへ かくしやはせむ
解釈 花さかりすくしし人はつらけれと事のはをさへかくしやはせん

歌番号1049
をとこのひさしうとはさりけれは
右近
和歌 とふことを まつにつきひは こゆるきの いそにやいてて いまはうらみむ
解釈 とふことをまつに月日はこゆるきのいそにやいてて今はうらみん

歌番号1050
あひしりて侍りける人のもとにひさしうまからさりけれは、忘草なにをかたねと思ひしはといふことをいひつかはしたりけれは
よみ人しらす
和歌 わすれくさ なをもゆゆしみ かりにても おふてふやとは ゆきてたにみし
解釈 忘草名をもゆゆしみかりにてもおふてふやとはゆきてたに見し

歌番号1051
返し
よみ人しらす
和歌 うきことの しけきやとには わすれくさ うゑてたにみし あきそわひしき
解釈 うきことのしけきやとには忘草うゑてたにみし秋そわひしき

歌番号1052
女と、もろともに侍りて
よみ人しらす
和歌 かすしらぬ おもひはきみに あるものを おきところなき ここちこそすれ
解釈 かすしらぬ思ひは君にあるものをおき所なき心地こそすれ

歌番号1053
返し
よみ人しらす
和歌 おきところ なきおもひとし ききつれは われにいくらも あらしとそおもふ
解釈 おき所なき思ひとしききつれは我にいくらもあらしとそ思ふ

歌番号1054
元長のみこに夏のさうそくしておくるとてそへたりける
南院式部卿のみこのむすめ
和歌 わかたちて きるこそうけれ なつころも おほかたとのみ みへきうすさを
解釈 わかたちてきるこそうけれ夏衣おほかたとのみ見へきうすさを

歌番号1055
ひさしうとはさりける人の、思ひいてて、こよひまうてこんか、とささてあひまてと申して、まてこさりけれは
よみ人しらす
和歌 やへむくら さしてしかとを いまさらに なににくやしく あけてまちけむ
解釈 やへむくらさしてし門を今更に何にくやしくあけてまちけん

歌番号1056
人をいひわつらひて、こと人にあひ侍りてのち、いかかありけん、はしめの人に思ひかへりてほとへにけれは、ふみはやらすして、扇にたかさこのかたかきたるにつけてつかはしける
源庶明朝臣
和歌 さをしかの つまなきこひを たかさこの をのへのこまつ ききもいれなむ
解釈 さをしかのつまなきこひを高砂のをのへのこ松ききもいれなん

歌番号1057
返し
よみ人しらす
和歌 さをしかの こゑたかさこに きこえしは つまなきときの ねにこそありけれ
解釈 さをしかの声高砂にきこえしはつまなき時のねにこそ有りけれ

歌番号1058
思ふ人にえあひ侍らて、わすられにけれは
よみ人しらす
和歌 せきもあへす なみたのかはの せをはやみ かからむものと おもひやはせし
解釈 せきもあへす涙の河のせをはやみかからん物と思ひやはせし

歌番号1059
題しらす
よみ人しらす
和歌 せをはやみ たえすなかるる みつよりも たえせぬものは こひにそありける
解釈 せをはやみたえすなかるる水よりもたえせぬ物はこひにそ有りける

歌番号1060
題しらす
よみ人しらす
和歌 こふれとも あふよなきみは わすれくさ ゆめちにさへや おひしけるらむ
解釈 こふれともあふよなき身は忘草夢ちにさへやおひしけるらん

歌番号1061
題しらす
よみ人しらす
和歌 よのなかの うきはなへても なかりけり たのむかきりそ うらみられける
解釈 世中のうきはなへてもなかりけりたのむ限そ怨みられける

歌番号1062
たのめたりける人に
よみ人しらす
和歌 ゆふされは おもひそしけき まつひとの こむやこしやの さためなけれは
解釈 ゆふされは思ひそしけきまつ人のこむやこしやの定なけれは

歌番号1063
女につかはしける
源よしの朝臣
和歌 いとはれて かへりこしちの しらやまは いらぬにまよふ ものにそありける
解釈 いとはれてかへりこしちのしら山はいらぬに迷ふ物にそ有りける

歌番号1064
題しらす
よみ人も
和歌 ひとなみに あらぬわかみは なにはなる あしのねのみそ したになかるる
解釈 人浪にあらぬわか身はなにはなるあしのねのみそしたになかるる

歌番号1065
題しらす
よみ人も
和歌 しらくもの ゆくへきやまは さたまらす おもふかたにも かせはよせなむ
解釈 白雲のゆくへき山はさたまらす思ふ方にも風はよせなん

歌番号1066
題しらす
よみ人も
和歌 よのなかに なほありあけの つきなくて やみにまよふを とはぬつらしな
解釈 世中に猶有あけの月なくてやみに迷ふをとはぬつらしな

歌番号1067
さたまらぬ心ありと女のいひたりけれは、つかはしける
贈太政大臣
和歌 あすかかは せきてととむる ものならは ふちせになると なとかいはれむ
解釈 あすか河せきてととむる物ならはふちせになるとなとかいはれん

歌番号1068
ひさしうまかりかよはすなりにけれは、十月はかりに雪のすこしふりたるあしたにいひ侍りける
右近
和歌 みをつめは あはれとそおもふ はつゆきの ふりぬることも たれにいはまし
解釈 身をつめはあはれとそ思ふはつ雪のふりぬることもたれにいはまし

歌番号1069
源たたあきらの朝臣、十月はかりに、とこなつををりておくりて侍りけれは
よみ人しらす
和歌 ふゆなれと きみかかきほに さきけれは うへとこなつに こひしかりけり
解釈 冬なれと君かかきほにさきけれはむへとこ夏にこひしかりけり

歌番号1070
女のうらむることありて、おやのもとにまかり渡りて侍りけるに、雪のふかくふりて侍りけれは、あしたに、女のむかへにくるまつかはしけるせうそこに、くはへてつかはしける
かねすけの朝臣
和歌 しらゆきの けさはつもれる おもひかな あはてふるよの ほともへなくに
解釈 白雪のけさはつもれる思ひかなあはてふる夜のほともへなくに

歌番号1071
返し
よみ人しらす
和歌 しらゆきの つもるおもひも たのまれす はるよりのちは あらしとおもへは
解釈 しらゆきのつもる思ひもたのまれす春よりのちはあらしとおもへは

歌番号1072
心さし侍る女みやつかへし侍りけれは、あふことかたくて侍りけるに、ゆきのふるにつかはしける
よみ人しらす
和歌 わかこひし きみかあたりを はなれねは ふるしらゆきも そらにきゆらむ
解釈 わかこひし君かあたりをはなれねはふる白雪もそらにきゆらん

歌番号1073
返し
よみ人しらす
和歌 やまかくれ きえせぬゆきの わひしきは きみまつのはに かかりてそふる
解釈 山かくれきえせぬ雪のわひしきは君まつのはにかかりてそふる

歌番号1074
物いひ侍りける女に、年のはてのころほひつかはしける
藤原ときふる
和歌 あらたまの としはけふあす こえぬへし あふさかやまを われやおくれむ
解釈 あらたまの年はけふあすこえぬへし相坂山を我やおくれん


巻十五 雑歌一

歌番号1075
仁和のみかと、嵯峨の御時の例にて、せり河に行幸したまひける日
在原行平朝臣
和歌 さかのやま みゆきたえにし せりかはの ちよのふるみち あとはありけり
解釈 嵯峨の山みゆきたえにしせり河の千世のふるみちあとは有りけり

歌番号1076
おなし日、たかかひにて、かりきぬのたもとにつるのかたをぬひてかきつけたりける/行幸の又の日なん致仕の表たてまつりける
在原行平朝臣
和歌 おきなさひ ひとなとかめそ かりころも けふはかりとそ たつもなくなる
解釈 おきなさひ人なとかめそ狩衣けふはかりとそたつもなくなる

歌番号1077
紀友則またつかさたまはらさりける時、ことのついて侍りて、年はいくらはかりにかなりぬるととひ侍りけれは、四十余になんなりぬると申しけれは
贈太政大臣
和歌 いままてに なとかははなの さかすして よそとせあまり としきりはする
解釈 今まてになとかは花のさかすしてよそとせあまり年きりはする

歌番号1078
返し
とものり
和歌 はるはるの かすはわすれす ありなから はなさかぬきを なににうゑけむ
解釈 はるはるのかすはわすれす有りなから花さかぬ木をなににうゑけん

歌番号1079
外吏にしはしはまかりありきて、殿上おりて侍りける時、かねすけの朝臣のもとにおくり侍りける
平中興
和歌 よとともに みねへふもとへ おりのほり ゆくくものみは われにそありける
解釈 世とともに峰へふもとへおりのほりゆく雲の身は我にそ有りける

歌番号1080
また后になりたまはさりける時、かたはらの女御たちそねみたまふけしきなりける時、みかと御ささうしにしのひてたちよりたまへりけるに、御たいめんはなくてたてまつれたまひける
嵯峨后
和歌 ことしけし しはしはたてれ よひのまに おけらむつゆは いててはらはむ
解釈 事しけししはしはたてれよひのまにおけらんつゆはいててはらはん

歌番号1081
家に行平朝臣まうてきたりけるに、月のおもしろかりけるにさけらなとたうへて、まかりたたむとしけるほとに
河原左大臣
和歌 てるつきを まさきのつなに よりかけて あかすわかるる ひとをつなかむ
解釈 てる月をまさ木のつなによりかけてあかすわかるる人をつなかん

歌番号1082
返し
行平朝臣
和歌 かきりなき おもひのつなの なくはこそ まさきのかつら よりもなやまめ
解釈 限なきおもひのつなのなくはこそまさきのかつらよりもなやまめ

歌番号1083
世中を思ひうして侍りけるころ
業平朝臣
和歌 すみわひぬ いまはかきりと やまさとに つまきこるへき やともとめてむ
解釈 すみわひぬ今は限と山さとにつまきこるへきやともとめてむ

歌番号1084
我をしりかほにないひそと、女のいひて侍りける返事に
みつね
和歌 あしひきの やまにおひたる しらかしの しらしなひとを くちきなりとも
解釈 葦引の山におひたるしらかしのしらしな人をくち木なりとも

歌番号1085
すかたあやしと人のわらひけれは
みつね
和歌 いせのうみの つりのうけなる さまなれと ふかきこころは そこにしつめり
解釈 伊勢の海のつりのうけなるさまなれとふかき心はそこにしつめり

歌番号1086
おほきおほいまうちきみの白河の家にまかり渡りて侍りけるに、人のさうしにこもり侍りて
中務
和歌 しらかはの たきのいとみま ほしけれと みたりにひとは よせしものをや
解釈 白河のたきのいと見まほしけれとみたりに人はよせしものをや

歌番号1087
返し
おほきおほいまうちきみ
和歌 しらかはの たきのいとなみ みたれつつ よるをそひとは まつといふなる
解釈 しらかはのたきのいとなみみたれつつよるをそ人はまつといふなる

歌番号1088
はちすのはひをとりて
よみ人しらす
和歌 はちすはの はひにそひとは おもふらむ よにはこひちの なかにおひつつ
解釈 はちすはのはひにそ人は思ふらん世にはこひちの中におひつつ

歌番号1089
相坂の関に庵室をつくりてすみ侍りけるに、ゆきかふ人を見て
蝉丸
和歌 これやこの ゆくもかへるも わかれつつ しるもしらぬも あふさかのせき
解釈 これやこのゆくも帰るも別れつつしるもしらぬもあふさかの関

歌番号1090
さためたるをとこもなくて、物思ひ侍りけるころ
小野小町
和歌 あまのすむ うらこくふねの かちをなみ よをうみわたる われそかなしき
解釈 あまのすむ浦こく舟のかちをなみ世を海わたる我そ悲しき

歌番号1091
あひしりて侍りける女、心にもいれぬさまに侍りけれは、こと人の心さしあるにつき侍りにけるを、なほしもあらすものいはむと申しつかはしたりけれと、返事もせす侍りけれは
よみ人しらす
和歌 はまちとり かひなかりけり つれもなき ひとのあたりは なきわたれとも
解釈 浜千鳥かひなかりけりつれもなきひとのあたりはなきわたれとも

歌番号1092
法皇てらめくりしたまひけるみちにて、かへてのえたををりて
素性法師
和歌 このみゆき ちとせかへても みてしかな かかるやまふし ときにあふへく
解釈 このみゆきちとせかへても見てしかなかかる山ふし時にあふへく

歌番号1093
西院の后、御くしおろさせ給ひておこなはせ給ひける時、かの院のなかしまの松をけつりてかきつけ侍りける
素性法師
和歌 おとにきく まつかうらしま けふそみる うへもこころある あまはすみけり
解釈 おとにきく松かうらしまけふそ見るむへも心あるあまはすみけり

歌番号1094
斎院のみそきの垣下に、殿上の人人まかりてあかつきに帰りて、むまかもとにつかはしける
右衛門
和歌 われのみは たちもかへらぬ あかつきに わきてもおける そてのつゆかな
解釈 我のみは立ちもかへらぬ暁にわきてもおける袖のつゆかな

歌番号1095
しほなき年、たたみあへてと侍りけれは
たたみ
和歌 しほといへは なくてもからき よのなかに いかてあへたる たたみなるらむ
解釈 しほといへはなくてもからき世中にいかてあへたるたたみなるらん

歌番号1096
ひたたれこひにつかはしたるに、うらなんなき、それはきしとやいかかといひたれは
藤原元輔
和歌 すみよしの きしともいはし おきつなみ なほうちかけよ うらはなくとも
解釈 住吉の岸ともいはしおきつ浪猶うちかけようらはなくとも

歌番号1097
法皇はしめて御くしおろしたまひて山ふみし給ふあひた、きさきをはしめたてまつりて女御更衣猶ひとつ院にさふらひ給ひける、三年といふになんみかとかへりおはしましたりける、むかしのことおなし所にておほむおろしたまうけるついてに
七条のきさき
和歌 ことのはに たえせぬつゆは おくらむや むかしおほゆる まとゐしたれは
解釈 事のはにたえせぬつゆはおくらんや昔おほゆるまとゐしたれは

歌番号1098
御返し
伊勢
和歌 うみとのみ まとゐのなかは なりぬめり そなからあらぬ かけのみゆれは
解釈 海とのみまとゐの中はなりぬめりそなからあらぬかけのみゆれは

歌番号1099
しかのからさきにてはらへしける人のしもつかへに、みるといふ侍りけり、大伴黒主そこにまてきて、かのみるに心をつけていひたはふれけり、はらへはてて、くるまよりくろぬしに物かつけける、そのものこしにかきつけて、みるにおくり侍りける
くろぬし
和歌 なにせむに へたのみるめを おもひけむ おきつたまもを かつくみにして
解釈 何せんにへたのみるめを思ひけんおきつたまもをかつく身にして

歌番号1100
月のおもしろかりけるをみて
みつね
和歌 ひるなれや みそまかへつる つきかけを けふとやいはむ きのふとやいはむ
解釈 ひるなれや見そまかへつる月影をけふとやいはむきのふとやいはん

歌番号1101
五節のまひひめにて、もしめしととめらるる事やあると思ひ侍りけるを、さもあらさりけれは
藤原滋包かむすめ
和歌 くやしくそ あまつをとめと なりにける くもちたつぬる ひともなきよに
解釈 くやしくそあまつをとめとなりにける雲ちたつぬる人もなきよに

歌番号1102
太政大臣の、左大将にてすまひのかへりあるしし侍りける日、中将にてまかりて、ことをはりてこれかれまかりあかれけるに、やむことなき人二人はかりととめて、まらうとあるしさけあまたたひののち、ゑひにのりてことものうへなと申しけるついてに
兼輔朝臣
和歌 ひとのおやの こころはやみに あらねとも こをおもふみちに まとひぬるかな
解釈 人のおやの心はやみにあらねとも子を思ふ道にまとひぬるかな

歌番号1103
女ともたちのもとに、つくしよりさしくしを心さすとて
大江玉淵朝臣女
和歌 なにはかた なににもあらす みをつくし ふかきこころの しるしはかりそ
解釈 なにはかた何にもあらすみをつくしふかき心のしるしはかりそ

歌番号1104
元長のみこのすみ侍りける時、てまさくりに、なにいれて侍りけるはこにかありけん、したおひしてゆひて、又こむ時にあけむとてもののかみにさしおきていて侍りにけるのち、つねあきらのみこにとりかくされて、月日ひさしく侍りてありし家にかへりて、このはこをもとなかのみこにおくるとて
中務
和歌 あけてたに なににかはみむ みつのえの うらしまのこを おもひやりつつ
解釈 あけてたに何にかは見むみつのえのうらしまのこを思ひやりつつ

歌番号1105
忠房朝臣つのかみにて、新司はるかたかまうけに屏風てうして、かのくにの名ある所所ゑにかかせて、さひ江といふ所にかけりける
たたみね
和歌 としをへて にこりたにせぬ さひえには たまもかへりて いまそすむへき
解釈 年をへてにこりたにせぬさひえには玉も帰りて今そすむへき

歌番号1106
兼輔朝臣、宰相中将より中納言になりて、又の年のりゆみのかへりたちのあるしにまかりて、これかれおもひのふるついてに
兼輔朝臣
和歌 ふるさとの みかさのやまは とほけれと こゑはむかしの うとからぬかな
解釈 旧里のみかさの山はとほけれと声は昔のうとからぬかな

歌番号1107
あはちのまつりこと人の任はててのほりまうてきてのころ、兼輔朝臣のあはたの家にて
みつね
和歌 ひきうゑし ひとはうへこそ おいにけれ まつのこたかく なりにけるかな
解釈 ひきてうゑし人はむへこそ老いにけれ松のこたかく成りにけるかな

歌番号1108
人のむすめに源かねきかすみ侍りけるを、女のははきき侍りていみしうせいし侍りけれは、しのひたる方にてかたらひけるあひたに、ははしらすしてにはかにいきけれは、かねきかにけてまかりにけれは、つかはしける
女のはは
和歌 をやまたの おとろかしにも こさりしを いとひたふるに にけしきみかな
解釈 を山田のおとろかしにもこさりしをいとひたふるににけしきみかな

歌番号1109
三条右大臣身まかりてあくる年の春、大臣めしありとききて斎宮のみこにつかはしける
むすめの女御
和歌 いかてかの としきりもせぬ たねもかな あれたるやとに うゑてみるへく
解釈 いかてかの年きりもせぬたねもかなあれたるやとにうゑて見るへく

歌番号1110
かの女御、左のおほいまうちきみにあひにけりとききてつかはしける
斎宮のみこ
和歌 はることに ゆきてのみみむ としきりも せすといふたねは おひぬとかきく
解釈 春ことに行きてのみみむ年きりもせすといふたねはおひぬとかきく

歌番号1111
庶明朝臣中納言になり侍りける時、うへのきぬつかはすとて
右大臣
和歌 おもひきや きみかころもを ぬきかへて こきむらさきの いろをきむとは
解釈 思ひきや君か衣をぬきかへてこき紫の色をきむとは

歌番号1112
返し
庶明朝臣
和歌 いにしへも ちきりてけりな うちはふき とひたちぬへし あまのはころも
解釈 いにしへも契りてけりなうちはふきとひ立ちぬへしあまのは衣

歌番号1113
まさたたかとのゐ物をとりたかへて、大輔かもとへもてきたりけれは
大輔
和歌 ふるさとの ならのみやこの はしめより なれにけりとも みゆるころもか
解釈 ふるさとのならの宮この始よりなれにけりともみゆる衣か

歌番号1114
返し
雅正
和歌 ふりぬとて おもひもすてし からころも よそへてあやな うらみもそする
解釈 ふりぬとて思ひもすてし唐衣よそへてあやな怨みもそする

歌番号1115
世中の心にかなはぬなと申しけれは、ゆくさきたのもしき身にてかかる事あるましと人の申し侍りけれは
大江千里
和歌 なかれての よをもたのます みつのうへの あわにきえぬる うきみとおもへは
解釈 流れての世をもたのます水のうへのあわにきえぬるうき身とおもへは

歌番号1116
藤原さねきか蔵人よりかうふりたまはりて、あす殿上まかりおりむとしける夜、さけたうへけるついてに
兼輔朝臣
和歌 うはたまの こよひはかりそ あけころも あけなはひとを よそにこそみめ
解釈 むはたまのこよひはかりそあけ衣あけなは人をよそにこそ見め

歌番号1117
法皇御くしおろしたまひてのころ
七条后
和歌 ひとわたす ことたになきを なにしかも なからのはしと みのなりぬらむ
解釈 人わたす事たになきをなにしかもなからのはしと身のなりぬらん

歌番号1118
御返し
伊勢
和歌 ふるるみは なみたのうちに みゆれはや なからのはしに あやまたるらむ
解釈 ふるる身は涙の中にみゆれはやなからのはしにあやまたるらん

歌番号1119
京極のみやす所、尼になりて戒うけんとて、仁和寺にわたりて侍りけれは
あつみのみこ
和歌 ひとりのみ なかめてとしを ふるさとの あれたるさまを いかにみるらむ
解釈 ひとりのみなかめてとしをふるさとのあれたるさまをいかに見るらむ

歌番号1120
女のあたなりといひけれは
あさつなの朝臣
和歌 まめなれと あたなはたちぬ たはれしま よるしらなみを ぬれきぬにきて
解釈 まめなれとあたなはたちぬたはれしまよる白浪をぬれきぬにきて

歌番号1121
あひかたらひける人の家の松のこすゑのもみちたりけれは
よみ人しらす
和歌 としをへて たのむかひなし ときはなる まつのこすゑも いろかはりゆく
解釈 年をへてたのむかひなしときはなる松のこすゑも色かはりゆく

歌番号1122
をとこの女のふみをかくしけるを見て、もとのめのかきつけ侍りける
四条御息所女
和歌 へたてける ひとのこころの うきはしを あやふきまても ふみみつるかな
解釈 へたてける人の心のうきはしをあやふきまてもふみみつるかな

歌番号1123
小野好古朝臣、にしのくにのうてのつかひにまかりて二年といふとし、四位にはかならすまかりなるへかりけるを、さもあらすなりにけれは、かかる事にしもさされにける事のやすからぬよしをうれへおくりて侍りけるふみの、返事のうらにかきつけてつかはしける
源公忠朝臣
和歌 たまくしけ ふたとせあはぬ きみかみを あけなからやは あらむとおもひし
解釈 玉匣ふたとせあはぬ君かみをあけなからやはあらむと思ひし

歌番号1124
返し
小野好古朝臣
和歌 あけなから としふることは たまくしけ みのいたつらに なれはなりけり
解釈 あけなから年ふることは玉匣身のいたつらになれはなりけり

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後撰和歌集 原文 その七 巻十二から巻十三前半(歌番979)まで

2017年02月05日 | 後撰和歌集 初回
後撰和歌集 その七 巻十二から巻十三前半(歌番979)まで

簡単な解説を「後撰解釈集 その一」に載せています。

巻十二 恋歌四

歌番号795
女につかはしける
敏行朝臣
和歌 わかこひの かすをかそへは あまのはら くもりふたかり ふるあめのこと
解釈 わか恋のかすをかそへはあまの原くもりふたかりふる雨のこと

歌番号796
わすれにける女を思ひいててつかはしける
よみ人しらす
和歌 うちかへし みまくそほしき ふるさとの やまとなてしこ いろやかはれる
解釈 打返し見まくそほしき故郷のやまとなてしこ色やかはれる

歌番号797
女につかはしける
枇杷左大臣
和歌 やまひこの こゑにたてても としはへぬ わかものおもひを しらぬひときけ
解釈 やまひこのこゑにたてても年はへぬわか物思ひをしらぬ人きけ

歌番号798
身よりあまれる人を思ひかけてつかはしける
紀友則
和歌 たまもかる あまにはあらねと わたつみの そこひもしらす いるこころかな
解釈 玉もかるあまにはあらねとわたつみのそこひもしらす入る心かな

歌番号799
返事も侍らさりけれは、又かさねてつかはしける
紀友則
和歌 みるもなく めもなきうみの いそにいてて かへるかへるも うらみつるかな
解釈 みるもなくめもなき海のいそにいててかへるかへるも怨みつるかな

歌番号800
あたに見え侍りけるをとこに
よみ人しらす
和歌 こりすまの うらのしらなみ たちいてて よるほともなく かへるはかりか
解釈 こりすまの浦の白浪立ちいててよるほともなくかへるはかりか

歌番号801
あひしりて侍りける人の、あふみの方へまかりけれは
よみ人しらす
和歌 せきこえて あはつのもりの あはすとも しみつにみえし かけをわするな
解釈 関こえてあはつのもりのあはすともし水にみえしかけをわするな

歌番号802
返し
よみ人しらす
和歌 ちかけれは なにかはしるし あふさかの せきのほかそと おもひたえなむ
解釈 ちかけれは何かはしるし相坂の関の外そと思ひたえなん

歌番号803
つらくなりにけるをとこのもとに、今はとてさうそくなと返しつかはすとて
平なかきかむすめ
和歌 いまはとて こすゑにかかる うつせみの からをみむとは おもはさりしを
解釈 今はとてこすゑにかかる空蝉のからを見むとは思はさりしを

歌番号804
返し
源巨城
和歌 わすらるる みをうつせみの からころも かへすはつらき こころなりけり
解釈 わすらるる身をうつせみの唐衣返すはつらき心なりけり

歌番号805
物いひける女の、かかみをかりてかへすとて
よみ人しらす
和歌 かけにたに みえもやすると たのみつる かひなくこひを ますかかみかな
解釈 影にたに見えもやするとたのみつるかひなくこひをます鏡かな

歌番号806
をとこの、物なといひつかはしける女のゐなかの家にまかりて、たたきけれともききつけすやありけん、かともあけすなりにけれは、田のほとりにかへるのなきけるをききて
よみ人しらす
和歌 あしひきの やまたのそほつ うちわひて ひとりかへるの ねをそなきぬる
解釈 葦引の山田のそほつうちわひてひとりかへるのねをそなきぬる

歌番号807
ふみつかはしける女のははの、こひをしこひはといへりけるか、年ころへにけれはつかはしける
よみ人しらす
和歌 たねはあれと あふことかたき いはのうへの まつにてとしを ふるはかひなし
解釈 たねはあれと逢ふ事かたきいはのうへの松にて年をふるはかひなし

歌番号808
女につかはしける
贈太政大臣
和歌 ひたすらに いとひはてぬる ものならは よしののやまに ゆくへしられし
解釈 ひたすらにいとひはてぬる物ならはよしのの山にゆくへしられし

歌番号809
返し
伊勢
和歌 わかやとと たのむよしのに きみしいらは おなしかさしを さしこそはせめ
解釈 わかやととたのむ吉野に君しいらはおなしかさしをさしこそはせめ

歌番号810
題しらす
よみ人も
和歌 くれなゐに そてをのみこそ そめてけれ きみをうらむる なみたかかりて
解釈 紅に袖をのみこそ染めてけれ君をうらむる涙かかりて

歌番号811
つれなく見えける人につかはしける
よみ人も
和歌 くれなゐに なみたうつると ききしをは なといつはりと われおもひけむ
解釈 紅に涙うつるとききしをはなといつはりとわか思ひけん

歌番号812
返し
よみ人も
和歌 くれなゐに なみたしこくは みとりなる そてももみちと みえましものを
解釈 紅に涙しこくは緑なる袖も紅葉と見えましものを

歌番号813
あひすみける人、心にもあらてわかれにけるか、年月をへてもあひ見むとかきて侍りけるふみを見いててつかはしける
よみ人も
和歌 いにしへの のなかのしみつ みるからに さしくむものは なみたなりけり
解釈 いにしへの野中のし水見るからにさしくむ物は涙なりけり

歌番号814
思ふ事侍りて、をとこのもとにつかはしける
よみ人も
和歌 あまくもの はるるよもなく ふるものは そてのみぬるる なみたなりけり
解釈 あまくものはるるよもなくふる物は袖のみぬるる涙なりけり

歌番号815
方ふたかりとて、をとこのこさりけれは
よみ人も
和歌 あふことの かたふたかりて きみこすは おもふこころの たかふはかりそ
解釈 逢ふ事のかたふたかりて君こすは思ふ心のたかふはかりそ

歌番号816
あひかたらひける人のひさしうこさりけれは、つかはしける
よみ人も
和歌 ときはにと たのめしことは まつほとの ひさしかるへき なにこそありけれ
解釈 ときはにとたのめし事は松ほとのひさしかるへき名にこそありけれ

歌番号817
題しらす
よみ人も
和歌 こさまさる なみたのいろも かひそなき みすへきひとの このよならねは
解釈 こさまさる涙の色もかひそなき見すへき人のこの世ならねは

歌番号818
女のもとにつかはしける
よみ人も
和歌 すみよしの きしにきよする おきつなみ まなくかけても おもほゆるかな
解釈 住吉の岸にきよするおきつ浪まなくかけてもおもほゆるかな

歌番号819
返し
伊勢
和歌 すみのえの めにちかからは きしにゐて なみのかすをも よむへきものを
解釈 すみの江のめにちかからは岸にゐて浪のかすをもよむへきものを

歌番号820
つらかりける人のもとにつかはしける
伊勢
和歌 こひてへむと おもふこころの わりなさは しにてもしれよ わすれかたみに
解釈 こひてへむと思ふ心のわりなさはしにてもしれよわすれかたみに

歌番号821
返し
贈太攻大臣
和歌 もしもやと あひみむことを たのますは かくふるほとに まつそけなまし
解釈 もしもやとあひ見む事をたのますはかくふるほとにまつそけなまし

歌番号822
題しらす
よみ人も
和歌 あふとたに かたみにみゆる ものならは わするるほとも あらましものを
解釈 あふとたにかたみにみゆる物ならはわするるほともあらましものを

歌番号823
題しらす
よみ人も
和歌 おとにのみ こゑをきくかな あしひきの やましたみつに あらぬものから
解釈 おとにのみ声をきくかなあしひきの山した水にあらぬものから

歌番号824
秋きりのたちたるつとめて、いとつらけれは、このたひはかりなんいふへきといひたりけれは
伊勢
和歌 あきとてや いまはかきりの たちぬらむ おもひにあへぬ ものならなくに
解釈 秋とてや今は限の立ちぬらんおもひにあへぬ物ならなくに

歌番号825
心の内に思ふことやありけん
伊勢
和歌 みしゆめの おもひいてらるる よひことに いはぬをしるは なみたなりけり
解釈 見し夢の思ひいてらるるよひことにいはぬをしるは涙なりけり

歌番号826
題しらす
よみ人も
和歌 しらつゆの おきてあひみぬ ことよりは きぬかへしつつ ねなむとそおもふ
解釈 白露のおきてあひ見ぬ事よりはきぬ返しつつねなんとそ思ふ

歌番号827
人のもとにつかはしける
よみ人も
和歌 ことのはは なけなるものと いひなから おもはぬためは きみもしるらむ
解釈 事のははなけなる物といひなからおもはぬためは君もしるらん

歌番号828
女のもとにつかはしける
朝忠朝臣
和歌 しらなみの うちいつるはまの はまちとり あとやたつぬる しるへなるらむ
解釈 白浪の打ちいつるはまのはまちとり跡やたつぬるしるへなるらん

歌番号829
女につかはしける
大江朝綱朝臣
和歌 おほしまに みつをはこひし はやふねの はやくもひとに あひみてしかな
解釈 おほしまに水をはこひしはや舟のはやくも人にあひみてしかな

歌番号830
伊勢なん人にわすられてなけき侍るとききてつかはしける
贈太政大臣
和歌 ひたふるに おもひなわひそ ふるさるる ひとのこころは それそよのつね
解釈 ひたふるに思ひなわひそふるさるる人の心はそれそよのつね

歌番号831
返し
伊勢
和歌 よのつねの ひとのこころを またみねは なにかこのたひ けぬへきものを
解釈 世のつねの人の心をまたみねはなにかこのたひけぬへきものを

歌番号832
浄蔵くらまの山へなんいるといへりけれは
平なかきかむすめ
和歌 すみそめの くらまのやまに いるひとは たとるたとるも かへりきななむ
解釈 すみそめのくらまの山にいる人はたとるたとるも帰りきななん

歌番号833
あひしりて侍りける人の、まれにのみ見えけれは
伊勢
和歌 ひをへても かけにみゆるは たまかつら つらきなからも たえぬなりけり
解釈 日をへても影に見ゆるはたまかつらつらきなからもたえぬなりけり

歌番号834
わさとにはあらす時時ものいひ侍りける女、ほとひさしうとはす侍りけれは
よみ人しらす
和歌 たかさこの まつをみとりと みしことは したのもみちを しらぬなりけり
解釈 高砂の松を緑と見し事はしたのもみちをしらぬなりけり

歌番号835
返し
よみ人しらす
和歌 ときわかぬ まつのみとりも かきりなき おもひにはなほ いろやもゆらむ
解釈 時わかね松の緑も限なきおもひには猶色やもゆらん

歌番号836
たたふみかはすはかりにて、年へ侍りける人につかはしける
よみ人しらす
和歌 みつとりの はかなきあとに としをへて かよふはかりの えにこそありけれ
解釈 水鳥のはかなきあとに年をへてかよふはかりのえにこそ有りけれ

歌番号837
返し
よみ人しらす
和歌 なみのうへに あとやはみゆる みつとりの うきてへぬらむ としはかすかは
解釈 浪のうへに跡やは見ゆる水鳥のうきてへぬらん年はかすかは

歌番号838
せうそこつかはしける女のもとより、いなふねのといふことを返事にいひ侍りけれは、たのみていひわたりけるに、猶あひかたきけしきに侍りけれは、しはしとありしを、いかなれはかくはといへりける返ことにつかはしける
よみ人しらす
和歌 なかれよる せせのしらなみ あさけれは とまるいなふね かへるなるへし
解釈 流れよるせせの白浪あさけれはとまるいな舟かへるなるへし

歌番号839
返し
三条右大臣
和歌 もかみかは ふかきにもあへす いなふねの こころかろくも かへるなるかな
解釈 もかみ河ふかきにもあへすいな舟の心かるくも帰るなるかな

歌番号840
いとしのひてかたらふ人の、おろかなるさまにみえけれは
よみ人しらす
和歌 はなすすき ほにいつることも なきものを またきふきぬる あきのかせかな
解釈 花すすきほにいつる事もなきものをまたき吹きぬる秋の風かな

歌番号841
心さしおろかに見えける人につかはしける
和歌 またさりし あきはきぬれと みしひとの こころはよそに なりもゆくかな
なかきかむすめ
解釈 またさりし秋はきぬれとみし人の心はよそになりもゆくかな

歌番号842
返し
源是茂朝臣
和歌 きみをおもふ こころなかさは あきのよに いつれまさると そらにしらなむ
解釈 君を思ふ心なかさは秋の夜にいつれまさるとそらにしらなん

歌番号843
ある所に、近江といふ人をいとしのひてかたらひ侍りけるを、夜あけてかへりけるを、人見てささやきけれは、その女のもとにつかはしける
坂上つねかけ
和歌 かかみやま あけてきつれは あききりの けさやたつらむ あふみてふなは
解釈 鏡山あけてきつれは秋きりのけさやたつらんあふみてふなは

歌番号844
あひしりて侍る女の、人にあたなたち侍りけるに、つかはしける
平まれよの朝臣
和歌 えたもなく ひとにをらるる をみなへし ねをたにのこせ うゑしわかため
解釈 枝もなく人にをらるる女郎花ねをたにのこせうゑしわかため

歌番号845
人のもとにまかりて侍るに、よひいれねはすのこにふしあかして、つかはしける
藤原成国
和歌 あきのたの かりそめふしも してけるか いたつらいねを なににつままし
解釈 秋の田のかりそめふしもしてけるかいたつらいねをなににつままし

歌番号846
平かねきかやうやうかれかたになりにけれは、つかはしける
中務
和歌 あきかせの ふくにつけても とはぬかな をきのはならは おとはしてまし
解釈 秋風の吹くにつけてもとはぬかな荻の葉ならはおとはしてまし

歌番号847
年月をへてせうそこし侍りける人につかはしける
よみ人しらす
和歌 きみみすて いくよへぬらむ としつきの ふるとともにも おつるなみたか
解釈 君見すていく世へぬらん年月のふるとともにもおつるなみたか

歌番号848
女につかはしける
よみ人しらす
和歌 なかなかに おもひかけては からころも みになれぬをそ うらむへらなる
解釈 中中に思ひかけては唐衣身になれぬをそうらむへらなる

歌番号849
返し
よみ人しらす
和歌 うらむとも かけてこそみめ からころも みになれぬれは ふりぬとかきく
解釈 怨むともかけてこそみめ唐衣身になれぬれはふりぬとかきく

歌番号850
人につかはしける
よみ人しらす
和歌 なけけとも かひなかりけり よのなかに なににくやしく おもひそめけむ
解釈 なけけともかひなかりけり世中になににくやしく思ひそめけむ

歌番号851
わすれかたになり侍りけるをとこにつかはしける
承香殿中納言
和歌 こぬひとを まつのえにふる しらゆきの きえこそかへれ くゆるおもひに
解釈 こぬ人を松のえにふる白雪のきえこそかへれくゆる思ひに

歌番号852
わすれ侍りにける女につかはしける
よみ人しらす
和歌 きくのはな うつるこころを おくしもに かへりぬへくも おもほゆるかな
解釈 菊の花うつる心をおくしもにかへりぬへくもおもほゆるかな

歌番号853
返し
よみ人しらす
和歌 いまはとて うつりはてにし きくのはな かへるいろをは たれかみるへき
解釈 今はとてうつりはてにし菊の花かへる色をはたれかみるへき

歌番号854
人のむすめにいとしのひてかよひ侍りけるに、けしきを見ておやのまもりけれは、五月なかあめのころつかはしける
よみ人しらす
和歌 なかめして もりもわひぬる ひとめかな いつかくもまの あらむとすらむ
解釈 なかめしてもりもわひぬる人めかないつかくもまのあらんとすらん

歌番号855
またあはす侍りける女のもとに、しぬへしといへりけれは、返事にはやしねかしといへりけれは、又つかはしける
よみ人しらす
和歌 おなしくは きみとならひの いけにこそ みをなけつとも ひとにきかせめ
解釈 おなしくは君とならひの池にこそ身をなけつとも人にきかせめ

歌番号856
女につかはしける
よみ人しらす
和歌 かけろふの ほのめきつれは ゆふくれの ゆめかとのみそ みをたとりつる
解釈 かけろふのほのめきつれはゆふくれの夢かとのみそ身をたとりつる

歌番号857
返し
よみ人しらす
和歌 ほのみても めなれにけりと きくからに ふしかへりこそ しなまほしけれ
解釈 ほのみてもめなれにけりときくからにふしかへりこそしなまほしけれ

歌番号858
せうそこしはしはつかはしけるを、ちちはは侍りてせいし侍りけれは、えあひ侍らて
源よしの朝臣
和歌 あふみてふ かたのしるへも えてしかな みるめなきこと ゆきてうらみむ
解釈 あふみてふ方のしるへもえてしかな見るめなきことゆきてうらみん

歌番号859
返し
春澄善縄朝臣女
和歌 あふさかの せきともらるる われなれは あふみてふらむ かたもしられす
解釈 相坂の関ともらるる我なれは近江てふらん方もしられす

歌番号860
女のもとにつかはしける
よしの朝臣
和歌 あしひきの やましたみつの こかくれて たきつこころを せきそかねつる
解釈 葦引の山した水のこかくれてたきつ心をせきそかねつる

歌番号861
返し
よみ人しらす
和歌 こかくれて たきつやまみつ いつれかは めにしもみゆる おとにこそきけ
解釈 こかくれてたきつ山水いつれかはめにしも見ゆるおとにこそきけ

歌番号862
人のもとよりかへりてつかはしける
つらゆき
和歌 あかつきの なからましかは しらつゆの おきてわひしき わかれせましや
解釈 暁のなからましかは白露のおきてわひしき別せましや

歌番号863
返し
よみ人しらす
和歌 おきてゆく ひとのこころを しらつゆの われこそまつは おもひきえぬれ
解釈 おきて行く人の心をしらつゆの我こそまつは思ひきえぬれ

歌番号864
女のもとにをとこ、かくしつつ世をやつくさんたかさこのといふ事をいひつかはしたりけれは
よみ人しらす
和歌 たかさこの まつといひつつ としをへて かはらぬいろと きかはたのまむ
解釈 高砂の松といひつつ年をへてかはらぬ色ときかはたのまむ

歌番号865
人のむすめのもとにしのひつつかよひ侍りけるを、おやききつけていといたくいひけれは、かへりてつかはしける
つらゆき
和歌 かせをいたみ くゆるけふりの たちいてても なほこりすまの うらそこひしき
解釈 風をいたみくゆる煙のたちいてても猶こりすまのうらそこひしき

歌番号866
はしめて女のもとにつかはしける
よみ人しらす
和歌 いはねとも わかかきりなき こころをは くもゐにとほき ひともしらなむ
解釈 いはねともわか限なき心をは雲ゐにとほき人もしらなん

歌番号867
題しらす
よみ人しらす
和歌 きみかねに くらふのやまの ほとときす いつれあたなる こゑまさるらむ
解釈 君かねにくらふの山の郭公いつれあたなるこゑまさるらん

歌番号868
せうそこかよはしける女、おろかなるさまに見え侍りけれは
よみ人しらす
和歌 こひてぬる ゆめちにかよふ たましひの なるるかひなく うとききみかな
解釈 こひてぬる夢ちにかよふたましひのなるるかひなくうとききみかな

歌番号869
女につかはしける
よみ人しらす
和歌 かかりひに あらぬおもひの いかなれは なみたのかはに うきてもゆらむ
解釈 かかり火にあらぬおもひのいかなれは涙の河にうきてもゆらん

歌番号870
人のもとにまかりてあしたにつかはしける
よみ人しらす
和歌 まちくらす ひはすかのねに おもほえて あふよしもなと たまのをならむ
解釈 まちくらす日はすかのねにおもほえてあふよしもなとたまのをならん

歌番号871
大江千里、まかりかよひける女をおもひかれかたになりて、とほき所にまかりにたりといはせて、ひさしうまからすなりにけり、この女、思ひわひてねたる夜の夢にまうてきたりと見えけれは、うたかひにつかはしける
よみ人しらす
和歌 はかなかる ゆめのしるしに はかられて うつつにまくる みとやなりなむ
解釈 はかなかる夢のしるしにはかられてうつつにまくる身とやなりなん

歌番号872
かくてつかはしたりけれは、千里見侍りて、なほさりにまことにをととひなんかへりまうてこしかと、心地のなやましくてなんありつるとはかりいひおくりて侍りけれは、かさねてつかはしける
よみ人しらす
和歌 おもひねの ゆめといひても やみなまし なかなかなにに ありとしりけむ
解釈 思ひねの夢といひてもやみなまし中中なにに有りとしりけん

歌番号873
やまとのかみに侍りける時、かのくにの介藤原清秀かむすめをむかへむとちきりて、おほやけことによりてあからさまに京にのほりたりけるほとに、このむすめ真延法師にむかへられてまかりにけれは、くににかへりてたつねてつかはしける
忠房朝臣
和歌 いつしかの ねになきかへり こしかとも のへのあさちは いろつきにけり
解釈 いつしかのねになきかへりこしかとものへのあさちは色つきにけり

歌番号874
せうそこつかはしける女の返事に、まめやかにしもあらしなといひて侍りけれは
忠房朝臣
和歌  ひきまゆの かくふたこもり せまほしみ くはこきたれて なくをみせはや
解釈 ひきまゆのかくふたこもりせまほしみくはこきたれてなくを見せはや

歌番号875
ある人のむすめあまたありけるを、あねよりはしめていひ侍りけれと、きかさりけれは、三にあたる女につかはしける
よみ人しらす
和歌 せきやまの みねのすきむら すきゆけと あふみはなほそ はるけかりける
解釈 関山の峰のすきむらすきゆけと近江は猶そはるけかりける

歌番号876
あさたたの朝臣ひさしうおともせて、ふみおこせて侍りけれは
よみ人しらす
和歌 おもひいてて おとつれしける やまひこの こたへにこりぬ こころなになり
解釈 思ひいてておとつれしける山ひこのこたへにこりぬ心なになり

歌番号877
いとしのひてまかりありきて
よみ人しらす
和歌 まとろまぬ ものからうたて しかすかに うつつにもあらぬ ここちのみする
解釈 まとろまぬものからうたてしかすかにうつつにもあらぬ心地のみする

歌番号878
返し
よみ人しらす
和歌 うつつにも あらぬこころは ゆめなれや みてもはかなき ものをおもへは
解釈 うつつにもあらぬ心は夢なれや見てもはかなき物を思へは

歌番号879
うつまさわたりに、大輔か侍りけるにつかはしける
解釈 小野道風朝臣
和歌 かきりなく おもひいりひの ともにのみ にしのやまへを なかめやるかな
解釈 限なく思ひいり日のともにのみ西の山へをなかめやるかな

歌番号880
女五のみこに
解釈 忠房朝臣
和歌 きみかなの たつにとかなき みなりせは おほよそひとに なしてみましや
解釈 君かなの立つにとかなき身なりせはおほよそ人になしてみましや

歌番号881
返し
女五のみこ
和歌 たえぬると みれはあひぬる しらくもの いとおほよそに おもはすもかな
解釈 たえぬると見れはあひぬる白雲のいとおほよそにおもはすもかな

歌番号882
みくしけとのにはしめてつかはしける
あつたたの朝臣
和歌 けふそへに くれさらめやはと おもへとも たへぬはひとの こころなりけり
解釈 けふそへにくれさらめやはとおもへともたへぬは人の心なりけり

歌番号883
道風しのひてまうてきけるに、おやききつけてせいしけれは、つかはしける
大輔
和歌 いとかくて やみぬるよりは いなつまの ひかりのまにも きみをみてしか
解釈 いとかくてやみぬるよりはいなつまのひかりのまにも君をみてしか

歌番号884
大輔かもとにまうてきたりけるに、侍らさりけれは、かへりて又のあしたにつかはしける
朝忠朝臣
和歌 いたつらに たちかへりにし しらなみの なこりにそての ひるときもなし
解釈 いたつらに立帰りにし白浪のなこりに袖のひる時もなし

歌番号885
返し
大輔
和歌 なににかは そてのぬるらむ しらなみの なこりありけも みえぬこころを
解釈 何にかは袖のぬるらん白浪のなこり有りけも見えぬ心を

歌番号886
よしふるの朝臣に、さらにあはしとちかことをして、又のあしたにつかはしける
蔵内侍
和歌 ちかひても なほおもふには まけにけり たかためをしき いのちならねは
解釈 ちかひても猶思ふにはまけにけりたかためをしきいのちならねは

歌番号887
しのひてまかりけれと、あはさりけれは
道風
和歌 なにはめに みつとはなしに あしのねの よのみしかくて あくるわひしさ
解釈 なにはめにみつとはなしにあしのねのよのみしかくてあくるわひしさ

歌番号888
物いはむとてまかりたりけれと、さきたちてむねもちか侍りけれは、はやかへりねといひいたして侍りけれは
道風
和歌 かへるへき かたもおほえす なみたかは いつれかわたる あさせなるらむ
解釈 かへるへき方もおほえす涙河いつれかわたるあさせなるらむ

歌番号889
返し
大輔
和歌 なみたかは いかなるせより かへりけむ みなるるみをも あやしかりしを
解釈 涙河いかなるせよりかへりけん見なるるみをもあやしかりしを

歌番号890
大輔かもとにつかはしける
敦忠朝臣
和歌 いけみつの いひいつることの かたけれは みこもりなから としそへにける
解釈 池水のいひいつる事のかたけれはみこもりなからとしそへにける


巻十三 恋歌五

歌番号891
題しらす
在原業平朝臣
和歌 いせのうみに あそふあまとも なりにしか なみかきわけて みるめかつかむ
解釈 伊勢の海に遊ふあまともなりにしか浪かきわけてみるめかつかむ

歌番号892
返し
伊勢
和歌 おほろけの あまやはかつく いせのうみの なみたかきうらに おふるみるめは
解釈 おほろけのあまやはかつくいせの海の浪高き浦におふるみるめは

歌番号893
つれなく見え侍りける人に
よみ人しらす
和歌 つらしとや いひはててまし しらつゆの ひとにこころは おかしとおもふを
解釈 つらしとやいひはててまし白露の人に心はおかしと思ふを

歌番号894
題しらす
よみ人しらす
和歌 なからへは ひとのこころも みるへきに つゆのいのちそ かなしかりける
解釈 なからへは人の心も見るへきに露の命そ悲しかりける

歌番号895
題しらす
小野小町かあね
和歌 ひとりぬる ときはまたるる とりのねも まれにあふよは わひしかりけり
解釈 ひとりぬる時はまたるる鳥のねもまれにあふよはわひしかりけり

歌番号896
女のうらみおこせて侍りけれは、つかはしける
ふかやふ
和歌 うつせみの むなしきからに なるまても わすれむとおもふ われならなくに
解釈 空蝉のむなしくからになるまてもわすれんと思ふ我ならなくに

歌番号897
あたなるをとこをあひしりて、心さしはありと見えなから猶うたかはしくおほえけれは、つかはしける
よみ人しらす
和歌 いつまての はかなきひとの ことのはか こころのあきの かせをまつらむ
解釈 いつまてのはかなき人の事のはか心の秋の風をまつらむ

歌番号898
題しらす
よみ人しらす
和歌 うたたねの ゆめはかりなる あふことを あきのよすから おもひつるかな
解釈 うたたねの夢はかりなる逢ふ事を秋のよすから思ひつるかな

歌番号899
女のもとにまかりたりけるに、かとをさしてあけさりけれはまかりかへりて、あしたにつかはしける
兼輔朝臣
和歌 あきのよの くさのとさしの わひしきは あくれとあけぬ ものにそありける
解釈 秋の夜の草のとさしのわひしきはあくれとあけぬ物にそ有りける

歌番号900
返し
よみ人しらす
和歌 いふからに つらさそまさる あきのよの くさのとさしに さはるへしやは
解釈 いふからにつらさそまさる秋のよの草のとさしにさはるへしやは

歌番号901
桂のみこにすみはしめけるあひたに、かのみこあひおもはぬけしきなりけれは
さたかすのみこ
和歌 ひとしれす ものおもふころの わかそては あきのくさはに おとらさりけり
解釈 人しれす物思ふころのわか袖は秋の草はにおとらさりけり

歌番号902
しのひたる人につかはしける
贈太政大臣
和歌 しつはたに おもひみたれて あきのよの あくるもしらす なけきつるかな
解釈 しつはたに思ひみたれて秋の夜のあくるもしらすなけきつるかな

歌番号903
せうそこはかよはしけれと、またあはさりけるをとこを、これかれあひにけりといひさわくを、あらかはさなりとうらみつかはしたりけれは
よみ人しらす
和歌 はちすはの うへはつれなき うらにこそ ものあらかひは つくといふなれ
解釈 はちすはのうへはつれなきうらにこそ物あらかひはつくといふなれ

歌番号904
をとこのつらうなりゆくころ、雨のふりけれはつかはしける
よみ人しらす
和歌 ふりやめは あとたにみえぬ うたかたの きえてはかなき よをたのむかな
解釈 ふりやめはあとたに見えぬうたかたのきえてはかなきよをたのむかな

歌番号905
女のもとにまかりて、えあはてかへりてつかはしける
よみ人しらす
和歌 あはてのみ あまたのよをも かへるかな ひとめのしけき あふさかにきて
解釈 あはてのみあまたのよをもかへるかな人めのしけき相坂にきて

歌番号906
女に物いふをとこふたりありけり、ひとりか返事すとききて、いまひとりかつかはしける
よみ人しらす
和歌 なひくかた ありけるものを なよたけの よにへぬものと おもひけるかな
解釈 なひく方有りけるものをなよ竹の世にへぬ物と思ひけるかな

歌番号907
女の心かはりぬへきをききてつかはしける
よみ人しらす
和歌 ねになけは ひとわらへなり くれたけの よにへぬをたに かちぬとおもはむ
解釈 ねになけは人わらへなりくれ竹の世にへぬをたにかちぬとおもはん

歌番号908
ふみつかはしける女のおやの伊勢へまかりけれは、ともにまかりけるにつかはしける
よみ人しらす
和歌 いせのあまと きみしなりなは おなしくは こひしきほとに みるめからせよ
解釈 伊勢のあまと君しなりなはおなしくは恋しきほとにみるめからせよ

歌番号909
一条かもとに、いとなんこひしきといひにやりたりけれは、おにのかたをかきてやるとて
一条
和歌 こひしくは かけをたにみて なくさめよ わかうちとけて しのふかほなり
解釈 こひしくは影をたに見てなくさめよわかうちとけてしのふかほなり

歌番号910
返し
伊勢
和歌 かけみれは いととこころそ まとはるる ちかからぬけの うときなりけり
解釈 影見れはいとと心そまとはるるちかからぬけのうときなりけり

歌番号911
人のむすめにしのひてかよひ侍りけるに、つらけに見え侍りけれは、せうそこありける返事に
よみ人しらす
和歌 ひとことの うきをもしらす ありかせし むかしなからの わかみともかな
解釈 人ことのうきをもしらすありかせし昔なからのわか身ともかな

歌番号912
見なれたる女に、又物いはむとてまかりたりけれと、こゑはしなからかくれけれは、つかはしける
よみ人しらす
和歌 ほとときす なつきそめてし かひもなく こゑをよそにも ききわたるかな
解釈 郭公なつきそめてしかひもなくこゑをよそにもききわたるかな

歌番号913
人のもとにはしめてまかりて、つとめてつかはしける
よみ人しらす
和歌 つねよりも おきうかりつる あかつきは つゆさへかかる ものにそありける
解釈 つねよりもおきうかりつる暁はつゆさへかかる物にそ有りける

歌番号914
しのひてまてきける人の、しものいたくふりける夜まからて、つとめてつかはしける
よみ人しらす
和歌 おくしもの あかつきおきを おもはすは きみかよとのに よかれせましや
解釈 おく霜の暁おきをおもはすは君かよとのによかれせましや

歌番号915
返し
よみ人しらす
和歌 しもおかぬ はるよりのちの なかめにも いつかはきみか よかれせさりし
解釈 霜おかぬ春よりのちのなかめにもいつかは君かよかれせさりし

歌番号916
心にもあらてひさしくとはさりける人のもとにつかはしける
源英明朝臣
和歌 いせのうみの あまのまてかた いとまなみ なからへにける みをそうらむる
解釈 伊勢の海のあまのまてかたいとまなみなからへにける身をそうらむる

歌番号917
えかたう侍りける女の家のまへよりまかりけるを見て、いつこへいくそといひいたして侍りけれは
藤原ためよ
和歌 あふことの かたのへとてそ われはゆく みをおなしなに おもひなしつつ
解釈 逢ふ事のかたのへとてそ我はゆく身をおなしなに思ひなしつつ

歌番号918
題しらす
よみ人も
和歌 きみかあたり くもゐにみつつ みやちやま うちこえゆかむ みちもしらなく
解釈 君かあたり雲井に見つつ宮ち山うちこえゆかん道もしらなく

歌番号919
をとこの返事につかはしける
俊子
和歌 おもふてふ ことのはいかに なつかしな のちうきものと おもはすもかな
解釈 思ふてふ事のはいかになつかしなのちうき物とおもはすもかな

歌番号920
題しらす
兼茂る朝臣のむすめ
和歌 おもふてふ ことこそうけれ くれたけの よにふるひとの いはぬなけれは
解釈 思ふてふ事こそうけれくれ竹のよにふる人のいはぬなけれは

歌番号921
題しらす
よみ人しらす
和歌 おもはむと われをたのめし ことのはは わすれくさとそ いまはなるらし
解釈 おもはむと我をたのめし事のはは忘草とそ今はなるらし

歌番号922
をとこのやまひにわつらひて、まからてひさしくありてつかはしける
よみ人しらす
和歌 いままても きえてありつる つゆのみは おくへきやとの あれはなりけり
解釈 今まてもきえて有りつるつゆの身はおくへきやとのあれはなりけり

歌番号923
返し
よみ人しらす
和歌 ことのはも みなしもかれに なりゆくは つゆのやとりも あらしとそおもふ
解釈 事のはもみな霜かれに成りゆくはつゆのやとりもあらしとそ思ふ

歌番号924
怨みおこせて侍りける人の返事に
よみ人しらす
和歌 わすれむと いひしことにも あらなくに いまはかきりと おもふものかは
解釈 忘れむといひし事にもあらなくに今は限と思ふものかは

歌番号925
怨みおこせて侍りける人の返事に
よみ人しらす
和歌 うつつには ふせとねられす おきかへり きのふのゆめを いつかわすれむ
解釈 うつつにはふせとねられすおきかへり昨日の夢をいつかわすれん

歌番号926
女につかはしける
よみ人しらす
和歌 ささらなみ まなくたつめる うらをこそ よにあさしとも みつつわすれめ
解釈 ささらなみまなくたつめる浦をこそ世にあさしともみつつわすれめ

歌番号927
西四条の斎宮またみこにものし給ひし時、心さしありておもふ事侍りけるあひたに、斎宮にさたまりたまひにけれは、そのあくるあしたにさか木の枝にさしてさしおかせ侍りける
あつたたの朝臣
和歌 いせのうみの ちひろのはまに ひろふとも いまはなにてふ かひかあるへき
解釈 伊勢の海のちひろのはまにひろふとも今は何てふかひかあるへき

歌番号928
あさよりの朝臣、年ころせうそこかよはし侍りける女のもとより、ようなし、今は思ひわすれねとはかり申してひさしうなりにけれは、こと女にいひつきてせうそこもせすなりにけれは
本院のくら
和歌 わすれねと いひしにかなふ きみなれと とはぬはつらき ものにそありける
解釈 わすれねといひしにかなふ君なれととはぬはつらき物にそ有りける

歌番号929
題しらす
よみ人も
和歌 はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき
解釈 春霞はかなくたちてわかるとも風より外に誰かとふへき

歌番号930
返し
伊勢
和歌 めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ
解釈 めにみえぬ風に心をたくへつつやらは霞のわかれこそせめ

歌番号931
土左かもとよりせうそこ侍りける返事につかはしける
さたもとのみこ
和歌 ふかみとり そめけむまつの えにしあらは うすきそてにも なみはよせてむ
解釈 ふか緑染めけん松のえにしあらはうすき袖にも浪はよせてん

歌番号932
返し
土左
和歌 まつやまの すゑこすなみの えにしあらは きみかそてには あともとまらし
解釈 松山のすゑこす浪のえにしあらは君か袖にはあともとまらし

歌番号933
女のもとよりさためなき心ありなと申したりけれは
贈太政大臣
和歌 ふかくおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる
解釈 深く思ひそめつといひし事のははいつか秋風ふきてちりぬる

歌番号934
をとこの心かはるけしきなりけれは、たたなりける時、このをとこの心させりける風にかきつけて侍りける
よみ人しらす
和歌 ひとをのみ うらむるよりは こころから これいまさりし つみとおもはむ
解釈 人をのみうらむるよりは心からこれいまさりしつみとおもはん

歌番号935
しのひたる女のもとに、せうそこつかはしたりけれは
よみ人しらす
和歌 あしひきの やましたしけく ゆくみつの なかれてかくし とははたのまむ
解釈 葦引の山したしけくゆく水の流れてかくしとははたのまん

歌番号936
をとこのわすれ侍りにけれは
伊勢
和歌 わひはつる ときさへものの かなしきは いつこをしのふ こころなるらむ
解釈 わひはつる時さへ物のかなしきはいつこを忍ふ心なるらん

歌番号937
おやのまもりける女を、いなともせともいひはなてと申しけれは
伊勢
和歌 いなせとも いひはなたれす うきものは みをこころとも せぬよなりけり
解釈 いなせともいひはなたれすうき物は身を心ともせぬ世なりけり

歌番号938
をとこの、いかにそえまうてこぬことといひて侍りけれは
よみ人しらす
和歌 こすやあらむ きやせむとのみ かはきしの まつのこころを おもひやらなむ
解釈 こすやあらんきやせんとのみ河岸の松の心を思ひやらなん

歌番号939
とまれとおもふをとこの、いててまかりけれは
よみ人しらす
和歌 しひてゆく こまのあしをる はしをたに なとわかやとに わたささりけむ
解釈 しひてゆくこまのあしをるはしをたになとわかやとにわたささりけん

歌番号940
物いひける人のひさしうおとつれさりける、からうしてまうてきたりけるに、なとかひさしうといへりけれは
よみ人しらす
和歌 としをへて いけるかひなき わかみをは なにかはひとに ありとしられむ
解釈 年をへていけるかひなきわか身をは何かは人に有りとしられん

歌番号941
いとしのひてまうてきたりけるをとこを、せいしける人ありけり、ののしりけれは、かへりまかりてつかはしける
よみ人しらす
和歌 あさりする ときそわひしき ひとしれす なにはのうらに すまふわかみは
解釈 あさりする時そわひしき人しれすなにはの浦にすまふわか身は

歌番号942
公頼朝臣いままかりける女のもとにのみまかりけれは
寛湛法師母
和歌 なかめつつ ひとまつよひの よふことり いつかたへとか ゆきかへるらむ
解釈 なかめつつ人まつよひのよふことりいつ方へとか行きかへるらむ

歌番号943
しのひたる人に
よみ人しらす
和歌 ひとことの たのみかたさは なにはなる あしのうらはの うらみつへしな
解釈 人ことのたのみかたさはなにはなるあしのうらはのうらみつへしな

歌番号944
しのひてかよひ侍りける人、いまかへりてなとたのめおきて、おほやけのつかひにいせのくににまかりて帰りまうてきて、ひさしうとはす侍りけれは
少将内侍
和歌 ひとはかる こころのくまは きたなくて きよきなきさを いかてすきけむ
解釈 人はかる心のくまはきたなくてきよきなきさをいかてすきけん

歌番号945
返し
兼輔朝臣
和歌 たかために われかいのちを なかはまの うらにやとりを しつつかはこし
解釈 たかためにわれかいのちを長浜の浦にやとりをしつつかはこし

歌番号946
女のもとにつかはしける
よみ人しらす
和歌 せきもあへす ふちにそまよふ なみたかは わたるてふせを しるよしもかな
解釈 せきもあへす淵にそ迷ふ涙河わたるてふせをしるよしもかな

歌番号947
返し
よみ人しらす
和歌 ふちなから ひとかよはさし なみたかは わたらはあさき せをもこそみれ
解釈 淵なから人かよはさし涙河わたらはあさきせをもこそ見れ

歌番号948
つねにまうてきて物なといふ人の、いまはなまうてこそ、人もうたていふなりといひいたして侍りけれは
よみ人しらす
和歌 きてかへる なをのみそたつ からころも したゆふひもの こころとけねは
解釈 きて帰る名をのみそ立つ唐衣したゆふひもの心とけねは

歌番号949
左大臣河原にいてあひて侍りけれは
内侍たひらけい子
和歌 たえぬとも なにおもひけむ なみたかは なかれあふせも ありけるものを
解釈 たえぬとも何思ひけん涙河流れあふせも有りけるものを

歌番号950
大輔につかはしける
左大臣
和歌 いまははや みやまをいてて ほとときす けちかきこゑを われにきかせよ
解釈 今ははやみ山をいてて郭公けちかきこゑを我にきかせよ

歌番号951
返し
大輔
和歌 ひとはいさ みやまかくれの ほとときす ならはぬさとは すみうかるへし
解釈 人はいさみ山かくれの郭公ならはぬさとはすみうかるへし

歌番号952
左大臣につかはしける
中務
和歌 ありしたに うかりしものを あかすとて いつこにそふる つらさなるらむ
解釈 有りしたにうかりしものをあかすとていつこにそふるつらさなるらん

歌番号953
右近につかはしける
左大臣
和歌 おもひわひ きみかつらきに たちよらは あめもひとめも もらささらなむ
解釈 思ひわひ君かつらきにたちよらは雨も人めももらささらなん

歌番号954
たかあきらの朝臣にふえをおくるとて
よみ人しらす
和歌 ふえたけの もとのふるねは かはるとも おのかよよには ならすもあらなむ
解釈 ふえ竹の本のふるねはかはるともおのかよよにはならすもあらなん

歌番号955
こと女にものいふとききて、もとのめの内侍のふすへ侍りけれは
よしふるの朝臣
和歌 めもみえす なみたのあめの しくるれは みのぬれきぬは ひるよしもなし
解釈 めも見えす涙の雨のしくるれは身のぬれきぬはひるよしもなし

歌番号956
返し
中将内侍
和歌 にくからぬ ひとのきせけむ ぬれきぬは おもひにあへす いまかわきなむ
解釈 にくからぬ人のきせけんぬれきぬは思ひにあへす今かわきなん

歌番号957
題しらす
小野道風
和歌 おほかたは せとたにかけし あまのかは ふかきこころを ふちとたのまむ
解釈 おほかたはせとたにかけしあまの河ふかき心をふちとたのまん

歌番号958
返し
よみ人しらす
和歌 ふちとても たのみやはする あまのかは としにひとたひ わたるてふせを
解釈 淵とてもたのみやはする天河年にひとたひわたるてふせを

歌番号959
みくしけとののへたうにつかはしける
きよかけの朝臣
和歌 みのならむ ことをもしらす こくふねは なみのこころも つつまさりけり
解釈 身のならん事をもしらすこく舟は浪の心もつつまさりけり

歌番号960
事いてきてのちに、京極御息所につかはしける
もとよしのみこ
和歌 わひぬれは いまはたおなし なにはなる みをつくしても あはむとそおもふ
解釈 わひぬれは今はたおなしなにはなる身をつくしてもあはんとそ思ふ

歌番号961
しのひてみくしけとののへたうにあひかたらふとききて、ちちの左大臣のせいし侍りけれは
あつたたの朝臣
和歌 いかにして かくおもふてふ ことをたに ひとつてならて きみにかたらむ
解釈 如何してかく思ふてふ事をたに人つてならて君にかたらん

歌番号962
公頼朝臣のむすめにしのひてすみ侍りけるに、わつらふ事ありて、しぬへしといへりけれは、つかはしける
朝忠朝臣
和歌 もろともに いさといはすは してのやま こゆともこさむ ものならなくに
解釈 もろともにいさといはすはしての山こゆともこさむ物ならなくに

歌番号963
年をへてかたらふ人のつれなくのみ侍りけれは、うつろひたる菊につけてつかはしける
きよかけの朝臣
和歌 かくはかり ふかきいろにも うつろふを なほきみきくの はなといはなむ
解釈 かくはかりふかき色にもうつろふを猶きみきくの花といはなん

歌番号964
人のもとにまかりたりけるに、かとよりのみ返しけるに、からうしてすたれのもとによひよせて、かうてさへや心ゆかぬといひいたしたりけれは
よみ人しらす
和歌 いさやまた ひとのこころも しらつゆの おくにもとにも そてのみそひつ
解釈 いさやまた人の心も白露のおくにもとにも袖のみそひつ

歌番号965
人のもとにまかりけるを、あはてのみ返し侍りけれは、みちよりいひつかはしける
よみ人しらす
和歌 よるしほの みちくるそらも おもほえす あふことなみに かへるとおもへは
解釈 よるしほのみちくるそらもおもほえすあふこと浪に帰ると思へは

歌番号966
人を思ひかけていひわたり侍りけるを、まちとほにのみ侍りけれは
よみ人しらす
和歌 かすならぬ みはやまのはに あらねとも おほくのつきを すくしつるかな
解釈 かすならぬ身は山のはにあらねともおほくの月をすくしつるかな

歌番号967
ひさしくいひわたり侍りけるに、つれなくのみ侍りけれは
業平朝臣
和歌 たのめつつ あはてとしふる いつはりに こりぬこころを ひとはしらなむ
解釈 たのめつつあはて年ふるいつはりにこりぬ心を人はしらなん

歌番号968
返し
伊勢
和歌 なつむしの しるしるまよふ おもひをは こりぬかなしと たれかみさらむ
解釈 夏虫のしるしる迷ふおもひをはこりぬかなしとたれかみさらん

歌番号969
返ことせぬ人につかはしける
よみ人しらす
和歌 うちわひて よははむこゑに やまひこの こたへぬやまは あらしとそおもふ
解釈 打ちわひてよははむ声に山ひこのこたへぬそらはあらしとそ思ふ

歌番号970
返し
よみ人しらす
和歌 やまひこの こゑのまにまに とひゆかは むなしきそらに ゆきやかへらむ
解釈 山ひこのこゑのまにまにとひゆかはむなしきそらにゆきやかへらん

歌番号971
かくいひかよはすほとに、三とせはかりになり侍りにけれは
よみ人しらす
和歌 あらたまの としのみとせは うつせみの むなしきねをや なきてくらさむ
解釈 あらたまの 歳の三とせは うつせみの むなしきねをや なきてくらさむ

歌番号972
題しらす
よみ人しらす
和歌 なかれいつる なみたのかはの ゆくすゑは つひにあふみの うみとたのまむ
解釈 流れいつる涙の河のゆくすゑはつひに近江のうみとたのまん

歌番号973
雨のふる日、人につかはしける
よみ人しらす
和歌 あめふれと ふらねとぬるる わかそての かかるおもひに かわかぬやなそ
解釈 雨ふれとふらねとぬるるわか袖のかかるおもひにかわかぬやなそ

歌番号974
返し
よみ人しらす
和歌 つゆはかり ぬるらむそての かわかぬは きみかおもひの ほとやすくなき
解釈 露はかりぬるらん袖のかわかぬは君か思ひのほとやすくなき

歌番号975
女のもとにまかりたるに、たちなからかへしたれは、みちよりつかはしける
よみ人しらす
和歌 つねよりも まとふまとふそ かへりつる あふみちもなき やとにゆきつつ
解釈 常よりもまとふまとふそ帰りつるあふ道もなきやとにゆきつつ

歌番号976
雨にもさはらすまてきて、そら物かたりなとしけるをとこの、かとよりわたるとて、雨のいたくふれはなんまかりすきぬるといひたれは
よみ人しらす
和歌 ぬれつつも くるとみえしは なつひきの てひきにたえぬ いとにやありけむ
解釈 ぬれつつもくると見えしは夏引のてひきにたえぬいとにや有りけん

歌番号977
人にわすられて侍りける時
よみ人しらす
和歌 かすならぬ みはうきくさと なりななむ つれなきひとに よるへしられし
解釈 数ならぬ身はうき草となりななんつれなき人によるへしられし

歌番号978
思ひわすれにける人のもとにまかりて
よみ人しらす
和歌 ゆふやみは みちもみえねと ふるさとは もとこしこまに まかせてそくる
解釈 ゆふやみは道も見えねと旧里は本こし駒にまかせてそくる

歌番号979
返し
よみ人しらす
和歌 こまにこそ まかせたりけれ あやなくも こころのくると おもひけるかな
解釈 駒にこそまかせたりけれあやなくも心のくると思ひけるかな

コメント

後撰和歌集 原文 その六 巻十一

2017年02月05日 | 後撰和歌集 初回
後撰和歌集 その六 巻十一

簡単な解説を「後撰解釈集 その一」に載せています。

巻十一 恋歌三

歌番号700
女につかはしける
三条右大臣
和歌 なにしおはは あふさかやまの さねかつら ひとにしられて くるよしもかな
解釈 名にしおはは相坂山のさねかつら人にしられてくるよしもかな

歌番号701
女につかはしける
在原元方
和歌 こひしとは さらにもいはし したひもの とけむをひとは それとしらなむ
解釈 こひしとは更にもいはししたひものとけむを人はそれとしらなん

歌番号702
返し
よみ人しらす
和歌 したひもの しるしとするも とけなくに かたるかことは あらすもあるかな
解釈 下紐のしるしとするもとけなくにかたるかことはあらすもあるかな

歌番号703
女のいと思ひはなれていふにつかはしける
よみ人しらす
和歌 うつつにも はかなきことの わひしきは ねなくにゆめと おもふなりけり
解釈 うつつにもはかなき事のわひしきはねなくに夢と思ふなりけり

歌番号704
宮つかへする女の、あひかたく侍りけるに
つらゆき
和歌 たむけせぬ わかれするみの わひしきは ひとめをたひと おもふなりけり
解釈 たむけせぬ別れする身のわひしきは人めを旅と思ふなりけり

歌番号705
かりそめなる所に侍りける女に、心かはりにけるをとこの、ここにてはかくひんなき所なれは、心さしはありなからなむえたちよらぬといへりけれは、所をかへてまちけるに見えさりけれは、女
よみ人しらす
和歌 やとかへて まつにもみえす なりぬれは つらきところの おほくもあるかな
解釈 やとかへてまつにも見えすなりぬれはつらき所のおほくもあるかな

歌番号706
題しらす
よみ人も
和歌 おもはむと たのめしひとは かはらしを とはれぬわれや あらぬなるらむ
解釈 おもはむとたのめし人はかはらしをとはれぬ我やあらぬなるらん

歌番号707
源さねあきら、たのむことなくはしぬへしといへりけれは
中務
和歌 いたつらに たひたひしぬと いふめれは あふにはなにを かへむとすらむ
解釈 いたつらにたひたひしぬといふめれはあふには何をかへんとすらん

歌番号708
返し
源信明
和歌  しぬしぬと きくきくたにも あひみねは いのちをいつの よにかのこさむ
解釈 しぬしぬときくきくたにもあひみねはいのちをいつのよにかのこさん

歌番号709
時時見えけるをとこの、ゐる所のさうしにとりのかたをかきつけて侍りけれは、あたりにおしつけ侍りける
本院侍従
和歌 ゑにかける とりともひとを みてしかな おなしところを つねにとふへく
解釈 ゑにかける鳥とも人を見てしかなおなし所をつねにとふへく

歌番号710
大納言国経朝臣の家に侍りける女に、平定文いとしのひてかたらひ侍りて、ゆくすゑまてちきり侍りけるころ、この女にはかに贈太政大臣にむかへられてわたり侍りにけれは、ふみたにもかよはすかたなくなりにけれは、かの女の子のいつつはかりなるか、本院のにしのたいにあそひありきけるをよひよせて、ははに見せたてまつれとてかひなにかきつけ侍りける
平定文
和歌 むかしせし わかかねことの かなしきは いかにちきりし なこりなるらむ
解釈 昔せしわかかね事の悲しきは如何ちきりしなこりなるらん

歌番号711
返し
よみ人しらす
和歌 うつつにて たれちきりけむ さためなき ゆめちにまよふ われはわれかは
解釈 うつつにて誰契りけん定なき夢ちに迷ふ我はわれかは

歌番号712
おほやけつかひにてあつまの方へまかりけるほとに、はしめてあひしりて侍る女に、かくやむことなきみちなれは、心にもあらすまかりぬるなと申してくたり侍りけるを、のちにあらためさためらるる事ありてめしかへされけれは、この女ききてよろこひなからとひにつかはしたりけれは、みちにて人の心さしおくりて侍りけるくれはとりといふあやを、ふたむらつつみてつかはしける
清原諸実
和歌 くれはとり あやにこひしく ありしかは ふたむらやまも こえすなりにき
解釈 くれはとりあやに恋しく有りしかはふたむら山もこえすなりにき

歌番号713
返し
よみ人しらす
和歌 からころも たつををしみし こころこそ ふたむらやまの せきとなりけめ
解釈 唐衣たつををしみし心こそふたむら山のせきとなりけめ

歌番号714
人のもとにつかはしける
きよなりか女
和歌 ゆめかとも おもふへけれと おほつかな ねぬにみしかは わきそかねつる
解釈 夢かとも思ふへけれとおほつかなねぬにみしかはわきそかねつる

歌番号715
少将さねたた、かよひ侍りける所をさりてこと女につきて、それよりかすかの使にいてたちてまかりけれは、もとの女
よみ人しらす
和歌 そらしらぬ あめにもぬるる わかみかな みかさのやまを よそにききつつ
解釈 そらしらぬ雨にもぬるるわか身かなみかさの山をよそにききつつ

歌番号716
あさかほの花まへにありけるさうしより、をとこのあけていて侍りけるに
よみ人しらす
和歌 もろともに をるともなしに うちとけて みえにけるかな あさかほのはな
解釈 もろともにをるともなしに打ちとけて見えにけるかなあさかほの花

歌番号717
内にまゐりてひさしうおとせさりけるをとこに、をんな
よみ人しらす
和歌 ももしきは をののえくたす やまなれや いりにしひとの おとつれもせぬ
解釈 ももしきはをののえくたす山なれや入りにし人のおとつれもせぬ

歌番号718
女のもとにきぬをぬきおきて、とりにつかはすとて
これまさの朝臣
和歌 すすかやま いせをのあまの すてころも しほなれたりと ひとやみるらむ
解釈 すすか山いせをのあまのすて衣しほなれたりと人やみるらん

歌番号719
題しらす
つらゆき
和歌 いかてわれ ひとにもとはむ あかつきの あかぬわかれや なにににたりと
解釈 いかて我人にもとはん暁のあかぬ別やなにににたりと

歌番号720
題しらす
在原行平朝臣
和歌 こひしきに きえかへりつつ あさつゆの けさはおきゐむ ここちこそせね
解釈 恋しきにきえかへりつつあさつゆのけさはおきゐん心地こそせね

歌番号721
題しらす
よみ人しらす
和歌 しののめに あかてわかれし たもとをそ つゆやわけしと ひとはとかむる
解釈 しののめにあかて別れした本をそつゆやわけしと人はとかむる

歌番号722
題しらす
平中興
和歌 こひしきも おもひこめつつ あるものを ひとにしらるる なみたなになり
解釈 こひしきも思ひこめつつあるものを人にしらるる涙なになり

歌番号723
からうしてあへりける女に、つつむこと侍りて又えあはす侍りけれは、つかはしける
兼輔朝臣
和歌 あふさかの このしたつゆに ぬれしより わかころもては いまもかわかす
解釈 相坂のこのしたつゆにぬれしよりわか衣手は今もかわかす

歌番号724
題しらす
みつね
和歌 きみをおもふ こころをひとに こゆるきの いそのたまもや いまもからまし
解釈 君を思ふ心を人にこゆるきのいそのたまもやいまもからまし

歌番号725
おやある女にしのひてかよひけるを、をとこもしはしは人にしられしといひ侍りけれは
よみ人しらす
和歌 なきなそと ひとにはいひて ありぬへし こころのとはは いかかこたへむ
解釈 なき名そと人にはいひて有りぬへし心のとははいかかこたへん

歌番号726
なき名たちけるころ
伊勢
和歌 きよけれと たまならぬみの わひしきは みかけるものに いはぬなりけり
解釈 きよけれと玉ならぬ身のわひしきはみかける物にいはぬなりけり

歌番号727
しのひてすみ侍りける女につかはしける
あつたたの朝臣
和歌 あふことを いさほにいてなむ しのすすき しのひはつへき ものならなくに
解釈 逢ふ事をいさほにいてなんしのすすき忍ひはつへき物ならなくに

歌番号728
あひかたらひける人、これもかれもつつむこと有りて、はなれぬへく侍りけれは、つかはしける
よみ人しらす
和歌 あひみても わかるることの なかりせは かつかつものは おもはさらまし
解釈 あひみてもわかるる事のなかりせはかつかつ物はおもはさらまし

歌番号729
人のもとより暁かへりて
閑院左大臣
和歌 いつのまに こひしかるらむ からころも ぬれにしそての ひるまはかりに
解釈 いつのまにこひしかるらん唐衣ぬれにし袖のひるまはかりに

歌番号730
人のもとより暁かへりて
つらゆき
和歌 わかれつる ほともへなくに しらなみの たちかへりても みまくほしきか
解釈 別れつるほともへなくに白浪の立帰りても見まくほしきか

歌番号731
女のもとにつかはしける
これまさの朝臣
和歌 ひとしれぬ みはいそけとも としをへて なとこえかたき あふさかのせき
解釈 人しれぬ身はいそけとも年をへてなとこえかたき相坂の関

歌番号732
返し
小野好古朝臣女
和歌 あつまちに ゆきかふひとに あらぬみは いつかはこえむ あふさかのせき
解釈 あつまちにゆきかふ人にあらぬ身はいつかはこえむ相坂の関

歌番号733
女のもとにつかはしける
藤原きよたた
和歌 つれもなき ひとにまけしと せしほとに われもあたなは たちそしにける
解釈 つれもなき人にまけしとせし程に我もあたなは立ちそしにける

歌番号734
かれかたになりにけるをとこのもとに、さうそくてうしておくれりけるに、かかるからにうとき心地なんするといへりけれは
小野遠興かむすめ
和歌 つらからぬ なかにあるこそ うとしといへ へたてはててし きぬにやはあらぬ
解釈 つらからぬ中にあるこそうとしといへ隔てはててしきぬにやはあらぬ

歌番号735
五節の所にて、閑院のおほい君につかはしける
もろまさの朝臣
和歌 ときはなる ひかけのかつら けふしこそ こころのいろに ふかくみえけれ
解釈 ときはなる日かけのかつらけふしこそ心の色にふかく見えけれ

歌番号736
返し
閑院のおほい君
和歌 たれとなく かかるおほみに ふかからむ いろをときはに いかかたのまむ
解釈 誰となくかかるおほみにふかからん色をときはにいかかたのまん

歌番号737
ふちつほの人人月夜にありきけるを見て、ひとりかもとにつかはしける
きよたた
和歌 たれとなく おほろにみえし つきかけに わけるこころを おもひしらなむ
解釈 講となくおほろに見えし月影にわける心を思ひしらなん

歌番号738
左兵衛督師尹朝臣につかはしける
本院兵衛
和歌 はるをたに またてなきぬる うくひすは ふるすはかりの こころなりけり
解釈 春をたにまたてなきぬる鴬はふるすはかりの心なりけり

歌番号739
題しらす
かねもちの朝臣女
和歌 ゆふされは わかみのみこそ かなしけれ いつれのかたに まくらさためむ
解釈 ゆふされはわか身のみこそかなしけれいつれの方に枕さためむ

歌番号740
題しらす
在原元方
和歌 ゆめにたに またみえなくに こひしきは いつにならへる こころなるらむ
解釈 夢にたにまたみえなくにこひしきはいつにならへる心なるらん

歌番号741
題しらす
壬生忠岑
和歌 おもふてふ ことをそねたく ふるしける きみにのみこそ いふへかりけれ
解釈 思ふてふ事をそねたくふるしける君にのみこそいふへかりけれ

歌番号742
題しらす
戒仙法師
和歌 あなこひし ゆきてやみまし つのくにの いまもありてふ うらのはつしま
解釈 あな恋しゆきてや見ましつのくにの今も有りてふ浦のはつ島

歌番号743
やむことなき事によりてとほき所にまかりて、たたむ月はかりになんまかりかへるへきといひてまかりくたりて、みちよりつかはしける
つらゆき
和歌 つきかへて きみをはみむと いひしかと ひたにへたてす こひしきものを
解釈 月かへて君をは見むといひしかと日たにへたてすこひしきものを

歌番号744
おなし所に宮つかへし侍りて、つねにみならしける女につかはしける
みつね
和歌 いせのうみに しほやくあまの ふちころも なるとはすれと あはぬきみかな
解釈 伊勢の海にしほやくあまの藤衣なるとはすれとあはぬ君かな

歌番号745
題しらす
これのり
和歌 わたのそこ かつきてしらむ きみかため おもふこころの ふかさくらへに
解釈 わたのそこかつきてしらん君かため思ふ心のふかさくらへに

歌番号746
人のをとこにて侍る人をあひしりてつかはしける
右近
和歌 からころも かけてたのまぬ ときそなき ひとのつまとは おもふものから
解釈 唐衣かけてたのまぬ時そなき人のつまとは思ふものから

歌番号747
ひとのもとにまかれりけるに、すのとにすゑて物いひけるを、すをひきあけけれはいたくさわきけれは、まかりかへりて、又のあしたにつかはしける
藤原守正
和歌 あらかりし なみのこころは つらけれと すこしによせし こゑそこひしき
解釈 あらかりし浪の心はつらけれとすこしによせしこゑそこひしき

歌番号748
あひしりて侍りける女の、心ならぬやうに見え侍りけれはつかはしける
藤原のちかけの朝臣
和歌 いつかたに たちかくれつつ みよとてか おもひくまなく ひとのなりゆく
解釈 いつ方に立ちかくれつつ見よとてかおもひくまなく人のなりゆく

歌番号749
をとこの心やうやうかれかたに見えゆきけれは
土左
和歌 つらきをも うきをもよそに みしかとも わかみにちかき よにこそありけれ
解釈 つらきをもうきをもよそに見しかともわか身にちかき世にこそ有りけれ

歌番号750
女に心さしあるよしをいひつかはしたりけれは、世中の人の心さためなけれはたのみかたきよしをいひて侍りけれは
在原元方
和歌 ふちはせに なりかはるてふ あすかかは わたりみてこそ しるへかりけれ
解釈 ふちはせになりかはるてふあすかかは渡り見てこそしるへかりけれ

歌番号751
題しらす
伊勢
和歌 いとはるる みをうれはしみ いつしかと あすかかはをも たのむへらなり
解釈 いとはるる身をうれはしみいつしかとあすか河をもたのむへらなり

歌番号752
返し
贈太政大臣
和歌 あすかかは せきてととむる ものならは ふちせになると なにかいはせむ
解釈 あすか河せきてととむる物ならはふちせになると何かいはせん

歌番号753
女四のみこにおくりける
右大臣
和歌 あしたつの さはへにとしは へぬれとも こころはくもの うへにのみこそ
解釈 葦たつの沢辺に年はへぬれとも心は雲のうへにのみこそ

歌番号754
返し
女四のみこ
和歌 あしたつの くもゐにかかる こころあらは よをへてさはに すますそあらまし
解釈 あしたつのくもゐにかかる心あらは世をへてさはにすますそあらまし

歌番号755
せうそこつかはしける女の、又こと人にふみつかはすとききて、いまは思ひたえねといひおくりて侍りける返事に
贈太政大臣
和歌 まつやまに つらきなからも なみこさむ ことはさすかに かなしきものを
解釈 松山につらきなからも浪こさむ事はさすかに悲しきものを

歌番号756
宮つかへし侍りける女、ほとひさしくありてものいはむといひ侍りけるに、おそくまかりけれは
枇杷左大臣
和歌 よひのまに はやなくさめよ いそのかみ ふりにしとこも うちはらふへく
解釈 夜ひのまにはやなくさめよいその神ふりにしとこもうちはらふへく

歌番号757
返し
伊勢
和歌 わたつみと あれにしとこを いまさらに はらははそてや あわとうきなむ
解釈 わたつみとあれにしとこを今更にはらはは袖やあわとうきなん

歌番号758
心さしありていひかはしける女のもとより、人かすならぬやうにいひて侍りけれは
はせをの朝臣
和歌 しほのまに あさりするあまも おのかよよ かひありとこそ おもふへらなれ
解釈 しほのまにあさりするあまもおのか世世かひ有りとこそ思ふへらなれ

歌番号759
題しらす
贈太政大臣
和歌 あちきなく なとかまつやま なみこさむ ことをはさらに おもひはなるる
解釈 あちきなくなとか松山浪こさむ事をはさらに思ひはなるる

歌番号760
返し
伊勢
和歌 きしもなく しほしみちなは まつやまを したにてなみは こさむとそおもふ
解釈 岸もなくしほしみちなは松山をしたにて浪はこさんとそ思ふ

歌番号761
まもりおきて侍りけるをとこの心かはりにけれは、そのまもりを返しやるとて
これひらの朝臣のむすめいまき
和歌 よとともに なけきこりつむ みにしあれは なそやまもりの あるかひもなき
解釈 世とともになけきこりつむ身にしあれはなそやまもりのあるかひもなき

歌番号762
人の心つらくなりにけれは、袖といふ人をつかひにて
よみ人しらす
和歌 ひとしれぬ わかものおもひの なみたをは そてにつけてそ みすへかりける
解釈 ひとしれぬわか物思ひの涙をは袖につけてそ見すへかりける

歌番号763
ふみなとおこするをとこ、ほかさまになりぬへしとききて
藤原真忠かいもうと
和歌 やまのはに かかるおもひの たえさらは くもゐなからも あはれとおもはむ
解釈 山のはにかかる思ひのたえさらは雲井なからもあはれとおもはん

歌番号764
まちしりの君にふみつかはしたりける返事に、みつとのみありけれはつかはしける
もろうちの朝臣
和歌 なきなかす なみたのいとと そひぬれは はかなきみつも そてぬらしけり
解釈 なきなかす涙のいととそひぬれははかなきみつも袖ぬらしけり

歌番号765
題しらす
源たのむ
和歌 ゆめのこと はかなきものは なかりけり なにとてひとに あふとみつらむ
解釈 夢のことはかなき物はなかりけりなにとて人にあふとみつらん

歌番号766
心さし侍りける女のつれなきに
よみ人しらす
和歌 おもひねの よなよなゆめに あふことを たたかたときの うつつともかな
解釈 思ひねのよなよな夢に逢ふ事をたたかた時のうつつともかな

歌番号767
返し
よみ人しらす
和歌 ときのまの うつつをしのふ こころこそ はかなきゆめに まさらさりけれ
解釈 時のまのうつつをしのふ心こそはかなきゆめにまさらさりけれ

歌番号768
題しらす
くろぬし
和歌 たまつしま ふかきいりえを こくふねの うきたるこひも われはするかな
解釈 玉津島ふかき入江をこく舟のうきたるこひも我はするかな

歌番号769
題しらす
紀内親王
和歌 つのくにの なにはたたまく をしみこそ すくもたくひの したにこかるれ
解釈 つのくにのなにはたたまくをしみこそすくもたくひのしたにこかるれ

歌番号770
人のもとにまかりて、いれさりけれはすのこにふしあかして、かへるとていひいれ侍りける
よみ人しらす
和歌 ゆめちにも やとかすひとの あらませは ねさめにつゆは はらはさらまし
解釈 夢ちにもやとかす人のあらませはねさめにつゆははらはさらまし

歌番号771
返し
よみ人しらす
和歌 なみたかは なかすねさめも あるものを はらふはかりの つゆやなになり
解釈 涙河なかすねさめもあるものをはらふはかりのつゆやなになり

歌番号772
心さしはありなから、えあはさりける人につかはしける
よみ人しらす
和歌 みるめかる かたそあふみに なしときく たまもをさへや あまはかつかぬ
解釈 みるめかる方そあふみになしときく玉もをさへやあまはかつかぬ

歌番号773
返し
よみ人しらす
和歌 なのみして あふことなみの しけきまに いつかたまもを あまはかつかむ
解釈 名のみして逢ふ事浪のしけきまにいつかたまもをあまはかつかん

歌番号774
心さしありて人にいひかはし侍りけるを、つれなかりけれはいひわつらひてやみにけるを、思ひいてていひおくりける返ことに、心ならぬさまなりといへりけれは
よみ人しらす
和歌 かつらきや くめちのはしに あらはこそ おもふこころを なかそらにせめ
解釈 葛木やくめちのはしにあらはこそ思ふ心をなかそらにせめ

歌番号775
人のもとにつかはしける
右大臣
和歌 かくれぬに すむをしとりの こゑたえす なけとかひなき ものにそありける
解釈 かくれぬにすむをしとりのこゑたえすなけとかひなき物にそ有りける

歌番号776
つりとののみこにつかはしける
陽成院御製
和歌 つくはねの みねよりおつる みなのかは こひそつもりて ふちとなりける
解釈 つくはねの峰よりおつるみなの河恋そつもりて淵となりける

歌番号777
あひしりて侍りける人のまうてこすなりてのち、心にもあらすこゑをのみきくはかりにて、又おともせす侍りけれは、つかはしける
よみ人しらす
解和歌 かりかねの くもゐはるかに きこえしは いまはかきりの こゑにそありける
釈 かりかねのくもゐはるかにきこえしは今は限のこゑにそありける

歌番号778
返し
かねみの王
和歌 いまはとて ゆきかへりぬる こゑならは おひかせにても きこえましやは
解釈 今はとて行きかへりぬるこゑならはおひ風にてもきこえましやは

歌番号779
をとこのけしき、やうやうつらけに見えけれは
小町
和歌 こころから うきたるふねに のりそめて ひとひもなみに ぬれぬひそなき
解釈 心からうきたる舟にのりそめてひと日も浪にぬれぬ日そなき

歌番号780
をとこの心つらく思ひかれにけるを、女なほさりになとかおともせぬといひつかはしたりけれは
よみ人しらす
和歌 わすれなむと おもふこころの やすからは つれなきひとを うらみましやは
解釈 忘れなんと思ふ心のやすからはつれなき人をうらみましやは

歌番号781
よひに女にあひて、かならすのちにあはむとちかことをたてさせて、あしたにつかはしける
藤原滋幹
和歌 ちはやふる かみひきかけて ちかひてし こともゆゆしく あらかふなゆめ
解釈 ちはやふる神ひきかけてちかひてしこともゆゆしくあらかふなゆめ

歌番号782
院のやまとにあふきつかはすとて
右大臣
和歌 おもひには われこそいりて まとはるれ あやなくきみや すすしかるへき
解釈 おもひには我こそいりてまとはるれあやなく君や涼しかるへき

歌番号783
かねみちの朝臣かれかたになりて、としこえてとふらひて侍りけれは
元平のみこのむすめ
和歌 あらたまの としもこえぬる まつやまの なみのこころは いかかなるらむ
解釈 あらたまの年もこえぬる松山の浪の心はいかかなるらむ

歌番号784
もとのめにかへりすむとききて、をとこのもとにつかはしける
よみ人しらす
和歌 わかためは いととあさくや なりぬらむ のなかのしみつ ふかさまされは
解釈 わかためはいととあさくやなりぬらん野中のし水ふかさまされは

歌番号785
女のもとにつかはしける
源中正
和歌 あふみちを しるへなくても みてしかな せきのこなたは わひしかりけり
解釈 あふみちをしるへなくてもみてしかな関のこなたはわひしかりけり

歌番号786
返し
しもつけ
和歌 みちしらて やみやはしなぬ あふさかの せきのあなたは うみといふなり
解釈 道しらてやみやはしなぬ相坂の関のあなたは海といふなり

歌番号787
女のもとにまかりたるに、はやかへりねとのみいひけれは
よみ人しらす
和歌 つれなきを おもひしのふの さねかつら はてはくるをも いとふなりけり
解釈 つれなきを思ひしのふのさねかつらはてはくるをも厭ふなりけり

歌番号788
あつよしのみこの家に、やまとといふ人につかはしける
左大臣
和歌 いまさらに おもひいてしと しのふるを こひしきにこそ わすれわひぬれ
解釈 今更に思ひいてしとしのふるをこひしきにこそわすれわひぬれ

歌番号789
いひかはしける女の、いまは思ひわすれねといひ侍りけれは
はせをの朝臣
和歌 わかためは みるかひもなし わすれくさ わするはかりの こひにしあらねは
解釈 わかためは見るかひもなし忘草わするはかりのこひにしあらねは

歌番号790
しのひてかよひける人に
藤原ありよし
和歌 あひみても つつむおもひの わひしきは ひとまにのみそ ねはなかれける
解釈 あひ見てもつつむ思ひのわひしきは人まにのみそねはなかれける

歌番号791
物いひ侍りけるをとこ、いひわつらひて、いかかはせむ、いなともいひはなちてよといひ侍りけれは
よみ人しらす
和歌 をやまたの なはしろみつは たえぬとも こころのいけの いひははなたし
解釈 を山田のなはしろ水はたえぬとも心の池のいひははなたし

歌番号792
方たかへに、人の家に人をくしてまかりて、かへりてつかはしける
よみ人しらす
和歌 ちよへむと ちきりおきてし ひめまつの ねさしそめてし やとはわすれし
解釈 千世へむと契りおきてし姫松のねさしそめてしやとはわすれし

歌番号793
物いひける女に、せみのからをつつみてつかはすとて
源重光朝臣
和歌 これをみよ ひともすさへぬ こひすとて ねをなくむしの なれるすかたを
解釈 これを見よ人もすさめぬ恋すとてねをなくむしのなれるすかたを

歌番号794
人のもとよりかへりまてきてつかはしける
坂上これのり
和歌 あひみては なくさむやとそ おもひしに なこりしもこそ こひしかりけれ
解釈 あひみてはなくさむやとそ思ひしになこりしもこそこひしかりけれ

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